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2005.11.19

鳥インフルエンザとサイトカイン・ストームのメモ

 鳥インフルエンザについて簡単にメモを記しておきたい。現在問題になっているH5N1だがすでに1918年のスペイン風邪に類似であるということがわかっている。スペイン風邪がどれほど人類に大きな影響をもたらしたかについては、タミフルを日本で扱っている中外製薬が企画した「インフルエンザ情報サービス」(参照)の”20世紀のパンデミック<スペインかぜ> ”(参照)を見るとわかりやすい。このページではその死者数を、数え方にもよるのだが、第二次世界大戦を越えるものとしている。余談だが、米国南北戦争の死者数も驚くほど高い。これにイラク戦争を並べるとどうかというのは趣味が悪すぎる。
 日本でも同年、つまり大正七年、二千三八〇万人が罹患し、 三八万八千七二七人が死亡。驚くべき数字とも言えるし、当時と今とでは違うので同種のインフルエンザであれば、さらに死者数は少ないだろうとも言える。数万単位の死者であれば、交通事故一万人、自殺三万人に隠れるかもしれない。これは悪い冗談の意図はない。
 スペイン風邪で興味深いのは、先のページのも言及があるが、青年の死者が多いことだ。昨今の中国での鳥インフルエンザの死者も印象だがああまた若い人かと思う。


20代から30代の青壮年者に死亡率が高かった原因は不明で、謎として残っている。通常は小児や高齢者の死亡率が高い。死因の第一位は二次的細菌性肺炎であった。このとき、始めて剖検肺中に細菌が証明されないことから、ウィルス肺炎が疑われるようになった。

 通常のインフルエンザでは小児や高齢者の死亡率が高いが、スペイン風邪ではそうとは言えなかった。Wikipediaの項目「スペインかぜ」(参照)にはこうある。

また青年層の死者が多かったが、これは理由がはっきりしていない。可能性として、パンデミック以前にH1N1型の流行があり壮年層に免疫があったのではないかという説もあるが、これは少年以下層の死者が特に多くないために疑問視されている。

 Wikipediaの情報は知識の点で不足があるのはしかたがないが、このあたりの解説はそうした知識の問題なのだろうか、少し奇妙に思う。というのは、この分野に関心を持つ人なら、サイトカイン・ストーム(Cytokine Storms)を想定すると思われるからだ。
 と、思っているさなか、十一日付け日経新聞”鳥インフルエンザの高致死率、免疫系の「暴走」と関連・香港大”(参照)に関連のニュースが出た。

鳥インフルエンザの患者の死亡率は5割以上にのぼるが、この高い致死率はウイルスの体内侵入をきっかけに患者の免疫システムが「暴走」する現象と関連があるのを、香港大学の研究者らが突き止めた。国際的なオンライン医学誌「レスピラトリー・リサーチ」に10日発表した。


 研究グループが患者の肺組織などを調べたところ、免疫細胞が分泌するサイトカインと呼ばれる物質の量が通常のインフルエンザに比べて異常に多いことがわかった。
 専門家らが「サイトカイン・ストーム(嵐)」と呼ぶ免疫システムの暴走現象で、肺など多くの臓器がうまく働かなくなることがある。

 なお、「レスピラトリー・リサーチ」のオリジナルは”Proinflammatory cytokine responses induced by influenza A (H5N1) viruses in primary human alveolar and bronchial epithelial cells”(参照)。
 サイトカインは現代人の常識用語の部類だろうか。間違いではないが「免疫細胞が分泌するサイトカインと呼ばれる物質」で通じるだろうか。いずれにせよ、鳥インフルエンザの問題はやはりサイトカイン・ストームかという線での話題にはなっている。科学に関心のある高校生(あるいは高校の先生)なら、NEJMのこのフラッシュ(参照・SWF)を見ておくといいだろう。
 随分遅れた感の十七日付けで朝日新聞”高い死亡率、免疫の過剰反応が原因か 鳥インフルエンザ”(参照)も同じ話題を扱っていた。サイトカインの説明はわかりやすい。

 ウイルスなどが体内に侵入すると、白血球がサイトカインと呼ばれる物質を分泌する。これが炎症を起こして身を守るのが免疫反応だ。
 研究グループがH5N1型の患者から採った気管支や肺の細胞を分析したところ、毎年流行するH1N1型と比べ、炎症性サイトカインの分泌量が異常に高かった。分泌が過剰だと、肺組織が破壊されるなどして呼吸困難になる。
 こうした免疫機能の過剰反応は「サイトカインの嵐」と呼ばれ、スペインかぜで若者が多く死亡した原因と考えられている。

 このインフルエンザの症状はウイルス自体が引き起こすのではなく、その過剰防衛反応が起こしていると見られる。であれば、免疫の反応を鈍くすることで症状を緩和させることもできるし、あるいは炎症自体を抑制するような対策も可能ではあるのだろう。
 ついでだが、記憶を辿って、ニューズウィークのバックナンバーを見ていたら、二〇〇四年二・一八号に「隠された鳥ウイルス 中国では数年前から大流行? 死者二〇〇〇万人の悪夢」という記事を見つけた。同記事を読み直すに、すでに中国内では散発的に発生していると見てもよそうな感じではある。

