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2006.04.20

米国によるイラン空爆はない

 英語の口語に"Nuke it."という表現がある。英辞郎をひいたら、そのままで訳語が載っていた。


Nuke it.
〈俗〉もうやめだ。◆「核爆弾で破壊する」という意味から

 というわけだ。
 こうした表現は日本人にしてみると不謹慎な印象を受けてもしかたがないものだし、九日読売新聞記事”ブッシュ政権、イラン空爆計画作りに着手 核使用も選択肢”も軽率な理解が日本人にあったとしてもしかたがない面はある。

米誌ニューヨーカー(電子版)は8日、ブッシュ政権が米軍によるイラン国内での極秘の情報収集活動を活発化させるとともに、核施設などへの空爆計画の策定に本腰を入れ始めたと報じた。調査報道で知られるセイモア・ハーシュ記者が米政府関係者などの話として伝えた。

 オリジナルは"THE IRAN PLANS / Would President Bush go to war to stop Tehran from getting the bomb?"(参照)である。また、同種のニュースは九日付けワシントンポストでも報じられた。
 これをネタに田中宇がふかしたコラムが”イランは核攻撃される? ”(参照)だが、いくつかブログを見ていると洒落もわからず真に受けている人がいるような気配でもあり、簡単にコメントしておきたい。田中は以下のように無知をスプレッドしている。

 核兵器は、広島と長崎で使われた後、世界の5大国が「抑止力」として保有することはできても、実際に使うことは外交上許されていなかった。だがブッシュ政権内では「アメリカは国際的な了解事項をあえて破り、核兵器を使うことがあるのだということを世界に誇示した方が、悪の枢軸など独裁的な反米国を抑制できるので良い」という考え方が強く、核兵器を使いたがっている。核問題でイランが譲歩しても、ブッシュ政権は「テロ組織支援」など他の名目に力点を移すことで、いずれイランを核攻撃する、ということである。

 さすが毎回エープリルフールみたいな話だが、ご覧のとおり、この文脈での核兵器とは戦略核兵器である。これに対して、ニューヨーカーの記事を読めばわかることだが、現在話題となっているのは、戦術核兵器である。

The lack of reliable intelligence leaves military planners, given the goal of totally destroying the sites, little choice but to consider the use of tactical nuclear weapons. “Every other option, in the view of the nuclear weaponeers, would leave a gap,” the former senior intelligence official said. “

 日本の政治風土では、戦略核兵器も戦術核兵器も核兵器であることには変わりないという粗暴な議論が平和志向であるかのように語られることもある。確かに現代において兵器自体を考えるなら戦略核兵器と戦術核兵器の厳格な差異は見いだしづらくなり、”Center for Arms Control & Non-Proliferation”の”Briefing Book on Tactical Nuclear Weapons”(参照)でもそうした指摘がある。が、このページの議論でもそうだが、田中宇のように味噌糞を一緒にするような話より、戦術核兵器の現状とその制御をどう考えるべきかとしなければ実際の、組織的な平和の促進にはならない。
 今回のニューヨーカーやワシントンポストの報道だが現状の文脈では原則論なり心理戦といった以上の意味合いはない。米国によるイラン空爆はない。
 ニューズウィーク日本版4・26”イラン空爆は脅しか本気か”が妥当にまとめている。当然ながら、この記事では核兵器は戦略核兵器的な意味合いとなり、バンカーバスターなどは核弾頭つき兵器としてそれと前提上区別されている。

 米政府が中期的な安全保障戦略の改訂版を発表したのは、3月のこと。その中でイランは、核拡散をめぐる最大の脅威と位置づけられている。また、先制攻撃の戦略も再認識されている。だからブッシュが先週、空爆計画の報道は「でたらめな推測にすぎない」と語っても、信じない人もいた。
 しかしイランへの軍事行動に関するブッシュの立場は、4年前のイラクのときとはまったく違う。あのとき米政府は、外交努力に見せかけて軍事戦略を推し進めた。だが今は逆に、軍事努力に見せかけて外交戦略を推し進めている。
 アメリカはなぜ、軍事行動という選択肢をほぼ排除しているのか。第一の理由は、米政府も認めているとおり、イランに関する情報がきわめて乏しいからだ。

 軍事上の戦略の可能性をプランすることと国家のあり方は同一ではないし、各種の軍事オプションは検討されているだろうが、そのこととその実現は単純には結びつかない。
 「極東ブログ: イラン問題が日本のエネルギー安全保障に関わるのか」(参照)でもふれたが、イラン問題は、実質的には米国の単独行動の前に有志連合での動きがあるわけだし、当然EUがこれに大きく関わらざるをえない。そのあたりのスジから見ていかないといけない。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

