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2005.07.23

金持ち必ずしも健康ならず

 最初にお断り。以下のエントリは改稿しました。当初エントリでは、エストニアとポルトガルに対立するデンマークの構図を逆にしていました。改稿のきっかけとなったAsprinさん、Kagamiさん、コメントありがとうございました。
 ※ ※
 ネタの孫引きみたいな話だが、今日見たロイター・ニュースに「金持ち必ずしも健康ならず」とでもいうような見出しがあり、つい釣られて読んでしまった。ま、ビンボ人としてはそうあって欲しいような羨望感がある。
 ニュースの原題は”Wealth doesn't always predict good health”(参照)ということで、素直に訳せば、「富裕であることは健康を予期しない」というわけで、これは金持ちの子供のことかなとは想像が付く。ふとアメリカあたりの中産階級の子供のことが思い浮かぶが、ここでは詳しく立ち入らないが、実態はアメリカの子供の健康状態は向上している。
 他にニュースを見ていたら、BBCにもあった。”Wealthy kids not always healthy”(参照)。こちらは、明確に金持ちの子供とし、そんな雰囲気の写真まで付けている。
 話はというと、比較的富裕な階層の子供のほうがインスリン抵抗性が高く、よくないということだ。そこで、肥満や糖尿病になりやすそうだから健康とはいえないなという読みになるのだろう。
 ところが記事を読んでいくと、そうしたことが当てはまりそうなのは、エストニアとポルトガルで、デンマークでは逆の結果になったとある。なーんだ、よくわかってないんじゃないか。BBCの記事では、標題みたいなことを言うには、まだまだ研究が必要であるとか囲みの引用にしてあった。ネタっていうやつですね。
 ニュースのネタもとは、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)なので、ちょっくら概要でも読んでみようと探すとすぐに見つかる。”Association of socioeconomic position with insulin resistance among children from Denmark, Estonia, and Portugal: cross sectional study ”(参照)がそれだ。
 読んでみると、たかが三国の調査というより、デンマークは西欧を示唆させていることがわかる。これに対して、エストニアは東欧、ポルトガルは南欧というわけだ。
 概要を読むと、インスリン抵抗性を指標にするのだが、金持ちの子健康ならずというのは、どうも調査方法による差異と見るには大きいということが強調されている。
 同種の調査が日本でなされた場合、どうなのかちょっと気になるが、このネタについて書き進めながら、より大きな要因は遺伝子かなという印象も持つ。
 話はそれだけ。
 ついでなんで、並びのニュースの紹介。日本人にはあたりまえだけど、「日本女性の長寿一位は20年に及ぶ」”Japan's women set long life record for 20th year”(参照)という話。世界からは賞讃されていると言ってもいいのだろう。
 こちらの記事にあるが、日本女性に次ぐのは香港である。日本女性はまだしらばらく一位かなとは思うし、香港女性も高位が続けば中国の施策も悪くないと言えるのだろう。

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2005.07.22

ほいじゃ、人民元切り上げ

 昨日の人民元切り上げには驚いた。想定の範囲外かというとそれほどでもないのは、「極東ブログ: ヒューストン、何かおかしい(Houston, We have a problem)」(参照)で三月の温家宝首相による、「いつごろ発表するか、どういった方策をとるのかは不意を突くことになるだろう」という発言を受けて、こう書いたとおり。


 不意をつくというのはすごい発言だなということで、ニュースにもなったのだろう。公式な発表ではない。しかし、考えてみるに、それって不意打ち以外にはありえないのだろう。ただ、一気にどかんとくるものでもあるまい。

 今回の切り上げは、二パーセントということなので、切り上げというより微調整というか、米国向けのポーズというか、G8のお約束というか、グリーンスパン彦左衛門の諫言を聞くというかそのあたりで、日本企業もすでにシフト体制が出来ていたので、それ自体は、上期経済成長率九・五パーセントに続くお笑いかなという感じでもある。
 それでもアナウンスには不意感はあった。大方は、九月に予定されている胡錦濤主席の訪米スケジュール前の八月か、米国で小一時間の後の十月かといったところではなかったか。毎度お笑いの”「ミスター円」榊原英資・元日本大蔵省財務官”は年内切り上げはないとふかしていた。グル・ブロガー散人先生の”「人民元切り上げは年内は無い」(榊原英資)”(参照)も読みようによってはハズしたかな感はある。

 日本のエコノミストとかアナリストとかは、政治家の発言を軽視しがち。膨大な量の観測論文を読み過ぎるのか、逆にそれに惑わされてしまっていることが多い。ナショナリスティックな希望的観測がそれに加わる。要は本の読み過ぎ。国際政治情勢でもそうだが、各国政府の公式発言を丹念に継続的に分析してさえおれば、ほとんど間違うことがないのである。
 日本人には政治家の発言をハナから信用しない人が多いが、そういう風土は日本の政治家が作り上げてしまっただけで、他の国では(特に中国のような全体主義国家では)政治家が提示した原則が覆ることはほとんど無い。榊原氏の言うとおりだと思う。

