そういえば世界貿易機関(WTO)があったな
昨年十二月十三日から香港で開催された世界貿易機関(WTO)閣僚会議についてなにもふれてこなかった。特に言及することもないような気がした。国内での報道もあまり見かけなかったように思うがどうだろうか。まして、ブログなどでも話題にはならなかったように思う。
ニュースなどを見るに、韓国人の過激ともいえる反対運動が目についたが途上国の立場との対立といった話も特に聞かなかった。アフリカの貧困国の閣僚は意思表示のために木綿の服を着ていたらしいが、そういう映像は見かけなかった。
WTOは現在一四九か国になるらしい。大き過ぎ多様過ぎて機能しない印象も受ける。今回のテーマは、新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の決着に向けて、貿易自由化の拡大や開発途上国支援などが協議されるということだったが、〇三年閣僚会議のように決裂となるだろうという予測もあった。私もどっちかというとその予想に近かった。
結論はというと、決裂をさけるために先延ばしになった。最終合意期限は今年の年末になるらしいが、達成できるのだろうか。
今回の宣言には、途上国対象に輸出促進の援助や「無税無枠」措置が盛り込まれた。すでに加盟国は一四九か国とはいえ、その五分の四は途上国であり、内実は途上国の不満対処だろう。従来は先進国の利害調整という意味合いが強かったようにも思うが、どのあたりが転換点だっただろうか。
日本については、その思惑でもある「上限関税」が非明記となったものの、そのような状態が続くわけもあるまい。上限関税は実現されるだろう。
いずれにせよ、私などにしてみると、ああこれは貧困問題なのだろうなという印象を持つし、日本のWTOの枠組みもそういうふうになるべきではないかと思う。
と、そんなことを思ったのは、このところ、たまたまコカコーラの不買運動ということを考えていた。コカコーラは販売されている国によっては環境破壊をもたらしているので、それをやめさせるための意思表示に不買運動が有効であるといった議論を見かけた。私にとっては、古い話であり、どうでもいいよ、勝手にしてよ、という類の話題でもあるのだが、そういう思いに至る歴史の感覚がたぶんネットのなかから消えつつあるようにも思えた。
では、どう対話するか? 単純なスキームで言えば、日本のコカコーラは複数のボトラーが販売しているだけで、環境破壊悪の米帝国の手先といったものでもない。本体の米国のコカコーラは原液の卸をしているくらいだ云々。そういう企業の関係で、日本でコカコーラの不買運動して日本のボトラーを困らせ、それによって原液を出している米国の企業経由で米国初の環境運動を他国のボトラーに徹底させよ、というのは、スジが違うようにも思う。一義には、各国で展開しているボトラーの規制だろうし、その国に環境問題があれば、その国への直接な支援が重要になるはずだ。
だが、こうした議論はネットなどでしても通じないというか、ブログに時代になればますますそうなるようだ。かく言う私も、応答しようのない匿名の批判コメントなど基本的にスルーになる。
途上国の人権状況や環境問題の根には貧困問題があり、その根が重要であるように私は思う。そしてその貧困問題の一つの端緒がWTOなどで露出してきている農産物関税の問題だろう。
話が連想ゲームのようになるが、アフリカの貧困といっても、実際にはアフリカには石油や金属など資源が多く必ずしも貧困とは言い難い面がある。スーダンなどがその例だ。こうした国には民主的な体制が確立されなくてはどうしようもない。が、鉱物資源がない貧困国はというと、実際には農業しか産業はない。そしてその農業を基本に交易をしていかなくてはならないのだが、それを潰しているのは、先進国での過剰な自国農業保護だろう。かくしてWTOでの不満となる。
日本の文脈で言えば、その対応として、日本の農業保護を減らし、こうした保護解除のルールをWTOなどを通じて国際的に広げていくことが貧困解消の手助けになるはずだ。が、そうした主張もネットであまり見かけないように思う。私の視野が狭いということもあるだろうが。
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コメント
ん。
競争が激しくなるだけでは。
農薬屋さんと貿易屋さんしか儲からないような。
投稿: cyberbob:-) | 2006.01.15 15:43
つまり、WTOでは貧困は解消できないということを逆説的に証明したことになるのでは。
投稿: ToorisugariAsan | 2006.01.15 17:04
はじめまして。
以前より拝見させていただいています(…たまにですが)。
単純に日本の農業の自由化を更に進めた場合、途上国ではなく先進国からの輸入が増えるだけです。
真に途上国のためをいうなら、先進国は農産物輸出をやめるべきですね(「あらゆる」輸出補助金の削減は香港交渉で合意となりましたが)。
たとえ途上国が農産物輸出国になれたとしても、長期的には工業製品との価格差により恒常的な貿易赤字を溜め込むだけになりますし。
まあ、生産効率でいえば農産物輸出国として残れるのは新大陸農業を行える諸国(米加豪新伯亜)のみですが。
↓農業関係の国際情勢についてはこちらが詳しいです。
○農業情報研究所
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/index.html
ご隠居さんの農業の知識は、無知と偏見だけでしかありませんよ…。
日経:WTO交渉、日本主流派から脱落……日本の消費者にとってはグッドニュース!
