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2005.10.15

EUが移民労働者を必要としている現実

 エントリのテーマは、昨日の「極東ブログ: セウタとメリリャの不法移民問題」(参照)の続きである。昨日のエントリを書いたあと、日本人はこうした問題に関心を持たないだろうな、セウタとメリリャについてもモロッコが返還を求めるならそうすればいいのくらいの感覚だろうかとも思った。そのことが日本人の感性の問題なのだとちょっと締めに書いてみて、削除した。無駄に関心を喚起する必要もないだろう。
 そのあとぼんやりとセウタとメリリャの不法移民問題を考えていた。「なぜ」という件については、背景には世界の貧困問題があり、直接的な理由としてはスペインのレグラリサシオンとモロッコの対応がある。しかし、なにかふっきれない思いが残った。なぜ、スペインは他のEU諸国から批難を浴びてまでレグラリサシオンを継続したのか。また、なにか重要な論点忘れていたような感じがした。
 思い出した。忘れていたのは、十二日付のテレグラフ”Welcoming migrants”(参照)である。右派典型のテレグラフが「移民を受け入れよう(Welcoming migrants)」という標題を掲げたので気になってざっと読んだのだった。だいたいにおいて、右派というのは、移民に否定的なものではないだろうか。いや、日本社会の実態を見れば、労働力という点で一番移民に厳しいのは日本の労働団体かもしれない。先進国において左派は自国労働者の既得権維持に努める。
 右派・左派はしかし、どうでもいいことだ。テレグラフは示唆的なことを言っていた。セウタとメリリャの不法移民問題について私の昨日のような内容に触れたのち、しかし、問題は、複雑なのだと言う。


The reality is more complex. The latest wave of northward movement has been encouraged by the amnesty granted to 700,000 illegal immigrants this year by the Spanish government. That pardon both removed an anomaly and was an acknowledgement of Spain's need for migrant labour as its economy boomed. The shortage is not unique to the Iberian peninsula: in a report last year, the European Commission concluded that higher immigration flows were increasingly necessary in an enlarged union with a shrinking working-age population. The problem is that what the economy requires is often difficult to digest culturally. That is why politicians are reluctant to admit their country's dependence on foreign workers to sustain economic growth.

 昨今の不法移民の増加にはレグラリサシオンがあるとして、その背景には、スペイン経済が移民労働者を必要としているというのだ。そして、そうした状況はEUも同じでしょ、と。
 つまり、移民を受け入れることでEU各国は国内で各種のトラブルを抱えているものの、経済成長の側面だけで割り切ってみるなら移民労働者に依存しているというのだ。そうなのか。
 このあたりの問題は非常に複雑だ。今、テレグラフの示唆を読みながら、EU内で低賃金の労働者が少なくても、東欧やトルコなどから十分に供給できるのではないか、つまり、アフリカからの不法移民の問題とは別ではないか、という思いもする。しかし、私がその実態を数値上で確認しているわけではない。
 テレグラフの結語はある意味では単純だ。

But a balanced approach to this sensitive subject should also acknowledge the EU's continuing need for foreign labour.

 EUは外国労働者の必要性を認めるべきだというのだ。
 私の関心はEUの状況ものだが、日本についても、"a balanced approach to this sensitive subject"、このやっかいな問題に対して中庸な解決策というのが必要になるのだろうと思う。
 そういえば、二〇〇〇年ごろ国連が日本の労働力を維持したいなら移民を大量に受け入れなさいという変なレポートを出したことがあった。すっかり日本社会は忘れているし、ネットなどを見るに、昨今は、少子化なんか問題ではない、それに見合った社会にすればいいだけだ的な議論が正論のようなふりをしてまかり通っているし、それに頷いておくのも安心といったところだろう。
 だが、現実にはEUは外人労働力を必要している。日本がそうではないという理由は私にはよくわからない。

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2005.10.14

セウタとメリリャの不法移民問題

 モロッコ内にあるスペインの飛び地、セウタ(参照)とメリリャ(参照)を目指す不法難民が九月に入ってから急増している。日本語で読める情報としては六日付の毎日新聞”不法移民:「脱アフリカ」スペイン飛び地を目指せ 暴徒化、死者も--モロッコ”(参照)が比較的詳しい。


