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2005.06.25

くじらバーガーの伝言ゲーム

 くじらバーガーが国際的な話題になりそうな気配がある。予想したとおりだなと思った。
 欧米のニュースをブラウジングしているうちにそう思ったのだった。私はこのところRSSの環境を少し変え、はてなブックマークと連動させているうちに、ニュースに目を通す量が増えたので、くじらバーガーといった話についても以前より見渡せるようになった。なんだろと思ってこの報道について眺めているうちに、ちょっと気になることがあった。はっきりとした追跡というわけではないが、情報の流れ方とその影響について、僅かながらも示唆になればいいと思うので、簡単に記録しておきたい。
 現状の問題の気配を端的に示すには、共同”「くじらバーガー」を非難 英国の動物保護団体”(参照)がわかりやすいだろう。事実としては、24日、ロンドンに拠点を置くWSPA(世界動物保護協会)が、北海道函館市のファストフードチェーン「ラッキーピエロ」がミンククジラの肉をベースにした「くじらバーガー」を発売したことに対して、「腹立たしい悪趣味な宣伝行為にすぎない」と強く非難する声明を出したということ。WSPAがそう言い出すのはどうという話でもないのだが、この先が興味深い。


声明は、国際捕鯨委員会(IWC)総会で日本の調査捕鯨拡大計画への反対決議が可決されたのと同じ週にこのバーガーが売り出された点を指摘。「(日本が主張する)調査捕鯨は、鯨肉が結果的に食材として消費されており、その内実は商業捕鯨にすぎない」と批判した。

 つまり、野蛮な日本人はやっぱり鯨を食べたいために捕鯨をやっているのだ、という政治主張にしたいというわけだ。ありがちといえばありがちの曲解でもあるが、そのこと自体は毎度おきまりの陳腐な議論にしかならない。
 私が問題にしたいのは、どうして、WSPAがこのささやかなローカル・ニュースに着目したのかという点だ。
 時系列で見る。国内の「くじらバーガー」報道で簡単に確認できるのは、20日付け共同”くじらバーガーを発売へ 北海道のファストフードチェーン店”(参照)がある。ここでは表面的には好意的なトーンで結んである。

函館はかつての捕鯨基地。王社長は「最近はホエールウオッチングでクジラを見る機会が多いが、鯨食文化も大切にしたい」と話している。

 同記事について、間違っているとも報道姿勢がいけないというのでもないが、次の指摘にはちょっと複雑な印象を持つ。

調査捕鯨で捕ったミンククジラの肉を使用。高温で竜田揚げにし、軟らかく仕上げた。肉を納入する共同船舶(東京)によると、捕獲を禁止されていない小型クジラを使ったハンバーガーはあるが、ミンククジラの肉では初めてという。

 記者の心理はどうだったのだろうか。
 次いで、21日付けだが、当地北海道新聞”ミンククジラ肉のハンバーガー 全国初、函館で23日発売開始”(参照)がある。こちらの記事にもミンククジラの肉についての言及はあるものの試食会の取材が濃く出ている。
 同じく21日付で、朝日新聞の地方の話題として”鯨食復活応援「くじらバーガー」/函館”(参照)が出るが、ミンククジラの肉についての言及はない。むしろ私には重要な情報だと思えるのだが、「10店舗で1日限定20個」ということが明記されている。同記事では、このくじらバーガーが利用者の応募によるものであり、しかも、「ジンギスカンバーガー」に次いだものであることも明記されている。よい記事だと思う。むしろ、先行した共同の視点に生活感がないことが対比される。
 さて、こうしたニュースをWSPAはどうやって入手したのだろうか。共同のベタ的な記事からと考えてもいいだろう。そして、その記事がソースだとすると、当然、現地の生活感覚や具体的な状況については抜け落ちたのもしかたがない。
 しかし、どうやら、国際ニュースの流れを見ていると、欧米では、英文毎日新聞の次の記事が着目されていたようだ。22日付"Hokkaido chain to sell whale burgers"(参照)である。

HAKODATE, Hokkaido -- Lucky Pierrot, a hamburger restaurant chain active mostly in Hokkaido, will begin selling whale burgers on Thursday.

Whale and lamb burgers were the two most popular choices of fillings in a contest held by the Silk Road Group, which owns Lucky Pierrot.


