独断的和食の味付けについて
ときたまする料理の話。和食の味付けについて。もちろん、私が適任なわけもないのだが、私とって当たり前のことが世の中あまり当たり前でないことがある。そういう時は…大抵は私が間違い。もちろん、というわけで謙虚に独断である。
割合で覚える和の基本 |
で、ずばり和食の味付けのヒケツは何か? ちょっと搦め手から言うのだが、砂糖と塩を使わないこと。和食の味付けに、砂糖と塩はほとんど不要。砂糖と塩を使うから味がブレるのだと言いたい。
じゃ、どうするのかというと、味醂と醤油を使うのである。
しかも、使い方は非常に簡単。両方を等量合わせて使うだけ。等量合わせるためには計量スプーンが必須。精密に計る必要はないが、大さじで計量したほうがいい。
あとは、味の濃さについて、水量と大さじの関係を人数に合わせて一度決めておく。一度決めておけば、味にブレなど起こりようがない。私はしないけど、味醂と醤油を合わせるのがめんどくさければ、最初から合わせておいてもいいかもしれない。
ここでやっかいなのだが、醤油は、薄口醤油を使うこと。和食の味付けの醤油は薄口醤油が基本。
味醂と醤油が決まれば、あと、これにダシがあれば、和食の味付け終わり。
ダシはうるさいこと言う人がいるけど、粉ダシかパックダシでいい。ダシ取りで料理に時間をかけるのはプロか暇人。
味醂、薄口醤油、粉ダシがあれば、煮物から鍋からうどんまで和食はほぼオールマイティである。これで物を煮るというのが和食なのである。どのくらい煮るかは、煮る物の特徴で決まる。和食というのは、素材の質を覚えれば、レシピ不要。
もうちょっと正確に言うと、肉や魚などたんぱく質の場合は、味醂の部分を味醂と上白糖で半々に分ける。味醂・上白糖・薄口醤油が、0.5:0.5:1、という感じだ。肉じゃがとか、煮魚とかだね。なお、酒についてはあえて触れない(難しくなるから)。
各要素の上質化は、やりたければどうぞ。もちろん、比率をもう少し自分の好みに合わせるというのは当然どうぞ。醤油によって強さも違うだろうし。
醤油は薄口醤油と言ったが、慣れないと薄口醤油の選びは難しいものだ。関東だとあまり選べない。決め手は香りである。が、偉そうな醤油は要らない。適当なところからまとめて通販しておけばいいと思う。迷うなら、私も使っている伊勢醤油本舗を勧めるが、オンラインでは薄口醤油が買いづらい。電話するといい(親切である)。
味醂は、ミリン風とかいう偽物は論外だが、上質なのはきりがない。味に凝るなら年代物を試してもいいけど。っていうか、上質なのは、そのまま飲むと旨い。和風ソーテルヌという感じ(慣れるとちょっとやみつきになる危険性あり)。
ダシも手間があるなら、ちゃんとカツブシを削ると、全然香りが違う(削り機は回転式のがよい)。昆布とかもだね。だが、これもキリがない。冬茹は一日かけて水で戻すこと。
和食っていうけど、そんなんで江戸前というか東京味の料理ができるのか?
できない。あのどす黒くて甘い東京の味は、これではできない。ので、どうするか。ここで、砂糖と濃口醤油が登場する。これも、砂糖と濃口醤油を等量使う。
もともと江戸の食い物は東京(江戸)湾の臭い下魚みたいのを使うので、濃口醤油には臭み抜きが期待されていたのだろう。
砂糖・濃口等量の合わせでいわゆる丼物とかはできる。ただ、卵丼とか親子丼でこれだと醜いので、砂糖と薄口醤油を勧めたい。照り焼きやすき焼き類は、逆に、味醂と濃口醤油、と言いたいのだが、この場合は、味醂と上白糖半々に濃口醤油を合わせる(0.5:0.5:1)。
濃口醤油もいろいろあるが、これはもともと刺身醤油だったもの。醤油の品質はこの刺身醤油の観点からランク付けされているので、一般的な料理にはあまり関係ない。逆にいうと、掛け醤油(濃口)はそこそこに上質なのを少し使うといい。そして保存が大切。密閉して冷蔵庫に入れておく。掛け醤油は使うときだけ小分けにする。
ちょっと余談だが、今でこそ江戸(東京)の料理はどす黒く甘いのだが、江戸時代はあれほど甘かったのだろうか。当時は水飴があっても上白糖はない。はっきりとはわからないのだが、明治時代以降砂糖の普及とともに、佃煮の味が一般化したのではないか。保存性を増すということもあったのだろうが。
で、塩は?