 ある意味ではこれは正しいのかもしれない。中国語が極めて難しいせいもある。というのも十九日の時点で中国人民銀行(中央銀行)がこう明言しているのである。”今後も人民元レートの基本的安定維持 中国人民銀行表明”(参照)より。

 中国人民銀行(中央銀行)は19日、「今年下半期、外国為替管理体制改革を一層深め、人民元為替制度改革を段階的に推進し、人民元レートを均衡のとれた、合理的水準に基本的に安定させ、引き続き通貨と信用の安定した伸びを維持する」と表明した。
 同行は18、19の両日、支店長会議を開いた後新聞発表を行い、次のように強調した。

 と、これに続いて三点強調されているが、これはようするに日本語にすると、人民元を切り上げますよ、という意味で、それに温家宝の「不意打ち」を足せば、翌々日の夜ばい、じゃない、満月の夜というのは間違いないということだったわけで、中国語は難しい。
 今後の動向だが、榊原英資の想定の範囲内でもあり、こんなの切り上げにもなんにもなっていないので、いっそう人民元切り上げ圧力が高まり、外貨がどどっと流れ込む、そして、バブル、いやすでにバブルというのをどうするかが一番問題かなとは思う。短期・中期的には、これまでのレートで保護されていた中国農民が苦しくなり社会不安の圧力が増すことかもしれない。このあたり事実上の地方軍閥をなだめるカネは…あ、それは昨日の話。
 この関連では、あぶく銭によって深刻な中国銀行の不良債権問題がより深刻になるという読みスジもあるかと思う。最近の状況は、”主要金融機関:不良貸付比率3.95ポイント減”(参照)ということらしい。

中国銀行業監督管理委員会(CBRC、銀監会)の劉明康主席が明らかにしたところによると、全国主要金融機関の6月末時点の不良貸付残高は1.5927兆元と年初より5542.6億元減少した。不良貸付比率は10.15%で、年初より3.95ポイント下落した。14日付で香港・経済通が伝えた。

 ほんまかいなと思わず偽の大阪弁が口をついてしまうが、私には反証データはない。ちょっと前までの状況は、新華社通信ネットジャパンサイトの”4大国有銀行の現状と不良債権”(参照)によるとこんな感じだった。

中国銀行業監督管理委員会(CBRC)が05年1月18日に公表した資料によると、不良債権比率は03年末から04年末までの間に、中国銀行が16.3%から5.1%へ、中国建設銀行が9.1%から3.7%へ低下した。自己資本比率は、不良債権処理を積極的に進めたにもかかわらず、同期間に7.0%から8.6%へ、7.6%から9.4%へそれぞれ上昇している。04年末の貸倒引当率は、中国銀行が71.7%、中国建設銀行が69.9%に達し、貸倒引当金の計上も進んだ。

 ただ、ちょと面白いオチは付いていた。

しかしながらこの低下は、06年の金融市場開放や05年以降の上場を前にした経営体質を強化することを目的として、傘下の資産管理会社AMCに移管したためである。

 この時点でのチャイニーズ・マジックのタネを明かすとAMC(金融資産管理公司)ということだが、毎度ながら、「福」の字をひっくり返したような愉快な話はつきまとう。最近のニュースでは”中国、金融資産管理会社の監視を強化へ=金融時報”(参照)がある。

中国銀行業監督管理委員会(銀監会)は、不良債権を抱える銀行セクターを建て直すため、政府系の不良債権処理会社である金融資産管理会社(AMC)の監視を強化し、不正行為があった場合に担当者を罰することを明らかにした。金融時報が伝えた。


 AMCは1999年、国有商業銀行が保有する不良債権1兆4000億元(約1690億ドル)を引き継いだが、インサイダー取引や虚偽の入札などの問題を抱え、透明性が欠如していることが銀行監督当局から指摘されてきた。
 アナリストらは、中国の銀行は少なくとも2000億ドルの不良債権を抱えているとみている。

 ざっと概算すると一兆七千億元の不良債権があることになる。
 それがどのくらいの問題なのかがよくわからないし、あまり話題になっている印象は受けない。大したことない話のかなと経済に疎い私は思う。
 中国が潰れてしまうと大変なので世界の援助も進められているようだ。例えば”スイス銀:中国銀に資本参加か、資本比率は未定”(参照)といった話もある。

なお、米大手銀行のバンク・オブ・アメリカが中国の国有四大銀行の一つである中国建設銀行に資本参加することを明らかにしている。バンク・オブ・アメリカは中国建設銀行の親会社である中央匯金投資有限責任公司から25億ドル分の株式を買収、建設銀行株9%を取得する。

 二十五億ドルがどのくらいのインパクトかわからないが、方向性としてはいいんじゃないかと思う。うまく行かなければ、ホワイトバンドを真似てゴールドバンド(シリコン素材・中国製)でも作って、経済学者につけてもらって、アピールするという手もあるし。

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2005.07.21

不味そうな中国素材をどうブログ風に仕立てるか

 話は米国防総省が一九日に議会に提出した中国軍に関する年次報告書のネタだが、さてこれをブログではどう料理したものか。
 新聞の社説では読売新聞だけが扱っていた。”[中国軍事力]「『脅威』を浮き彫りにした米報告」”(参照)より。