http://homepage.mac.com/naoyuki_hashimoto/iblog/C1570102516/E20051010214942/
↑こちらよりは↓の方がよほど事実に基づいた内容だと思いますが。
米国・EU、WTO農業交渉で(新)提案 行き詰まり打開は不透明 世界の農民には有害無益
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/globalisation/agritrade/news/05101101.htm
農産物輸出拡大による途上国農村の貧困軽減に疑念ー国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/globalisation/agritrade/news/05110901.htm
投稿: テンペ | 2006.01.15 17:32
テンペさん、こんにちは。
農業情報研究所のその情報は、実は、既読でした。そのあたり多少考慮した感じで書いてみたのですが。
ただ、全体として現状のWTOの方向でいいのかについては確信はありません。もう少し大きな枠組みで考える指針のようなものがあるといいと考えますので、いろいろみなさんからのご教授を期待しています。
投稿: finalvent | 2006.01.15 18:20
いつも興味深く拝見させていただいております。
知人の経済学者兼ジャーナリストが香港の会議に取材に行っていたこともあり、いろいろと話を聞いていたのですが、私も農業は自由化すべきと思います。農業を自由化したところで、貧困問題の解決にはならないでしょうが、“ましになる見込み”がまだあると思うからです。
さらに、今回の会議で重要な点は、ヨーロッパ(特にフランス)を中心とした先進国が自由化反対を貫き合意を阻む立場にあったのに対して、ブラジルとインドが手を組み途上国全てまとめあげた上で合意に至るよう提案をしていたことだと聞きました。
貧困国が合意を阻止し、先進国が好き放題する、というこれまでの構図はもはや崩れているようです。なぜそのことが報道されないのか、知人も非常にいぶかっていましたが、この立場の逆転は注目に値すると思います。
投稿: nodako | 2006.01.16 06:44
finalventさん
やや、農業情報研究所はもうご存知でしたか…。
WTOは労働条件や産業の環境負荷に関しても考慮外ですからねえ。
農業は自由貿易の対象から除外した方が良いと思います(せめて、各国に自給率50%程度のアグリミニマムの保障とか…)。
nodakoさん
ましになる見込みも望み薄かと。
コーヒー・バナナ・カカオ・コプラ・バニラといった熱帯産農産物の輸出国で、農産物輸出のみで経済の安定が達成できた諸国があったでしょうか?
収入拡大を目指して増産→価格の暴落→低価格安定
といった経緯を辿っていますが…。
ハイチのようにアメリカとFTAを結んだ結果、米国産コメの流入で貧困層が拡大した例もありますし。
「先進国」がG10とEUと米国で主張が異なるように、
「途上国」もG20(輸出国)とG90(輸入国)では異なる主張をしていますよ。
↓WTO農業交渉における主なグループ
http://www.zenchu-ja.or.jp/food/wto_tsubo/wto_tsubo24/tsubo_24.htm
投稿: テンペ | 2006.01.16 20:13