 毎日新聞の和文の元記事はどれだろうか。ざっと見ると写真も同一であることから22日付”雑記帳:羊と鯨のバーガー新発売 函館”(参照)かなとも思うのだが、英文と比べるとわかるように単純な翻訳ではない。
 この英文毎日記事はすぐに欧米に注目され、主要ニュースとして私のRSSにひっかかってきた。そして、それを追うように各種のニュースが出た。"Whale burger"でGoogle Newsを検索し、このニュースについての最古の状況をみるとそのあたりが如実にわかる(参照)。ご覧のとおり、一番下の最古のものが英文毎日であり、そこから伝搬していく状態がわかる。

Whale burger on menu at Japanese fast food chain
Reuters.uk, UK - Jun 23, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger ...

Want fries with that whale burger?
CNN - Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling program, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger. ...

Whaleburger on menu at Japanese fast food chain

Stuff.co.nz, New Zealand - Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts - whale burger ...

Whale
burger on menu at Japanese fast food chain

Ninemsn, Australia - Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger ...

Whale
burger on the menu at fast food chain

SABC News, South Africa - Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts - whale burger ...

Want fries with that

CNN International - Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling program, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger. ...

Hokkaido chain to sell whale burgers

Mainichi Daily News, Japan - Jun 21, 2005
... choice. The idea for the whale burger was put forward by Toshihiro Okawa, 37, an employee of a whale meat sales company in Tokyo. ...

 UPIなどは、具体的にニュースソースを毎日新聞と明記している(参照)。

Asia-Pacific News
Whale burgers go on sale in Japan
Jun 22, 2005, 11:19 GMT

HOKKAIDO, Japan (UPI) -- Japan`s hamburger restaurant chain Lucky Pierrot, active mostly in Hokkaido, will begin selling whale burgers Thursday, the Mainichi Shimbun reported Wednesday.


 こんなニュースを英文で流すなよと言いたいわけではない。が、現実的に流れた結果は端的に言えばジャパンバッシングの類と言っていいだろう。以下のショットはThe Age(参照)で、写真はロイターのものだが、これを見て日本人への悪意を感じない日本人はどのくらいいるだろうか。


写真のキャプション:A Japanese woman tucks into a whale burger.
 

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2005.06.24

おばあちゃん細胞が発見された

 最新「ネイチャー」の記事が欧米の報道でけっこう話題になっていた。国内ではまだ見かけないようだが、いずれにせよ、遠からず日本版「ネイチャー」で読むことができるのだろうから、簡単に触れるだけにしたい。
 報道バージョンはいろいろあるが、ロザンゼルス・タイムスに掲載された”Study Shows How the Brain Recalls What Turns It On”(参照)が読みやすいように思う。リードに”Small groups of cells are found to use abstract memories to recognize specific objects.”とあるが、拙い訳だが、「特定対象を識別する抽象的な記憶のために利用される少数の細胞が存在することがわかった」ということ。簡単に言うと、人間の記憶のメカニズムにはいろいろな仮説があったが、今回の研究では、特定記憶に特化された僅かな細胞が実体として存在することがわかった、というのだ。これは、この分野に関心を持つ人なら「おばあちゃん細胞(A Grandma Cell)」といった名称で知っている仮説でもあるのだが、その裏付けになる。やっかみだと思われてもなんだが、クオリアみたいなぼけぼけ概念は必要としないという話でもある。
 ネイチャーの見出し(参照)ではこう書いてある。


神経科学:友達用とおばあちゃん用は別
How do neurons in the brain represent movie stars, famous buildings and other familiar objects? Rare recordings from single neurons in the human brain provide a fresh perspective on the question.

 発見のきっかけは、映画俳優の写真を使った実験だったので、おもしろ半分な報道ではそこが強調されがちでもある。この傾向の出所はネイチャー自身でもあるだろう。”Jennifer Aniston strikes a nerve”(参照)というふざけた標題の記事がネーチャーのサイトにある。
 というわけで、面白いには面白い話だし、背景を含めて関心のある人は、「人間がサルやコンピューターと違うホントの理由―脳・意識・知能の正体に科学が迫る」など読まれるといいだろう。
cover
人間がサルやコンピューターと
違うホントの理由
脳・意識・知能の正体に
科学が迫る
 私自身は、これは基本的には情動を伴った記憶の領域なので、現在のパラダイムで実体論的に展開するのはどうかと思うが、脳とかについて哲学めかした折衷的な議論などよりはより科学的ではないかと思う。科学は科学、哲学は哲学。その融合は要らないよという感じだ。
 話はそれだけなのだが、報道バージョンのなかでは、今回の知見が所謂認知症の改善にも関わるようなトーンも受け止めた。そういえば、このところ、街中で、認知症の老人ではないかという人に出くわすことが多い。じわじわと身近なところで日本の光景が変わっているようにも思う。
 そういえば、週刊文春や週刊新潮なども、なんだか、レトロな写真が多くなったが、年寄りにとってある種の記憶を強く喚起する映像メッセージはそれ自体で価値があるのだろうしその価値は今後より高まるのだろう。話がだらけきってしまったが、もしかすると、ヨン様ブームとか擬似的なレトロもそうした流れにあるのかもしれない。ま、考えようによっては、このあたり、ビッグビジネスの予感てやつかも。

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2005.06.23

行け、行け、中国海洋石油!