 軍拡路線をひた走る中国の脅威を浮き彫りにする内容だ。
 米国防総省が中国軍事力に関する年次報告書を発表した。
 報告書は、「急速な軍近代化が続けば、周辺地域の確実な脅威になる」と結論づけている。昨年までにはなかった、踏み込んだ表現だ。米国の強い危機感を示す内容と言える。

 とりあえずはそうことでもある。そして大衆紙の社説としてはこんなところかなという線の話が続く。
 ニュースとしては朝日新聞”中国軍「確かな脅威」に 米国防総省が年次報告書”(参照)が一見詳しい。

公表されている05年の国防予算は299億ドル(約3兆3800億円)だが、実際には2~3倍で、最大900億ドルにものぼるとして、軍事費の透明性の欠如を批判した。
 報告書は、中国軍が台湾の対岸に短距離弾道ミサイル650~730基を配備し、年間100基のペースで増強していると指摘。その上で「中国の経済成長、外交上の影響力の拡大、軍事力の増強などによって、台湾海峡をはさんだ(中台の)軍事均衡は中国に傾きつつある」と警告。

 読んでいてあれれ?と思った。ヌケがある。読売新聞記事”中国軍事費は公表の2~3倍、周辺脅威に…米国防総省”(参照)では明記されている。

 軍事力の近代化では、特に空海軍力について詳細に報告。このうち、台湾対岸に配備している短距離弾道ミサイルは、650~730基に達すると明記。昨年の報告書で指摘した「500基以上」を大きく上回り、年間100基以上の増強で、射程や精度の向上も図られているとした。
 また、短距離弾道ミサイルは移動式だと指摘し、ミサイル戦力の残存能力が高まった点に注目している。

 単純な話、核弾頭ミサイルとかあっても、移動式でなければ、最初に叩いてしまえばいい。問題は、それができなくなったので、逆に中国が台湾を叩ける状態になったということでもある。それと、今後図に乗って、米国本土を移動式ミサイルや原潜で射程におさめることができるかということでもある。
 そこまでするかなぁ、中国がという印象はある。エリートたちがそんな儲けにもならない突っ走りをするだろうか。ただ、大衆的な意識はどこの国でも同じだが、突っ走るものだ。ちょっとひどいことを言うと、中国人にしてみると日本人はもともと東洋鬼と蔑視の対象であり(このあたり朝鮮も真似っ子)、かつての連合国幻想で反日構図では親米的な素振りを見せる。だけど、日本の敗戦から中国が学ぶべきは黄色人種というものへの白人の強烈な敵意だと思うのだがな。
 いずれにせよ、台湾の軍事バランス上、米国も対処が必要になり、愚かしい結果になると思うのだが、案外、冷戦時の対ソ戦略を考えると、米国としては長期的にはソ連型の自滅へ中国を誘導したいのかもしれない。
 今回の報告書発表の一連で、いくつか変わった流れがあった。まず、中国がけっこうメディア戦略に乗り出してきていること。日経”中国、米に異例の抗議・国防総省報告に反発”(参照)からも伺える。

中国の楊外務次官は20日、米国のセドニー臨時代理大使を外務省に呼び、中国軍の近代化に警告を発した米国防総省の報告書について抗議した。


中国外務省は同日、ウェブサイトで抗議内容を詳細に紹介した。新華社や華僑向け通信社の中国新聞社も速報した。

 問題は、しかし、そうしたぐぐればわかる程度の表層的な情報戦略ではなく、ロビー活動のほうだろう。中国の台頭につれて米議会へのロビーが活発になってきている。対日本の場合は、窓口がちょっととろいのでしばらくしてからなんかキャンペーンが始まるのではないか。ちなみに、こんなしょぼいブログにも宣撫班的な活動が出てくる気配も感じる。
 もう一点は、ロビー活動にも関連しているが、今回の報告書は国防総省と国務省でもめたようだ。そのあたりは中国様寄りの朝日新聞”中国軍は「脅威」か 報告書巡り米政府内で攻防”(参照)が詳しい。もっとも。ライスの訪中の時期を避けたというのが遅れた最大の理由ではあろうが。
 さて、このネタをどうブログ風に仕立てるか、と。
 中国問題の基本は内紛である。中国人がなんでそんなに権力闘争が好きなのかは博打好きと同じで国民性かもしれないしそうでもないのかもしれない。システム的には他に政治のシステムを持ってないという根本的な後進性ではあろう。が、いずれにせよ、軍部を完全に掌握しているとは思えない胡錦濤側としては、カネをやるしかないでしょ的状況があるだろう。基本構図としては資本主義からずっこけた部分の人々への国家的な福利というか依怙贔屓ドブ捨て投資でもあるのだろう。つまり、実際にはあまり戦略的な軍事投資にはまだ現状なってないのではないか。
 それと、これも中国問題の基本であるが、まずは脅せ脅せである。最近は上海人まで脅しているようだ。稚拙な戦略のようだが、けっこう台湾にも効いてきているようなので、この路線で行けと。このあたりの脅しは、日本にも向けられてきているのだが、私としては、台湾人も日本人もそんな脅しに最終的には乗らないと思う。そのくらいのキ※タマはあるが、問題はそれに見合う狡猾さがあるかなぁ。
 ってなところでいかが。