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2005.11.18

スパイスあれこれ

 じゃ、料理の話でも。スパイスとか。私は園芸とかそれほど好きでもないが、英国ハーブ協会っていうのの会員だった。今で言ったらミクシのコミュニティみたいなものだがそれなりに国際的だったりする。ま、ハーブとかスパイスとか薬草とか好きだった。料理にそれほど凝っているわけでもないが。

cover
料理上手の
スパイスブック
 昔ながらの米人家庭のキッチンの棚とから見ると、ずらっとライブラリーのようにスパイスがある、ことがある。彼らにとって秘伝のレシピとかいうのはその組み合わせにあるわけで、ケンタッキーフライドチキンも日本に上陸した当初は十一種類の秘伝のタレと煮干しのダシがウリだった。ちょっと違うか。Wikipediaをみたら似たような話が載っていた(参照)。

カーネル・サンダース(本名ハーランド・サンダース)(1890年生-1980年没)によって1939年に考案されたフライドチキンの調理法があり、使用される調合スパイスの種類(一部公開)と調合率はごく一部の人しか知られていない。

 米人の料理なんてそんなものだとも言える。いやなかなか米国料理というのは奥が深いとも言える。どうでもいいが、長嶋茂雄の奥方長嶋亜希子の米国料理の本も書架のどっかにあるはずなのだが出てこない。
 前振りが長いが私がよく使うスパイスのご紹介など。

オレガノ
 最近はあまり使わない。理由は出来合いのピザソースを使うようになったので、それに入っているから。しかし、あるとイタリア料理とかには便利。トマト料理にはたいてい使える。トマトソースというのは、けっこうなんのソースにもなる。焼き魚にオリーブ油とトマソでなんでもイタリアンになってしまう。

カルダモン
 最近はあまり使わない。以前は、カルダモンコーヒーとかに使っていた。ミルクティーのスパイスにも使っていた。オリエントな香りがする。話はずっこけるが、バリ島のイスラム教徒の多い市場でスパイスをいろいろ買ったが、バリ・カルダモンは安いよとか言っていた。見たら、沖縄の月桃の実でした。この種はかなり固いが潰すとそれなりに香りがよい。

キャラウェイ
 クッキーやパン(フォカッチャ)に入れたりカレーのときにご飯にかけたりとか以前した。最近はとんと使わない。

クミン
 これは今でもけっこう使う。日本人にしてみるとカレーの香りの元みたいに思うだろうが、肉料理とか豆料理に合う。使うとエスニックな感じの味になる。以前はホールを使っていたが最近は粉末を買う。生姜焼きの生姜抜きでクミンとかいうのもけっこう好き。

クローブ
 クリスマスティーに欠かせない。私はスパイスティーが好きで、これには欠かさず入れる。以前職場で眠いとき、ホールを囓っていた。辛みが口に炸裂する。お菓子に小量使うと甘みが引き立つ。

ケーパー
 マリネとかアクアパッツァには欠かせない。なんか日本のは高い。

コリアンダー
 これは私のレパートリーじゃない。なんかうまく使えない。ちなみに、このハーブは香菜で、いやもう大好物。ばくばく喰える。日本人辞められるかと三十代には思ったほど。香菜はなんにでも合うというかなんでもエスニックにしてしまう。タイのスイートチリソースに交ぜてチキンとかサツマアゲとか喰うと幸せ。

サフラン
 使わない。高いんだもの。代わりに、アジアン・サフラン=ターメリックを使う。

山椒
 日本人は鰻のあれを思い浮かべるだろうけど、私が使うのはさらに二種類。一つは実の塩漬け。これがうまい。あまり売ってない。売ってるところを知っているがとてもではないがネットには書けない。もう一つは、中華料理用のキメの粗いやつ。これを麻婆豆腐にばさばさと入れる。そう、普通の日本の麻婆豆腐に入れる。

シナモン
 どっかで有名なイヌのことではない。サンリオのあれでもない。シナモンはスパイスティーに欠かせない。余談だが、日本だとカプチーノというとシナモンだが、海外ではココアを使っていた。

アニス
 使わない。あのフレーバーは嫌いじゃない。

セージ
 これもうまく使えない。ので、使わない。スマッジとかいってこれを束にして煙りを楽しむというのもあるが、やったことない。

タイム
 これは使う。山羊とか羊の肉の臭み取りとかに。

ターメリック
 ウコン。黄色のが秋ウコンというかウコン。あまり使わない。純度の高いターメリックのカプセルがあるのでそれを使ってご飯を真っ黄色にするとかときたまするくらい。これだとあの泥臭い匂いがない。春ウコン(キョウオウ) は生のを泡盛に入れて香り付けにしていたことがある。タイ料理のカー(ナンキョウ)の代わりに使ったことがある。

ディル
 シードを酢に入れてヴィネガーの香り付けによく使っていた。最近やってない。

ナツメグ
 ハンバーグですね。以前はホールをごりごりと挽いていたけど、最近は粉。終わり。

バジル
 ドライのが嫌い。最近は生が売っているのでそれを買う。沖縄暮らしのときは庭に植えていた。すげー匂いだった。スイートバジルの生を適当に包丁で叩いてポットに入れ熱湯を注ぐ、待つこと三、四分というハーブティーが好きだ。バリ島で覚えた。

