問題はメールの真偽ではなく口座の真偽ではないのか
昨日、民主党永田寿康衆院議員の記者会見後、早々にエントリを書いたが、民主党ではその後もその関連のごたごたが続いていた。時刻は七時二〇分だったかと記憶に頼るのだが、前原誠司民主党代表は民主本部で会見し、疑惑メールが「本物ではない」と宣った。
この点はさすがに、逝ってしまったお魚目の前原でもシラは切り通せないだろう。お話はその先だ。送金が指定されたとする口座について、信頼に足りる裏づけができなかったから国政調査権発動も「いったん取り下げる」と平然とぶちかました。うひゃ、なんだ、こいつ。
魚眼前原は先週は「国政調査権を発動して、調査すると確約することが必要だ」と言っていた。そこからどうしてこういう変遷になるのか。
という前にジャーナリズムの問題も関連しているので触れておくが、同種の主張は二月二十三日の日経新聞社説”あいまい決着は許されない”(参照)にもあった。
前原氏は資金振込に関係する口座名や口座番号の情報を得ていると言明した。メールの真贋の決着がつけられないとすれば、この口座を調べない限り事実関係は究明できないだろう。国政調査権の発動を含め、与野党はその手立てを早急に検討する必要がある。国民の関心は高く、あいまいなまま幕を引くことは許されない。
そして、今朝の社説”あまりにもお粗末な永田議員と民主党”はこうだ(参照)。
不正の追及は国会における野党の大事な役割である。そのためには十分な裏付け調査が必要であり、もし、十分な裏付けがとれない場合は質問にも慎重さが必要である。あいまいな情報で大げさな疑惑追及をすれば、国会は不毛なスキャンダル暴露合戦の場になって国民の信頼を失ってしまう。戦前の政党政治がそうしたプロセスを経て崩壊した教訓を与野党とも忘れてはなるまい。
ちょっとこれもないだろ。
市民社会にとって市民の最終の保護者は国家であると同時に、最大の脅威もまた国家である。国家の権利をどのようにコントロールするかが市民社会の最大の課題であり、その最終ツールが憲法でもある。ま、憲法論はどうでもいいが、市民は国家の権力の発現にはいつも注意を払っていなくてはならない。し、ジャーナリズムもそれが基本だ。
この問題に関連してもっとも優れた記事は二月二十一日付け毎日新聞”武部氏二男・金銭授受疑惑:「堀江メール」、国政調査権で攻防 発動でも効力疑問”(参照)だ。
「民主党は何を調査しようとしているのか。過去の例から見てもおかしい」。自民党の細田博之国対委員長は20日の与党国対委員長会談で、国会法104条を根拠とした民主党の国政調査権発動要求を強く批判した。
自民党が「過去の例」を持ち出すのは、同法を適用した事例37件(34件は昭和20年代)のうち、今回のように民間を対象にしたケースは1949年の2件しかないためだ。衆院事務局も「国政調査権は立法府による行政監視の一環と位置づけられ、学説上も民間には抑制的に用いるべきだと解釈されている」と話す。
さらに。
さらに、国会法104条に基づく調査権を発動したとしても、どこまで実効性があるかという問題もある。最近では94年に細川護煕首相(当時)が東京佐川急便から1億円を借り入れた疑惑をめぐり、法務省や国税庁などに資料を要求した例があるが、「国家公務員の守秘義務」などを理由に拒否され、それ以上の追及はできなかった。要求を拒否しても、同法には罰則規定もない。
実態を解明する手段として、議院証言法による証人喚問や資料要求もある。ただし、実現へのハードルは一層高くなり、現段階では現実味がないのが実情だ。
魚眼前原というか現行民主党は調査権の発動について本気だったのか。本気だったとしたら、市民社会原則のセンスが狂ってないか。また、どうせ政府は調査権の発動に応じるわけがないからというメンツの問題だったのか。昨日の魚眼前原の会見だと後者のように思えてならない。
前原会見の前段部分に話を移す。民主党ツンデレってやつか。
オリガミスト永田会見ではメールの真偽は不明だとツンしておきながら、前原会見でデレしたのかその理由はなんだ? 人間型ET鳩山由紀夫幹事長は次の三点を挙げた。
- メーラーのユードラのバージョンが堀江容疑者の使用のそれと違う
- 署名前に不自然な@(アットマーク)が入っている
- 情報仲介者への信頼が喪失した
怒っていいのか笑っていいのかわからないが、それってみんなおまえさんたちの隠蔽工作ではないのか。しかも、国権乱用のための。