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2005.07.20

李玖の死を悼む

 李玖(イ・ク)が亡くなった。享年七十三。哀悼の意を表したい。
 亡くなったのは十六日で、死因は急性心不全とされたようだ。看取った者はなかった。場所は赤坂プリンスホテルだった。日本の国法上は変死にあたるので、昨日日本の警察が手続き上司法解剖した。
 李玖は日本で暮らし、従姉妹の梨本さんの世話を受けていた。彼女が十八日に李玖を訪問し、その遺体を発見したとのことだ。
 李玖は、李氏朝鮮最後の皇太子、英親(ヨンチン)王(1897-1970)李垠(イ・ウン と日本の皇族、李方子(りまさこ/イ・パンジャ)(1901-1989)の次男である。
 明治四十三(1910)年、通称日韓併合後、李垠は朝鮮の王世子(皇太子)となった。李王家は王公族として日本の皇族に準じる待遇を受けた。敬称は殿下であり、実際は皇族と見なされたし、それを日本人に知らしめる必要もあった。

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日韓皇室秘話 李方子妃

⇒文庫「李方子妃」
 母李方子は、明治三十四(1901)年、梨本宮守正王と伊都子妃の長女として生まれ、当時の皇太子裕仁親王(昭和天皇)のお妃候補として世間を騒がせたこともある。香淳皇后はいとこになる。
 李垠と婚約したのは大正五年のこと。当時の読売新聞(1916.8.3)は、「李王世子の御慶事。梨本宮方子女王殿下との御婚約 李王家と竹の園生の御連絡の御栄えめでたく」と記した。年代を見ればわかるように彼女が十四歳のときである。彼女自身、自らの婚約を新聞報道で知って驚いたとも伝えられている。言うまでもなく、政略結婚である。「内鮮一体」が当時の日本国の国是であった。王家もそれに従わなくてはならなかった。貞明皇后は「お国のためですから」と慰めたという。
 大正十年(1921)、李玖の兄、つまり第一王子、晋が生まれた。翌年、李垠夫妻は嬰児を連れ母国朝鮮に帰るが、再度日本に向かうおり、急逝した。一歳に満たなかった。死因は急性消化不良と診断されているが、毒殺説がある。誰が毒殺したかについてはこのエントリでは考察しない。
 李玖が生まれたのは、昭和六(1931)年の東京である。晋亡きあと、王家の世嫡は玖のみとなった。日本国は李玖を朝鮮王家の皇太子と認めた。教育は母と同じく学習院で受けた。
 昭和二十年日本の敗戦により日本の朝鮮統治は終止符を打った。当時、李方子は日本の敗戦を夫君のために喜んだと伝えられている。読売新聞”日朝融和の政略結婚の李方子さん逝く”(1989.5.2)より。

 日本敗戦の日、東京で玉音放送を聞く。李垠(イ・ウン)殿下との結婚から二十六年目だった。「殿下、おめでとうございます。こう申し上げましたが、殿下は沈痛な面持ちで」。後に本紙記者のインタビューに答えている
 夫妻の心は無論、十分に通じ合っていた。日本敗戦は祖国・朝鮮の解放、独立につながる。が、両国のはざまでどう生きるか。祖国喪失の身で、タケノコ生活の苦難も味わうことになる

 皇太子李垠の鎮痛な表情はきっと当時十四歳の少年李玖にも生涯忘れ得ぬものであっただろう。李垠は朝鮮の王たるべく自らの国に帰ることはできなかった。米国の傀儡李承晩によってその帰国を妨げられた。李垠が故国に戻り、歴史ある国として朝鮮が王政復古すれば、李承晩の地位が危うくなる。そしてそれを避けることは米国の意図でもあったと思う。
 終戦時の朝鮮のようすについては、「極東ブログ: 終戦記念日という神話」(参照)でも書いたので参考にして欲しい。私はこう書いた。

 米軍は、朝鮮に主権が発生することを抑制し、朝鮮への支配をそのまま日本から譲渡するという形態を取りたかったようだ。米軍には、38度線で朝鮮半島を分割する、対ソ連の思惑もからんでいたのだろう。

 米国は朝鮮に国民国家の礼節の規範となる王家を復興させる機会を与えなかった。
 李玖の死を伝える朝鮮日報”朝鮮最後の皇太子が寂しい死 東京のホテルで心臓麻痺で”(参照)は、その後の李玖についてこう記す。

 日本で近代教育を受けた李玖氏は14歳で光復(韓国の独立)を迎えたが、帰国することはできなかった。執権者たちは、皇世孫の帰国を喜ばなかったからだ。
 李玖氏に手を差し伸べたのは、日本占領軍司令部のマッカーサー司令部だった。1950年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)建築科に留学し、卒業後ニューヨークの建築設計事務所に勤務した李氏は、5年年上のジュリア女史と出会い、1958年10月、ニューヨークの教会で結婚した。