パセリ
 日本のパセリについてなにか言うべきことがあるのか。ない。

バニラ
 以前はいくつか持っていたし今でも棚のどっかにあると思う。アイスクリームとか作るときは、アルコールに浸けたのを使う。バニラは、ほんまものは本当に美味しい。昔のハーゲンダッツはよかった。

パプリカ
 といっても生のではない。タンドリチキンを作るときに使う。ちなみに、タンドリチキンは簡単にできる。いずれご紹介しよう。

フェンネル
 最近は使わない。っていうか以前、よく暇つぶしに食っていた。あれだ、インド料理店の入り口(または出口)にあるアレ。生のは沖縄語でイーチョーバーである。マキシで売っている。

ベイリーブス
 ポケモンである。ちょっと違うか。使い方は決まり切っている。

胡椒
 黒胡椒はかならずその場で挽いて使う。肉に使う人が多いが、意外と野菜に使える。キャベツをちぎってビニール袋に入れ、塩を少し入れてまぶして小一時間ほどおき、しなっとしたらこれを小量の油と黒胡椒で炒める。うまい。

ミント
 これはもっぱらドライのをミントティーに。日本で売られているドライはどうも香りが弱い。私は米国からオーガニックのを取り寄せている。

レモングラス
 エスニックの定番。日本だとこれのドライのハーブティーが多いが、生のほうが香りがいい。これも沖縄生活では庭に植えていた。

ローズマリー
 最近は鉢植えにして、ソーセージを作るときに使う。ソーセージは意外と簡単にできる。

五香
 餃子には必ず入れる。

ガラムマサラ
 最近は使わない。カレー粉で代用。

 ま、そんなところでしょうか。じゃ。

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2005.11.17

遼寧省の鳥インフルエンザ発生からよからぬ洒落を考える

 お笑いネタとして軽い洒落を書いてみたい、という前書きをつけておくので誤解無きように。
 と言って話のスジをどう展開していいのか二案考えてみるのだが決まらない。
 第一案は、十一月六日に報告された遼寧省の鳥インフルエンザ発生だが、確かにその発生に嘘はなくて海外ジャーナリズムにもなんか実にマレにきちんと公開したわけだけど、なんでよりよって遼寧省かなぁ。遼寧省ってすることで中国様になんかメリットがあるんじゃないのか、さてそのメリットはなにか。このどさくさに遼寧省の問題分子を締めあげてやれ、かな。
 第二案は、同じく鳥インフルエンザが発端だが、中国様の本音としては、ほ、本当なのか、やべーな遼寧省かよ、こんなんでさらにあそこに問題が広まったらどえりゃーこっちゃ、オレの責任じゃないからな、ってことで、責任所在錯乱でぶちまけて観客よろしく諸外国のジャーナリズムでも入れたれ、かな。
 さて、どっちか。考え方のスジとしては、鳥インフルエンザ発生で遼寧省が注目されるのはどうよというのがあるのだが、なんとも腑に落ちない。ちなみに、上澄みは人民網”遼寧省の2村で鳥インフルエンザ発生 H5N1型”(参照)にある。


 遼寧省阜新市の阜新蒙古族自治県にある大阪鎮朝陽寺村、同省錦州市にある南站新区大嶺村で6日、養鶏業者が飼育するニワトリ計1100羽が死亡し、直ちに省動物衛生監督管理局に報告された。同省は同日、高病原性鳥インフルエンザの疑いがあることを認め、直ちにサンプルを国家鳥インフルエンザ参考実験室に送付。同実験室で9日、H5N1型の高病原性鳥インフルエンザであることが確認された。

 ということで、蒙古族自治の地域というのがいい味出している。
 これまで中国の鳥インフルエンザというと、湖南省や安徽省などどっちかというとベトナムに近いよな地域。とはいえ、正確にいうと、CRI”中国、鳥インフルエンザ対策を続行 ”(参照)にこうある。

 先月中旬以降、中国の内蒙古自治区、安徽省、湖南省、遼寧省、湖北省などで相次いで「H5N1亜種」の高病原性鳥インフルエンザ感染が起きており、これを受けて、関係部門は家禽を1000万羽近く処分したということです。

 というわけで、内蒙古自治区は入っているのだけど、どうも地域的にそういうもんか感は漂う。
 話を先の二案どっちで行こうかと考えるのだが、これの補強ネタはなんといっても先週のニューズウィーク日本語版11・16”東北部の怒りと不満は爆発寸前”である。

 昨年、北京を訪問したアメリカ政府高官が中国の高官と酒席を共にしたときのこと。話題は、中国国内の社会不安に及んだという。

 で、中国の社会不安といえば、東トルキスタンでしょという通念があるが、そうではなく東北部なのだとこっそり言ったというのだ。

「この地方では、国有企業がことごとく売却されていて、しかも労働組合の力が最も強い。中国政府は、一刻も早く手を打たなくてはならない」
 東北部の遼寧省、吉林省、黒竜江省の工業地帯は、中国の社会不安の震源地になりつつある。中国東京の統計によると、昨年中国で起きた大規模なデモの12件に1件は遼寧省で起きている。

