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2006.02.17

植物繊維からエタノール

 米国時間の先月三十一日だがブッシュ大統領は一般教書演説で、脱石油かつ環境問題ということだったか、エタノールに言及していた。石油王国のブッシュ様が? ということもだがさらにその製造は植物繊維によるというのだ。ふーんとリアクションすべきなのか、さすがアメリカン・ドリームの国だと感嘆すべきなのか。ざっくりネットを見ると読売新聞”エタノール普及 官民協力の米国”(参照)に関連記事があった。


 政府もエタノールの利用促進に力を入れる。精製会社に、エタノール1ガロン(約3・8リットル)あたり51セントの税額控除を与え、ガソリンとの混合を後押しする。昨夏成立した「総合エネルギー法」もエタノールの利用促進を掲げている。
 ブッシュ大統領は1月31日の一般教書演説で、無尽蔵といえる木や草などの植物繊維を原料にエタノールを製造する技術開発の重要性を強調、6年以内に新技術を実用化する目標を掲げた。

 植物繊維からエタノールというとかすかに記憶がある。調べ直すと、昨年六月のワイアード日本版の記事”米政府のエタノール政策をめぐる議論”(参照)だ。

 グロシェン氏によると、バイオマスからエタノールを製造する技術の開発に、民間企業は慎重になっているという。「誰もが、どこかが先にセルロース処理工場を建設するのを待っている」
 ただし植物のセルロースからエタノールを製造するほうがトウモロコシを使うよりも安上がりだとORNLのグラハム氏が指摘するとおり、近い将来、エタノールの経済性は変わる可能性がある。グラハム氏によると、草木の伐採で出た廃棄物は無料で入手でき、スイッチグラス(ロッキー山脈東部の至るところに生えている多年生植物)やトウモロコシの実を取ったあとの乾燥した茎や葉も安く手に入るため、バイオマスを使ったエタノール製造の原料費はかなり安くつく可能性があるという。

 このあたりの事情は経済的には油田開発と多少似ている。植物繊維からエタノールができるなら現状のようにトウモロコシから作るエタノールよりコストが下がる。ブラジルなどで実施されているサトウキビ由来よりも下がるのではないか。しかも、耕作面積に対する二酸化炭素排出抑制効果なども植物繊維のほうがよいようだ……とは言ったものの、そんな技術は可能なのか。
 ブッシュ・ブレーンとしてはいわばチキンゲーム状態になっているこの分野の開発を連邦政府としてぐっと押してみたということなのだろう。そのあたりの話もこの記事では触れている。
 それにしても六年以内に実用化とはすごいな。それが可能なら京都議定書とかそのポストとかの議論が吹っ飛ぶかも……。
 で、その見込みだが。

 アイオジェン社(本社:カナダ、オタワ)とデンマークのノボザイムズ社は、あともう少しでバイオマス技術を商業化できるところまできている。
 この2社は、酵素を使って植物の茎や葉に含まれるセルロースを単糖に分解し、これをエタノールに加工している。アイオジェン社広報担当のタニア・グリチェロ氏によると、同社は年内にも、小麦のわらとスイッチグラスからエタノールを製造するためのデモンストレーション用の発電施設の建設に着手する予定だという。

 この分野の科学に疎いので私にはこの情報をどう評価していいのかわからない。
 日本でも同種の技術は開発が進められていて、簗瀬英司鳥取大学教授が長年取り組んでいる。ネットにはソースが消えているが、山陰中央新報”木質バイオマスでエタノール生産へ”(2004.1.1)ではこう。

 簗瀬教授はテキーラの醸造に使われるザイモモナス菌が効率的にブドウ糖からエタノールを作り出すことに着目。世界に先駆けセルロースを分解する微生物から酵素を取り出し、遺伝子組み換えでザイモモナス菌に入れる技術に取り組み、これまでにセルロース分解に必要な三つの酵素のうち、二つを入れることに成功した。