 「李玖氏に手を差し伸べた」という表現がまさに現代の韓国なのだろうか。
 李玖の父、李垠は昭和三十五(1960)年梗塞に倒れるものの一命を取り留めた。意識は十分には戻らなかった。李承晩退陣後の昭和三十八(1963)年、朴正熙大統領の計らいで李垠夫妻は帰国を果し、李方子は完全に韓国に帰化した。夫、李垠はその後昭和四十五(1970)年に日本で亡くなっている。
 その後の李玖だが、先の朝鮮日報によればこうだ。

 李承晩(イ・スンマン)政権が崩壊した後、1963年に朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の助けで帰国した李玖氏は、母の李方子女史と一緒に昌徳宮(チャンドククン)・楽善斎(ナクソンジェ)に住んだ。ソウル大や延世大などで建築工学を講義をし、会社を経営したりもした。
 1979年に経営する会社が倒産し、李玖氏は「金を工面しに行く」と故国を離れ、日本に留まった。その渦中でジュリア女史との離婚(1982年)や、母の李方子女史の死(1989年)を経験し、その後は日本の女占い師と暮らした。

 日本の女占い師あたりの詳細を次週の週刊新潮にでも期待したいところだが、離婚の理由については、中央日報”大韓帝国最後の皇世孫・李玖氏が死去”(参照)ではこう説明している。

 故人は63年に、病床の両親、夫人とともに帰国し、昌徳宮(チャンドックン)内の楽善斉(ナクソンジェ)で起居した。しかし、70年に英親王が死去し、77年に夫人と別居した後、事業の失敗などで再び日本に戻った故人は、宗親から、子どもを産めなかった夫人との離婚を勧められ、82年に離婚した。故人は、89年に母親・李方子まで亡くなった後、宗親会などの勧誘を受け入れ、96年に永久帰国し事業を展開したりもしたが、失敗し、再び渡日、東京渋谷の小さなマンションで暮らしていた。

 別居後の離婚ということなので、「宗親から、子どもを産めなかった夫人との離婚を勧められ」ということが離婚の第一の理由というのでもないだろう。
 この説明に「宗親」とあるが、これは沖縄の門中である。沖縄の門中を知る人間なら、この説明に別のトーンを読むだろう。以前田村高廣が演じたNHKの番組だったかと思うが、在日二世という設定だったか、中年になった男が祖先の国韓国に行ったら、親族の長老からもまるで王様のようなもてなしを受けたという話だった。日本人にわかりやすい比喩とすれば、現在の皇太子のような扱いにも近いものだろう。
 宗親の核たる正嫡がなければ親族は崩壊するといってもいいくらいなので、宗親はこの問題に強固になるものだ、と言いたいところだが、現在の韓国の状態については私はよく知らない。
 朝鮮日報は李玖と宗親の関係についてこう説明する。

 そして李玖氏は1996年11月、「永久帰国」した。宗親会(一族の会)の総裁として実務も行い、宗廟(朝鮮王朝時代の歴代の王や、王妃の位牌を祭るところ)で開かれる大祭も主管した。当時、李玖氏は「私はもはや、王家と関係がない、個人、李玖に過ぎない」と常に語っていた。

 そして、これにこう続く。

 だが、李玖氏の「永久帰国」は長く続かなかった。神経衰弱も患っていた李玖氏は、故国の地に完全に適応することができず、日本と韓国を行き来して、日本の地で最期を迎えた。

 韓国側のニュースによると、李玖は神経衰弱を患い日本で日本人の女占い師と暮らして死んだということなのだろう。そしてそれは一面では事実ではあるのかもしれない。
 李玖の母、李方子は、一九八九年四月三十日、韓国・ソウル特別市鍾路区昌徳宮・楽善斎の居宅で亡くなった。死因は静脈瘤出血だった。享年八十七。李玖が喪主となった。日本では旧令に従い韓国皇太子妃として執行された。遺体は夫の墓所、京畿道ビ金市金谷里・英園に合葬された。
 李方子は、韓国帰化後は、知的障害児、肢体不自由児の援護活動に取り組み、知的障害児施設「明暉園」と知的障害養護学校「慈恵学校」を設立し、その運営に尽力した。
 方子は死の前年、社会福祉事業の資金作りのための来日中に倒れ、宮内庁病院に二か月ほど入院した。
 あのとき、私は彼女に、日本で死ぬわけにはいかないという気迫のようなものを感じた。

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2005.07.19

錬金術師ニュートン

 古ネタにして、たるいネタ。ちょっとネットを見るとあらかたニュース・サイトでは消えていたが、日刊スポーツの七月四日付けで残っていた。”ニュートン自筆の錬金術覚書見つかる”(参照)である。


