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2006.02.03

骨付き牛肉のこと

 誤解されるかもしれないけど、これは黙っているのもなんだし、簡単にだけ書いておこう。れいの骨付き牛肉のこと。
 まず、米国産牛肉の輸入再開前に米国の食肉処理施設へ農水・厚労両省係官を派遣して査察を行う方針を決めていた件についてだが、私はこれは変な話だなと思った。
 いくつか含みがあるのだが、一つは「さるさる日記 - 泥酔論説委員の日経の読み方 2006/01/31 (火) 08:13:32 BSE、農相の説明責任は重い 2」(参照)の指摘に共感した点だ。


 よく考えてみれば分かることですが、解禁前に対日輸出の処理ラインをいくら調査しようが、対象となる日本向けの食肉がまだラインに乗ってないのですから、「一体、何を調べるの?」という全く無意味な出張になるわけです。
 川内議員の「誘導質問」に気がつかず、うっかり「輸入再開以前に」と回答してしまった農水省は、後で辻褄を合わせるため実質上の輸入直前に担当官を現地入りさせたのではないでしょうか。
 こう言った事情が予め判明していたならば、手順を経て答弁の修正を川内氏に告げるのが筋だったわけで、これが農水省のポカであり、これらの経緯を説明せずいきなり自らの責任云々と言い出した農水相の粗雑な答弁もポカであると言わざるを得ません。

 厳密に言うと調査できる点はいくつかあった。この点は後で触れる。問題なのは、むしろ次の点。

 しかも、この「調査」なるものがどのような権限に基づき、どのような法的責任があるものか根拠もよく分からない代物なんですね。
 そもそも、輸出品を監督・管理するのは米側であって、もしそれに瑕疵があればその責任はアメリカにあります。
 日本には輸入品を検査する権限はありますが、相手国まで行って輸出のお手伝いをする必要は全くありません。
 「調査」したにも関わらずそれに瑕疵があった場合、日本も責任の一端を担わなければならず、これは貿易の原則として如何なものかと思います。

 このあたり農水・厚労省はどうするつもりだったのかよくわからない。
 わからないことはまだあるので話をサクっと進める。
 今回の査察ではどうも奇妙な感じがつきまとう。一月三十一日日経社説”BSE、農相の説明責任は重い”(参照)にこうあるのだが。

 ところが、実際に係官が米国へ出向いたのは、輸入再開を決めた昨年12月12日の翌日、13日であった。後に特定危険部位の背骨をつけたまま日本に牛肉を出荷した施設は査察の対象外だった。

 この施設について日本のメディアはあまり報道しない印象を受けるが、Atlantic Veal & Lamb, incである。ここは厚労省がマークしていたはずなのだ。平成十六年六月四日”国内に流通する米国産牛肉等に係る調査結果について(最終報告)”(参照)より。

 検疫所及び都道府県等を通じて米国から既に輸入された牛肉及び牛由来原材料を用いた加工品について個別に調査を行った結果、特定部位である子牛の脳約40キログラムのほか、せき柱の混入又はそのおそれのあるTボーンステーキ、一次加工品のスープ原料、牛脂及び牛骨粉、二次加工品のカプセルに入れられた食品等が確認され、回収又は販売自粛を指導した。