 ほぉってなもので、ネットを探ってみたのだが、ほとんど裏なし、っていうか、ネットに本当の情報はないのか、そもそも情報はないのか、このエントリのようにフカシなのか。悲惨な情況についてはいくつか話はあるが略。
 同記事は、遼寧省が北朝鮮に接しているという問題にも触れている。つまり、北朝鮮に事あれば遼寧省に波及してやばいでしょ、と。
 いや、遼寧省と北朝鮮の関係はそれだけでもなさげ。読売新聞(2005.11.14)”膨張中国]第4部 きしむ周辺世界(3)北朝鮮の鉱物開発”にはこんな美しい話がある。

 北朝鮮から中国へ、いま大量の鉱物が運ばれている。鉄鉱石、無煙炭、亜鉛、鉛、銅……。中朝国境の鴨緑江と豆満江(中国名・図們江)に架かる橋は鉱物積載のトラックが盛んに往来し、渋滞も起きる。
 北朝鮮は地下資源の宝庫として知られる。高度成長を続け、慢性的な資源不足に苦しむ中国が、その獲得に血眼になっている。

 そのあたりはごく普通に知られているところ。特にレアメタルが多い。ついでにウラン資源ってどうよとも思うがそれはさておき。

 9月初め、中国の「本音」が一瞬、垣間見えた。吉林省長春市で開かれた豆満江開発計画の次官級会議。同計画は、中朝国境地帯の共同開発を目指す。南北朝鮮と中露、モンゴルの5か国は年末に満期となる計画の10年延長で合意した。
 会議で、中国代表がこう持ちかけた。
 「計画の対象を『グレーター豆満江地域』とし、中国の東北3省に北朝鮮全域を含めるのがよい」
 北朝鮮代表は猛然と反発した。「黒竜江、吉林、遼寧省に次ぐ東北の4番目の省になりかねない」との危機感からだった。

 そうだよな。北朝鮮は中国様にしてみれば、「東北の4番目の省」なのだ。というあたりで、昨年韓国と中国でがたがたやっていた歴史認識問題もスジが通ってくる。
 さて、このあたりのネタもどう愉快な話にまとめていいか悩むところ。表向きには中国様としては、東北振興(参照)という流れにしたいし、このあたりで東海の島国のカネも入れるとよさげにも見えるが、考えてみると、中国の東北”四”省ってベタにあの島の歴史も関わっているしな。ところで、ニュースを見ていたら、シンガポールもこれに絡んでいるらしい。
 なんかいいスジがあるときれいな洒落になるのだが、うまくいきませんね。ウ的世界の才能がないのか、話はそう単純でもないのか。

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2005.11.16

[書評]女と別れた男たち(林秀彦)

 一九八三年に創林社から出た林秀彦の短編集「女と別れた男たち」だがすでに絶版で現在入手は難しいかもしれない。他にも林秀彦の本出していた創林社自体すでに無くなったとも聞く。この短編集は現代に読んでもそれなりに面白い。「生きるための情熱としての殺人」の現代版の映像(参照)も人気になったようだが、こちらも原作は絶版のままではなかったか。林秀彦の主要作品は、中公文庫あたりで復刻されてもよさそうに思うが、どうだろうか。
 林秀彦は一九三四年の生まれ。五五年から六〇年にかけてドイツ、フランスで哲学を学ぶ。がその後、テレビ界に入り「七人の刑事」「鳩子の海」などの脚本家として時代の寵児となる。と書きながらふと山田太一の生年を見ると同じく三四年だった。山田の場合は一度教師となりそれから三十歳過ぎての脚本家。そのせいか、私の記憶では林と山田ではテレビ界で脚光を浴びていた時期は五年から一〇年のずれがあるようにも思う。
 私が林秀彦を意識したのはある意味最近になってのことだ。気が付くとテレビを通して林の影響を強く受けていたなという感じがした。なかでも決定的だったのは一九八四年十一月に始まる「名門私立女子高校」だった。そういえば南野陽子がこの作品でデビューしたというのだが主人公の娘役だったのか、私の記憶ではその後のスケ番刑事(全部見た)とは結びつかない。
 私はなぜかこの「名門私立女子高校」というドラマを初回から最後まで丁寧に見ていた。この年は私の若いころの大きな転機でもあり、そうした思いも投影していた。
 最初のシーンをよく覚えている。グレースケールの映像で中年男の人生の再生を願う独白が続いた。独白はその作品の中へも織り込まれていくのだが、主人公に託されていたこともあり、物語の進展につれ次第に薄れてはいった。
 主人公は妻から離婚を切り出されたうだつのあがらない高校教師で、西田敏行が演じた。彼が、生徒を自殺未遂に追い込んだという若い女性教師との軋轢のなかで恋が目覚める。こちらは桃井かおりが演じた。伊武雅刀が校長を演じていた。こう書くとお笑いドラマのようだがそうでもなかった。
 「女と別れた男たち」は、林秀彦の生き様や思いからすれば、「名門私立女子高校」の前作にあたるのだろう。そして、自伝的長編「梗概(シノップシス)」が八〇年の刊行で、林の青春の結実でもあるフランス人の妻との別れがさらにその前段になり、そうしたある種の敗北感が基調を響かせていると思う。
 この時代の林秀彦が今の私の歳に近い。現在の林秀彦を思えば、私も自分の人生の末路が概ね見渡せる時期になった。そうしてみると、「女と別れた男たち」は、なるほど今の俺の歳の男の内面というのをよく描いているなと思う。もちろん、林は社会的に成功して荒廃した人生であり、私のように社会的に失敗してこそこそと小さな幸せを求めるという人生とは対極的ではある。
 四十九歳の林は本書の後書きでこう書いている。


