ブッシュ2・0
テーマが絞り切れていないのと資料(ソース)の整理もしてないので散漫な話だが、このところの国際状況で思うことをメモ書きしておきたい。
今朝のニュースで伝えられたイタリア総選挙だがベルルスコーニ首相率いる中道右派連合が僅差で敗北した。ロイター”伊中道左派連合、選挙結果覆そうとしていると首相を非難”(参照)ではその微妙な状況をこう伝えている。
中道左派連合を率いるプロディ元首相は、4月9日―10日に実施された総選挙で勝利を宣言し、内務省が発表した公式結果でも、中道左派連合が上院・下院ともに議席の過半数を獲得したことが明らかとなった。
しかし、ベルルスコーニ首相は投票に多くの「不可解な」点があったとして中道左派・中道右派両連合による統一政府樹立の可能性を示唆している。
具体的にどういう動向になるかはわからないが、親米的なベルルスコーニ路線は一旦挫折したと見ていいだろう。
これで明確に政権交代となると、二年前のスペイン総選挙で親米アスナール政権についで英国以外では西欧側での親米勢力が崩れる。恐らくイタリアのイラク撤兵はスケジュールに載るということになるだろう。単純に考えればブッシュ政権への打撃となると言っていい。
中道左派連合を率いるプロディ元首相だが、欧州委員長を務めたこともあり、EU重視の姿勢を強化するだろうと思われるが、肝心のEUの動向がまた見えない。このあたりの問題について仏雇用策撤回に関連して今朝の毎日新聞社説”仏雇用策撤回 EU分裂のきしみが聞こえる”(参照)が意外によく書けている。
フランスでは昨年、北アフリカ系移民層の若者を中心とする暴動が続いた。その背景にも、移民層の高い失業率があった。欧州憲法批准の是非を問う国民投票(昨年5月)で「ノン」が多数を占めたのも、EU拡大を通じて東欧などの安価な労働力が流れ込み、仏国民の雇用が脅かされるという危機感が強かったためだ。
欧州統合の旗振り役だったフランスやオランダの批准失敗により、欧州憲法の発効は事実上不可能になった。「統合の深化と拡大」をめざす動きは停滞し、EU各国は内向きの傾向を強めたのである。求心力を失ったEUは、分裂と崩壊への道を歩み始めたのだろうか。CPEの撤回劇は、迷走する欧州の姿を象徴しているようにも見える。
私には「求心力を失ったEUは、分裂と崩壊への道を歩み始めたのだろうか」という表現は洒落ではなくやはり懸念として受け止められる。ただ、フランスの動向についてはサルコジが盛り返した後の動きとして揺れが戻るかもしれないとは思うが、基本的にはフランス内政の問題ではなくそれを取り巻く状況の因子が大きいだろう。
英国の動向は私には微妙としか言いようがない。個別の問題ではわかるし、以前だったら英国民のようにブレア批判でもしたくなるが、このジョンブルさんのタフなことは近年の歴史で証明済み。
西欧側から米国、ブッシュ政権側に目を移すと、日本では依然陳腐なブッシュ叩きみたいな論調が目に付くようだが、このところのブッシュ政権の動向はかなり穏当な中道に向かっているように見える。昨日の朝日新聞社説”保護主義 米国の責任は大きい”(参照)でも、論旨はかなり粗いのだが大筋で追えば現状のブッシュを是認せざるをえないように読める。
世界を見渡せば、資源やエネルギー、通信などの分野で、外国資本に国内産業が支配されることへの警戒感や不満があちこちで強まっている。保護主義や排外主義の誘惑が広がり、南米の選挙では反グローバル化を叫ぶ候補が国民的な人気を集める現象も起きている。
中国やインドなど新たなライバルが台頭しているときに、保護主義に走って競争から逃げては「米国は停滞した二流経済に向かう」。ブッシュ大統領が1月の一般教書で述べた言葉だ。
米国から世界全体を見渡しても「保護主義や排外主義の誘惑」といったものは感じらるし、その中で昨今のブッシュ政権はとりあえず現実路線的ではある。
というところで目下のブッシュ政権の課題かに見えるのは移民問題である。同社説ではこう簡単に触れている。
もっと厳しく不法移民を締め出す法案が議会にかかっているのも、治安対策ばかりでなく、外国人が自分たちの仕事や生活を奪っているという被害者意識が国民に広がっているからだろう。