 この「2 Tボーンステーキ」の特定部位混入有りでトップ・トレーディング(株)輸入、ATLANTIC VEAL & LAMB INC. CATELLI BROTHERS, INC. MARCHO FARMS INC. で三四一キログラムとある。
 そうでなくても、同社は米国大手のヴィール加工メーカーでもあり、ヴィール加工には骨が入ることを農水・厚労両省は知っていたはずだ。
 別に陰謀論でなくても、なんでAtlantic Veal & Lamb, incを査察対象から外していたのか疑問に思うのが当然だろう。
 で、外した理由は両省から明示されていないが、恐らくヴィール(Veal)だからでしょということではないか。
 このあたり日本の報道に疑問を持つのだが、Vealについての解説がなされていないように思われる。
 Vealは子牛の肉であり、米国では月齢三十か月未満の子牛の肉では脊柱除去処理をしない。だから米国はいかんと思い込む日本人は多いのではないかと思うが、この対処はグローバル・スタンダードであり、日本ルールは過剰な検疫などで輸入を妨げる世界貿易機関(WTO)のルール違反とされてもしかたがない。
 もちろん、日本側では月齢二十か月でBSEが検出されているとし、私の判断でもそれは認めるべきだとは思うが、これも国際的にはこの検査は標準とされていない。であれば、日本は貿易で独自ルールを主張するのではなくそれがグローバルのルールなのだと主張していかなくてはならないはずなのだが、その気配はまるでない。
 今回違反とされたヴィールだが、月齢四ヵ月半であり、現状の国際的な食肉処理から見てBSEの疑惑はありえない。安全性という点では問題にしようもないのだが、話はもちろんそういうことではなく、ルール違反だということだ。米国および欧米は社会契約が重視されるのでルール(契約)違反とされれば反論はできなくなる。ちょっと陰謀論的に言えば、日本もうまく立ち回ったなということであり、実際のところ米国は内心はそう見ていることを日本も心得ておいたほうがいい。
 問題はまだある。
 以上の話からも理解されると思うが、対日という枠組みでは食肉処理という点では問題ではあるのだが、食肉加工の点では別になる。そのあたりが日本の報道は故意に混同させているのだろうかという印象を持つ。例えば、一月二十二日毎日新聞社説”米国産牛肉 日本の消費者が見放すぞ”(参照)より。

 そして今回、リスク管理の段階で、特定危険部位が混入した米国産牛肉が確認された。つまり、食品安全委員会によるリスク評価の問題ではなく、米国と日本で適正なリスク管理が行われているか否かが問われている。

 こうした記述を読むと、米国では食肉処理がまずいがゆえに特定危険部位が混入したといった印象を受ける。だが、今回写真などで見るブツは、混入というより誰が見てもあまりのあっけらかんとした背骨がどーんと入っているというもので、およそ処理ミスというにはありえないジョークのレベルに近い。
 米国報道を見るとそういう文脈ではなく、Veal hotel rackの配送ミスとして受け止められている(参照)。

Japan suspended imports of U.S. beef Jan. 20 after finding a veal shipment containing backbone, which Asian countries consider at risk for mad cow disease.

The cut, veal hotel rack, is consumed in the U.S. but not allowed in Japan.

The mistake has endangered millions of dollars in potential sales to Japan, which reopened its market to U.S. beef only weeks ago


 こうした言い分をそのまま是とするわけではないが、問題は骨付きは当然のヴィールなんだから配送ミスでしょと考えるのが食肉に慣れた米国人の受け止め方だろう。
 私もこれは配送ミスではないかと思う。もちろん、そうした配送ミスが許されるものではない。
 話を進める。これが配送ミスかどうかという点について多少判断を保留したとして、最後に残る疑問はいったいこれはどういうカット肉として送られたのか?
 そう思うのも、私はオーストラリア・ワインが好きで以前ケースで輸入していたのだが、ケースともなると個人輸入とはいえちょっとした輸入業者みたいな手続きをする。で、こうした貿易には税の問題とそれ以前に何を送ったかを示すためにinvoiceが必ず付く。それを見ると何が送付されているかがわかる。余談だがオーストラリアでは当時ワインの輸出促進をしているので関税の払い戻し分があった。
 今回問題のヴィールがVeal hotel rackなのかそれ以外なのか、いずれにせよ、invoiceになんと記されていたのか。この話の関連は某サイトに不確か情報があるのだが不確かなのでリンクしない。
 また、それ以前に、日本側としては月齢四歳半のヴィールのカットに際して脊柱除去処理を義務づけていたのだろうか。
 別の言い方をしよう、脊柱除去処理をしたVeal hotel rackなんてありえたのか?
 骨を除去したTボーンとか想定できますか?