 それにしても鬱々とした日々を送り続けてこの十年、心が晴れた日など一日とてしてない。そのせいかどうか、作品も男と女の別れの話が多くなった。それを書いている時だけ、気が晴れた。変なものだ。別れ話なら、あと一万でも書けそうだ。

 そしてこの先、五十歳を前にした林はこう続ける。

 五十近くなって初めて夜遊びを覚え、ネオンの巷を飲み歩いている。すると離婚した女、離婚をしようとしている女、離婚の決心をつきかねている女の多さに驚いた。本当に多いのである。本当に驚いている。今こそロマンの時代だと思う。女性は誰でも短編のヒロインになれる時代が来ているからだ。

 ほぼ同じ歳の男として、私などはなんだこの馬鹿と思う(彼のいう女は三十代半ばなのだろう)。元気があって飲めて遊べてよろしいこったと毒つきたくもなるが、林のなかに女性とのロマンを求める人間的な強さにも、驚く。時代が違うからなというのもあるにせよ。
 個々の短編は文学的に見れば、駄作ばかりとも言える。十歳年上の吉行淳之介とは比べるまでもない。が、吉行などとは違った、独自の世間の感性と中年男と女との敗北感がなんというか非常に面白い。
 「P.S. I Love You...」という作品は、主人公を模した売れっ子脚本家が酒で睡眠薬を多量に飲み、心臓にナイフを指して錯乱したその後の描写で出来ている。仕立てはいかにもテレビ的だが、そこの展開される自暴的に近い感覚は、四十八歳の男ならわかるものだろう。

 生と死の谷間、喜びと悲しみの境界線、幸と不幸のドアの間で、俺もまた一人で生き、孤独だった。その時親父は七十四歳の誕生日にあと三日だった。もし同じくらいの歳に死ぬならば、俺にはまだ二十年以上の切り札が残されていた。しかし死の直前の親父と俺は、なにからなにまでそっくりになっているようにも思えた。退院するまでは全然考えてもみないことだった。声、仕草、食事の食べ方、咳、痰を切る時の喉の奥の音……。それは死の予感ではなく、死の前兆なのだ。

 そういうことだ。林秀彦はたぶん今異国で七十一歳になる。林秀彦のことは、もう一つエントリを書くかもしれない。

追記(2005.11.17)
コメント欄にて情報をいただく。
雑誌「正論」11月号(参照)に林秀彦「老いていま、私はなぜ日本で死ぬことにしたのか」が掲載され、それによると、日本に帰国されたとのこと。

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2005.11.15

タミフル副作用報道雑感

 タミフル(リン酸オセルタミビル)の副作用が疑われる少年の突然死のニュースだが私は当初それほど関心を持っていなかった。特殊なケースではないのか、またタミフルの副作用とするのは難しいのではないかと思った。このニュースは海外のニュースを見ても注目されているようだ。この機に外堀を眺めた感想を少し書いておきたい。
 話の発端は、NPO法人「医薬ビジランスセンター」(参照)の調査である。十三日付け読売新聞”タミフル 服用後 2人異常行動死 学会で報告 副作用との関連不明”(参照)によるとこうだ。


 インフルエンザの治療薬「タミフル」(リン酸オセルタミビル)を服用した患者2人が異常行動を起こし、事故死していたことが、NPO法人「医薬ビジランスセンター」(大阪市)の調査でわかった。同センター理事長の浜六郎医師(60)が12日、津市で開催された日本小児感染症学会で発表した。浜医師によると、昨年2月、岐阜県内の男子高校生(当時17歳)がタミフル1カプセルを服用、約4時間後に、近くの道路のガードレールを乗り越え、トラックにはねられ死亡した。

 詳細は先の「医薬ビジランスセンター」のサイトに詳しい。医学・薬学に関心を持つ人は同サイトの情報「リン酸オセルタミビル(タミフル)と突然死、異常行動死との関連に関する考察」(参照)をどう読むだろうか。私はある疑問を持ったがこのエントリでは控えておきたい。
 読売新聞記事では次のように専門家のコメントを加えている。

 これに対し、厚生労働省研究班のメンバーで、小児インフルエンザに詳しい横田俊平・横浜市大大学院教授は「意識障害からくる異常行動は、脳炎・脳症の症状でもあり、発表事例もそれに含まれるのではないか。タミフルの副作用とまでは言えない」と話している。

 製造元ロシュはこのケースを副作用であるとは認めていない。十五日付けロイター”タミフル副作用で異常行動リスクは高まらず=ロシュ”(参照)では次のアナウンスを伝えている。