もちろん、塩は料理に使える。菜っ葉など塩をして食うだけでも旨い。海産物もそう。というか、塩はまさに素材に「塩する」ために使う。所謂和食の料理用の調味ではない(沖縄料理は別だけど)。もっとも、先のフォーミュラ(味醂・薄口醤油等量)で塩味が足りないときは、ちょっと加える。というか、そのあたりで好みの味を出す。吸い物は味醂等量だと甘過ぎだとか(吸い物に味醂入れるなとかのご意見もあろうが)。
余計なお世話だが、他人の台所を見ていかんなと思うのは塩と上白糖を同じような容器に入れてあること。間違いの元。しかもこの間違いは破壊的にして不可逆的。容器を徹底的に別物にするか、三温糖など砂糖のように少し色付きを使うといい。いっそ、塩は振り塩だけにしてもいいのだが、昨今はやりの天然塩というのはじっとっとしているので振り塩が難しい。料理は塩振り三年とかいうが、そんなもの、さらっとした細かい岩塩を使えばいいのだ。
というわけで、あの調味料の「さしすせそ」っていうのが、調味の大きな間違い、だと私は思う。さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=醤油、そ=味噌というやつだ。ついでなので、酢だが…というような話はまた。
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コメント
finalventさんの、こういうエントリにいつも感心させられます。
みりんがそんなに大切な調味料だとは知らず、大体は蜂蜜か、最近はメープルシロップを使ってました。
>味醂、薄口醤油、粉ダシ
があれば何でもできるというのは便利ですね。
投稿: jaz | 2006.01.06 10:15
和食で塩を使うときは酢も一緒に使ってるイメージあります
当方、無類の青魚、酢好きなものでして
あと私も基本的に砂糖や濃口醤油はつかわないですが
キンキを煮付けるときだけは砂糖と濃口醤油をたっぷりと効かせないと物足りないですね
投稿: 通りすがり | 2006.01.06 11:18
はじめまして、
関東のづけマグロは何しょうゆを使うんですか?
投稿: anony | 2006.01.06 12:25
世の中
マニュアルとマスコミと口伝の噂が絶対
なんて中年層もいっぱいいますね。
「淡口醤油は使うのが難しい」
(根拠?みんなそう言ってるもの!そもそも根拠って何?)
「同量当たりの塩分含有量は濃口より淡口が多い」
(何ですって!体に悪いわ!)
「ここで醤油は大さじ2杯入れなければならない」
(だって本にそう書いてあるじゃない!)
ところで、うすくちを"淡口"と書くのは、
"ら抜き言葉"への無駄な反抗みたいで
いい加減アレだな…と自分でも思う。
投稿: 無粋な人 | 2006.01.06 12:33
我が家の調味料のめんつゆ以外減らない訳が分かりました。
投稿: papepo | 2006.01.06 12:49
吸い物には白醤油が絶対だろ
投稿: 名古屋ん | 2006.01.06 14:24
finalventさんの手料理を食べるオフをしませんか?
投稿: | 2006.01.06 16:24
>finalventさんの手料理を食べるオフをしませんか?
沖縄料理だったら参加希望だが、和食なら。。。ご遠慮します。
投稿: F.Nakajima | 2006.01.06 17:35
関西人としては、「出汁が8割」と主張したいですね。出汁のうまみをこってりと。で、みりんもうすくち醤油も添えもんです。素材の味を楽しまなあきまへん。ほんまにおいしいだし巻きは、しょうゆもつけんと大根おろしだけでもいけるもんです。
まあ板東の食いもんは何でも塩(醤油)ばっかりで味付けしようとしはるから味がきっついんですな。
たこ焼きとお好み焼きは別でんな。ソース(とマヨネーズ)こてっと塗らんとね。あ、あれは和食とちゃいまっか。
投稿: まつなが | 2006.01.06 22:54
昆布の角切りを作って薄口醤油に浸して置くと便利。酢も昆布の角切りに浸して置く。10cm角です。カップ1杯。酢の浸してる昆布や醤油に浸してる昆布も合わせて、大豆を炊く時に使います。
酢は水で薄めて味醂入れてかけると良い。ただし、キューリなど塩してから、昆布酢で洗てからです。面倒くさく無いですよ。
投稿: ようちゃん | 2006.01.07 02:08
初めまして。初めてコメントします。いつも読ませて頂いております。
>醤油は薄口醤油と言ったが、慣れないと薄口醤油の選びは難しいものだ。関東だとあまり選べない。
というのは本当ですか?これにはかなり驚きました(当方関西在住です)。同じ日本なのにそうなんですね。例えばヒガシマルなんかは置いていないのでしょうか?(上手い不味いではなくポピュラリティーから)。
味醂と薄口醤油が基本とのことですが、薄口を使用するなら尚更出汁に気を遣う必要があると思います。例えば、鰹風味の粉出汁を使うにしても、昆布くらいはちゃんととるとか。
あと味醂は確かに万能のような気がして便利ですが、入れすぎると味にえぐみがでます。ですので僕は味醂の使用には気を遣います。また味醂を入れてから沸騰させると、若干だしの透明感が増して仕上がりが綺麗になるという話しを聞いたこともあります。では失礼します。
投稿: 空腹な人 | 2006.01.07 18:51
ヒガシマルは原則として関西ローカルですよ。ちょっとマニアックな食材店に行けば買えないことはないとは思いますが、スーパーとかには普通置いていません。
投稿: 3pj4 | 2006.01.08 04:59