プロライフ・プロチョイス
日本人には関心ない話題だろうと思うし、関係ない話題とすら言ってもいいのかもしれないが、二十四日米上院司法委員会は、最高裁判事に現サミュエル・アリート連邦高裁判事の就任を承認した。子供ニュース的に言うと米国の司法で一番偉い人が決まったということ。ブログ的に言うと、これまでのオコーナー最高裁判事は中道と見られていたので、やったぜ共和党、司法も保守陣営が取った、ということか。民主党の議員の多くはその承認に反対しているものの、強行に議事進行妨害をする気配もない。より正確に言うと、これで最高裁の構成は、保守四名、リベラル四名、中道一名ということなので、一気に保守化というわけでもないし、アリート連邦高裁判事も極めつけ保守というほどでもない。太平洋の対岸から見ると、そう変わった風景でもないかという印象はある。
具体的にこの保守対リベラルの対立というのはどういうことかというと、一つには死刑制度の問題もあるがわいのわいの騒いでいるのは中絶の是非、というかその法規制をどうすべきかということ。簡単な図柄でいうと、中絶規制が保守でプロライフ(命に賛成)(参照)、中絶規制するながリベラルでプロチョイス(選択権に賛成)(参照)ということ。
普通の英語だと、賛成がproで反対がconなのだが、否定のconは看板には出てこないのが、米国っぽいか。というか、この話題まるごと米国っぽい。米民主党の代理店的水母著作権無視翻訳ブログでもこの話題はほとんど触れてないし……。
この分野の米国での議論は、中絶権利を初めて認めた一九七三年のロー対ウェイド判決が起点になるのだがと日本語版のウィッキ先生を見ると、説明がねーよ。いや全然ないわけでもなく、アメリカ合衆国憲法の項目のおまけみたいにある(参照)。英語のほうは、Roe v. Wade(参照)に当然ある。日本のネット・リソースとしてまとまってないのも不思議な感じがするが、”2002/11/28アメリカ社会概論 7.生命・生殖・性をめぐる論争と政治”(参照)というサイトにこうまとまっている。
1973年 「ロー対ウェイド事件」判決-妊婦の生命を救う場合以外の中絶を禁止したテキサス州法は、修正14条で保護される「プライバシーの権利」の侵害であり、違憲であると判断。より具体的には、各州政府は、①妊娠3ヶ月以内の中絶は「医学的判断に任せねばならない」(事実上の合法化)、②4ヶ月から6ヶ月については、母体の保護を理由に制限できるが、禁止してはならない。③7ヶ月から9ヶ月は、母親の生命維持に必要な場合以外、制限ないし禁止できる、とした(日本の現行の「母体保護法」では、「妊娠の継続が女性の精神的・身体的健康を害する」などの要件がある場合にのみ中絶を認めている(22週まで)-事実上は請求通り認められる、フランスは10-12週なら無条件に認められる)。
この「ロー対ウェイド判決」以後、キリスト教保守派を中心に活発な中絶反対運動を起こし、またレーガン・ブッシュ政権も中絶反対の姿勢をとった→レーガンはロー判決を支持したリベラルな判事のうち3人を保守派に入れ替えた。しかしその後のクリントン民主党政権を経て、現在、首席判事のレーンキストと、スカリア、トーマスがプロライフ派、ブライアー、ギンズバーグ、オコーナー、スーター、ケネディ、スティーブンズの6判事がプロチョイス派→2004年の大統領選挙でブッシュが再選されると、プロライフ派の判事が任命され、「ロー判決」が覆される可能性もある。
プロチョイス的な視点で書かれている印象を受けるが大筋では、最高裁判事の問題というのは、こういう構図の問題でもある。
この先話がやっかいで詳細に議論すべきことも多いのだが、世事として見ていくと、このころの傾向としてはプロライフ派の活動がめざましいと言ってよさそうだ、というのは、州レベルでの規制が増えつつある。
こうした動向がいわゆる保守的な動向とイコールと見られるかについては、簡単には言えない。この問題に大きく関わっているのは、アクティビスト写真を見てもわかるように中産階級の白人女性が多いようだ(参照)。
余談めくが、日本の場合宗教という背景もあるのだろうが、こうした中産階級の女性層では中絶はコントラバーシャルな問題はでなく、代わりにあるかのようないわゆるジェンダーフリー問題も旧来の左翼勢力に収束してしまうように見える。
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コメント
いつも愛読しておりますが、コメントさせてもらうのは始めてです.このブログの魅力的な語り口を、間延びしたコメントで切ることになろうかと控えておりましたが、今回のエントリーにはちょっと一言.
プロライフ・プロチョイスと言っても、綺麗事では済まない側面はある.中絶のかなりの部分(手許にデータが無い故記憶)が黒人男性と結婚、同棲している白人女性によることは周知の事実であり、微妙な問題が影を落としているが、プロチョイス派には触れられたくない話です.逆の意味でプロライフにも実は同様な問題の影響があると言われており(中絶を牽制することで人種間の融合を妨げたい)、ここも生命倫理だけでは済まない側面がある.
ただ私が思うに、これをプロライフ・プロチョイスという権利、法レベルに引き上げて争う(私からみればうんざり)ことがまさにアメリカ的で、他国からみればこれは一種のアメリカン・ヒポクラシーに映るのではないかという感もするし、同時にそのように感ずる他国の深層心理が、鳥インフルエンザならぬ反米アレルギー性症候群の底流かとも思われます.
いずれにしてもこの病気の解毒作用に、当ブログは効果ありと感じつつ拝見しております.一方的コメントで失礼しました.
投稿: M.N.生 | 2006.01.31 13:44
「中絶を牽制することで人種間の融合を妨げたい」そんな事は無い。
「中絶のかなりの部分(手許にデータが無い故記憶)が黒人男性と結婚、同棲している白人女性によることは周知の事実であり」そんな事実は無い。
Googleで、例えば
abortion "interracial couples"
で検索すると、そんな事実も意見も無い事がわかる。
投稿: デマ火消し | 2006.01.31 16:21
10年近く前に保健婦していた友人によれば日本だと10代と40代の中絶率が高いという話。今はもっと自立した選択を皆しているのかな。だといいですね。
投稿: 昭和生まれ | 2006.01.31 22:10