 ロシュの販売担当者は記者団に対し「タミフル服用、もしくはインフルエンザ感染による神経精神病行動発症の確率はほぼ均衡である。タミフルの服用により、そのリスクが高まるということは確認されていない。しかし、今後も状況を見守っていく」と述べた。

 余談に近いのだがこのアナウンスは株価にも影響した。現在タミフル大量購入は国際的にも大きな問題となっており、巨額なカネが動くようになっている。
 タミフルにこうした副作用の可能性はないのか。先の読売新聞記事では厚労省アナウンスをこう伝えている。

 タミフルの副作用については昨年6月、厚労省のまとめで、服用した14人が幻覚や異常行動、意識障害などを訴えていたことが判明、同省は医療機関に注意を呼びかけていた。また、副作用が出る可能性を使用上の注意書きに明記するよう、輸入販売元の中外製薬に指示している。

 このあたりの情報は、現状ではおそらくロシュ側と噛み合ってはいないだろう。
 こうした副作用の可能性が大きいなら、タミフルが利用されている海外でも報告があろうだろうしロシュ側も把握しているはずなので、重要な副作用としてロシュ側は認識してなさそうにも私は思えた。なお、若いラットに大量投与した実験では脳から高濃度の薬剤成分が検出されているが、血液脳関門の機能が未熟なためだろう。
 情報の流れの点で気になることがあった。「医薬ビジランスセンター」のサイト「タミフル脳症(異常行動、突然死)を医学会(小児感染症学会)で発表」(参照)より。

その発表内容のポスターを公開する。なお、毎日新聞朝刊1面に掲載されたこともあり、会場には多数の報道陣の取材を受けた。

 該当の毎日新聞記事は十二日付け「インフルエンザ薬:タミフル問題、学会でも論議」(参照)である。ざっとメディアの情報の流れを見ると、この毎日新聞の記事が発端となり、共同で増幅という印象を受ける。そのせいか、毎日新聞では十五日社説「タミフル 副作用の可能性十分伝えよ」(参照)で他紙社説並びネタではなく取り上げている。が、この社説の文章は箇条書きメモにお説教を加えたかの趣向といった印象を受ける。
 当初の毎日新聞記事に戻ると、「医薬ビジランスセンター」の主張は日本におけるタミフル多用の批判が際立っている。

 これに対し大阪府の医師は「異常行動とタミフルの関係は否定できず、学会として調査すべきだ」と主張した。愛知県の医師は、タミフルの年間販売量のうち、日本が世界の8割以上を占めている現状から「日本だけがタミフルを多用している現状はおかしい」と発言した。

 日本がタミフルを多用しているという批判というか疑問は世界からも投げかけられている。二〇〇三年十一月四日の読売新聞記事”[医療ルネサンス]冬に備える(4)「新型」の感染拡大を警告(連載)”では二年前の事態をこう描いている。

 「特効薬が足りない」。インフルエンザが、過去十年で二番目の規模で流行した昨冬、全国の医療機関でインフルエンザ治療薬が不足する騒ぎが起きた。発症して二日以内に使用することが必要なため、夜間、救急病院に患者が殺到した。
 その結果、治療薬の一つオセルタミビル(商品名タミフル)は今年一―三月、世界中の売り上げのうち、日本が76%を占める異常事態になった。欧米では「特効薬」は費用が高く、主に重症者の治療に使われており、米国は15%、EUも9%に過ぎない。
 今年十月、沖縄で開かれた国際インフルエンザ制圧会議では、欧米の研究者から「日本人は金持ちだね」という皮肉も聞かれた。

 ここには二つの意味があるだろうと思う。一つはなぜ日本だけが特例的な状態になっているのか。もう一つはそれゆえに世界の注目を浴びているということ。
 後者については、今日あたりの海外ニュースを見ていて思うのだが、日本でのタミフル副作用騒ぎについて、ある種日本人というラット実験のようにも見ているのだろう。また、日本は特殊だからなと見ているような印象も受ける。
 もう少し思うこともあるが、うまくまとまらないので、このエントリはここまでとしておきたい。

参考
インフルエンザによる青年の精神活動の変化はタミフルとは関係なく報告されている。
Post-influenzal psychiatric disorder in adolescents.(参照


The association between influenza and psychiatric disorder in adolescents was studied at a time when both were highly prevalent concurrently.