今月3、5日にはメリリャで、計1000人以上が侵入を試み、警備官を含む200人以上が重軽傷を負った。殺到したほぼ半数が不法入国に「成功」したとみられる。EU調査団は不法移民の状況や、発砲の経緯などを調べる。一方、スペインは近く、警備隊を約500人増派する方針だ。

 不法移民がこの時期増加した直積的な理由は、「極東ブログ: スペインのご事情、EU憲法とレグラリサシオン(2005.02.27)」(参照)で触れたレグラリサシオン、つまり、不法移民への大赦によるものだ。毎日新聞記事にはなぜか言及がないが、このレグラリサシオンは当初三か月を持って終えるはずだったが、八月に再開した。これが直接的な原因と見られる。
 もちろん、遠因はアフリカ、特にサハラ以南諸国の「貧しさ」にある。ロイター”Migrants leave Morocco”(参照)やBBC”Senegal migrants 'will try again' ”(参照)などから、そうした背景の物語の一端が伺える。
 興味深いのはロイター記事のなかにある、不法移民者が数年かけてモロッコにやってきたという話で、こうした逸話からはセウタとメリリャの問題は必ずしも、昨今の問題とも言えない。
 日経”スペイン、「飛び地」で不法移民の摘発強化”(参照)では次のように背景を説明している。

 飛び地の両都市はコートジボワールやコンゴ民主共和国などサハラ以南からスペインへの難民や不法移民の抜け道となっている。スペイン政府によると、2004年には5万5000人、今年に入ってからも約1万2000人がモロッコ領との境界にある柵を乗り越えようと試みたという。

 捕まった不法移民だが一旦収容所に入れれ本国送還されることになる。この作業を行うのは当然モロッコとはいえスペインの領土なのでスペイン国家が行うのだが、送還できるのはスペインと協定のある国家に限定されるため、そうした協定が少ない現状では結局スペインが事実上引き取るしかなかった。
 しかし、昨今の事態とEU側からの強い不満もあって、対応を変えつつある。どこの国の市民であれ、モロッコから入ってきたのだからモロッコに追い出せということで、この約束は従来は空文化されていたのだが、これを活用することになった。
cover
アンダルシア
スペインの魅力が
凝縮した土地
 ところで、そもそもなぜモロッコ内にスペインの飛び地などというものがあるのかというと、歴史の背景は面白いというかめんどくさい。気になるかたは取りあえずWikipediaのセウタ(参照)やメリリャ(参照)を読まれるといいだろう。当然ながら、日本語よりも英語の説明のほうが充実している。
 戦後日本人の感覚からすると、モロッコが「返還」を求めているのだから、スペインもこの住民を撤退させればいい、くらいのものかもしれない。

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2005.10.13

組織的犯罪処罰法改正について

 私がネットを見ている範囲では、組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の改定案で、共謀罪を新設(犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)する件については、この七月ごろ少し話題になったものの、八月八日の衆議院解散により廃案となり、なんとなく話題も立ち消えた感じになっていた。が、四日に閣議決定された。
 ま、もういいよ、さっさと成立させたら、という空気なのかもしれない、というか、私もそれほど気に留めていなかった。昨日の朝日新聞社説”共謀罪法案 対象を絞って出し直せ”(参照)を読んで、ふーんと思ったくらいだ。とはいえ、昨日のラジオでもその話題があり、しばし反対意見を読み直してみた。
 まず、今回の改正についての私の意見だが、ウィーク(気弱)に賛成というものだ。つまり、そう強い信念があって支持するというものではない。支持の理由は、この件についての法務省の説明、”組織的な犯罪の共謀罪に関するQ&A”(参照)の冒頭にもあるように、平成十二年の国連総会で、国際的な組織犯罪の防止を目的とする「国際組織犯罪防止条約」がすでに採択されている以上、日本国内の法律も早急に整備すべきだろうというものだ。つまり、これは国際社会からの日本への要請なのできちんと応えるべきだし、こういう国際的な連携には横並びというか所定の理解の水準があるだろうから、国内法だけが問題というわけでもないだろうと思っている。
 とはいえ、問題があるのか。とりあえず先の朝日新聞の社説と法務省の説明と付き合わせて読み直しても、それほど問題性があるとは思えなかった。朝日新聞が指摘する一番の問題点はこういうことだろうか。


