[書評]ハウルの動く城
そういえば正月「ハウルの動く城」(参照)を見た。いろいろ前評判なども聞いていたのがバイアスになっていて、ちょっと不安な感じもしたが、特に物語り上の破綻もなく、また映像としてもよく出来ていた。ジブリのなかではある意味で一番よく出来た作品ではないかと、言ってみて、ある意味っていうのは、外人が見てということかなと思い直した。
![]() ハウルの動く城 |
ならば、しかたないな、その線でこの映画のメッセージを解いてみようかという気持ちになった。もちろん、それは私の個人的な趣味にしかすぎないだろうが。
プロットにはわかりやすい一つの謎が仕組まれている。カルシファ(炎)とハウル(鳥)の謎だ。どのような趣味的な解釈であれ、この謎解きをベースにするしかあるまい。
スポイラーになるが、謎は……、ハウルの子供時代、天界から地上に落ちてきた星の子をハウルが受け止め、飲み込み、その心臓(ハート)を与えることで星の子は悪魔カルシファーとなりハウルは心臓(ハート)を失う……という関係になったこと。
言うまでもなく、原作のカルシファー(Calcifer)は、これはルシファー、つまりルシフェル(Lucifer)の洒落である。イザヤ書に「黎明の子」とある(14-12)。
黎明の子、明けの明星よ、
あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者たちよ、
あなたは切られて地に倒れてしまった。
また、同じくイザヤ書の炭火のイメージもあるだろう(6-6)。
その時セラピムのひとりが火ばしをもって、祭壇の上から取った燃えている炭を手に携え、わたしのところに飛んできて、わたしの口に触れて言った、「見よ、これがあなたのくちびるにふれたので、あなたの悪はのぞかれ、あなたの罪はゆるされた」
セラピムには鳥のイメージがあるのでこの構図は、ハウルの物語とはネガのような関係になっているが、しかしそれほどの対応ではないだろう。ついでに言えば、ソフィー(Sophie)は知恵であり、知恵はロゴスであり、ヨハネ書の言う、世の始めにいたロゴスに等しい。そして世の始めのエロヒム=神もまた鳥に擬されているのだが、そうした心象の世界は欧米人にはなじみやすいものだろう。
物語の謎は、ハウルとカルシファーのそのような経緯からすれば、ソフィーがカルシファーに水をかけた時点で終わるべき命が生き延びることにある。これは端的に、ソフィーがハートをカルシファーに与えたことであり、ハート=愛が、物語に奇跡をもたらしたということだ。
物語の必然は、ハウルがソフィーを愛するがゆえに戦う、死もいとわないという関係のなかで展開することでもある。ここでは戦争が外部性・外来性ではなくなる(逃げる対象ではなくなる)。世の中から戦争というものがなくなればいいのに、というようなナイーブなありかたはない。また、個の倫理性が人を救うというナイーブさも棄却される。愛を知ることは罪を知ることであり戦うことだ。これは多分に戦禍の日本人と日本の兵士を暗喩しているだろう。
ではどのように戦禍を終わらせることができるのか。ソフィーの愛という奇跡はどのように戦争を終わらせるか。それは、つまり、東京大空襲をどう鎮魂するかという問いかけに変わってくる。
と、筆が飛躍しすぎて、トンデモない話になってしまったが、私の解釈の図では、日本の戦禍の情念をどう鎮魂し止揚するかということにテーマが絞られる。
ハウルという戦人は必然的に死ぬほかはなく、空爆も終わることはない。が、奇跡の物語はソフィーの愛(英知=老いのシンボル)によってハウルとカルシファーを再生させた。
その愛とは、日本の戦後の意味だろう。戦後の日本史のなかにどれほどの愛が打ち建てられたか。その愛だけが戦人を鎮魂し再生の命を生かすということなのだろう。
もうちょっと丁寧に書くべきなんだが、ま、そんなことを思った。
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コメント
原作を読んでいないので伝聞ですが‥‥。
「物語の謎は、ハウルとカルシファーのそのような経緯からすれば、ソフィーがカルシファーに水をかけた時点で終わるべき命が生き延びることにある。」とありますが、原作「魔法使いハウルと火の悪魔」では、実はソフィーにも魔力があり、「物に生命を宿らせる力」があるとのことです。
想像ですが、カルシファーはそこまで見抜いた上で、ソフィーを城に招き入れたのではないでしょうか。
投稿: サトシ | 2006.01.17 17:30
ebetってサイトでアカデミー賞の予想やってます。
投稿: タケシ | 2006.02.09 23:18
ジブリ作品は何も考えずただ楽しめば良いと思う
投稿: 通りすがり | 2009.02.14 18:49