米国財政赤字の実体は知的投資か
ラジオ深夜便二月二十八日零時台、国際金融アナリスト大井幸子による「ニューヨーク・マーケットリポート」が奇妙に心に残り、それからときおり考えていた。
最新のリポートとしては住宅市場の軟化ということ、また、アラブ首長国連邦でドバイに本社のあるDP Worldが米国内の六カ所の港湾施設管理を担う是非問題についても触れていた。この話題はこのブログで扱うべきか少しためらったなと思い出す。
![]() 魂の求める 仕事をしよう ニューヨーク発 よいキャリアの築き方 |
ポイントは、米国ではIT革命を経て知識による生産性が高まり、さらなる向上のために、優れた知識産業の人材を得るための教育費・研究費の費用が増えた――二〇〇〇年以来四十二%の伸び――という話は眠気を誘うふーんといったところのなのだが、その先、こうした費用が経費計上になっているが、これを投資として計上すると財政赤字はぐっと減るというのだ。ほんと?
そういう話はネットにあるのかなと思ったら、ほとんど同じ話が彼女の会社のサイトにあった。”アメリカの底力について Knowledge-based economyの意味”(参照)である。
財政赤字について、ビジネスウィーク誌は、これまでの政府予算では研究開発や教育活動を経費として計上しているが、これを国の将来への投資として計上すれば赤字はなくなる。米国では国富を産み出す人材にカネが回る仕組みが行き届いている。この点こそ、米国の経済成長を支える基本的な要因であり、米国の利点、底力といえるだろう。
というわけで、大井自身のオリジナルの話というよりビジネスウィーク誌がネタ元らしい。それは私は読んでない。が、多分本当なのだろう。
戦後日本のように製造業ベースの産業だと設備投資が経済発展の指標になるわけだが、知識が生産性を決定する社会にあっては、研究費や教育費が投資になるのは当然でもあるし、堺屋太一とかも言ってそう。問題は、そういうオヤジ・ビジネス書的な一般論ではなく、米国財政赤字の実体がそうした知的投資だったのかということだ。別の言い方をすれば、赤字に見えるのは経理上の問題ということか。
当然、日本はどうだろと思うのだが、よくわからない。なんとなく思うのは、日本の財政は事実上国家コントロールの利く公益産業への投資ということで地域への富の再配分となっているだけではないのかということだ。日本の研究開発費や教育費が将来の知価を高めるためには機能してない気がする。
話はそれだけで、これを機会にそのあたりちょっと視点を変えて見てみようか、と思った。
| 固定リンク
「経済」カテゴリの記事
- IMF的に見た日本の経済の課題と労働政策提言で思ったこと(2016.01.19)
- 政府から聞こえてくる、10%消費税増税を巡る奇妙な不調和(2013.10.08)
- 悩んだけど、もう少し書いておこう。たぶん、私の発言はそれほど届かないだろうと思うし(2013.10.05)
- 消費税増税。来年の花見は、お通夜状態になるか(2013.10.01)
- 消費税増税と税の楔(tax wedge)について(2013.08.07)
コメント
どうなんでしょうね。高等教育はともかく、初等教育はとりあえず読み書きを教えているので、
教育投資にはなっているとは思うのですが。
投資効率がどうか、という観点で論ずべき問題のような気がします。
投稿: ひろ | 2006.03.06 21:18
教育費はちょっとわかりませんが、研究費なら日本でも額自体はかなり動いていると思います。ただ国立大学での年末の予算消化に協力したことがある(笑)経験からして、効率については疑問ですね。お金を使わなければいけないからとりあえず実験装置を買ったのはいいけれど、置き場所がなくて教授のオフィスに納入されたなどという愉快な話もあったりします。
こういう研究費の分配について、米国だとどうなんでしょうね。あちらでのお金の分け方、使い方についてはほとんど聞いたことがないのですが、日本と差があったりするのでしょうか。
投稿: TY | 2006.03.07 13:10
どうもバブルの時の金勘定を思い出してしまうのですが。公共事業も投資とか。
私は地方というか寒村は放置する訳にもいかんのではないかと思ったりするのであながち耳障りでは無いのですが、それでも変かなと。
投稿: papepo | 2006.03.07 13:52
読んでないで書くのでとんちんかんかもしれませんが。「投資とすれば財政赤字は解消」というのは、投資だったら(全額は)経費控除できないのでその分課税所得が増えて税収が上がり、財政がよくなっていたはずだ、ということではないでしょうか。つまり政府がその分だけ税収をあきらめたことで競争力強化につながったということですね。これは民間企業についての話なので、「政府予算では研究開発や教育活動を経費として計上」というのは意味がよくわかりません。あと、アメリカだけの話をしてますが、外国と比べないとあまり実のある議論にはならないのではないかと。日本でも社員教育は投資ではなく経費ですから。少なくとも、アメリカ政府が戦略的に「企業が教育に『投資』する」ような政策をとったということではないと思います。この話は、全体として「ことばのあや」みたいなものなのではないかと。
投稿: 山口 浩 | 2006.03.08 12:48
>こういう研究費の分配について、米国だとどうなんでしょうね。
日本の大学と米国の大学では資金規模が2~3桁は違っていた記憶が。
米国の有名大学の多くがファンドの運用益などで、数百億~数千億円規模のお金を持っているそうです。
投稿: ほるほる | 2006.03.08 12:58
統計資料が見つからないので参考に。
米国の大学は、エンダウメントと呼ばれる大学基金の増強にしのぎを削っております。すでに2兆円を超える運用資金を有し、高利での運用を続け、昨年も 2500億円と、東京大学の運営費交付金の2倍を越える運用益を挙げたハーバード大学は、さらに基金積み増しをめざしております。スタンフォード、 MIT、UCバークレイといった先進大学も、ハーバードに遅れをとるまいと追随しております。
http://utf.u-tokyo.ac.jp/foundation/greeting.html
投稿: ほるほる | 2006.03.08 13:02