ユードラ・バージョンを隠したことの民主党あるいはオリガミスト永田の関与は今ひとつわからないが、@(アットマーク)については明白に民主党の隠ぺい工作である。ひどすぎね。
しかし、そのあたりがごたごたしていたのは民主党だけのことで世間ではすでに済んだ話だ。問題は、三番目、「情報仲介者への信頼が喪失した」ということだ。
問題はそこなのだ。どのようなプロセスで「情報仲介者への信頼が喪失した」かの責任説明が私には十分ではないと思う。
そもそもの問題はメールの真偽ではなく口座の真偽ではないのか。二月十六日の永田議員の会見では、堀江被告が選挙コンサルティングの名目でしたとされる、武部幹事長の二男の銀行口座への振り込みは三回以上、と指摘していた。”資金提供は計3回以上 民主・永田氏が会見 武部氏二男送金問題 ”(2.26時事)より。
民主党の永田寿康衆院議員は16日昼、国会内で記者会見し、 ライブドア前社長の堀江貴文被告から自民党の武部勤幹事長の二男に対し、 昨年8月26日付メールで指示のあった振り込みの前後にも資金提供が あったと述べた。振り込みは計3回以上となる。永田氏はこうした 資金提供について「証言を得ている」と述べる一方、物証の有無については 明言を避けた。
問題の端緒となるファクツの報告は、「三回以上とされる振り込み」であって、疑惑のメールはそのサポート(例証)という位置づけだったはずだ。だからこそ、魚眼前原や民主党も疑惑の口座の解明を、脱線しつつも、狙っていた。
今回の事件は、一例だが、「池田信夫 blog」”偽メールの怪”(参照)のように、ラザー・ゲート事件に模して考える人が多い。だが、それはあくまで従属的なファクツであり、問題の構図は疑惑の口座から発したものであった。
昨日のエントリ(参照)で指摘した送受信者同一疑惑も入手経路疑惑も曖昧のまま終わるのかもしれない。しかし、それはおっちょこちょいってのは仕方ないなぁ永田ぁ(俺もそうだしなぁ)、にクローズする問題だ。
民主党が握っていたとされる口座の情報がガセであれば、この問題は、終わる。そこが曖昧であれば、この問題が終わったとは私には到底思えない。
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コメント
たとえその口座が本物だとしても、ライブドアから直接振り込むなんて、アホな事はしないと思います。
素人の私でも①架空取引を装う②第三者を経由する、①と②を複雑に混ぜるなんて事は考え付きますから、当事者はもっと複雑な取引をしていると思います。
入金情報一件毎に、送金者と取引内容を精査して、遡って調べられれば別ですが、そんな事が出来るのは、警察と国政調査権ぐらい。しかし、与党は、間違っても国勢調査権の発動をさせる事は無いと思います。
結局、真意をはっきりさせる手段が無い限り、でっち上げと罵られても仕方ないと思います。
投稿: hiro | 2006.03.01 09:59
いくらでも作れてしまうガセメールで調査権が発動されたらそれこそ切りが無いからでは。
投稿: cyberbob:-) | 2006.03.01 10:24
前原さんや永田さんはまだ次がある年齢だからいいとしても、民主党の偉い方たちは気が気じゃないでしょうね。
ところで
>最大の驚異もまた国家である
は、脅威のミスタイプではないでしょうか。
このコメントはごらん頂いたあとに削除していただけると幸いです〆
投稿: バカヤマびと | 2006.03.01 10:48
バカヤマびとさん、こんにちは。
誤字、ご指摘ありがとうございます。
コメントをもって履歴に代える=恥を残しておく、としたいので、このままでということで。
投稿: finalvent | 2006.03.01 11:26
>送受信者同一疑惑
今朝のテロ朝スパモニに電話出演した河村たかしが、以下のようなことを言ってましたよ。
「パソコンのモニタ画面で黒塗りが一切無いメールを見た」
「永田が提示したメールとは違う」
「違う箇所は、大至急の文言が無い点、本文の行頭がヘッダと揃っている点」
「どこのパソコンで誰からどうやって見せられたかは言えせんがね」
河村が一番信用できませんねw
投稿: pこ | 2006.03.01 12:10