>米国によるイラン空爆はない

うーん、どうかな~。
僕ははそう断定しかねてる。
確かにそんな余裕は米国には無いのだけど。
ま、外れても恥じゃないよ。

投稿: トリル | 2006.04.21 18:38

>この文脈での核兵器とは戦略核兵器である。

田中さんは最初から最後まで戦術核兵器の文脈で語っている。勘違い君はあなたね。
それから
×バンカーズバスター
○バンカーバスターね。

投稿: 佐藤秀 | 2006.04.21 23:46

>米国によるイラン空爆はない

 何時までの時限設定で「ない」なんだか分からんですけど、近々数年内であれば、ないでしょうね。余裕がないでしょ。

 長期含めた可能性の問題として言うなら、「絶対にある」でしょ。余裕が無いなら余裕作るでしょ。

 戦略核の使用は、それこそあり得ない話なんで、そういうのをネタにしてる時点で胡散臭さ満開ですね。戦術核レベルの使用ならそこいら中であるだろうから、そういうのが「塵も積もって何とやら」になるんじゃないの? みたいな話の持っていき方にした方が良かったのでは?
 そんな感じ。世相読み甘いんじゃないかと。

投稿: 私 | 2006.04.22 01:46

アメリカ人は一般的にマッチョを気取ってるので、有効な報復ができない相手の存在でパニックになります。戦略的か戦術的かという分類は、大国同士の戦いとは違う問題にそのまま持ち込んでも意味ないわけです。大国相手ならMADも機能するから池野めだか式解決もできるのだけど、戦略的抑止力が機能しなければ現実の力を注ぎ込む、つまり全てが戦術的にしか解決できないわけです。
アメリカの戦術核に対する懸念というのは、アメリカががそういう輩と同じレベルに降りていって世界を巻き込むんじゃないか、と。ただ欧州はイスラム問題を内に抱えてるので、アメリカにある程度同調的であるのがちょうどイラクのときの日本とは逆になってるような。

投稿: ■□ Neon/himorogi □■ | 2006.04.22 09:56

宇さんの文脈は戦略核兵器を指すとも読めますが、軍事系の人なら当然そこから冷戦時代において戦術級であろうと核兵器を使うことは当然エスカレーションを引き起こし、結局は戦略核兵器の使用に至るであろうという危惧があったことを考え、戦術核まで話の範囲を広げるのではないでしょうか。さらにそれを発展させれば、なぜデルタフォース送ってイランの核施設を爆破するのではなく、戦術核で破壊しなけりゃならないのかといったら、finalventさんおっしゃるとおり戦略核と戦術核の境目があいまいになっているいま、戦術核を使用することで核全般に対するタブーを弱め、将来的には戦略核を使用する意図があるのだ、という読みができるのでは?私は戦略核を使用するメリットがわからないのでその意見には賛成しませんが。

投稿: 猿子玉 | 2006.04.22 21:18

イラク侵攻の際、大口径砲の砲身使ったバンカーバスター急遽作ったけど、これ以上堅牢な攻撃目標だともう戦術核が必要じゃないか、と言われてました。その後北朝鮮攻撃プランの検討から、北朝鮮の核施設が花崗岩の岩盤の中なので戦術核によるバンカーバスターの使用が現実味を帯びてきたけど、北朝鮮が泥沼になってその話がうやむやになってるうちにイランが増長してきたので、そのままイラン攻撃の話題にシフトしてるのではないかなー。もっともイランが核で暴走してるのは北朝鮮の問題と無関係ではないので、よーするに、イランに対するブラフでもあり、北朝鮮に対するブラフでもあるでしょう。

戦略核というのは国民を大量に殺されたら負けだと思う相手に対しては有効ですが、勝ち負けの基準がぜんぜん違う相手には使えない(使っても意味がない)ものです。

投稿: ■□ Neon/himorogi □■ | 2006.04.22 23:59

単純に、核兵器余ってる(更新期近いのが結構ある)からボロい奴から処分したいだけちゃうんかと。なんつって。

投稿: 私 | 2006.04.23 02:54

近頃軍研は買ってはいるものの積読状態なのですが、潜水艦発射弾道弾に通常弾頭という話があるよーですね。
http://blogs.yahoo.co.jp/koudookan/archive/2006/4/5
硬目標を砕くだけなら高高度からの位置エネルギーが加算されるので、通常弾頭でも十分効果的なのではないかなー。
というわけでイランに対する核攻撃はありえないような気がしますが、むしろ問題なのは核攻撃かどうかではなく、稼動している可能性がある原子力施設を攻撃するかどうかなんですねー。歴史上実際に核攻撃やったのはアメリカだけ。稼働中の原子力施設を攻撃したのもアメリカだけとなると流石に拙いんじゃないかなー。

投稿: ■□ Neon/himorogi □■ | 2006.04.23 21:01

よく田中宇さんの事をバッシングされてますけど、あなたは田中さん以上に何かやってるんでしょうか?
彼は彼自身の知識と経験から意見を述べているだけでしょうし、人間に完璧を求めるのはナンセンスじゃないですかね。
人を攻撃する人は必ず攻撃されますよー。

投稿: 田中宇宙 | 2006.04.26 13:45

田中宇の分析はいつも頓珍漢なんで全く当てにならないけど、ニューヨーカーの元記事をかいたシーモアハーシも嘘つきで有名だから、彼のいってることも全然あてにならない。

今日国連アメリカ大使のボルトン氏が、ニューヨーカーの記事はフィクションだといっていた。

でもイラン攻撃はブッシュ政権の間にあると思いますよ。国連は経済制裁する根性もないですからね。イラクの時とおなじで条例に継ぐ条例で強気なことをいっても口先だけでおわるでしょうから。

