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2006.04.27

[書評]ミス・マナーズのほんとうのマナー(ジュディス・マーチン)

 最近なんとなく聞いた若い人の陰惨な恋愛沙汰のニュースにしばし考え込んだものの、特に何も言えないなと思って忘れることにした。もっとも忘れたわけではない。書庫の整理をしていて、大切な「ミス・マナーズのほんとうのマナー」を手に取り、ふと読みふけっていて思い出してしまった。
 この本は、米人がマナーのあり方についてなにかとミズ・マナーズに問いかけるという本だ。こんな質問も載っている。


親愛なるミス・マナーズ
 わたしは十六歳の女の子です。好きな男のができちゃって、好きだって打ち明けたいんだけど、その勇気が出ないの。こういうことになると、すごく気が弱いんです。
 それから困っちゃうのはその人が近くにいると、わたしって目茶苦茶おしゃべりになることです。(中略)彼にも、ほかの人にも、自分をコントロールできない女の子、なんて思われたくありません。

cover
ミス・マナーズの
ほんとうのマナー
 ネタか。みたいな話だし、文体も「赤頭巾ちゃん気をつけて」時代のパロディかみたいだが、とりあえずそういうツッコミはなし、と。
 これにミス・マナーズが答える。

 あなたがまずおぼえなくてはいけないのは、その人にはっきり好きだと打ち明けたいという気持ちをコントロールすることですね。これはなかなかむずかしいことですが、おぼえておけば、大人になってから役に立ちますよ。

 いい回答だなとしばし感慨。四十九歳にもなってみると、まずベストな回答の切り出しとしか思えない。十六歳の娘にこう語る大人の女がいなくちゃいけないよ。「おまえさんはまだまだ大人になってないよ」と言える大人の女が社会にはいなくちゃいけない。
 好きだなんて告白すればいいもんじゃない。子供じゃないんだからさ、っていうか、大人になるために、恋愛するために、まず、そういうことを学べと。
 彼女の回答は同書ではやや珍しく長い。こういう話も加えている。

 愛は不確実なものです。とくに現代ではね。だから「自分がほんとに好かれているかどうか」無理に聞き出すのは間違いです。

 そして恋の駆け引きを学びなさい、と。そういえば、八〇年代はユーミンがそんな説経節を延々と説いていたものだった。

 相手のピッチを上げさせたければ自分のほうがスピードを落とす、というより、立ち止まるしか仕方がありません。どっちつかずの態度というのが、求婚期間の最高の刺激剤です。結婚してからこういう態度をとるのは、まったくいただけませんけれどね。

 というわけで、この本はユーモアを学ぶための最良の書だとも言える。
 こういう質問もある。うっかり今の恋人を過去の恋人の名前で呼んでしまった。
 彼女の回答はきびしい。

 未来の恋人を探すんですね。
 こういう間違いはいとも簡単におかしてしまうものですが、これを帳消しにすることは、絶対にできません。ダーリン、という便利な呼び方があるのはなぜかわかるでしょう。

 あははという感じだが、「絶対に」に絶対的な響きはあるし、まあ、それは絶対にと言っていいくらいかなり妥当なものだ。人生は、けっこう、しょっぱい。
 こういうユーモアと人生と恋愛への対処のしかたを少女期にまた少年期に多少でも学べば、それはありえないだろというような悲劇も避けられる……そう思いたい。実際は、そうではないのかもしれないが。

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コメント

>好きだなんて告白すればいいもんじゃない。
はあ、難しいですなあ。
いつも必死なモテナイ君には難しいです。

投稿: メロリンQ | 2006.04.28 22:57

この話題最高です!
ミスター&ミセス・スミスを見た後だからなおさら身にしみますね・・・。
若いうちは分からない、それが最大の悲劇でしょう。
もっとも、若い人はこうした燻銀ブログは読まないでしょうが・・・。

投稿: とおりすがり | 2006.04.29 00:07

昨日TwitterにここのURLを発言に貼り付けてスッとどこかに去られた後、“バナナの食べ方のマナー・・・”ってどんなマナーだろう?と、気になって来てみました。
finalventさんにどのようなメッセージが有ったのか無かったのか分かりませんけど、私にとってはこれがタイミングよく、泣けました。泣けるというのは、男性のそれとは多分ちょっと違っていて、言葉ではないものに癒されるというか、勝手に感じる空気なのですけどね。それでも嬉しかったです。

投稿: godmother | 2008.02.24 17:08

昨日、定期的に通っている小さな古本屋で見つけ(315円!)、手元におくことができました。なんて面白い本だろう、と、合間を見ては開き、笑っています。人と人との関係において、相手に節度を求めるのであれば、自らも背筋を伸ばしていなければならない、そしてそれは自分の生活をよりよくすること、そこにはちょっとしたコツがあること、そんなことを学びます。ああ、なんて良い本だろう、と思いました。ユーモラスな調子でなされるやりとりに、しかし具体的な人の悲しみがあって、ときおりはハッとして自らの生活、言動を反省させられます。いい本を、ありがとうございます。

投稿: edouard-edouard | 2009.09.28 14:00

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