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2006.01.07

ロシアとウクライナ天然ガス問題

 年末年始にかけて世界が注目したロシアとウクライナ天然ガス問題は意外なと言ってほど急速に収束した。よかったと言えばよかったし、概ねブログで提言するようなこともないようだがどうも奇妙な後味が残るので、曖昧な意見にはなるだろうが少し記しておきたい。
 私の政治的な視点は基本的に欧米保守と大差ないのだが、ウクライナ問題についてはかつて通称オレンジ革命の際にややふざけて「極東ブログ: 美人だろうが民主化だろうが、私はチモシェンコ(Tymoshenko)が嫌い」(参照)を書いたように、あまり西側の論調に同調できない。また、私を揶揄する人たちは私を自民党マンセーだのブログを読みもしないで言うのだが、例えば、自民党原田義昭衆議院議員ブログ”仕事始め、そしてウクライナとロシア”(参照)など、私はまるで賛成できないどころかとほほな思いになる。


 ロシアがウクライナに対する天然ガスの供給をストップした。するとウクライナは自国を通過するパイプラインからガス成分を抜き取った。そのため今度はEU各国への供給が途絶え始めた。慌てたのはロシア・・・。この寒空、遠いヨーロッパでこんなことが起きている。ロシアがウクライナとの価格交渉で圧力をかけるために採った措置だが最も多くを失ったのは、勿論ロシア。経済関係に政治や軍事、非経済事象を持ち込むのは完全な禁じ手、ましてや天然ガスというライフライン(基本的生命線)、あの国の言うエネルギーの「安定供給」などいかにいい加減なものかが満天下に示された。
 先日訪れた、愛しのウクライナ!!あの人たちがこの寒空、国の誇りのために懸命に闘っていることを心から応援します。

 なにが「愛しのウクライナ!」だか。そのウクライナとは何を指しているのか。ちなみに、三月二六日の議会選挙に向けて現在ウクライナでユシチェンコ支持は一二・四パーセントに対して、親ロシアのヤヌコビッチ支持は一七・四パーセント(NHK)。こういう実態を原田義昭衆議院議員は知っているのだろうか。
 とはいえ欧米の論調も基本的に原田議員に似てロシアを非難していた印象を受けた。しかし、このロシアの態度は二〇〇四年ウクライナ大統領選挙の際に想定されていたことで、別に寝耳に水というものではない。オレンジ革命なんていう祭はどうでもいいから、この問題こそユシチェンコ政権の成立と共に対処すべき課題であったのが放置されていたに過ぎない。しかも、ウクライナ支持とかしていた自由主義諸国はこの問題でウクライナを援助していたわけでもない。昨年一二月二四日のワシントンポスト”Democracy's High Price”(参照)でもそのことは指摘されていた。

Will the West stand up for democracy in Belarus and Ukraine? So far there's not much sign of it. The European Union decided shortly after Mr. Lukashenko's announcement to postpone the launch of a radio service intended to provide uncensored information to Belarusans. Poland's foreign minister, Stefan Meller, spoke with Secretary of State Condoleezza Rice about Ukraine's gas price problems during a visit to Washington this week, but they did not reach agreement on a concrete response. Many in the administration remain unwilling to react to, or even acknowledge, Mr. Putin's aggressive campaign to undermine Mr. Bush's pro-democracy policy. As U.S. lassitude continues, Mr. Putin's price keeps going up.

 視点を変えれば、ロシア・プーチン大統領はウクライナ締め付けの暗黙の是認を読み取っていたとして不思議でもない。
 しかも、今回の問題で実際上パニックとなったのはウクライナの問題というより、ウクライナを経由するガスのパイプラインでヨーロッパ側へのガス提供が減ったことだった。
 この問題の詳細が報道などからはよくわからない。報道例として”欧州向けのガス供給回復へ増量 露ガスプロム ”(参照)はこう伝えている。

 ガスプロムは三日の声明で「ウクライナが違法にガスを抜き取っていることでエネルギー危機が到来することを阻止するため」として、一日に減らした供給量の約八割に当たる日量九千五百万立方メートル分の追加供給を再開したことを明らかにした。
 そのうえで、供給量低下は、ウクライナがガスを「盗んだ」ことが原因と糾弾し、増加分は「ウクライナ向けではない」と強い調子で牽制(けんせい)した。
 これに対し、ウクライナ側は、ガスの抜き取りは行っていないと弁明した。ただ、供給停止措置を前に「ウクライナを通過するガスの15%を得る権利を有する」とも表明しており、欧州向けガス供給が大幅に減少した原因をめぐり双方が激しく対立することも予想される。

 個人的な印象に過ぎないのだが、ウクライナ・ユシチェンコ側はヨーロッパをわざと問題に巻き込んだのではないだろうか。というのは今回の決着のケツがヨーロッパ側に回されているのも胡散臭いからだ。読売新聞”ウクライナ向け天然ガス、露が輸出再開合意”(参照)より。

 ロシアはEU諸国向けにガスを送るため、ウクライナ領内を通過するパイプラインを使っている。露側がウクライナ側に支払っているパイプライン使用料は、これまで1000立方メートルのガスを100キロ送るのに1・09ドルだったが、同1・6ドルに引き上げられる。これにより、ウクライナ側は、ガス買い付け価格上昇に伴う衝撃をほぼ吸収できる見通しだ。

 いずれにせよ、当面の問題は収束し、一応国際的にはというか西側の論調としては、ロシア脅威論と原子力活用という二面に移りつつある。典型的な論調としては、ワシントンポスト”Russia's Energy Politics”(参照)が一例になるだろう。

Even if Mr. Putin adopts this course, Western countries should absorb an important lesson. Without a prosperous or technologically advanced economy and with greatly reduced military strength, Mr. Putin hopes to restore Russia's world-power status through its control of gas. That inevitably means manipulating supplies to other countries for political ends. Western countries that do not wish to receive Mr. Putin's ultimatums -- from Germany, France and Britain to the United States, which is being pressed by Russia to line up as a major customer for new Arctic gas fields -- should realize that dependence on Russian gas is not consistent with "energy security." Instead they should develop alternative sources of supply, or a greater emphasis on nuclear energy. Russia cannot be allowed to hold its neighbors, or the world, hostage during a future cold winter.

 私はこうしたロシアを過剰に敵視していく論調は違うのではないかと思う。今回の問題の基底に、いわゆるオレンジ革命はイラク民主化と同じ路線が産んだものであり、ブッシュのレームダック化に伴うものだろう、と考えざるをえない。その路線を復興させればいいと単純には思わないが、対処にはグローバルな政治が問われなくてはならず、そこにかつてのリーディングとしの米国の力が薄れつつある。
 話が飛躍するが、今回の問題を日本の新聞が好きな言葉、他山の石、とするなら、中国のエネルギー囲い込みがどう日本を締め付けていくかが問われなくてならないだろう。ロシアと中国をどう適切なマーケットに引き出すかがイデオロギーの先に問われるべきだろう。残念なことにそれ自体がイデオロギーの様相を帯びつつ衰退しつつある。

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