 ロイター通信によると、近代科学の祖と言われる英国のアイザック・ニュートンの錬金術に関する自筆の覚書が、英王立協会でこのほど見つかった。
 この覚書はもともと、ニュートンが亡くなった1727年に発見されたが、1936年に競売で落札されて以降、行方が分からなくなっていた。今回、研究者が同協会で文献を整理中に発見した。

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錬金術師ニュートン
ヤヌス的天才の肖像
 というわけで、新発見というものでもない。ニュートンが晩年錬金術に凝っていたことは現代ではよく知られている。このあたりの話は、「錬金術師ニュートン―ヤヌス的天才の肖像」に詳しいのだが、なんせこの本は高い。これこそ図書館とかに入れてもらいたいものだと思う。「ぬい針だんなとまち針おくさん」なんか一つの図書館に三十五冊も公金で買わなくてもいいからさ。
 ニュートンと錬金術の関わりについては、現代ではあらかた、上記のドブスの本に尽きている印象もあり、つまり、科学者ニュートンと頭のいかれたニュートンという二面性というより、ある種統一された何者かであったのだろう。それがなんであったかというのは、すでにあるパラダイムの定着した現代ではわかりづらくなっている。しかし、ドブスの考察に引きずられてしまうのだが、ニュートンにとって、物質を構成するもの間に働く力の解明という問題意識はまさにその錬金術的な研究に継承されており、その意味では「プリンキピア」の意味論といった意味合いもあるだろう。
 余談だが、ニュートンは光学にも関心を持っていた。光や色というものも、現代ではただ電磁波の周波数としてしか特定されないのだが、なぜ「赤」という色が「赤」なのかという理由は答えることができないようになっている。一昨日、はてなでこんな質問が出ていた(参照)。

赤い色が何故「赤く」見えるのか教えてください。赤色が波長700nmに対応していることは知っています。そういうことではなくて、私が知りたいのは、700nmの光が、何故、青や緑ではなく、この「赤」という色に見えるのかということです。ずっと疑問に思っているので、納得のいく答えにはできる限りポイントを出します。できれば難しいURLではなく、わかりやすい説明文でお願いします。

 このエントリ執筆時点でこの質問には各種の回答が寄せられているが、質問の核心には触れていないような印象を受ける。この問題は私も若いころ考えたことがあるが、やはり一種の神秘論のようなものに行き着かざるをえないように思う。もちろん、そうした私の思考はすでに現代の科学的なパラダイムからずっこけているのだが、人間の思惟にはそういう特性はあるのだろう。
 元のニュースに戻ってだが、今回の文献は再発見ではあるが、新発見ではない。なので、それほどの重要性はないのだろうとも思うが、海外の報道を見ていて、少し考えることはあった。たぶんこれが各種ニュースのネタ元になるロイターの記事ではないかと思うが、”Found! Isaac Newton's lost notes”(参照)にはこうある。

The text was written in English in his own handwriting, but it is not easy to decipher.

At the time, alchemists tended to record their methods and theories in symbols and codes so others couldn't understand.


 というわけで、まだこれらの文書が十分には解明されていないようではある。もちろん、そのあたりも写本なりがあるだろうから研究には影響しないかもしれないとも言えないこともないが、やはり原典は重要だろう。
 ただ、人類の未来においてというか、科学の発展というか、そうした流れのなかで、ニュートンの残した錬金術文書の解読っていうのはどんな意義があるのだろうか。たぶん、なんの意義もないというようにも思えるし、そのあたりが、「ふーん」といった程度の話題にしかならないのだろう。
 恥ずかしながら、私は若い頃西洋神秘学に関心を持ったことがあり、そうした文脈でいうなら、錬金術とは魂の成長の技術の暗喩であると言えないこともない。しかし、あと数十年たらずしか生存しそうもない自分の魂にどんな成長を期待するものでもないなぁ、という脱力感はある。

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2005.07.18

中国のちょっとわけのわからないフカシについて

 さてこの手のフカシはスルーするのがいいのかもしれない、と少しためらうものがあるのだが、内容が内容だけに、核の恐怖を歴史に知る国民としては言及しないわけにはいかないだろう。中国の愚かな軍人朱成虎が核兵器使用の可能性を公言した。日本国内の平和勢力はきちんと抗議すべきだろう。
 話は読売新聞”台湾軍事介入なら米を核攻撃の用意…中国軍幹部が発言”(参照)がわかりやすい。


 15日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国人民解放軍の朱成虎・国防大学教授(少将)は、外国人記者との会見で、米国が台湾に関する紛争に軍事介入するなら中国は米国に対し核攻撃する用意があると語った。北京発の特派員電で伝えた。
 これによると、同教授は個人的な見方とした上で、「米国が中国の領土にミサイルや誘導弾を発射すれば、われわれは核兵器で対応しなければならないだろう」と発言。さらに、「中国は西安(陝西省)以東の全都市の破壊に備える」とする一方で、「米国は数百の都市が破壊されることに備えねばならないだろう」と述べた。