追記(2005.11.16)
 ナニワの浜六郎世界を動かすではないが日本発タミフル副作用ニュースはBBCでも大きく取り上げられた。報告だが日本で二八件、米国一〇件、カナダ五件、ドイツ三件、フランス二件。ざっと見るにタミフルの利用数に比例している印象は受ける。欧州医薬品審査庁(EMEA:European Medicines Evaluation Agency. European Medicines Agency)も調査に乗り出している。BBCの記事を読んでいただければわかるが、現状では概ねタミフルが疑わしいということではない。

BBC NEWS | Health | Suicides raise fears over Tamiflu(参照

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2005.11.14

フジモリ元ペルー大統領の動向についての印象

 フジモリ元ペルー大統領の動向について、特にまとまった考えはないが、自分の印象を簡単に書いておこう。フジモリは六日に日本を公的には秘密ということで出国しチリのサンティアゴに到着。その後、チリ当局から拘束され現在に至る。余談だが、フヒモリと呼ぶべきかとも思うが、通例どおりフジモリとしておく。
 漫然と日々のニュースを聞いている私などには、半ば降って湧いたような出来事にも思えたが、反面では予てよりフジモリが大統領復帰の執念を燃やしていることをまったく知らないわけでもない。まさかという思いではいた。日本で若い奥さんと漫然と暮らしていればいいではないか。
 過去のニュースを夏ごろまで当たってみると、八月三十一日付け共同”日本滞在のまま立候補も 来年大統領選でフジモリ氏”に大統領選立候補の話はすでにある。


ペルーのフジモリ元大統領が率いる政党「シ・クンプレ(成し遂げる)」のデルガドアパリシオ幹事長は30日、日本に滞在中のフジモリ氏が、ペルーに帰国しないまま来年4月の大統領選に立候補することを想定していると明らかにした。リマの自宅で共同通信に語った。

 もっとも共同が取材をするまでもなく、フジモリ自身は二〇〇二年九月の時点で意思の表明をしている。記事のバリューは、フジモリの政党の存在だろう。共同には政党とあるが、三党の政治同盟ということだ。
 突然にも見えた出国だが準備も進んでいた。九月十四日共同”フジモリ氏が新旅券取得 大統領選立候補が目的”によればその目的でパスポートを取得をしていた。唐突な事態でもないということだ。出国際しては米国での支援者もいる。
 フジモリの容疑についてとりあえず置くとして、ペルー国民の支持はどうかということが重要になるが、その点について彼は、十月六日共同”フジモリ氏、正式出馬表明 来年4月のペルー大統領選”でこう述べている。

 日本に滞在中のペルーのフジモリ元大統領(67)は6日、都内で記者会見し、来年4月の大統領選について「私の支持率は3割以上ある。法的に問題はない。復帰する」と語り、正式に立候補を表明した。

 ペルー国民の三〇パーセントほどの支持があれば、勝てる、つまり大統領復帰可能だと公言している。大統領選ということであれば、今後の「シ・クンプレ」の活動いかんにかかっているとはいえるのだろう。
 フジモリは現ペルー政権側からは二十一もの容疑をかけれていることになっているが、先月十九日に一件無罪判決が確定した。十月十九日共同”フジモリ氏に初の無罪判決 ペルー最高裁”より。

現職当時の軍用品の調達に絡み、公金横領などの罪に問われたペルーのフジモリ元大統領について、同国最高裁は18日、証拠不十分で無罪とする判決を言い渡した。ペルーのRPPラジオなどが伝えた。
 フジモリ氏は2000年に失脚した後、20件以上の罪で刑事訴追されているが、無罪判決は初めて。来年4月の大統領選への出馬を表明しているフジモリ氏の支持勢力が勢いづきそうだ。

 私の印象では横領などの面で無罪であれば、あとは推して知るべしか。問題はむしろ無罪判決というよりそれがどうペルー国民に訴求するかだろう。そのあたりの空気が読めないものかと思うのだがわからない。沖縄とペルーはつながりが深く自分の沖縄での体験からペルー民衆を想像もしてみるのだがわからない。
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アルベルト・フジモリ
テロと闘う
 ニュース報道は、率直な私の印象を言えば、かなり偏っているように思える。左翼に言わせれば国粋主義の権化のごとき石原都知事はフジモリを支持しているというので、では右派はフジモリを支持しているかというとそうも見えない。簡単にいえばヘタレ右翼ならぬポチ親米派がるっせーなと思っていることだろうか。ペルー国民の少なからぬ人々が日本からの支援を感じているようだが実際の日本国内でのそうした動向の空気はほとんど感じられない。余談だが日本の左翼はフジモリを快く思っていない。理由は説明するのもくだらないので略。
 さて、こっそりと私の印象を言う、これは革命なんだろう。失言だか放言だかということになるのだろうが、そういう線で考えれば、大統領選挙も各種犯罪容疑なども、別にそれほど本質的な問題ではない。単純に言えば、フジモリ革命が成功するかしないかだけが重要だ。
 そう考えれば、その成功の是非は単純に軍事力かかっているとしか言えない。つまり、フジモリ勢力が、頼みとする国民の三〇パーセントを背景に、なんらかの方法で国軍を動かせるかということだろう。率直に言えば、とんでもないことだともいえるが、ソ連崩壊を思い出せば、あながちそうとばかりもも言えない。
 では、そうした可能性はあるのか。私はないと思う。理詰めで考えれば、フジモリが大統領に返り咲くことはないだろう。それでも、私は歴史という生き物の鼓動をこの一連の騒ぎに感じてはいる。

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2005.11.13

健身球

 ナグチャンパの石鹸が消滅したのでさて次はどれにしよかと棚をごそごそとしていたら、懐かしい石の玉が出てきた。石でできた玉二つである。直径四センチくらい。ずしっとした重みがある。