 市民団体や労働組合が「自分たちも対象にされるのではないか」と心配するのは当然だろう。
 それというのも、共謀罪の規定があいまいだからだ。「団体の活動として、犯罪を実行するための組織による遂行を共謀した者は懲役などに処する」。これが法案の骨子だ。団体には、限定がついていない。

 法務省の説明はこうだ。

すなわち,新設する「組織的な犯罪の共謀罪」では,第一に,対象犯罪が,死刑,無期又は長期4年以上の懲役又は禁錮に当たる重大な犯罪に限定されています(したがって,例えば,殺人罪,強盗罪,監禁罪等の共謀は対象になりますが,暴行罪,脅迫罪等の共謀では,本罪は成立しません)。
第二に,①団体の活動として犯罪実行のための組織により行うことを共謀した場合,又は②団体の不正権益の獲得・維持・拡大の目的で行うことを共謀した場合に限り処罰するという厳格な組織犯罪の要件(注)が課されています(したがって,例えば,団体の活動や縄張りとは無関係に,個人的に同僚や友人と犯罪実行を合意しても,本罪は成立しません)。
第三に,処罰される「共謀」は,特定の犯罪が実行される危険性のある合意が成立した場合を意味しています(したがって,単に漠然とした相談や居酒屋で意気投合した程度では,本罪は成立しません)。
(注)組織的犯罪処罰法における組織的な殺人等の加重処罰の場合と同じ要件であり,実際の組織的犯罪処罰法の組織的な殺人等の適用事例も,①暴力団構成員等による組織的な殺傷事犯,賭博事犯,②悪徳商法のような組織的詐欺事犯及び③暴力団の縄張り獲得,維持のための業務妨害,恐喝事犯等に限られています。

 比較するに一般市民には問題はないというか、メリット/デメリットを比較してメリットが高いように思われるし、日本社会でテロが勃発して被害をディスプレイし、社会ヒステリーを起こしてから泥縄式に作るよりはましではないか。
 私の考えは以上だが、ネットを眺めていて、本質的なことではないが思うことはあった。ブログなのでそのあたり雑記的に書いておきたい。
 ユーモアもあるのだろうけど、朝日新聞が反対しているから賛成したほうがいいや、みたいなリアクションもあるようだ。こういう傾向はある程度今後も進むのだろうなという感じがする。
 ネットの世界では有名なと言っていいと思うが弁護士の小倉秀夫は今回の改正に否定的な立場であったようだが、たまたまこの件の話題を取り上げたブログ”bewaad institute@kasumigaseki(2005-07-14)”(参照)のコメント欄でこういう言及を見かけた。

小倉秀夫 (2005-07-14 08:47)
共謀共同正犯とかは、刑法の教科書に書いてあることと、実際の適用というか運用というかの感覚とが大いに齟齬しているということを、弁護士は実体験として知っているので、与党議員でも、弁護士出身議員は、共謀罪については冷ややかなのではないかと思われます(「その文言で裁判所でどこまで解釈が拡張するか」ということをまず考えるところです。)。
 PCJapanは概ね2000字しか枠があたえられていないので、書ききれなかった面もあるのですが

 このあたりが反対派の胸の内ということなのかもしれない。つまり、成文法とその運用の差で危惧されることがあるのだろう。だが、そうであれば、なおさらのこと、今回の法案改正についてのシステムな問題ではないということになるだろう。
 Wikipediaの共謀罪(参照)の項目でも結語は、曖昧な印象を受けた。

結局、日本の市民がどの程度まで組織的犯罪の早期阻止を必要としており、どの程度まで自らも捜査の対象とされる危険を甘受する覚悟をしているのかという、政策選択の問題に行き着くともいえよう。

 法律的な議論がこういう結語で締められるのに、私は違和感を感じる。が、その違和感をうまく表現できないのは、「おまえさんも国家権力にしょっぴかれる可能性はあるんだぜ、『国家の罠』でも読めや」というのがある種の脅迫感を持っているからだろうし、実際のところ、市民社会のフロントにあるべき警察のあり方にそれほど信頼がもてるものでもないからだろう。生活感としても警察が現代の市民社会を守っているという実感はない。
 そうした漠然とした強権への不安と、ロンドンテロなどのテロの不安が、特異なバランスの心理作用をもたらしているのだろうし、不安と恐怖の心理ゲームがネットで増幅されるのはあまり心地よいものではない。
 もしかすると、そうした増幅のゲームは不安と恐怖に寄りすがった連帯を求めているからなのではないかとも思える。しかし、あるべきは、市民社会の側で肯定的な連帯を模索することだろう。

