チェルノブイリ事故報道がわからない。なにがどうわからないのか少し書いてみたい。とりあえず二点に絞る。なお、イデオロギー的な意図はまるでないので誤解なきよう。
まず、被害規模。で、以前のエントリは「極東ブログ: チェルノブイリ事故の被曝死者報道について」(参照)。この後日譚のようなニュースが例えば朝日新聞”将来の推定死者数、9千人に修正 チェルノブイリ事故”(参照)。
被曝(ひばく)によるがん死について、IAEAとWHOは10年前の会議で約9000人との予測を発表した。昨秋の発表では、そのうち、低汚染地域に住む600万人余での被害想定について「科学的に証明できていない」として死者推計数を約5000人減らしたが、「低く見積もりすぎ」と批判が相次いだ。再度議論の末、低汚染地域を被害想定対象に戻し、死者推計数も約9000人に戻すことになったという。
このニュースがいろいろわかりにくいのだが、「科学的に証明できていない」状況が変更されたふうではないと思う。また、WHO報告の科学的な根拠が変わったということもないと思うのだがどうなのだろうか。
この後日譚的報道を受けて、二十二日読売新聞社説”チェルノブイリ 事故の教訓を希望につなげたい”(
参照)はこういう作文を書いている。
事故直後、犠牲者は数十万人との推計もあった。しかし、世界保健機関(WHO)や国際原子力機関(IAEA)などは昨年、事故が原因で死亡したのは約60人で、がんによる死者は今後、4000人とする報告書を公表した。
これに対し、もっと被害は大きいとの批判が相次ぎ、今月、推計の対象地域を拡大して、今後の死者を9000人に修正した。いずれにせよ、人的被害は当初予測を大きく下回りそうだ。
結局、「人的被害は当初予測を大きく下回りそうだ」が科学的に言えることで、そうではない文脈との整合がうまくついてないまま、ニュースは多層的に流れているのだろうか。
朝日の先の記事では次の言及もあるが、やはり理解しづらい。
被曝死者数は、広島・長崎の被爆者データを基に推計するのが一般的だ。しかし、チェルノブイリ事故による被害は、じわじわと被曝が進むだけでなく、食べ物などを通して体内に蓄積された放射性物質による内部被曝の影響もあり、本来同じには扱えない。こうした低線量放射線による被害推計には、まだ明確な科学的裏付けがない
五千人増えた部分はその食物などを含めた低線量放射線なのだろうか。
いずれにせよ、科学的な推定部分の報道がはっきりしないのと、ニュースはニュースで別の文脈を走っているような印象を受ける。もっとも、このニュースに限らないのだろうが。
もう一点。二十五日付け毎日新聞社説”チェルノブイリ 事故の影響に終わりはない”(
参照)が全体どうにも素っ頓狂な作文に思えるのだが、特にここで、うっぷすとつぶやいてしまった。
事故は特殊な実験に伴う原子炉の暴走によって起きた。原子炉の爆発で広島型原爆の数百発分にあたる放射性物質が放出され、一部は日本でも検出された。原発職員や消防士、救助作業にあたった約20万人に加え、周辺住民数百万人が被ばくしたといわれる。
うっぷすは「事故は特殊な実験に伴う原子炉の暴走によって起きた」なのだが、これってFA(ファイナル・アンサー)? どうも私の記憶のなかで暴発が起き始めた。というか、この作文に限らず、二十年記念の話では事故原因についての記述が抜けているというかぼけているように思えることが多いのはなぜだろうか。
少しサーチしていくと、JANJANの記事”矮小評価と「幕引き」への抵抗:チェルノブイリ事故20年」”(
参照)に出くわす。JANJANだしねということで読むのだが、ここに三点の原因説が指摘されている。
チェルノブイリ原発事故は、冷戦末期の1986年、独立前のウクライナでおきた。その原因はこれまで、1・運転員による規則違反(1986年ソ連政府報告)、2・原子炉の構造的欠陥(1991年シテインベルク報告)、3・地震誘引説などが想定されており、依然として明確にはなっていない。どうして鎮火できたのかもいまだ不明である。ウクライナのNGOは、これまでの健康被害者が3~4万人に上ると推定している。
ということで原因説が三点上がっているが毎日新聞説「特殊な実験に伴う原子炉の暴走」ではない。
ウィッキはどうか? 「チェルノブイリ原子力発電所」(
参照)が詳しい。まず、状況はこうらしい。
事故を起こした原子炉は、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉、RBMK-1000型(ソビエト型)という型式の原子炉である。 発端は、原子炉が停止して電源が停止した際、非常電源に切りかえるまでの短い時間、原子炉内の蒸気タービンの余力で最小限の発電を行い、システムが動作不能にならないようにするための動作試験を行っていたが、炉の特性による予期せぬ事態と、作業員の不適切な対応が災いし、不安定状態から暴走に至り、最終的に爆発した。
