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2006.01.12

ホテル・ルワンダをあと三百軒ほど

 昨日たまたま十時のNHKニュースを見たら、映画「ホテル・ルワンダ」(参照)が日本でも上映されるという話をやっていた。そういえば、そういう運動があることは「はてなブックマーク」で見かけたことがあるなと思い出した。私はその上映運動には関心ない。
 そうしたこともあってか、ニュースのなかで上映を呼びかけた若者の話などを聞いてて、千二百人の人の命が救えて、そりゃよかったね、ダルフールにホテル・ルワンダをあと三百軒ほど建ててくれ、とつぶやくくらいだ。こうした虐殺がもう二度と起きないようにというような発言もあったかと思う。こっそり苦笑した。
 二〇〇四年、欧米でルワンダ虐殺十周年のニュースはダルフール虐殺のニュースのただ中で流れた。目前に進む虐殺を止めることはできなかったのだった。虐殺……スーダン政府による民衆の虐殺だ。
 なぜ国際社会が虐殺を止められなかったか。もう端的に言おうと思う。中国が原因である。スーダンに石油利権を持つ中国が常任理事国の地位を悪用し、国際社会がスーダンに圧力を加えることを妨害しつづけた。
 もちろん問題はそんな単純ではない。錯綜している。そしてさらに現在はこじれた状況になりつつある。最初はダルフールの反政府勢力の小さな暴発だった。そしてスーダン政府はジャンジャウィードという民兵を使いダルフールの民衆を虐殺し続けた。ちょうど日本ではイラクに平和をと叫ばれた時期だった。なぜイラクに平和という奴らはダルフールの虐殺を看過するのか。中国のお仲間なのだろうか。
 それでも、一義に攻められるのはスーダン政府であり、そして次には中国だと思う。国際社会として見れば、中国の要因が大きい。
 と、私だけが思うのではないという補強に昨年十二月十七日のロイター”China's interests in Sudan brings diplomatic cover”(参照)を引いておこう。


China's trade and oil interests in Sudan have induced the permanent U.N. Security Council member to provide diplomatic cover for the government accused by many of war crimes against its own people, analysts say.

Sudan has had its back against the wall of the U.N. headquarters in New York during the past 18 months over the conflict in Darfur, where tens of thousands of people have died as a result of violence the United States called genocide.

But the spectre of a Chinese veto has shielded Sudan from possible sanctions over the conflict and in turn protected a growing source of much-needed oil for Beijing.


 中国はスーダンに石油利権のために人道問題の解決の足をひっぱり続けた。
 そして中国はどんどんそのプレザンスを高めていった。

China's heavy but understated presence in Sudan is symbolised by the vast, walled compound housing its embassy on prime real estate in Khartoum. It dominates Sudan's crude oil sector, which produces around 330,000 barrels per day, and is building roads, bridges and dams.

China has become Sudan's biggest foreign investor with $4 billion in projects.


 なんでこんな国に日本は政府開発援助を続けなくてはならないのだろう。
 二度とルワンダの虐殺がおきないようにというまえに、ダルフールの虐殺の実態がなぜ知らされないのか考えてほしい。現在の世界はその虐殺の実態さえ知らされていないのだ。三十万人もが虐殺されていたのかもしれないというのに。
 そういえば、今日付のタイムズ”Insatiable Beijing scours the world for power and profit”(参照)を見たらこうある。

China now obtains about 28 per cent of its oil imports from Africa - mainly Angola, Sudan and Congo. Chinese companies have snapped up offshore blocks in Angola, built pipelines in Sudan and have begun prospecting in Mali, Mauritania, Niger and Chad.

 アンゴラかと思う。昨年の読売新聞”ブレア英首相が提唱のアフリカ支援、実現に不安 貧困解消阻む土壌”(2005.6.24)でギニアに並んでアンゴラにこうふれていた。

●遠い改革
 「民主化」を求めるドナー国の要求も、簡単には受け入れられそうもない。
 ウガンダのムセベニ大統領は5月25日、「(先進国は)国の運営を指図する習慣をやめるべきだ。我々は自ら政策を決定できる。彼らは我々に奴隷になれというのか」と、かみついた。
 今期限りのムセベニ大統領は憲法改正で2006年大統領選への出馬を狙っており、英国は、ウガンダへの政府開発援助(ODA)の一部を保留した。ウガンダの国家予算の約4割は先進国開発援助金だが、ムセベニ大統領は政治改革を求める外部の声を「内政干渉」と、はねつけている。
 南アフリカの研究機関「グローバル・ダイアログ」のクリスティ・ベストヘイゼン研究員は「冷戦時代、先進国はアフリカの独裁者を支援した。今になって欧米流の民主化を求める考え方は、アフリカの指導者には矛盾に映る」と話す。
 赤道ギニアやアンゴラなどの原油産出国に対しては、欧米の民主化圧力はないに等しく、「二重基準」の批判もある。

 かくしてアフリカの産油国へ民主化圧力はむなしい。中国が内政不干渉と称しながらカネと武器を流し込んでいるから、なおさらのこと。

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コメント

私は「ホテル・ルワンダ」について、町山智浩さんのブログで「現実版ドーン・オブ・ザ・デッド」と紹介されているのを読んで、若干不謹慎な形で興味を持った人間です。
ただ、きっかけはどうあれ、目的は「埋もれた名作を観たい!」であって、mixi内のコミュでも左翼的な性格を帯びないよう注意が払われたよう思います。
NHKの番組は観ていないので分かりませんが、上映運動がホワイトバンドやその手の市民運動と同一視されるのはなんか違うなあと感じています。

以前からfinalventさんのダルフール虐殺への取り組みに対しては深く敬服しているだけに、今回の”八つ当たり”と捉えられかねない書き方を少し残念に思います。

投稿: cerberus | 2006.01.13 12:15

言いづらいものがありますけど、「1200人の命が救えて良かった」とか、「こうした(ルワンダ)虐殺が二度と起きないように」とかそういう感想に「全ての人が救われない」理由というか、絶望に近い想いがあったのかなと私は思っています。ルワンダの救われなかった人達に対する無関心、あるいはこうした虐殺が二度と起きないように、という感想が出るほどに知られていない近年のダルフール虐殺。上映運動をしていた人達がどうとかいう話ではなく、繰り返される虐殺を防ぐ手段の欠如、それどころか情報そのものが覆い隠される悪意というか、どちらかというとそういう事が批判の対象ではないでしょうか。長文失礼しました。

投稿: kaze | 2006.01.15 04:39

知らしめることに意味があるという面もある、と思います。
確かに今になって10年前の虐殺を採り上げることは無意味かも知れません。
が、ダルフールの件について中国などを批判することも、過ぎたこととしては同じです。
ダルフールの件に関しては、主人公のモデルとなったルセサバギナ氏自身が講演で諸外国の姿勢を批判しています。
また、表現方法が映画である以上、受け手の感想は情緒的な方向に流れがちではありますが、
実際に虐殺の手を下すのは中国でも支配者でもなく、憎しみに駆られた個々人なわけですから、
情緒的なアプローチが実効性がないとは一概に言えないのではないでしょうか。

投稿: (・(ェ)・) | 2006.01.23 11:49

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