シリウスとシリウス暦のこと
正月でブログなんぞ覗く人は少ないだろう、とはいえ、あまり退屈なエントリを並べるのもなんだし、かといって、「鬼門は丑寅」とあるように、鬼は丑寅、つまり、牛と虎のアマルガム、なので、頭に角を生やし腰に虎のパンツを履いているだっちゃみたいなトリビアを書いてもさしてウケないであろう、とかつらつら思いつつ、とりあえず昨日のエントリ「極東ブログ: [書評]シリウスの都 飛鳥 日本古代王権の経済人類学的研究(栗本慎一郎)」(参照)を書いてアップロードしたものの、間を置かず、あ、そうかと思った。なーんだという感じである。とはいえ、昨日のエントリはとりあえずそのままにしておこう。
あ、そうかと思ったのは、シリウスである。なんでシリウスかというのを前のエントリではとりあえず放置しといたが、なんのことはない。引用した部分で栗本先生がちゃんと指摘しているように、ペルセポリス全盛の時代はシリウス暦だったからだ。シリウスを計測して暦としていた。つまり、宇宙の時間を計測するのはシリウスが原点だった。だったら、シリウスが一番重要に決まってるじゃん。あったりまえ。しまったな、自分で言っておきながら、つい中華的コスモロジーに引っ張られたなというわけだ。
太陽暦を使い、しかもシリウスで暦を計測するなら、神殿の役割はまさにシリウスを観測のために存在する以外ありえない、なんて誰でもわかりそうな話ではないか。ただ、その延長にある陰謀論じゃない日本古代史の議論は多少奇怪なものになるのだろう。つまり、応仁天皇陵もペルセポリスのゾロアスター(ミトラ)教の神殿と同じく、シリウス観測の神殿的な役割を持っていた、と。
そう書くだけで、すでにトンデモ的世界に足を突っ込んでるじゃんとか言われそうだが、言うまでもなくと言いたいのだが、前方後円墳というのは「墳」が付くように墳墓ということで確かに埋葬者もいるのだが、あの建造物はでっかいお墓でしょで終わり、というのは近代の発想に過ぎず、実際は、あれは、なんだかよくわからない何かなのだ。というかあれだけでかければなんらかの神事の場でもあったには違いないだろう。たしかできた当時は白石で覆われていて湾港からもワクテカに見えたことだろう。
応仁天皇陵がシリウス観測遺跡というなら、シリウス暦をその時代の日本人が知っていたか?そのあたりとなると実証的なサポートは不能であり、穏当なところでは、シリウス暦が日本古代にあったでしょというのはちょっとむりめ。だが、冬至の深夜にあそこでシリウスを仰いだのではないかという感じはする。追記(同日):天体ソフトで冬至深夜表示してみたところ、日本だと当然ながら二〇度の傾きにはならない。なので、厳密な計測遺跡ではないのだろう。
そういえば、最近シリウス暦の話をどっかで読んだっけと思いだし、ああ、うるう秒の関連だ、といきなし、その二語でググったら出てきた。”SEIKO DESIGN YOUR TIME. うるう秒とは”(参照)である。追記(同日):コメントで指摘していただいたが、この記述のシリウス暦の表記はユリウス暦との混同がある。
「うるう年」は現在の暦のクレゴリオ暦(1582年に導入=1年は365.2425日)の元となった先代のシリウス暦(紀元前49年に導入=1年は365.25日)から始まり、すでに十分に定着しているが、「うるう秒」は1972年から始まった新顔だ。
ちなみにシリウス暦の前に古代エジプトで使われていた暦では、1ヵ月を30日としていたため、年末に5日間の調整日を設け「働くのは良くない日」として祭日にしていたという。おおらかで、うらやましい暦だ。
というわけで、いわゆるエジプト暦は我々が現在使っているグレゴリオ暦の原形となった。たしかユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)のエジプト遠征のときローマにもたらされて、まずユリウス暦となったのではなかったか。いずれにせよ、この意味で、我々の現代の宇宙の時間もシリウスに起源を持っていると言えないこともない。
シリウス暦についてウィキ先生をみても事実上情報はなかった。英語の Solar calendar にも情報はなく、ユリウス暦にもさして情報はない。シリウスについても日本語のウィキには情報はないが、英語の Sirius (参照)には多少関連した話がある。
Historically, many cultures have attached special significance to Sirius. Sirius was worshipped as Sothis in the valley of the Nile long before Rome was founded, and many ancient Egyptian temples were oriented so that light from the star could penetrate to their inner altars. The Egyptians based their calendar on the heliacal rising of Sirius, which occurred just before the annual flooding of the Nile and the Summer solstice. In Greek mythology, Orion's dog became Sirius. The Greeks also associated Sirius with the heat of summer: they called it Σεριο Seirios, often translated "the scorcher." This also explains the phrase "dog days of summer".
そういえば、類似の話は「星の古記録(岩波新書)」(参照)にもあった。
赤い犬シリウス 全天でいちばん明るい恒星、冬空にらんらんと青く輝く天狼星、おおいぬ座の主星シリウスは、ギリシャ神話によれば狩人オリオンにつきしたがう二頭の猟犬のなかの一頭である。古代のエジプトでは、夏至のころ日の出前の東天にはじめてこの星が見えた日をその年の初日とした。このとき、太陽は地平線下九度ほどにあった。この日からかぞえてほぼ一定日ののち、ナイルは増水して流域に肥沃な土壌をもたらした。そこではシリウスは「犬」と呼ばれ、シリウスの初見はその増水を知らせる犬の叫びとされた。
エッセイは項目タイトルのように昔のシリウスは赤いという伝承を追ったもので、気になる人は読んでみるといだろう(結論はないが)。
![]() シリウス・ コネクション 人類文明の 隠された起源 |
シリウスについて正月だしマジでトンデモ本を堪能したいという人は、「シリウス・コネクション 人類文明の隠された起源」(参照)を読まれるといいだろう。
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コメント
そのセイコーのサイトの説明は変ですね。
紀元前45年に始まったのはユリウス暦。
シリウスを使うエジプト人の暦は紀元前2400年にはすでに存在していたそうです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Egyptian_calendar
http://en.wikipedia.org/wiki/Julian_calendar
投稿: kmori | 2006.01.03 06:34
kmoriさん、こんにちは。ご指摘ありがとうございました。引用部分ですが、確かに、シリウス暦はユリウス暦の誤記のように思われます。エントリに追記・修正しました。
投稿: finalvent | 2006.01.03 08:42