よく読むとわかるが原因とは言い難い。それはウィッキの記者も理解しているらしく、この先に関連がある。
この爆発事故は、運転員の教育が不十分だったこと、特殊な運転を行ったために事態を予測できなかったこと、低出力では不安定な炉で低出力運転を続けたこと、実験が予定通りに行われなかったにも関わらず強行したこと、実験の為に安全装置をバイパスしたことなど、多くの複合的な要素が原因として挙げられる。後の事故検証では、これらのどの要素が欠けても、爆発事故、或いは事故の波及を防げた可能性が極めて高いとされている。
総じて複合原因とはいえそうではある。ということは、この事故は例外的な事故だったということなのだろうか。だとすると、一般的な教訓より特例としての教訓という枠組みで考慮しなければならないようにも思う。
もう少し引用を続ける。その理由があるからだ。
当初ソビエト政府は、事故は運転員の操作ミスによるものとしたが、のちの調査結果などはこれを覆すものが多い。重要な安全装置の操作が、運転員の判断だけで行われたとは考えにくく、実験の指揮者の判断が大きかっただろうと考えられる。
これが妥当だとすれば、JANJAN記事の第一説は崩れる。すると第二説、構造欠陥か? よくわからないが、それなら未来に向けた問題としてみれば比重は小さくなる。そういうことなのか。ただ、昨今の記事や解説ではそれを見かけない。
残るは、毎日新聞が示唆するような、けったいな実験をやっていたか、地震……地震?
ウィッキにも記載がある。
事故から20年後の一部報道によると、暴走中に「直下型地震」が発生して爆発したとされている。
その地震報道とやらはなんだ? なのだが、私はこの報道の記憶がある。ただ、二十年前ではない。ネットを探すと、コピペだがロイターの記事が見つかる。”Chernobyl Earthquake”(
参照)である。
Reuters 23-JUN-98
By Peter Starck
COPENHAGEN, June 23 (Reuters) - A television documentary highlighting a possible link between a small earthquake and the Chernobyl nuclear disaster 12 years ago won first prize in a competition arranged by the European Environment Agency.
Director Bente Milton received a prize of 25,000 Danish crowns ($3,660) on Monday for ``The Secret Factor'' -- a 58-minute film establishing that a tremor with its epicentre less than 12 km (seven miles) from Chernobyl took place just before the world's worst civilian nuclear accident.
``The earthquake has never been mentioned in any of the official explanations,'' Milton told Reuters by telephone.
やや陰謀論的に"The Secret Factor"と語られていたものだった。この件については、セプテンバーイレブンの愉快な陰謀論のように解決しているのだろうか。
そうフカシとも思えないのは最近こういう話も見かけた。”Chernobyl: a warning to the world”(
参照)より。
Engineers believe that an earthquake registering six or more on the Richter scale could cause the stone coffin to collapse. If this were to happen, large clouds of radioactive dust would again be released. The Chernobyl region has been hit by an earthquake of such magnitude once every century on average.
案外あそこは地震地域なのではないか。そうではないならそうではないという話も読んでみたい。
いずれにせよ、偶発性や未知の要素がまだありそうなのだが、それはそれとして、毎日新聞社説のような剛速球が飛ぶのはなぜなんだろうかという違和感はある。