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2005.10.12

DJammerを出したらHPに偉いっすよと言おう

 日本版ニューズウィークの今週号(10・19)をパラッとめくって、ま、そんな感じかなっていう感じでめくり終えようとしたとき、最後のページにDJammer(ディージャマー)の写真が載っているじゃまー、である。や、やるのか。本気か、マーク! そ、そこまでして風邪に倒れたアルファーブロガーR30さんの辛辣なエールに応えようとしているのか(参照)。追伸、お大事に(参照)。
 DJammerとはなにか。開発中はジンジャーと呼ばれていた…というのは嘘だが、実際の製品名もDJammerなのか。写真はこんな感じ(ページ右下写真)。掌に収まるサイズ。QTがある人ならここ(参照)でぐりっと見ることができ、仏陀のいさめる物欲が炸裂する。
 ニューズウィークを引用するとこんな感じ。


 電子カスタネットではない。開発元のヒューレット・パッカード(カリフォルニア州)に言わせれば、手のひらに収まる未来のエレキギターか、デジタル盤ターンテーブルだ。

 な、なんだかわからない。そりゃね。じゃ、あじゃぱー、さらに♪

DJもできればジャムセッションもできて、どこへでも携帯できる革命的な楽器というわけだ。MP3プレーヤーと特殊なセンサーを内蔵しており、これを手にけて回すと、その動作をセンサーが読み取って、プレーヤーに記憶されている音楽に変化を与える。

 とりあえずハンディなDJグッズってことでもいいのだが、そう、ダンスしながらDJができるわけでもある。
 実はこの話題この春に盛り上がって、マーク・ハードCEOの活躍とともになにげに沈没していったのだが…続いていたのか。往時の話はいかにもたこにもなワイアード”DJのスクラッチングがバーチャルに”(参照)にある。が、ここではスクラッチみたいなのがメインになっていて、あのころの英語のニュースなんかでもそんな感じではあった(WMV映像)。
 で、私はというと、DJのほうにはそれほど関心はないんだけど、このDJammerというネーミングからは、強調されているDJ以外に、オールド・マッキントッシュ・ユーザーならぴくんとくるはずだけど、JAM Sessionだよねである。今では無料配布(参照)になっているみたいだけど、ほんとに笑えたというか面白かった。Super Studio Session(参照)もだが、Bogas Productionsだ(Ed Bogasは今どうしている?)。JAM Sessionはブローダーバンドから出たお子ちゃま用なんだが、SimTunes(岩井俊雄)なんかもそうだけど、音楽の楽しさってあんなもんでもいいんちゃう?
 JAM Sessionなんだが、ようするに適当にキーを叩いていると絶妙なノリでセッションに参加できてしまう。必要なのはノリというかタイミングというか。キーボードがダサイのでその後、ちゃっちーエレキギターみたいな入力装置もあったかと思うが忘れた。
cover
Mixman Studio v2.0
日本語版
 JAM Sessionをさらにリミックス的にお笑いにしたのが、いや面白くしたのが、MIXMAN。日本ではヴァージョン2までしか販売されてなかったのだっけ。これがすげー笑える。早々に専用の入力装置DM2も売り出されたんで、けっこう欲しかったのだが…(参照参照)…けっこうでかいし、まさにDJのシミュレーションすぎ。
 というわけで、わたし的にはDJammerはMIXMANのDM2を改良したっていう感じを期待している。
 でも、ミュージシャンとかは使わないのだろうなという悲観というか勝手にしろというのもある。Jeskola Buzz(参照)があってチープにテクノができるし、東欧とかロシアとかこれでけっこうごきげんなんだけど、あれですよ、日本のテクノはうるさいからなぁ、ってか、機械にこだわるし。ま、配線ごにょごにょさせてボリュームだのスライダーだのいじるのが音楽っていう楽しさもわからんではないけど。