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コメント

政治レベルの問題で民間人にはほとんど関係ないことですから箱詰めしたアメリカ人には「わからない」んですよ。それがなぜ輸出したらいけないものなのかってことが。もちろん故意にそのようなことをやる人もいるかもしれません。健康過激派とか。
なのでまた何度でもこのような事例はでてくるでしょうな。
農水省はこういう事例の対処法を蓄積してると思いますよ。

投稿: cyberbob:-) | 2006.02.03 13:30

invice、invoce...invoiceですよね? 揚げ足とりのようで恐縮ですが。

投稿: | 2006.02.03 14:34

スペルミス、ご指摘ありがとうございました。修正しました。

投稿: finalvent | 2006.02.03 14:48

メーカー勤めから言わせていただくと、取引企業に出荷する前に通常プロトタイプやテスト品を作って、取引企業にそれが希望のものと適合するか確認します。当然安全性についても、プロトタイプやテスト品で確認することになります。それを怠ってエンドユーザーに流すのは取引企業の看板がつぶれますので、民間では通常はそういったことは行われません。

エンドユーザーに出荷する前にプログラムが遵守できているかを、メーカーのテスト品などの在庫で確認するのは民間企業にとっては当然のことです。泥酔の方は泥酔された発想、指摘をなさっているのではないかと存じあげます。

投稿: メーカー勤め | 2006.02.03 16:37

世界貿易機関(WTO)の牛肉貿易のルールであるOIE規約では輸出国のBSE発生状況や飼料規制などと無関係に貿易できる品目の骨なし肉は、脱骨・除骨され①30ヶ月齢以下②と畜前と後に検分を受けている③定められたと殺方法で④特定危険部位(SRM)を汚染を起こさない方法で除去されている牛肉です。
月齢三十か月未満の子牛でも、特定危険部位(SRM)を汚染を起こさない方法で除去は、牛肉貿易のグローバル・スタンダードです。

投稿: 虹屋 | 2006.02.03 17:03

なお、12月に輸入されたうちのいくつかは決定前に日本向けラインで処理された在庫分でないと時間が合わないと思われますから、日本向けラインは当然出来ていたということになります。国の言い訳は常軌を逸した詭弁としか思えません。

検品など、輸入以前に、「日本向け製品」のラインを導入し、その製品を作らせれば、それでいくらでも確認できます。

投稿: メーカー勤め(元) | 2006.02.03 17:23

ちなみに、エンドユーザーへの「責任」ですが、基本的には製造物に記載されているメーカー名や販売者名がエンドユーザーへの責任を持たねばならないところではないでしょうか。ちょっと法的なことまで調べてないので、申し訳ないですが。

松下が危ないストーブを販売していたとして、顧客がクレームを出したときに、松下が、それを作っていたOEMの企業の責任だ、と責任逃れをしたらどうなるでしょう。

肉の場合、例えばタイソンならタイソンの連絡先が書いてあればそこが責任があるといえるかもしれませんが。

食安委にSRM除去はリスク管理側(農水・厚労)が責任を持つ、ということを言って評価させているわけですから、日本政府の国民に対する責任は当然あるかと。もちろん米国にも責任はありますが。

投稿: メーカー勤め(元) | 2006.02.03 17:28

新聞記事で読みましたが(どこのだか忘れたので、ソースは示せませんが)、注文自体が誤解を招くものだったようですね。部位の用語の解釈の問題です。その部位名が、アメリカだと、まさに輸入されたものに相当するものだったと。日本側(発注者)がその用語を用いたのは、意図的ではなかったんでしょうけど。

投稿: worldnote | 2006.02.03 19:51

>>メーカー勤め
「責任を持って」空港で止めたわけだが何か問題でも?

自分で気付いているのかいないのか知らないけれど「責任」が2重の意味に使われててわかりづらい。検査義務なのか罰なのかはっきりしてくれ。
「罰」だったとして一体何に対して罰をうけるのか?

投稿: サルガッソー | 2006.02.04 02:00

ATLANTIC VEAL & LAMB INCを視察しなかった件ですけど、この会社確か今年に入ってから輸出業者として認定されてませんでした?

単にリストになかったから視察しなかったってこともあるんじゃないですかね。

投稿: Z | 2006.02.04 07:40

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