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2006.06.26

戦争犯罪としてのダルフール危機

 話は少し古くなるのだがこの間日本の報道や人道問題に関心を持つブロガーの動向などをブラウズしても話題になっていないようなので、やはりここで書くしかないのだろうか。
 話は、戦争犯罪としてのダルフール危機の問題である。私はダルフール危機の本質はジェノサイドではないかと考えている。ジェノサイドは集団虐殺とも訳されるが、genocideの語源から考えても欧米では語感があると思うが、特定の民族への組織的な抹殺である。日本人の場合、人道に関心があると思われる人たちですら、massacre(虐殺)との区別が付かない、あるいは区別を曖昧にしたいと意図する人たちが多いようなので困惑する。
 ダルフール危機の本質がジェノサイドであるとするなら、ポイントは組織的な殺害であることと民族の特定である。前者については、スーダン政府が関わっていることはすでに覆うべくもないことだが、後者については難しい問題があった。ダルフール危機を、スーダン南北問題のように政府対反抗勢力という内戦の構図に縮小して見せようとする勢力が存在するからである。確かに、そうした構図が存在しないわけではないが、危機の本質ではないのは、実際の殺害の状況を見ればわかることだ。
 多少余談になるが、ダルフール危機問題を曖昧にするもう一つのボーガスは、単純に個人の倫理が問われるような問題に縮小したがる勢力があることだ。ルワンダ虐殺についてですらそうした歴史修正とでも言えるような見解が見られるのが不思議でならない。ルワンダ虐殺については、一部で誤解されているようなものではない。”武内進一「ルワンダのジェノサイドが提起する諸問題」”(参照)が正しく指摘している。


ルワンダのジェノサイドについては、一般大衆が多数参加し、農民がナタを持って殺戮を遂行したとの理解が流通している。しかし、公刊された文書資料や聞き取りから状況を再検討すると、民間人が殺戮に関与した例もあるにせよ、多くの場合、軍や警察が近代的武器を持って殺戮を実践したことがわかる。また、殺戮の動員に際して重要な役割を担った民兵組織は、一党制時代に由来するものであった。殺戮実践の方法は、ポスト・コロニアル国家の構造と密接に関連している。

 ルワンダ・ジェノサイドは「軍や警察が近代的武器を持って殺戮を実践した」のが重要な点で、まさにその点において、ダルフール危機と重なる。映画「ホテル・ルワンダ」の作成に関わったドン・チードルとポール・ルセサバギナもこのように述べている(参照PDF

Government-backed militias, known collectively as the Janjaweed, are systematically eliminating entire communities. Villages are being razed, women and girls raped and branded, men and boys murdered, and food and water supplies targeted and destroyed. Victims report that government air strikes frequently precede militia raids.
( まとめてジャンジャウィードと呼ばれる、その政府が後押しする民兵たちは、組織的に、社会全体の排斥を行っています。村落は破壊され、婦人と少女はレイプされ傷つけられ、男性と少年たちは殺害され、食料と水は標的とされ破壊されています。被害者の証言によれば、政府軍による空爆が民兵の襲撃に先行しています。)

 組織的な殺害こそが重要な問題である。
 余談が長くなったが、第二点目の特定民族についてだが、十四日、ルイス・モレノ・オカンポ国際刑事裁判所検察官(Luis Moreno Ocampo)が、国連安全保障理事会での報告で一部を特定してきた。ソースは国際刑事裁判所のダルフールのページ(参照)から入手できる。該当レポートは”14.06.2006 -Third Report of the Prosecutor of the International Criminal Court, to the Security Council pursuant to UNSC 1593 (2005)”(参照)である。重要なのは次の部分である。

A large number of victims and witnesses interviewed by the OTP have reported that men perceived to be from the Fur, Massalit and Zaghawa groups were deliberately targeted.
(OTPがインタビューした多くの犠牲者や証言者は、意図的に目標とされた民族グループが、フール人、マサリット人、およびザガワ人と見なされた人たちであると報告した。)