 この先、「ただ、同紙によると、台湾問題に関連した核兵器の使用に言及したのは朱教授が初めてではない」という言及もあるのだが、率直なところ、「英紙フィナンシャル・タイムズによると」というのは、ニュースというよりブログだと思う。読売新聞も中国総局で出すのだから、二次ソースではなく、ちょっと独自取材をしてはどうだろうか。
 おソースは? というと、”Top Chinese general warns US over attack
”(参照)である。記事は改訂されているのだが、以前のはもうちょっと洒落ぽっかったように記憶している。
 中国様のお小姓である朝日新聞はスルーを決め込まず、火消しにまわったかに見える。”米が台湾に軍事介入なら「核使用も」 中国軍高官が発言”(参照)がそれだ。

さらに朱院長は「台湾は中国の安全にとってがんであり、治療が必要だ。我々は世界のどの国も攻撃する意図はないし、米国の軍事力に挑戦するつもりもない。ただ、米国が(統一を)妨害した場合には備えている」と述べた。

 そのあたりを強調してみせるのはあまり芸がないなという印象だが、朝日新聞記事の問題はむしろその冒頭にある。

 中国人民解放軍の朱成虎・国防大学防務学院長(少将)は14日、北京で外国記者団に対し、台湾情勢をめぐって米国が軍事介入するなら、中国が米国に対し、核攻撃をする用意がある、と語った。

 冒頭こう書かれている。嘘とはいえないのだが、記事内容は先のフィナンシャルタイムズと同じなので、フィナンシャルタイムズを伏せているのは、おソースに近いものを隠蔽したいのだろうか、このインターネットの時代に。それにしても、朝日新聞はちゃんと中国様とのチャネルがあるのだから、火消し記事の取材でもすればいいのだが、しない。なぜなのだろう。
 ちなみに、この問題は、朝日新聞社内に髷も知らない日本通オーニシを抱えるほどのお友達であるニューヨーク・タイムズも記事にしているが、フィナンシャルタイムズの言及はない。ま、それは当然だろうが、朝日新聞が同じ立場に立つっていうものではないだろう。ニューヨーク・タイムズの記事は”Chinese General Threatens Use of A-Bombs if U.S. Intrudes”(参照)である。記事の注にもあるように、ニューヨーク・タイムズのオリジナルというより、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの記者によるものだ。
 少し余談だが、米国の中国叩きは、ラムちゃんの軍事扇動はさておくとすれば、議会のなかでは民主党のほうがきつい。共和党側はユノカル問題でも、ええんでないの的な雰囲気が漂っている。このあたりは、今後さらにある種のねじれ感を強めていくのかもしれない。つまり、リベラル=反中国、保守=親中国、という構図も深まるかもしれない、ということ。
 さて、中国ばか軍人のアナウンスだが、米国は脊髄反射はしてない。ま、礼儀として、「おめーばか?」的なコメントは出している。ニューヨーク・タイムズ”U.S. Rebukes Chinese General for His Threat of Nuclear Arms Use”(参照)がそのあたり、でマコーマック報道官の洒落がよろしい、曰く"The remarks from that one individual are unfortunate."と。補足すると「個人の意見なんてありえねー中国で個人のおばかな見解が公式アナウンスされてしまうなんて、なーんて不幸な事態なんだ」ってなこと。
 英国はこの件で、BBCが早々にネタじゃーんという感じでそれなりにふかしている。”China general warns US on Taiwan ”(参照)がそのあたり。

Major General Zhu Chenghu is not directly involved in China's military strategy, but these comments could add to tensions with the US.

 というわけで、「祭でつか?」をたきつけているふうでもあるが、米国は現状では乗ってこない。というか、米国のこの問題についての関心者の腰の据わりようはただものではないので、フカシには反応するわけもない。
 反応しているのはどこかというと、Google Newsを眺めると、オーストラリアあたりだ。へぇという印象を私はもった。ちょっと印象でいうのだが、オーストラリアは中国問題について米国並みに、腰を据えつつある、ある種の移行期間にあるのかもしれない。
 さて、中国様だが、なぜこの時期に物騒なフカシをこいた理由は田中康夫的に言うと那辺に有り乎、ってなものだが、これがイマイチわからない。ちょっと鎮火に動いているふうでもある。BBC”China plays down nuclear 'threat' ”(参照)では、祭不発感がちょっと漂う。
 時期的にみると、男はやっぱり顔でしょ的な無力感漂う台湾の中国国民党の主席選挙があるのかもしれない。予想通り、本省人王金平が破れ、外省人馬英九が出てきた。党内選挙なんでどってこないべと見るむきもあるだろうが、今の台湾のへたれた流れでいけば、次期総統は馬英九という流れになり、事実上台湾問題は終わる。
 中国としてもそのホクホクの流れが読めないわけでもないのに、人民解放軍朱成虎少将にフカシをさせているのはなぜか?というのが問題でもある。案外、中国様お得意の世界の空気が読めないというだけかもしれない。そのあたりのボケ感が陰謀論を阻止する最大の要因でもある。