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2005.10.11

ウーメラで超音速小型機の飛行実験が成功

 昨日十日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がオーストラリア中南部ウーメラ実験場で超音速小型機の飛行実験に成功した。私は最初BBCのニュースで知った。
 報道写真を見るとまるでロケット打ち上げみたいで、いったいどこが超音速小型機なのかという印象を与えるが、よくみるとロケットには紙飛行機みたいなというかでっかい矢尻というかコンコルドのちっちゃくてとんがったみたいのが、ロケットと一緒に二匹の雌雄の昆虫のようにつくっている。そう、それが無人実験機で、それ自体には動力はない。全長十一・五メートル、幅四・七メートル、重さ二トン。JAXAのサイト(参照)で動画が公開されているがずどーんと打ち上げる。その後、地上から二十キロメートルあたりで切り離して落ちる。というか、滑空してマッハ二となる。どうやって着陸するか? 最後はパラシュート。ちょっとトホホ感はある。
 私が最初に読んだBBC”Japan tests supersonic jet model”(参照)にはそれほど大した内容はないが、読み進めるとわかるようにコンコルドが意識されている。国内の報道はというと、私には意外だった。ボケているように思えたのだ。
 ということで見直してみると、朝日新聞”「次世代」超音速旅客機の飛行実験、宇宙機構が成功”(参照)の記事は今日付になっていて、そう悪くない。前日の”小型超音速機、飛行実験に成功 豪州で宇宙機構”を書き換えたのだろうと思うがすでにネットにないので比較しづらい。
 読売新聞”小型超音速機、飛行実験に成功…豪州で宇宙機構”(参照)はボケ記事。毎日新聞”超音速旅客機:無人機の飛行実験が成功 JAXA”(参照)もボケ。産経・共同”超音速機の実験に成功 宇宙機構、豪州ウーメラ実験場で”(参照)もボケ。ロイター”日本宇宙機構、小型超音速機の飛行実験に成功”(参照)もボケ。日経”宇宙機構の小型超音速機、15分の飛行実験に成功”(参照)がややまし。意外とサンスポ”次世代の夢のせて飛ぶ!宇宙機構、超音速機の実験に成功”(参照)がややまし。
 どこで判断したかというと、今回の実験の意義はなにかということがきちんと書かれているかという点。ボケのテンプレ(型)はこんな感じ。


JAXAは、今回の実験機が得たデータを今後のSSTの設計に生かすとともに、ジェットエンジンを使った実験機や低騒音の実験機による新たな技術開発を目指すという。

 間違いではないけど、今回の実験について触れたことにはならない。その点、朝日新聞のリライト記事はわかりやすい。

 実験機は、スーパーコンピューターにより、空気抵抗を受けにくい形状に設計された。今回のデータを解析して、設計が適切だったかどうか検証する。今後、軽量の機体材料の研究を進めるほか、エンジンを載せた実験機で飛行実験ができないか検討する。

 しかしこれもちょっと常識を働かすと、あれ?と思うはずだ。動力がなく「空気抵抗を受けにくい形状」というのは、つまりメインは矢尻のような翼のことだ(もちろん胴体もだけど)。そして、それをなぜ実験したかというと、スーパーコンピューターに依存した新設計法が有効だったかという検証が重要だったからだ。日経はやや曖昧だがこうまとめている。

機体に設置した約800個のセンサーを使って、日本が得意とするコンピューターを使った設計技術で開発した機体に対する空気抵抗など様々なデータを集めた。

 繰り返すが、今回の実験ではスーパーコンピューターに依存した翼の設計手法が問われていたというのが重要なポイントだった。そこが日本が今後売り物にできる技術だからだ。
 JAXA自身の説明はというと、わかりやすいようなわかりづらいような理科系ですね的な話にはなっているが、要点は明確になっている。”次世代超音速輸送機の研究”(参照)より。

実験の目的
(1) CFD逆問題設計法による自然層流翼設計とその実証
(2) クランクドアロー翼、エリアルール胴体、ワープ翼の設計技術の獲得
(3) 無人機による飛行実験技術の蓄積