 ダルフール危機において特定の民族が念入りに狙われていた容疑が高まってきていると言っていいだろう。
 この報告は欧米ではAPを通じてニュースとなった。CNN”U.N. hears of mass Darfur killings”(参照)も掲載している。報道で重要な点は次の部分である。

Those details are among the strongest indication so far that Moreno Ocampo, the chief prosecutor with the International Criminal Court, has uncovered substantial evidence of ethnic cleansing and crimes against humanity in Darfur.
(特定民族が狙われていたとする詳細は、モレノ・オカンポ国際刑事裁判所検察官が、ダルフールでの民族浄化と人道に対する犯罪の実質的な証拠を明らかにしてきたことで強く示唆される。)

 ようやく戦争犯罪としてダルフール危機が扱われることになりそうな動向に対して、当のスーダン政府は奇妙なことを言い出している。同じくAPを掲載したCNN”Sudan toughens anti-peacekeeper stance”(参照)より。

Sudan's President Omar al-Bashir has escalated his rejection of the United Nations deploying peacekeepers in Darfur, saying they would be neo-colonialists and accusing "Jewish organizations" of pushing for their deployment.
(スーダン大統領オマール・アル・バシル大統領はダルフールに国連平和維持軍が投入されることへの拒否をエスカーレートさせ、こうした政策を推進しているのは新植民地主義者だと言い、ユダヤ人組織を非難している。)

 というわけで、すっかりな世界に入ってしまっているのだが、アラブならスーダンを支持せよという国際世論は少しずつ広まりつつある。

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コメント

 おつかれです。また重箱の隅で申し訳ない。大事な問題を扱われていると思うので、あえて。
■「排斥」 eliminateはもっと強い言葉だと思います。「抹殺」というような。
■「傷つけられ」 brandは、焼印、烙印では。所有権の表示、刑罰としての。http://www.refintl.org/content/photo/detail/4331/
■「perceived to be」 これ、怖いですね。そう「見られる」とやられちゃう。
■「念入りに」 deliberatelyは「故意に」「意図的に」
■「Those details ... in Darfur.」 ちょっと?

#アラブならスーダンを支持せよという国際世論って、どのくらい広まってんでしょうね。イヤな感じだなあ。
 あと、「欧米ではAPを通じて大ニュースとなった」の件、欧は知りませんが、米ではそういう実感はないっすね。NYTは短信扱い、CNNもサイトはAPのっけてるだけ。AP電はウェブだといろんなとこで自動掲載されてるみたいなので、数が多くても読んでる人がどんだけいるのかは疑問かなあ、という気がしてます。13日にブッシュのバグダッド行が発表されて、テレビ的には14日もその余波が目立ったような。
 以上、お邪魔さまでした。

投稿: harmoniker | 2006.06.26 11:51

harmonikerさん、こんにちは。ご示唆ありがとうございます。一部なのですがご指摘を反映しました。「大ニュース」というのはこの問題をワッチしてきた自分の主観が強すぎるので、「ニュース」としました。コメントを持って履歴に代えます。

投稿: finalvent | 2006.06.26 12:10

不良タイヤを装着された三菱製アウトランダーを買って写真で告発した
ユーザーが三菱関係者に叩かれるという事態です。応援お願いします。

掲示板 【 carview 】 三菱 アウトランダー タイヤバランスの不具合
http://www.carview.co.jp/community/bbs/bbs104.asp?bd=100&ct1=104&ct2=5952&pgcs=1000&th=1927695&act=th

投稿: かめぴー | 2006.06.27 10:06

やはり日本ではダルフールに関心はほとんどないようですね。
自分の大学の英語の授業の教材でダルフールに関する新聞記事を扱うことがありました。そこで先生が学生にダルフールについて質問したところ、初めて知ったという人がほとんどでしたね。

投稿: まりも | 2006.06.30 17:32

雑感ですが、ジェノサイド・人道に対する罪・戦争犯罪、という3類型について、定義・要件等の違いをより正確に理解なさるべきだと思います。

投稿: 通りすがり | 2006.07.03 11:39

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