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2005.07.17

アスベスト問題を巡って

 アスベスト被害の問題が急速にメディアで取り上げられるようになった。被害者救済という点ではよいことなのだろうと思う。C型肝炎の問題でもそうだったが、識者は現状や予想について警鐘も鳴らしていたのだろうが、それが一般の社会問題に取り上げられるに至るには、なにか別の経路を取ることもある。今回のアスベスト騒ぎでもそのあたりが気になっていたのだが、ざっと見た限り、特に気にすべきこともなさそうだ。
 米国では二〇〇二年十二月に、米油田開発サービスのハリバートン社が、アスベスト被害について、従業員が中心となって起こした訴訟で、四〇億ドル(約四千八四〇億円当時)で和解している。この時点で、日本国内の産業衛生学会もアスベスト問題の研究を発表していた。この時期、損害保険大手も内部で保障費用の概算をしていた。が、特にその後日本で話題になるわけでもなかった。この問題は極東ブログでも扱っていないのだが、当時は私もあまり関心を持っていなかったのが正直なところで、どうにもならないのではないかという印象を持っていたと思う。
 昨今のアスベスト被害ニュースの発端は、クボタのアナウンスによるところが大きいようだ。元のソースはインターネットで公開されている”アスベスト(石綿)健康被害に関する当社の取り組みについて”(参照)だろう。


平成17年6月30日
株式会社 クボタ

 現在、社会的問題となっているアスベスト(石綿)疾病の治療法は未だ確立されていません。また、石綿疾病と石綿暴露との因果関係においてなお不明な点が多く、かつ労災給付による場合を除いて石綿疾病に罹患した時の社会的救済措置が無いのが現状です。
 当社は長年に亘り、石綿含有製品を製造してきた企業としての社会的責任を明確にするという観点から下記取組みを行っております。


 アナウンスでは「社会的責任」が強調されているが、社内ではかなり問題を詰めての発表だったのだろう。
 アナウンス中、「石綿疾病に罹患した時の社会的救済措置が無いのが現状」とあるが、石綿疾病については、一番重要なのは悪性胸膜中皮腫、つまり肺がん、と言っていいだろう。
 話が前後するが、企業が「社会的責任」としてこの問題に向き合うようになり、恐らくその結果(なのだろうか疑問は残るが)、国も新しい動きを取るようになったのは、よいこととは言えるだろうし、大きな流れの一環だろう。時期的にはハリバートン訴訟が大きな影響を持ったのではないかとも思う。
 というのは、かつてはそうではなかった。話が前後してしまうのだが、アスベスト訴訟が米国で沸き起こったのは、むしろ一九八〇年代のことで、PL法との関連もあった。これが元で企業倒産も出た。八九年には集団訴訟の七割を占めるに至った。
 しかし、米国動向の影響ではないかと思うが、国内で八八年七月にアスベスト被害で訴訟を起こした通称「横須賀じん肺訴訟」は、和解に至るまで九年近い歳月を要した。三億五千二百万円の損害賠償であったが、一九九七年四月、一億四百万円で和解した。同種の訴訟としては、国に対して起こした米軍基地じん肺訴訟がある。
 国内の対応は及び腰であり、ジャーナリズム的にも「じん肺訴訟」という呼称でアスベストが強調されているわけでもない。しかし、これからはアスベストが前面に出るだろうし、また、被害者も万単位に増えるだろう。国政としても向き合っていくしかない問題になったと見てよさそうだ。
 クボタのアナウンスに戻るが、「アスベスト(石綿)疾病の治療法は未だ確立されていません」とあり、それは正確な表現ではあるのだが、これには少し裏というか悪い裏ではないが背景的な含みがある。アリムタ(参照)である。
 アリムタ(ペメトレキセド)は、昨年二月に米国食品医薬品局(FDA)が悪性胸膜中皮腫への治療薬として承認した。臨床成績は、Wikiを借りると、「シスプラチンの単独投与222名の平均生存期間が9.3ヶ月なのに対し、シスプラチン+アリムタ投与の226名では平均生存期間は12.1ヶ月であった」とのことで、有益な薬剤ではあるように思われる。「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」のサイトでは、”アスベストについて- 悪性胸膜中皮腫の新しい治療薬”(参照)としてこう見ている。

開発当初は副作用による死亡者もあったようですが、葉酸とビタミンB12の併用により解消され、抗ガン剤としての副作用は白血球減少や嘔吐等が10~28%程度の人に認められています。この治療の2年以上の生存者の比率は悪性胸膜中皮腫の方の全体の2割以下ですので、病気を「治す」薬と考える事は現段階では早計です。この薬単独投与と支持療法(緩和ケア)のみとの比較試験で、生存期間の延長が確認されれば、今後の標準的治療になりうる治療薬が登場した事になり、多くの方にとり朗報となる可能性がある薬だと思います。

 国も承認の動きがあるようで、ブログを見渡すと治験のようすも伺える。また、”抗がん剤併用療法に関する検討会 第6回議事要旨”(参照)などでも検討されているようすがわかる。
 あと、あまりこうした問題で不用意な情報を記載するのもいけないのかもしれないが、極東ブログではちょこちょこと言及することもあるCOX-2選択的阻害薬だが、中皮腫に有益の可能性を示唆する研究も出てきている。

【参考】


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