 問われた設計法はCFD逆問題設計法(参照)である。
 ところでなんでこんな実験を日本がやっているのか。そんな意義があるのか。というとBBC報道を読むと暗黙の内に「あるよ」というのがわかるはずだ。が、それはポスト・コンコルドという文脈である。すでに日本航空宇宙工業会フランス航空宇宙工業会は今年の六がつにポスト・コンコルドの共同開発に乗り出すことで合意をしている。
 しかし、「極東ブログ: 飛行機売ります的なお話」(参照)でも少し触れたが、航空業界では運航効率のよいボーイングB7E7型機に人気が高まっており、コンコルド・タイプの高速機の市場は見えない。ヨーロッパの威信に付き合って算盤抜きというわけにはいかない。
cover
コンコルド・プロジェクト
栄光と悲劇の怪鳥を
支えた男たち
 しかも、JAXAは二〇〇三年に九年ぶりの航空科学技術分野研究の見直しでジェット機を使う実験が凍結されるまで、コンコルド的な夢をもっていた。というのも一九六九年三月に初飛行、七六年に商用が始まったコンコルドは当初から、騒音、燃費、乗り心地といった改善が求められており、これに折しも冷戦という燃料投下があり、米国などもけっこう本気だった。ちなみに米国は現在でもX43Aという極超音速実験機の技術を持っている。日本もその流れに乗り、しかもバブルはそうした反省を遅くした。
 当時の記事を読み返すと、笑える。読売新聞”夢の超音速旅客機、実験機公開 マッハ2以上、乗客300人/三菱重工”(2001.02.09)はこんな感じ。

 コンコルドを上回る速度と輸送能力を持ち、経済的で騒音もジャンボ機並みという夢の超音速旅客機の小型実験機が9日、愛知県の三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所で公開された。
 これは文部科学省の航空宇宙技術研究所が開発中の次世代超音速旅客機で、マッハ2以上で、乗客数がコンコルドの約3倍(300人)、航続距離は約2倍(1万1000キロ)、大気汚染物質の窒素酸化物の排出量は約4分の1という想定。

 ところで、今回のウーメラの実験でも実質的な主体は三菱重工だったはずだ。そのあたりのことは、私の見たかぎりでは今回の報道にはなにもなかった。

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2005.10.10

野國總管甘藷伝来四〇〇年

 野國總管甘藷伝来四〇〇年…野國總管(のぐにそうかん)という人がサツマイモ(甘藷)を日本に伝来して四〇〇年になる…ということだが、そう説明してしまうと正確でもない。野國總管は名前ではない。野國は地名で總管は役職名。野國は現在の嘉手納町、つまり沖縄の地域だが、その時代、琉球国は日本国には所属していない。總管は尚寧王時代首里王府の進貢船の管理事務を行なう役である。呼称は松(マチュー)だったらしい(下層階級の出身ではあろう)がよくわからない。さりとて名無しというのもなんなので野國總管、または總管野國と呼ぶ。名前の考察は進んではいるようだ(参照)。
 地元嘉手納では野國總管甘藷伝来四〇〇年祭を行っている。九月末から今月の一日、二日という日程であったが、台風十九号のため延期して十五日十六日になるとのこと。嘉手納町では特設ホームページまで設けている(参照)。
 サツマイモ(甘藷)の伝来がなぜ重要かというのは、案外現代日本人にはわかりづらいかもしれない。簡単な話、サツマイモは荒れ地でも効率よく澱粉の生産ができ、飢餓から民衆を救う。内地の歴史も飢餓の状況は類似しており、サツマイモ伝来の恩人として青木昆陽(参照)が有名だ。昨今の教科書では昆陽の扱いはどうなっているか見てないが、Wikipediaにあるように、甘藷先生、芋神さまと称されたようだ。
 昆陽の号からは朱子学の印象を受けるが、伊藤東涯に私淑して古学を学んだ。江戸町家の生まれで名は敦書、通称は文蔵。東涯は言うまでもなく仁斎の長子で京都に居を構えていた。昆陽はいわば留学してまで学問がしたかったのだろうし、そこに仁斎古学のヒューマニズムの血脈を感じるといいたいところだが、東涯は父のような情熱的な古学者タイプというより(仁斎は精力絶倫でもあったらしい)、『制度通』などからわかるように中国の行政などについても知見を深める博学者的な傾向がある。昆陽がサツマイモを考察した『蕃薯考』を一七三五年に著したのもそうした学統にあったからというようにも思われるし、蘭学にまで関心を伸ばしたものそうした傾向ではなかったか。
 昆陽は、享保飢饉に際し、後に誤って暴れん坊将軍と称される徳川吉宗に対して飢饉対策の救荒作物としてサツマイモ栽培を進言。小石川植物園で試作(参照)し日本に広めた。というのだが、さて、なぜそれが「薩摩芋(サツマイモ)」と呼ばれるのか。野國總管との関連はどうなのか。そのあたりがよくわからない。
 野國總管が甘藷を伝えたのは一六〇五年、青木昆陽が『蕃薯考』著したのは一七三五年とかなりの年代差がある。琉球では十分に甘藷が栽培されていた後に日本本土で甘藷栽培が始まったということなので直接の関連はないのかもしれない。
 ではなぜ「薩摩芋」か。Wikipediaの項目(参照)にはこれが対馬を経由して朝鮮に伝搬したことは記載されているが「薩摩芋」の由来はない。代わりにこうある。


