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2006.01.23

日本文化の誤訳のほうがわかりやすいとか

 雑談である。昨年の日本版ニューズウィーク12・14号のカバーは「ニッポンを誤訳するアメリカ」というものだった。話は映画『SAYURI』に寄せて書かれたもので、リードには「芸者を演じるのは中国人女優、せりふは英語。話題作『SAYURI』が映すハリウッドの誤解と偏見の元凶に迫る」とある。記事の英語版はネットに見あたらないようだが、あるだろうか。で、この記事だが、日本通のデーナ・ルイス女史も加わっているせいか、読めたもんにはなっている。もう一つ釣りを引用する。


いよいよ日米で同時公開される映画『SAYURI』が描くのは
中国人女優が英語のせりふで芸者を演じる、ファンタジーとしての日本
文化を「意訳」するハリウッドの手法はステレオタイプを助長し
日本への誤解やアジア文化の混同をさらにアメリカ人の間に広めかねない

 そうはいっても、日本文化を広く米人に理解させようとしても無理は無理。となると逆に、相手の固定観念に乗ったほうが理解が得やすい。ハリウッドらしいじゃないか。
 理解が得られるように書くとか演じるとかいうのは、それがカネを出しての演出となれば、とても重要なことだ。
 よくわかりやすい文章書き方とかのコツとかがブログのネタになることがあるが、わかりやすい文章なんていうのは、読み手の固定観念に沿ったものではなくてはならない。
 コミュニケーション技術といったってそうだ。相手の固定観念を前提にしなければ通じるわけがない。日本人がどんなに米国牛肉に疑問を持っているかなんて米人に通じるわけはないので、米人に通じるような仕掛けが必要になるというものだ。
 もっといえば、異文化間でなにか伝達するなら、その聴衆の固定観念に沿って演じるに限る。たとえば、日本人には不可解なことでも、そうか日本人っていうのはそういうものか、という米人とかの固定観念があるなら、それに乗っ取った演出をすれば、行動やできごとのメッセージは単刀直入にぶすりと伝わるものだ。
 そういうわけで、米人に日本文化を理解させるより、米人とかが日本文化をどう誤解しているかをリストアップしてそのコードを考えていくほうがいいだろう。
 ということで思い出すことがある。私事になるが、昔米人のインテリと一緒の部署で仕事をしていたことがあった。こいつがインテリでなんつうか、とてもポライトなんだが内心日本人を軽蔑とまではいかないにせよ未文明国家の国民と見ているような感じがした。なんだかんだあって、こいつと仕事させるには、私のようなズレた日本人が適任じゃないかと白羽の矢が立ったようだ。
 で、ま、それなりに対応した。双方、気が合う相手ではなかったが、それなりに認め合ったようでもあり、雑談などもしたのだが、そのひとつテーマが日本文化だった。ちょっと辟易とした。
 こやつ、漢字とか勉強している。「ちみもうりょうって漢字で書けますか」とか訊かれたときは、そんなもの書けるわけないだろ、と脊髄反射的に答えるや、こやつ、さらりと、魑魅魍魎とか達筆で書きましたね。「巷間に魑魅魍魎が跋扈する」……そんな日本語使わないって。
 そのうち、こやつ、でっかいウェブスターをあてどなく見ているているので、さては日本語熱も冷めたかと思ったら、そうじゃない。英語になった変な日本語リストを作っているのだ。ヲイ。
 それで知ったのだが、torii(鳥居)とか英語の辞書に載っているのな(参照)。そんな言葉、英語の辞書に掲載する意味があるのかわからないが、後、沖縄で暮らして、Torii Stationというのを知った。
 他に、「つつがむし、知ってますか」とか訊かれた。んなもの名前しか知らないよと答えると、辞書を見せてくれた。あった。ネットのウェブスターを見ると、tsutsugamushi disease(参照)である。なんでそんな言葉が英語になっているかと見ると、なんか歴史がありそうだ。

Etymology: Japanese tsutsugamushi scrub typhus mite, from tsutsuga sickness + mushi insect
: an acute febrile bacterial disease that is caused by a rickettsia (Rickettsia tsutsugamushi) transmitted by mite larvae, resembles louse-borne typhus, and is widespread in the western Pacific area -- called also scrub typhus, tsutsugamushi

 その手の話で、そう驚きもしなかかったの言葉が、hara-kiri(腹切り)である。
 ウェブスターに載っている(参照)。普通、「腹切り」なんて日本人は言わないよ。では、なんというのか? 切腹、seppukuだよ。これですか(参照)。そんな言葉が載っているのか。と見ると、hara-kiriを見よである。

Etymology: Japanese harakiri, from hara belly + kiri cutting
1 : ritual suicide by disembowelment practiced by the Japanese samurai or formerly decreed by a court in lieu of the death penalty
2 : SUICIDE 1b

 まんじりと語義を見ると、え゛っ、hara-kiriってsuicideってか。うーむ。確かに、自決ともいうが、自殺というのは違うような……と思った。
 ま、hara-kiriなんていう英語は普通に英語をしゃべる外人も知らないだろうが、そういう日本文化特有の自殺の方法というのはそれなりに知られているし、日本人が腹を切ったら=自殺、というのは、あまりにもわかりやすいディスプレイ(演出)だよなと思っていたら……先日、二〇日付けでロイターで”Japan suicide latest of many sparked by scandal”(参照)という記事を見つけた。

But the incident surprised few in Japan, where suicide is not prohibited by religious beliefs and death has long been seen as a way to escape failure or protect loved ones from shame.

Indeed, ritual disembowelment, or "harakiri," was an accepted form of punishment for the samurai warrior class for hundreds of years.


 やっぱ外人はそう見るか。そんな記事を書くか。まったく、誤解も甚だしいな……と思うのは日本人だけで、伝達したい相手にわかりやすいって考えると全然違う文脈になるかもしれない。
 誰にとってわかりやすい話だったかといえば、日本人じゃないってことなんだろう。

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コメント

現在本タイトル「GEISHA」で公開中ですよ(日本はいつからか知りませんが)。
主演女優が中国人で、見る気もおきません。

投稿: omake | 2006.01.23 14:04

沖縄でのそれも、犯人がそういうコードの存在だったか、もしくはそういうコードの依頼主に見せたかったということなんでしょうかね。

投稿: Sundaland | 2006.01.23 14:23

ホリエモン。
マネックス。
外人のつながり。
沖縄で切腹自殺(?)。
おいおい狂気のギャグか。

陰謀論上等ですが、ここまでつながると
あの古畑任三郎風の今回の事件解説の
書き込みにほんの少し信憑性を感じるなあ。

溜池通信さんが面白コピペとして日記に
貼ってました。

投稿: | 2006.01.25 12:49

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神の存在証明再考 ○先の神の存在証明は事の単純化が不足  一般法則論としては、神の存在証明を、既に済ませてあります。  しかし、それは、いわゆる悟りの体験をした筆者の知識を十二分に活用したものでは無 かった、と今になって分かりました。  簡単に言えば、一般法則論に相応しい事の単純化が不足していました。  この反省に基づいて、改めて神の存在証明を、ここでします。 ○神の実在を学問的にも公共的にも認知させ... [続きを読む]

受信: 2006.01.24 10:48

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