大理石健身球
 なんに使うのかというと手のひらに乗せて回す。なぜ回すかというとボケ防止である。俺にぴったりじゃん。って、十年以上前に買ったものだったか。そんな前からボケていた…ってことで。
 名前はなんていうのか忘れた。中国語の効能書きもついていたはずだが紛失した。記憶ではたしか神をなんたらとかいう感じであった。神とかいうのは中国語では精神という文脈が多かったように思うがどうか。
 ネットをごそごそと検索したら、名称は健身球というらしい。楽天をひいたらやたらと在庫切れであった。大変よく売れました、キューさま。よく売れたものよのぉ。おーほぉっほっほっ。
 「パンダ図 健身球」というのもあった。中国デザインのパンダはたれパンダみたいにキャラクタ化してなくていい。王陽明のように事物の本質を見抜くのが中国人である。パンダの絵も肉食にもなる本性を描いたものが多い。
 通販の健身球の大半は七宝焼きである。見た目も大切か。いや人間でもそうだが見た目だけが大切というのもある。中国向けのiPodも七宝焼きが売れているというのも頷ける。しかも、手のひらで回すとチャイナリンとか鳴る玩具仕様である。ま、輸出向けだし、お土産だし。
 私が健身球をよく使っていたのは、二十代のころか。そのころからボケていたというのもあるが、あれだ、なんか手でいじる物が好きで、じゃ自前でもいじってろとか女でもいじってろっていう下品なツッコミはなしとして、この手のものがあるとつい買ってしまう(安いし)。ある弾性をもってふにゃーっと縮むソフトボールというのもある。何種類もあるが、にくい顔をした象のがよかった。うりゃーとかぐいぐい潰すと象が情けない顔になるのである。その他、なんか金属製の輪っかのようなのとか、カービィみたいのとか、トゲピーみたいのとかとかとか。握っていじるのである。
 なんというのか、手の貧乏揺すりみたいな感じだな。パソコンのキーボードとかピアノのキーボードとかでもやっていると落ち着くが、そーゆーのがないと苛立つ。なんにもないとげーろげろげろ…カエル、とか作ったり、各種密教の印を作って「臨兵闘者皆陣列在前」とかやったり、「栗田式 新・指回し健康体操 - 痛み、ストレスに驚きの速効力!」(参照)をやったり、各指の第一関節を指一本ずつ順に曲げたり…子どもの頃からそんな感じ。
 そういえばアテネのプラカをぶらぶらしていると、よくたるんだ数珠のようなものが売っていて、なんでこの数珠はたるんでいるのかと訊くと、数珠じゃないらしい。売り子のギリシア人が、こんなのものは意味がない、ただの遊びだ、とか言って、親指に輪をかけてスナップさせて、手のひらでキャッチさせた。ほぉ、おもすれー。たくさん買い込んだ。それでも無くして、百円ショップで数珠玉買って作ったりもした。そういえば、海外をぷらぷらとしているとなにかと数珠をもてあそぶというかいじっている人をよく見かけた。
 なんの話してたっけ。中国健身球だ。いかんなマジ、ボケ。
 以前職場でもくるくる回していたら、中国旅行好きの年下から、先輩っ、それってめっちゃ恥ずかしいっすと言われた。それって中国じゃまじボケ老人がしてるっす、というのだ。胡桃とかもあるらしい。ほぉ。というか、胡桃が原形なのか。どんな経緯でこんなものがあるのか今まで疑問にも思ったことがないのでグーグル先生に訊いてみると、「健身球の歴史と景泰藍の健身球」(参照)とか嫁。うーん、説明になってないな、他も以下略。
 私が健身球を知ったのは高校生ころだろうか。三十年も前になるのか。ふと思い出すと、私は華僑の雑貨店が好きでよく入ったものだ。中国茶とか香辛料とかま、いろいろ、当時の私には変なものがあった。今でもそうだが、私は変なものが好きだ。ある種の変なものというのか。スプラッタな感じは受け付けないし、かわゆいというのもそれほど好きでもない。シナモロールは好きだが、ケロロ軍曹はそれほど好きではない。
 これはなんだと私は華僑の老人に訊いた。これはこう使うのだとヨーダみたいな老人は教えてくれた。ほぉ。おもすれーと思った。最初は小さい玉でやるのだ。それから大きな玉にするのだ。重たいほうがいいぞとも教えてくれた。そして、ある日、秘伝を教えてくれた。玉はこすらないようにするのだ、玉と玉が触れてはならぬ。離れて、こう自然に陰陽の世界が量子的なカンタムジャンプを牽制するようにそれ自身が己の手の上で天体のように回るように…と老人の手の上で、重たいでかい玉が回り始めた。
 指が回しているのではなかった、と私には見えた。な、なんの力で動いているのか、弱い力、強い力、電磁気力、重力…いや第五の力がそこにあった…ということはなく、それはあたかも楊露禅の手のひらにとまった雀がどうしても飛び立てないような微妙に絶妙な気のコントロールがあった。いや、ま、そんな、感じ。
 今日は久しぶりに石の玉を回してみた。老師のワザにははるかに及ばない。三十年の日々は無為に過ぎて修行ではなかったしな。ま、無為にして化すというのは、こーゆのじゃないんだろうけど。

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