別名に、甘藷(かんしょ)、唐芋(からいも)、琉球藷(りゅうきゅういも)。

 広辞苑を見ると「日本には一七世紀前半に、中国・琉球を経て九州に伝わり普及」とある。ざっと見ても、昆陽『蕃薯考』の年代とは合わない。むしろこれは、琉球での栽培が薩摩に徐々に伝搬したもので、それが吉宗行政で促進されたということかもしれない。余談だが、薩摩揚げというのも沖縄のチキアゲと同じであり、タイ料理のトートマンプラーとも同じなので、シャムと交流のあった琉球から伝来したものではないか。その他薩摩焼酎など、いろいろ薩摩の文化はより高度な琉球の文物をリメークしたものが多いように思う。
 話が余談に逸れつつあるが、吉宗と琉球文化の関係で外せないのが、『六諭衍義(りくゆえんぎ)』の存在である。六諭は明太祖朱元璋による「父母に孝順なれ、長上を恭敬せよ、郷里と和睦せよ、子孫を教訓せよ、おのおの生理に安んぜよ、非為をなすなかれ」というものだが、これを清代范鋐が注釈したのが『六諭衍義』であり、これを琉球にもたらし琉球に普及させたのが名護親方・程順則(一六六三~一七三四)であり、この後、琉球から島津を経て吉宗に献じられた。吉宗はこれに心酔し、内地的知識人の最たる白石を斥け、室鳩巣(むろきゆうそう)を登用して、湯島聖堂で講じさせ、さらに広く寺子屋の教科書とした。つまり、ぶっちゃけ、江戸の道徳文化は琉球文化から伝来した。その他、三味線だの日の丸だの琉球からどばどば内地に流れ込むのだが、あたかも昨今の朝鮮が日本文化をリアレンジしているように、日本もまた琉球文化を近代においてリアレンジしていったようだ。
 話を野國總管に戻すが、野國總管が賞讃されるのは彼の時代ではなく子孫の時代であり、おじーでーじ偉かったやっさ的に子孫がその像を造りあげたのではないか。当然、総姓世系図は残っている。「野國總管の身分とその子孫」(参照)によるとこうだ。

総姓世系図は、總管の子孫、糸満の古堅家が保存していたものであり、この系図によりますと、總管(1世)には、一男があり、この長男が位牌にある「總管嫡子與那覇碧林(法名・二世)」であります。この碧林(法名)からは、五男(三世達)の子どもたちが誕生しています。その内の一人長男は、姓与那覇と号雪庭を名乗り医術を学び首里に移住しています。この雪庭の4世・5世の代に比嘉筑登之親雲上という比嘉姓を名乗り、その6世の代に士籍の仲間入りを果たし、士族の証である譜代が与えられています。彼らの名前には、甘藷に因んだ蕃宣とか蕃常、蕃春という名が付けられています。碧林(法名・二世)の他の4男は、その父と共に郷里野国村に住み、次男は宮城姓、三男は宮平姓、四男は平良姓、五男は与那城姓を名乗っています。

 直接的に残るのは宮平姓らしい。宮平と聞くと牛乳を連想しちゃうんだけど。

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2005.10.09

ニカラグア近況

 ニカラグア情勢について国内ではあまり報道を見かけないようだが、それほど日本にとって重要な問題でもないとされているからだろう。が、海外ニュースを見ているとこのところこの話が増えてきている。端的に言えば、ニカラグアに政変危機があるというものだ。読みやすいところでは先月三十日付だがBBC”Nicaragua 'creeping coup' warning ”(参照)がある。


Nicaraguan ministers have denounced what they say is a slow-motion coup in the country, after congress stripped them of their legal immunity.

