出生率向上は米国にも学んだら
少子化の議論はもうおなか一杯です的腹膨るる業だが、先日発表された今年の合計特殊出生率一・二五関連の話をメディアとかで読んでいて、あまりに物言わざるもなと思いちょっと書く。わかりやすく書くとどっと非難を浴びそうだが、それほど物騒なネタでもないし、亀甲様には及びもせぬが馬鹿呼ばわりされるもブログの芸の内。
話の枕は毎日新聞社説”1.25ショック サバ読み年金設計は出直せ”(参照)。社説としてはどうでもいいような内容だが、次の部分にカチンと。
日本の出生率は世界の先進国ではドイツ(1.34)イタリア(1.30)と並んで最低レベルだ。米国は97年に1.97で底を打ってから上昇傾向に転じている。最大の要因は移民のヒスパニック系住民が原動力になっていることだ。フランス(1.89)は先進国の中で米国に次いで高い。手厚い家族給付と行き届いた育児サポートに起因すると言われる。
どう読むかね、これ。出生率向上に成功しているのは米国だが、米国に学ぶのやめましょってことか。
米国の出生率向上は、移民のヒスパニック系住民が原動力だから、日本の鏡にはならん、とか言う。ここで私がOKOK牧場とか言うと、移民受け入れはいかーんという毎度のパターンをやる? やらないよ。
まず、事実として、米国は出生率向上に成功している。ガチ。で、じゃ、それは移民のせいか?
敬愛するローバート・サミュエルソンのコラム「アメリカだけが少子化しない理由」(日本版ニューズウィーク5・31)ではこう。
アメリカの出生率は2・1と、ほぼ人口を維持できるレベル。ヒスパニック系の出生率が高いからだという声もあるが、アメリカン・エンタープライズ研究所のニコラス・エバースタットによれば、非ヒスパニック系の白人で1・9、アフリカ系アメリカ人で2だ。
一応留保するのだが、この報告が統計学的に正しければ、米国出生率を支えているのは移民だ論はぽしゃる。私も米国人口増加はヒスパニック系だと思っていたのだが、確かに人口全体から見ればそうなのかもしれないが、出生率という点でみるなら、所謂白人でもそう低くないようだ。
その前提でサミュエルソンに沿って話を進めるのだが、じゃ、なぜ米国の出生率が高い? というか、どうもそのあたりで、現代日本人というか、ブログとかジャーナリズムでタブー化してやんな的なものがうっすら見えてくる。
それを見ないでやる議論の典型はさっきの毎日新聞社説も同じだが、こんな感じ。
出生率の急落の原因は、ある程度わかってきている。よく指摘されるのは、所得の増加、健康と平均寿命の延び(子供の生存率向上による少子化)、都市化の拡大(農作業に必要な子供の数が減少)、女性の教育や雇用機会の拡大、避妊、晩婚化、非婚化、それに離婚の増加がある。
ともう食えない的に列挙されるのだが、これにこう続く。
しかし、それだけでは説明できない。アメリカという重要な例外があるからだ。
例外といっても、重要な例外としての米国の出生率だ。そして、それは移民というだけではなさそう。では、何か?
サミュエルソンはエバースタットをひいて、それは愛国心だと言う。げっ!
でも、そうなのではないのか。
それを裏づける証拠もある。シカゴ大学全国世論調査センターが33カ国で実施した調査では、「他のどんな国よりも自国の国民でありたい」と「強く思う」と答えた割合がアメリカでは75%、ドイツ、フランス、スペインではそれぞれ21%、34%、21%だった。
なんだか悪い冗談を書いているような気持ちもちょっとするが、案外そういうことなんじゃないのか。昨今の教育基本法で愛国心がどうたらとくだらねー議論をしているのは、当為としての愛国心であって、事実としての愛国心ではない。先進国の出生率は事実としての愛国心に支えられているのではないか。
引用が多くてなんだが、サミュエルソン・ザ・オサーンはこう言う。
産まないという選択は、自国の、そしておそらくは自分自身の未来を否定することになる。
自分自身の未来にというのはディスカウントしてもいいのだろうが(誰が世話してくるかわらないほどボケたいもんだし)、自国の未来を否定するというのはざっくり言えばそうなんじゃないか。未来の日本国民は基本的に今の日本国民が産むのだから。もちろん、世間には子供を産めない人もいる。わかってる。
私はもう一〇年前だったが、マルタ島の街角で子供がたちがわーっとベビーカーを囲んでいた光景を思い出す。沖縄でもそうだった。赤ちゃんがいるーとかいうだけで子供が集まってくる光景。あの光景のないところに出生率向上はないと思う(とか言ってマルタは少子化だったりして、知らんが)。
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コメント
「他のどんな国よりも自国の国民でありたい」と「強く思う」がアメリカ75%、フランス34%。出生率は、非ヒスパニック系のアメリカ白人で1.9、フランスは1.89。あまり統計的には関連はない気もします。ヨーロッパ内なら比較可能かもしれないですが... アメリカの愛国心が高いのは911のせいもあるかも。