投稿: 苺畑 | 2006.05.03 17:22

米・イのイラン核攻撃第3次大戦は破綻する

 イランは迫り来る米・イ悪の枢軸による核攻撃に反撃するため、ロシアから地対空ミサイル防空総合システムの近距離用をすでに07年に配備済みで、半径150kmの長距離用S-300の導入も08年に決定した。迎撃戦闘機もスホイSU-30を250機ロシアから、多目的戦闘機J-10を40機中国から導入して備えると決定している。
 これで、「米軍のイラン攻撃は無意味化する」と、ロシアのpravda.ruが08年5月初めに指摘した。攻撃は無残な敗退に終ることになる。
 しかし、それゆえに米国ではネオコンとブッシュがあせっており、ネオコンはブッシュ暗殺計画があるとブッシュを脅して、イランの2000ヵ所の攻撃目標に対する核攻撃にブッシュを追い込む策動に血道をあげているが、米軍の指導的集団はイラン攻撃に反対していると、露軍のイワショフ将軍が08年5月初めにPravda.ruで指摘して警告した。
 ブッシュとネオコン一派は、イラン攻撃の第3次大戦を強行して、戦時戒厳令を発令、ネオファシスト政権樹立の目論みである。これで、ブッシュの祖父プレスコットがヒトラーを支援して第2次大戦開戦後まで資金援助していて逮捕された、あのブッシュ家の「誇るべき」伝統が復活すると、ブッシュは目算を立てている。
 しかしイランはすでに07年に短距離用の地対空ミサイル防空総合システムを導入して、演習に成功し、実戦配備しているので、イラン攻撃は大打撃を受けると見られており、それゆえ、米軍トップの有力集団がイラン攻撃に反対しているわけである。
 それでもブッシュとネオコン一派がイラン攻撃を強行すれば、内戦勃発の可能性が大きい。
 2度の大統領選挙での不正操作と不正行為で無法に「当選」したブッシュらの事実上のクーデターで、すでに「金で買われたアメリカ民主主義」は死んだ。すでに国防総省トップから末端まで、さらに州兵、民兵まで「逆クーデター」組織が組織されて、AFP(American Free Press)は逆クーデターの綱領骨子を06年に発表した。http://gold.ap.teacup.com/tatsmaki/27.html

 2036年から現代のフロリダへ来た、内戦で勝利した反政府軍のジョン・タイター(仮名)少佐は「我々は内戦で勝利した」と米国BBSに誇らしく書いて有名になっている。共和党も民主党もなくなった。大企業は全部なくなった。大統領制廃止で議会制共和国連合が出現した、という。
そういうことになるのか?それへの歩みを決めることになるのは、皮肉にもジョージ・ブッシュなのか?
 AFPの暴露、Henry Makow(米国ユダヤ人のイルミナティ批判哲学者)の指摘によれば、「神はUSAを地獄へ落とす」「青目の白人は悪魔だ」と主張するキリスト教黒人解放神学のライト牧師らの20年来の信者で、両親と共に共産主義者である民主党大統領候補バラック・オバマは、同時にフリーメーソンの指導部イルミナティのメンバーである。最近彼は、当選利益のためライト牧師との絶縁声明をしたが、USAバッジを襟に付けないで、手を胸に当てるUSAへの忠誠宣誓を拒否している。
 民主党で優勢をなお維持しているそのオバマを支持している米国の勤労者大衆は、ネオファシスト政権樹立のブッシュ一派に従うのか、それとも結局内戦に参加して戦うことになるのか?白黒まだらな時は長くは続かない。時が解決する。全米反戦運動統一組織ANSWERに結集して行動している勤労者大衆が、いずれ逆クーデター勢力と同盟して、国の行く先を決定するだろうことは、十分ありうる。
詳細な情報は:
http://gold.ap.teacup.com/tatsmaki/50.html 

投稿: たつまき | 2008.05.05 03:45

ファイナルベントさん、度々ごめんなさい。
あなたのブログ内でイルミナティを検索したらオバマさんがイルミナティメンバーというこの記事のコメントがヒットしました。

イルミナテイって「あなたがあなたらしく光り輝きますように」っていう先ほど書いた友達のブログの最初に出てくることばとか、過剰な友愛感を全面に押し出して宇宙人と交信する鳩山さんの奥さんとかとイメージが結びついてしまいます。 鳩山さんんも奥さんも60年代70年代のアメリカ文化の影響をうけている?

私は山本夏彦が好きでコメントさせてもらった者です。頭がおかしな人ではないつもりです。ただユダヤ陰謀説ではないですが、フリーメーソンとか神秘主義とこのイルミナティとかエセラン研究所とかの心理操作はとても気持ち悪い感じがして、マルチや自己啓発セミナーもそうですが、ファイナルベントさんならどうお考えだろうと思ってメールさせていただきました。

投稿: September | 2012.09.09 13:01

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