 この手の遺伝子組み換えの技術は私の理解では日本は先端にあるので、案外日本のほうがこの技術を確立する可能性もあるのかもしれないが、が、というのは日本政府の肩入れはどんな具合だろうか。
 話が散漫になるが、植物繊維からエタノールという夢のような話で思うのは、デンプンから異性化糖の製造だ。この技術のおかげでサトウキビ産業というのものが壊滅したと私は理解している(違うかもしれないが)。
 沖縄でサトウキビ(ウージ)畑の近くで暮らしてきたので思い出深いのだが、そうでなくても砂糖の輸入によって沖縄のサトウキビ産業は事実上壊滅している。
 そういえば、この話は沖縄にいたころからも聞いていたのだが、環境庁はサトウキビからエタノールを作ることも検討しているようだ。例えば、”沖縄県宮古島におけるバイオエタノール混合ガソリン(E3)実車走行試験の開始及びサトウキビ由来バイオエタノール生産設備の起工について”(参照)。
 なんとなくサトウキビ産業の別の形の保護のようにも思えるが、採算性はどうなのだろうか。

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コメント

ガソリンに成り代わるとか、補填するとかいう分量を確保するには、どれぐらいの植物繊維が必要なのだろう?
材料集配で挫折しないだろうか?
それとも現地でゴミ掃除しながらケツからエタノール吐き出すとか?

投稿: トリル | 2006.02.17 23:24

そういえば2015年のデロリアンはバナナの皮で
動いてましたね。

投稿: papepo | 2006.02.18 00:48

先日の『ガイアの夜明け』でアサヒビールのバイオエタノール事業が紹介されてましたよ。
製造コストの目標がリッターあたり30円で、エタノール単独ではムリで砂糖の生産と併用してその価格を目指すらしい。
面白いのは、生産性向上の方法論として最初にサトウキビの品種改良を行っていたこと。サトウキビから得られるエタノールには限界があって、製造コストを下げるには大量にサトウキビを作るしかないのではと思っていたが、品種改良を行うことは考えつかなかった。よく考えれば品種改良は日本の得意分野ですね。

投稿: Ttsu Yasir | 2006.02.18 00:54

トンデモ学説の石油起源無機説が
最近またはやり出してることと関係が
あるんでしょうか…?
無機説の政治的効果がいまいち掴めない
ところがあるのでなんとも云えないのですが…
学問的には有機で決定しているのに無機を
流行らせている人たちがいるということは、
そこになんらかの意味はあるんでしょうけど、
石油関係の言説効果は難しくてよく分かりません…
有機でも別に人類が石油がなくなって困る
なんてことは全然ないですし…。
どんなに悲観的に見積もっても数百年は
たっぷり持つでしょうし、数百年後も
石油を使ってるとは思えませんし。

投稿: kagami | 2006.02.18 03:04

石油無くなると困りますがな。
薬品・素材・化繊・etc

投稿: kawa | 2006.02.18 03:16

エタノールの製造工程でエネルギーがたくさん必要。
バイオマスからエタノールを作る機械を見たら驚くかも。
あと、ナノテクノロジーとか関係あるんじゃないかったか。

投稿: cyberbob:-) | 2006.02.18 07:19

星新一が星製薬の社長になる前、東大でやってたのは、セルロースを糖に分解するプロセスの研究だったような。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2006.02.18 20:57

>kawa氏

石油がなくなっても困らないと言っているのではなく、石油がなくなる心配はないということでしょ。

投稿: tiha | 2006.02.20 13:42

あまりに短絡な話かもしれませんが、日本製ハイブリッドVS欧州製新世代ディーゼルVSアメリカン・エタノールユニットという図式に応じた力の入れ具合なのかなと思ったりします。

投稿: ケイ | 2006.02.20 22:12

そういえば,「ガイアックス」ってどうなったのでしょう?

投稿: hdk | 2006.02.21 15:26

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受信: 2006.03.07 01:27

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いよいよ大物投資銀も登場...という感じがします。 WSJ-ゴールドマン、エタノール燃料開発のアイオジェンに出資 (Y!ニュース) ゴールドマンは3000万カナダドル(約2680万米ドル)を投じ、カナダのバイオマス(生物資源)技術開発会社アイオジェン(本社・オタワ)の少数株式を取得する。株式未公開のアイオジェンは、農業廃棄物を原料とするエタノールの生産で最先端の技術を持つ。同社が開発しているのは材木やわらの植物繊維 (セルロース)から取った糖を発酵させて作る燃料用のセルロース・エタノール。 ... [続きを読む]

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