 徐々にではあるがクーデターの兆しが見えるようだ。現政権の免責特権もすでにない。
 ニカラグア情勢は特定の関心を持っている人以外には複雑と言っていいだろうし、これが英米圏で話題になる理由も歴史的な経緯があって込み入っている。そうしたこともあり、同じくBBCだが今月五日付で”Q&A: Nicaragua in crisis ”(参照)というFAQ(想定問答集)を掲載しているが、さらに基本的な情報が必要になるだろう。
 ニカラグアについて日本語で読める基本的な情報としては最近充実しつつあるWikipediaがある(参照)。が、なぜかサンディニスタのオルテガ元大統領の記載がなく、わかりづらい。Wikipediaの年表を元に簡単に補足すると近年の政情はこうなる。

  • 1979年 サンディニスタ革命 (一種の社会主義革命)
  • 1981年 米国レーガン大統領が援助を停止(反社会・共産主義政策として)
  • 1984年 総選挙でサンディニスタ(社会主義政党)によるオルテガ政権が発足。
  • 1985年 米国レーガン大統領はコントラ(反革命勢力)を自由の戦士として支援。サンディニスタ政権に経済制裁を開始 。
  • 1990年2月 大統領選挙でサンディニスタ(社会主義)政権(オルテガ)が敗退。
  • 1990年4月 国民野党連合のチャモロ(女性)政権が発足。コントラ解体。内戦が事実上終結したかに見える。
  • 1997年1月 自由同盟(中道右派連合)のアレマン政権が発足
  • 2002年1月 立憲自由党のボラーニョス政権が発足

 前回の議会選挙は二〇〇一年一一月に行われた。結果は、自由連合四十二、サンディニスタ三十六、キリスト教道党四、保守党三、国家計画二、他六とのこと。端的に、現ボラーニョス大統領派とサンディニスタ(社会主義)オルテガ元大統領派の対立が読みとれる。
 BBCのFAQでは危機の基本構造をこう説明している。

What is the origin of the crisis?
President Bolanos took office in 2002 after a landslide victory over Sandinista leader Daniel Ortega. But members of his own Liberal Party turned against him - and joined forces with former rivals the Sandinistas - angered by the government's decision to prosecute former President Arnoldo Aleman for corruption. Aleman is serving a 20-year sentence for fraud and money-laundering, but he still commands the loyalty of many of his party's legislators.

 この説明を真に受けると、ボラーニョス大統領は自派から敵対されているということで、その理由は前アレマン大統領の汚職の刑罰禁固二十年によるとのことだ。
 だが米国よりのワシントンポストは三日付”Nicaragua's Creeping Coup”(参照)で次のようにボラーニョス大統領擁護ともとれる説明をしている。

Mr. Ortega's comeback has been accomplished through a brazenly corrupt alliance with a former right-wing president, Arnoldo Aleman, who was sentenced to 20 years in prison in 2003 for looting the national treasury. Mr. Ortega's Sandinista Party supported the prosecution, then abruptly switched sides and formed a pact with Mr. Aleman against President Enrique Bolanos, a member of Mr. Aleman's Liberal Party who bravely chose to tackle government corruption. The left-right alliance has used its majority in the National Assembly to rewrite the constitution and stack the Supreme Court.

 つまり、サンディニスタも当初は前アレマン大統領の禁固刑を支持していたが、ボラーニョスが不正追及に取り組むや掌を返した。

Mr. Ortega's goal is to force Mr. Bolanos to accept his constitutional rewrite, which transfers almost all presidential powers to Congress.

 そして憲法改正し、ボラーニョス大統領の権力を議会に移そうとしている。そのあたりが緩和なクーデターと言われるあたりだが、日本のような呑気な立ち位置からはそれでもいいんじゃないのくらいにしか見えない。

It does have one thing going for it: Eighty percent of Nicaraguans say they oppose the Ortega-Aleman pact. Nicaragua's rescue will depend on people power, inside or outside the polls.

 しかし、ワシントンポストによればニカラグア国民の八〇パーセントはこのサンディニスタの陰謀的な権力闘争を支持していないという。
 事態が悪化すれば米国による干渉が始まるのだろうし、その時点でけっこうやっかいな問題ともなるだろう。しかし、現状としては日本からどうできるものでもない。

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