駆け引きよりも面子にこだわる気質の人は、突撃するときは強くてもいなされると途端にボロが出る。正直、今の民主党が政権握ったら今以上に面子重視の現実無視路線がはびこるでしょうな。そこが怖い。
庶民というか一般人は、基本的に面子よりも実利を優先する。多少の無理や無茶があっても、利益になるならそれでいい、というスタンス。面子や理想を優先するのは、その時点である程度恵まれた人なんでしょうな。極論ですが。
そういう庶民心理から尤も乖離してるという時点で、この問題はおしまい。
庶民のための政党を謳いながら庶民感情から尤も離れていて、何ができるのかと。
やるからにはトコトンやる、血を見ても構わない、という気概を見せないと。搦め手(メール)攻勢が潰されたくらいであっさり白旗って、どういうことですかと言いたい。
投稿: 私 | 2006.03.01 12:12
日経もそうですけど、テレビのコメンテータも酷いですよね。
一昨日まで「国政調査権使え」みたいな事を言ってた人が今日になって一転して永田叩きに変わってたり。
そういや、日テレのバンキシャに出てる河上さんという人もやたらと民主党寄りなコメントしたり、国勢調査権使ったら、と煽ってました。
wikipediaで経歴見ると何か凄い人で、なんだこりゃって感じです。
投稿: kaze | 2006.03.01 20:18
まあ、良くも悪くも風見鶏ってことなんでしょ。
投稿: 私 | 2006.03.01 21:54
そもそも電子メールなんて盗聴されてるかもしれない電話みたいなもの。
故意であれ事故であれ、盗み見られたり、転送されたりする可能性は常にある。
堀江ほどの男が、犯罪性が認識できていて、
電子メールでやばい内容をやり取りするとは思えない。
少なくとも僕なら絶対電子メールは使わない。
さらに言えば検察が押さえたメールサーバから、決定的なやばいメールが出てくるとは思えない。
投稿: かわらけ | 2006.03.01 22:36
わーーい、「私」さんだぁ。
あの口座は、占いによると、
ホリエモンの口座だね。
選挙運動するために、
交通費などの実費を処理するためにつくった口座で、
自分の給料をそこへ振り込んで欲しいというところかも。
そういった事実を、
ゆがめて解釈したのかも。
投稿: 野猫 | 2006.03.01 22:55
港区某事件で手に入れた誰もが自殺でもしたくなるネタで
法案廃止にできると確信したものの、慢心に足下を掬われた方が
怨恨一擲、あれもこれも仕掛けたのでは。
いつの間にか復党などされれば収束するのかも。
投稿: | 2006.03.02 07:11
民主党が立証困難なメールに最後まで執着したのは、
他に情報を持ってなかったからでは?
と、つい疑ってしまいます。
投稿: 寅 | 2006.03.03 00:14
↑そんなところでしょ。他に言い掛かりの手口があるなら今からでも言ってるし、メールを出したときに一緒に他の証拠も出す。個々の証拠が弱くても複数並列で出して状況証拠を作って包囲するだろうに。
メールのみ一点突破されてあっさり崩壊するなんて、一般常識から言っても考えられない大醜態。
2ちゃんでネタにマジレスしてるアホと同レベルですよ。
投稿: 私 | 2006.03.03 00:41
今回の事件で何が一番キツいかって、疑惑があった→証拠出す→追及する…といった、今まで民主党が一番得意にしていた戦術のキモの部分が、あっさり崩壊したこと。
コレ、戦国時代の合戦戦術で言うところの「中入れ」なんよね。織田信長が今川義元を屠ったときと同じ。
前線が伸びきり後詰めが揃わない…で中核軍が孤立してる状況を、一斉攻撃で叩き潰したという。
戦国時代ならここで「今川義元・首チョンパ」まで逝ったのに、今回前原たんが生かされた理由は…ぶっちゃけ、無能だからですよ。頃す価値が無い。
そこまで見くびられたってことですな。
情けないですねえ。
投稿: 私 | 2006.03.03 00:49
小泉たん、折角常日頃から「織田信長大好き」とか言ってらっしゃるんですから、せめて信長流「戦術」くらい研究しとけっての。
孫子曰く「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だろうに。敵を知らず己を知らない(身の程弁えない)状況でやり込めようなんて発想が、そもそも図々しい。
投稿: 私 | 2006.03.03 00:52