こうした保護主義的な動きを促しているのは、膨らむばかりの貿易赤字だ。05年には初めて7千億ドルを突破した。なかでも中国との赤字は2千億ドルを超える。安価な中国製品が市場を席巻するなかで、中国政府の硬直的な為替管理への不満が高まっている。
保護主義の主因を「膨らむばかりの貿易赤字」とするのは短絡的にも思えるし、それはそれとして別の問題ではないかと思う。が、「不法移民を締め出す法案」とやらについては、米国を二分するかのような問題として盛り上がっている。この問題は上院下院、共和党民主党というダイコトミーがうまく機能しないのに議論が二分するという奇っ怪な様相を示しているので立ち入って説明するのがうんざりしてくる。
ただ、単純に言えば、この問題、やはりブッシュの路線、つまり、現状の不法移民を穏和に認可する以外の対処がありようがない。もともと、米国は定期的に徳政令のように不法移民を米国に含み込むシステムがあったと見ていい。これが機能しなくなったのはむしろセプテンバー・イレブン以降の変化で、一期目のブッシュにその意図があったのか、むしろ現状のブッシュの穏和な路線のほうがパパ・ブッシュに近く本来のブッシュ政権ではないかとも思うが、歴史は逆転しない。
痛みはともなうが現実的にな解決策の選択がないというとき、政治的な議論はあまり現実の解決に役立たないかに見えることがある。余談で言うのもなんだが、日本でも小沢民主党を取り巻く言論もポスト小泉競争でもタメの議論のような構図が浮いているように見える。現実的な解決策が絞られている状況でどのように痛みをバッファするかという実務屋的な言論というか指針があればいいようにも思うが、むずかしい。
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コメント
いつも楽しく拝見しています。
BSや雑誌に取り上げられていて人気ですね。
イタリアはプチ北朝鮮化しつつあった政権が変わりそうな気配。でも再選挙の可能性も。イタリア人は悠長やなと」思います(笑。
昨日の小沢発言には腹が立ちました。
投稿: R-379 | 2006.04.12 10:54
R-379さん、小沢発言のどこに腹が立ったのでしょう。
靖国問題だとして、わたしにいわせれば、いつまで日本は
靖 国 バ カ
につきあわされないといけないのか。
現在の日本の国力や外交力学などまったく目に入らず、ひたすら大日本帝国の過去の栄光にしがみつく狂った連中さえ絶滅すれば、日本の将来はかなり明るくなるでしょう。
投稿: t | 2006.04.12 11:32
管理人さんR-379のアク禁を希望します。
投稿: バンダナ | 2006.04.12 12:35
tとR-379二人合わせて靖国バカってことでよろしいのではないかと。
投稿: sweat | 2006.04.12 13:10
ブッシュ政権の姿が「現実路線的」に映るようになったのは、米国民の側がそうでない方向にゆれつつあることの裏返し、ではないかと思うことがあります。ちょっと押しすぎちゃったかな、みたいな。結局、やれることの範囲はそれほど幅広くないですからね。
投稿: 山口 浩 | 2006.04.12 13:34
>山口 浩さん
いや、それ、儂もそう思う。
むしろ、そっちもちゃんと考察した方が公平と思う。
投稿: トリル | 2006.04.12 14:03
>>こうした保護主義的な動きを促しているのは、膨らむばかりの貿易赤字だ。05年には初めて7千億ドルを突破した。なかでも中国との赤字は2千億ドルを超える。安価な中国製品が市場を席巻するなかで、中国政府の硬直的な為替管理への不満が高まっている。
なにやら何時か来た道という感じがしたりして
投稿: 通りすがり | 2006.04.12 19:15
>ひたすら大日本帝国の過去の栄光にしがみつく狂った連中さえ絶滅すれば、
こういう発言をして恥じない莫迦を先に滅ぼすべきだね。
国力や外交環境を考えるなら、終結した戦争についてグダグダ文句を抜かす国を近代化しなくてはね。
投稿: むのじ | 2006.04.12 22:14
近代化ではなく現代化してくれないと
我々の風下の環境汚染が…(笑)
投稿: 無粋な人 | 2006.04.13 12:22
黄砂のひどかった土曜日、同じことを考えました。砂以外に何が飛んできてるやら・・・。
投稿: grep | 2006.04.14 22:08