もっとも、旧東ドイツのように、厭世観というか厭国観が少子化につながったという話もあるから、先行きの見通しに関わる「気分」みたいなものは重要でしょうね。
投稿: worldnote | 2006.06.04 12:22
観点変えれば、沖縄に学べとも言えるんですよね。
外国ばかりをありがたがる必要はないかも。
投稿: ひろ | 2006.06.04 12:22
丸太の出生率は米仏ほどではないですが高いほうのようです。
http://dataranking.com/table.cgi?TP=po06-1&LG=j&RG=2
アメリカのヒスパニックはもともと出生率が高水準なのに近年は上昇傾向で白人・アジア系は横ばい、黒人は低下傾向。
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/8650.html
投稿: ● | 2006.06.04 13:15
米国とフランスは「愛国心」の強い国というイメージありますねえ。9.11とかとは関係なく。昔から。
そして、どちらも「当為としての愛国心」ですか、愛国心教育も熱心というか屈託がないのも共通してるような。
「当為としての愛国心」と「事実としての愛国心」は無関係ではありえないでしょね。
何らかの形で愛国心と出生率に相関はあるのかもしれませんね。直接の因果関係はないとしても。(なんとなく腑に落ちる感じがするという程度ですが)
投稿: cru | 2006.06.04 14:45
団塊世代は、まさに、敗戦国民が、民族存亡を賭けた壮大な愛国心の発露の結果で、そのとおり団塊世代の成長とともに、日本は甦り、経済的には世界の超大国になれた。ただ、唯一の失敗は、団塊世代に愛国心を伝えられなかった。今回の「出生率=愛国心」の洞察には全面的には賛成。
投稿: タカダ | 2006.06.04 15:44
まあ、ほぼ無関係でしょうね。
finalventさんもわかってて書いてるんだと思いますが。
「気分」は重要でしょうから、完全に無関係だとは言いませんが。
投稿: M | 2006.06.04 15:46
まんこするとき愛国心なんか関係ないでしょ。
お前はお国のために子を産めって、誰が言うねん。
キチガイかと思われるだけでしょ。
投稿: 私 | 2006.06.04 18:18
いや、そういうことなら確かにキチガイじみてますな。
そうじゃなくて、「子供を生んでもOK」な環境っていうか「気分」の話では。
各国で相関調査してもたいした有意性は出てこないという気もしますが。
直接関係は無くとも、なにか実は結構本質的なところの近くをかすった気がしますけどねえ。
投稿: cru | 2006.06.04 20:40
アメリカとフランスと聞いて、ふと思ったのは「人口密度」です。このなかではこの2国は低いですよね。全然根拠はないんですが、関係ありそうな気もします。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%AF%86%E5%BA%A6%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
投稿: tandy | 2006.06.04 20:49
愛国心がある人の方が貧乏でも耐えて忍びそうなイメージがありますね。一方、子供たくさん作れば貧乏になるわけです。
完全にイメージだけの世界ですが、貧乏を鍵に愛国心と出生が結びつきそうな気もします。
投稿: kogawa | 2006.06.04 22:19
人間と呼ばれる国に生まれたい
イラク戦争後の石油高騰の世界情勢と靖国参拝中止要求とで日本も方向・目標を定める時期が来たようですね。米のペットも中国の家畜にされるのも嫌ならロシアよりの北方2島返還での手打ちに素直に乗って共通の対中米対策という共通国益を考慮するし、憲法改正して国軍を位置ずけして独立国らしい外交をする。米も中国も飴と鞭で平気で無理難題を要求する姿勢は日本だけに限らない。米中同士でも嫌がらせ競争は止めてないし、それでも経済では協力して投資も貿易も盛んで人間同士の移民・流入は旺盛です。中国は棄民政策で世界へ輸出するのは生き物代表としての人民ですが。飴と鞭の二つを使える国になる事が国民を重税から救い少子化の歯止めになる。誇り無きペットや家畜呼ばわりされる国に生まれたくは無いのです。人間としての普通の権利で悪口も言い合いもして自己の立場を主張する態度を見習う時期なのです。家畜やペットは靖国参拝などしない。不敬な行為の排泄行為を見張るだけでも疲れるのに空前のペットブームは亡国でしょうねー。人間と呼ばれる国に生まれたいのです。
投稿: ようちゃん | 2006.06.05 07:31
それ以前の話として、彼女が出来ません(><)
投稿: | 2006.06.05 15:03
↑それはきっと自分を愛し過ぎ。
