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2006.01.08

[書評]ジョゼと虎と魚たち(映画版)

 気になっていたまま見過ごしてしまっていた映画「ジョゼと虎と魚たち」(参照)だが、年末だったか年始だったかテレビでやっていたらしく、DVRで見た。

cover
ジョゼと虎と魚たち
(通常版)
 いい映画だった。ピアノの響きも印象的だった。スナップ写真の風景の連続が胸にきゅんと来るものがあった。
 いい映画過ぎて原作の印象がぼやけてしまったので、実家にある田辺聖子の原作(参照)も読み返してみたくなった。
 映画と原作ではジョゼのイメージが私にはけっこう違う。「市松人形」という表現があったが、もっと人形のような感じをもっていた。が、映画のほうのジョゼもそれなりによかった。池脇千鶴もうまく演技していたというか、それなりのジョゼの解釈をもっていたのだろう。
 話は……原作についてのアマゾンの帯みたいのを引用するとこう。

足が悪いジョゼは車椅子がないと動けない。ほとんど外出したことのない、市松人形のようなジョゼと、大学を出たばかりの共棲みの管理人、恒夫。どこかあやうくて、不思議にエロティックな男女の関係を描く表題作「ジョゼと虎と魚たち」。

 映画ではもっと社会の底辺のイメージをきっちり描いていた。あの貧しい生活の感触は私にとっては昭和三〇年代を思い出させるものがあり、奇妙な郷愁のような、いとおしい思いにも駆られる。
 恋の物語ではあるが、身障者であること、社会的弱者であること、そうした同情のようなものが恋愛に変わっていったのではないということが映画ではくっきり描かれていた。おカネがあってもいい暮らしをしていても、どうしても見えない人間の心の引く力のようなものはある。
 もっとはっきり言えるだろう。うまい食い物を作って家の中に待っている女、そして、待ちながら女であるスジのようなものをきちんともっている女……そうした女にたぶん男は落下するように落ちていくのだろうし、その先には当然性的な営みがある。とま、言葉で言うに無粋なものだが。
 映画の中の、ジョゼと暮らす老婆のイメージが喚起するのだろうが、能の井筒、そしてその元になった伊勢物語なども自然に思い出される。日本人の男と女の仲というものはかく千年も変わらないもののようにも思う。

風吹けばおきつ白波たつた山夜半にや君がひとりこゆらん

 そういうふうに想う女のもとに男はまた帰っていくのだろうし、また別れもある。映画のほうの話も最後に別れとしていた。エンディングのシーンがとてもよかった。
 恋愛がどう続き、どう終わるものか。相性というものもあるだろうし、偶然というものもあるのだろう。最初からダメとわかっている関係もそれが終わるまで続けなければならない、ということもあるだろう。
 そうした思いがみな風景のようになって、そして人は老いて取り残されて、そして消える。

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コメント

こんにちわ。いつも拝読しております。
わたしも映画館でやってたときはあまり気が乗らなくてパスしていましたが、気にはなっていた映画だったので、たまたま先日ビデオで見たばかりです。いい映画でした。
あのジョゼが暮らす市営住宅の風景は、ある種の懐かしさと嫌悪が混ぜ合わさったような複雑な記憶を呼び起こしました。
セツルメントをやっていた友人にたのまれて、家庭教師という名目で、夜の商売で子供を家に置いていく家に半年ばかり通ったことがあった。上の男の子が小学4年か5年くらい、妹がまだ1、2年生じゃなかったか。母親のラメのドレスが襖にぶら下がっていて、少年のペットのニワトリが家の中にいるという、まあ、極東さんが書いておられるような、いとおしいような、やりきれないような奇妙な記憶です。小説のような出来事は(幸い?)なくて、そういう母親から「家庭教師代」を月に一回渡されるのがうっとうしくなり逃げ出しましたが、夜中に帰っていくときによく警官に職務質問を受けたなあ。70年代の話ですが、勝手に懐古モードにはいってしまって申し訳ない。(笑)
ラストの雑踏のところで、妻夫木クンが嗚咽するシーン、わたしももらい泣きしてしまったなあ。まあ、逃げる者、残される者、それぞれに痛みをかかえて生きてゆく、ということで。
長々失礼いたしました。御健筆を祈ります。

投稿: かわうそ亭 | 2006.01.09 08:06

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受信: 2006.01.12 02:09

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