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2006.03.12

英国人デビッド・アービングがオーストリアで逮捕

 旧聞になる。二月二十日、オーストリア、ウィーンの裁判所は、英国の歴史家デビッド・アービングに禁固三年の有罪判決を言い渡した。罪状はナチスによるホロコーストを否定したことだ。オーストリアやドイツではホロコースト否定が法律で禁じられている。なぜ英国人がオーストリアで裁判という疑問もあるだろう。当然ながら、「極東ブログ: エルンスト・ツンデルはカナダからドイツに”送還”」(参照)も連想されるし、同じことはイランのアハマディネジャド大統領に当てはまらないのか、ちとタメっぽいが疑問も浮かぶ。
 今回の逮捕については、共同”ホロコースト否定の英歴史家に禁固刑 オーストリア”(参照)よれば待ちかまえていたかのような印象を受ける。


 同国司法当局は1989年、アービング被告がオーストリア国内での講演などで「アウシュビッツにガス室は存在しなかった」などと述べたとして、逮捕状を出した。アービング被告は昨年11月に講演のため同国を訪れた際に逮捕された。

 十五年以上も前の逮捕状だったわけだが、アービングは忘れていたのだろうか。報道されている逮捕時の彼の言い分は興味深い。ちなみに、一九九二年のドイツで彼は同罪で罰金刑を受けたことがある。

 同被告は法廷で罪状を認め、過去のホロコースト否定は誤りだったとして「後悔している」と表明。判決に対しては「ショックだ」と述べ、控訴する意向を示した。

 共同のお話で読んでいると、捕まっちゃったからごめんね、ボクちんほっぺをペチみたいに見えるが、実際はそうではない。ブログでは「セカンド・カップ」”思考を裁く”(参照)がこの問題の難所をよくとらえていた。

 話を整理すると、アービングという英国人がオーストリアで裁かれているのは、オーストリアにおけるホロコースト否定が問題だったからで、これは過去の一時点でのアービングの見解により、その一時点とは1989年、と。
 で、その後アービングはこれを否定して、俺は間違ってた、いろいろ知ろうとするといろんな文書が出てきて、自分は間違ってたってことはあるわけですよ、と言っている、と。


 間違ってましたと言ったところで、過去の「罪」は消えない、そしてその「罪」とはまったくの言論であり思考だ、という点がさらに強化されたといえるだろうと思う。

 この問題が日本でどう受け止められたかについては、ちょっと書く気力がわかない。ただ、同じく「セカンド・カップ」”余波はきっと続く”(参照)に引用されているGlobe and Mail紙の見解は参考になる。同ブログのパラフレーズを借りる。

「ホロコースト」は近代史の中で最も文書で立証されているケースの一つなんだから、アービングの世界観を覆すのは難しいことではない、獄に繋げるのは間違ってる、と締めている。

 とりあえずはそう言えるはずではある。しかし……と嘆息する部分はある。
 ニューズウィーク日本版3・8「ホロコースト否定を否定する不自由」ではこの問題について、米国エモリー大学デボラ・リップスタット教授が興味深い見解を述べていた。彼は、アービングを「ヒトラーの同志」呼んだことでアービングから名誉棄損で訴えられたことがある。今回の逮捕について彼はこう述べている。

 だが私は、祝杯をあげる気などなれない。言論の自由が狭められてしまうのが嫌なのだ。


 私はアービングに訴えられたとき、憎悪あふれる彼の発言に誠実さで対抗した。彼の言い分がすべてナンセンスであることを法廷で立証した。私の圧倒的な勝訴は、彼のホロコースト否定論者にも壊滅的な打撃を及ぼした。公の場で堂々と、彼らの論理を破綻させたからだ。
 もしイギリスにホロコーストを否定する発言を一刀両断にする法律があったら、否定論者がでたらめであることを暴く機会はなかったかもしれない。

 私もデボラ・リップスタット教授に同意する。と同時に、日本における別の風土を懸念する。同種の問題では、歴史の事実が問われず、イデオロギー的な審級に移行され、そしてイデオロギー対立から、「人間のクズだ」「人としてどうよ」としてそのままバッシングする傾向がある。繰り返す、歴史の事実が問われずにだ。
 この問題にはもう一つの側面がある。レイシズムの問題だ。彼はこうも加える。

 法で規制するより、事実と調査を突きつけて嘘つきや人種差別主義者を追い込むべきだ。

 人種差別主義に基づく主張は、その対象の差異はありつつも、ネットの興隆とともに日本でもよく見かけるようになってきた。

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コメント

前のは引用符がズレてしまうので、削除をお願いします。

>私はアービングに訴えられたとき、憎悪あ
>ふれる彼の発言に誠実さで対抗した。

歴史的修正主義研究会
『ホロコーストの否定(邦訳:ホロコーストの真実)』(リップシュタット)を批判する
http://www002.upp.so-net.ne.jp/revisionist/lipstadt_01.htm

>反修正主義的宣伝は大量に存在するが、
>その中でも、デボラ・リップシュタットの『ホロ
>コーストの否定』[1]ほど貧相下劣なものを
>見つけ出すことは困難であろう。

> 修正主義はナチスに起源を持っていると
>の虚偽が、執拗に繰り返されているだけで
>はなく、そのような中傷が、本書の本質、存
>在理由ともなっているのである。まさに、憤
>怒が武器を提供している。

> 修正主義者はナチス、もしくはネオ・ナチ
>であり、人種差別主義者であり、反ユダヤ
>主義者である。それにゆえに、修正主義者
>は嘘つきである。この基本テーゼが本書全
>体を通じで、あらゆる形式・文体を使いなが
>ら、執拗に繰り返されている。
(後略)

投稿: t_f | 2006.03.12 21:53

「ヘイトスピーチ」と言う言葉を最近になって知りました。ヨーロッパではホロコーストを否定することは、ヘイトスピーチの一種とされるようですね。差別に対する取り組み方に大きな違いがあると感じている今日この頃です。

投稿: 玉里 | 2006.03.13 19:25

ただ事実の真偽を問うてるだけのことが、なぜに「ヘイトスピーチ」呼ばわりされるのか、いまひとつよく分かりません。つまりは、欧州において、「極右」が政治活動を弾圧するためのレッテルであるのと同じように、「ヘイトスピーチ」も言論活動を弾圧するためのレッテルであるのでしょう。それを、さも麗しい政治意識であるかのようにとらえる傾向に寒々しさを感じている今日この頃です。

投稿: t_f | 2006.03.13 21:59

ちょっと単純に言い過ぎかもしれませんけど、検証する機会を奪っては溝が埋まりませんよね。

投稿: kaze | 2006.03.14 00:36

t_fさんへ
私の書き方が悪かったため誤解されたようですね。
> ただ事実の真偽を問うてるだけの
私も知ったとき同じ疑問を感じました。
> さも麗しい政治意識であるかのようにとらえる傾向に
そのように考えてはいません。

投稿: 玉里 | 2006.03.14 21:11

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