国を愛しなさい、じゃなくて、他人を愛しなさい。
投稿: At | 2006.06.05 16:27
肩肘張ってないで見合いでもするべし。
案外うまくいくかもよ、と吹いてみる。
投稿: | 2006.06.05 17:08
私みたいに左翼教育受けたものは国が廃れても特に何も感じないかな。
ただ、数百年後に日本語を喋れる人がいなくなってしまうことを考えると辛かったりする。
投稿: | 2006.06.05 17:36
我が家の場合。地方在住で子供1人(2歳)。
「子供は高校まで進学させれば十分、あとは自分で勝手にやって」と思えば3人ぐらいは大丈夫だと思う。
でも子供を都会の大学に下宿して通わせようとなると2人目でさえ躊躇してしまう。
自分も都会の国立大学に行かせてもらったけど、下宿やら何やらで親にかなりの負担をかけたし。
だから育児手当を増やしてもらえるのもありがたいけど、金がかからない高等教育機関が欲しい。
そりゃあ大学だけがすべてじゃないし、事実、自分は都会を脱出して田舎でスローライフを楽しんでるけど、子供には「都会で高等教育」という選択肢を残しておくのが自分の義務だと思っている。
投稿: passageiro | 2006.06.05 18:06
↑
>子供には「都会で高等教育」という選択肢を残しておくのが自分の義務だと思っている。
それはまあ、世間一般の親御さんがフツーに考えてることだと思いますな。義務とか大仰に言うほどのことでなく。
投稿: 私 | 2006.06.05 20:50
こないだテレビ見たら武田鉄也@俳優が言ってました。
「人を愛するのはその人が好きだからってのもあるけど、究極的には人を愛することのできる自分が好きって意味なんだ」
あーなるほどね。そこ突き抜けますかって感じ。
「子供を産み育てるのは子供が好きだからってのもあるけど、究極的には子供を産み育て愛することのできる自分が好きって意味なんだ」
こうは成りませんかね? 成りませんね。ハイ、どーも。
投稿: 私 | 2006.06.05 20:53
私とか初手から親の老後の面倒見要員@農家の跡取り馬鹿息子つーことで産み育てられましたんで、そんな境遇に半分ムカつきはするものの、自分のために子を産み育てるって感覚、それなりに納得できちゃうんですけどね。
いやさ。自分のことは自分でやるのが理想だけどさ。
自ずから限度があるでしょに。
年金・介護だけに頼っちゃイラレネーちゅか。
家に若い衆が居ないと勢が出ねっちゅか。
そういう意味での狡賢さというか。生きる知恵っちゅか。人身御供っちゅか。図々しさっちゅか。
そういうの、昨今の民主的(笑)な人々の脳裡から薄れてませんか。
誰か面倒見てくれますか。
いっしょけんめえ働いてマニー持ったら老人ホムーが手取り足取り面倒見ますか。
それで満足ですか。
そんな感じ。
生きるだけ生きて、それでいいですか。そうですか。んじゃ、ご勝手に。
そんな感じ。
投稿: 私 | 2006.06.05 21:01
俺に言わせりゃ、高等教育&それに伴う将来の多様性や子供の生きる権利みたいなの。そういうのあってもいいけど、一人っ子に背負わせるのは逆に酷だって思うんですけどね。
多分、耐えられませんよ? 持て余しますよ? 活かせればそれに越したこと無いけど、活かせなかったら生き地獄ですよ?
そう思うわけで。
まぁ言葉は悪いけど、バカやヘタレが出たときのこと多少は考えて、ある程度多種キープに走ったほうがいいんじゃない? とも思いますな。
別に10人とか産んでテレビ呼べって話じゃないし。
投稿: 私 | 2006.06.05 21:06
白河の 水の清きに 魚棲まず
元の田沼の 濁り恋しけれ
投稿: 私 | 2006.06.05 22:40
私さん、良い事言うねえ。
そのとおりだ。
投稿: cru | 2006.06.06 23:24
アメリカに住んでいます。
アメリカ住民は自立心が強く、社会不安に負けないのが人口を保っている要素だと思います。やることはやる!っていう人ばかりなので。愛国心では無いでしょう。
今、私の会社ではベビーブームです。全員白人です。セレブのベビーブームにつられたのが原因ではないかと私は勝手に思っています。
投稿: ブリットニ- | 2006.06.14 08:50
あ。そうだ。そろそろアメリカの住宅バブルねたやって下さいな。面白い事になっ
てきているんで。
投稿: ブリットニ- | 2006.06.14 09:02
高等教育にかかる費用はアメリカのほうが高いよ。
日本は子どもが多い家庭の子は国立大学の学費が無料になる。子ども3人つくれば意外と安上がり。
投稿: nk | 2009.07.01 08:09
愛国心で出生率が上がるなら韓国とかはもっと出生率高くていいんじゃないですかね
投稿: | 2012.06.18 09:18
2012年におけるアメリカの出生率は1.88人
2.0を下回ってますがこれについてはいかがお考えで?
投稿: | 2014.12.13 15:40