 行け、行け、中国海洋石油(CNOOC)! 川口浩隊長と共に未知なる世界に大金もって突撃。BGMは当然、中国人お気に入りの「軍艦マーチ」(参照)。というわけで、”中国海洋石油、米ユノカルへの買収案提示を最終決定=関係筋”(参照)ということになりました。すっかりその気のようです。
 昨晩までは”米ユノカルに対する買収提案、役員会は最終決定しておらず=中国海洋石油幹部”(参照)ということだったので、そういうあたりで落ち着くというのもありかとも思ったけど。別分野でもあるけど”中国国際コンテナ:憶測報道に対して反論”(参照)という一幕もあったりしたし、”極東ブログ: すごいぞ、中国国際ビジネス”(参照)ということでもあるし。
 と、中国人の熱気に当てられたもののこのエントリの話はごくしょぼく、備忘メモみたいなものとしたい。わけわかんないし。
 時系列で。ユノカルといえば春暁ガス田(参照)。昨年の秋の時点では、今年中に年二五億立方メートルで生産を開始し海底パイプラインで中国東部にガスを供給するという話もあった。
 が、”東シナ海の中国ガス田 欧米2社が開発撤退 「境界問題」で日本に配慮か”(読売2004.9.30 )が報じるように、ユノカルは引いた。


日本が東シナ海の排他的経済水域(EEZ)の境界として主張している「日中中間線」近くで中国が進める天然ガス田(春暁ガス田群)の開発に関して、プロジェクトに参加していた英・オランダ系石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルと、米石油大手のユノカルは二十九日、天然ガスの開発プロジェクトへの参加を打ち切ると発表した。


二社は昨年八月、中国国有会社の中国海洋石油総公司、中国石油化工集団公司と、春暁ガス田群の探鉱、開発、販売などの契約を結び、一年間の評価・分析の後に本格参入するかどうかを決めることにしていた。

 パイプライン計画の一部は進んでいたようでもある。
 ユノカルが引いた理由は採算性らしい(「商業的理由」だそうだ)のだが、よくわかっていない。中国国務院側も外資との協調が重要だとしていたふうでもある(陰謀もあったかも)。
 なんだろねと思っているうちに”中国企業、米石油大手の買収検討 海洋探査・採掘技術獲得へ”(読売2004.9.30 )という話になってきた。ユノカルがやらないならユノカル買っちゃうよと中国様。

英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙アジア版は七日、中国の国有石油大手、中国海洋石油が130億ドル(約1兆3600億円)以上を投じ、米石油大手ユノカルを買収することを検討していると報じた。


 FT紙によると、中国海洋石油はユノカルを買収後、米国内の事業は売却し、海外事業を傘下に収める方向で検討中という。アジアでの権益や海洋探査・採掘技術などの獲得が狙いとみられる。

 蛇足ながら、春暁ガス田群だけが中国様の眼中にあるわけでもない。そうこうしていると、”米石油大手シェブロンのユノカル買収 M&Aで資源量拡大狙う”(読売2005.4.6)という、よくある話かなとなってきた。

米石油2位のシェブロン・テキサコが、9位のユノカルを買収するのは、時間がかかり、リスクも大きい新たな油田・ガス田の開発より、資源量の拡大や地域基盤の多様化を一気に実現できる買収の方が得策と判断したためだ。

 シェブロン・テキサコが東アジアにどういう関心を持っているのかわからない。が、そのあたりで落ち着くといいのだけど、中国様すっかり本気という流れで、米国様の一部もちょっと本気になりかけ。”中国海洋石油のユノカル買収提案報道で、米議員が政府に調査要求=WSJ”(ロイター2005.6.20)。

中国石油大手、中国海洋石油(CNOOC)<0883.HK>が米石油大手ユノカルに買収提案する、と報じられていることをめぐり、米議会の共和党議員2人が、ブッシュ政権に差し止めも視野に置いた調査を要請した。米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙が19日、伝えた。
 CNOOCは、米メジャー(国際石油資本)のシェブロンテキサコに対抗してユノカルに買収提案しようとしている、と報道されている。

 しかし、それってどうよとツッコミ。”中国海洋石油のユノカル買収案、米議会は干渉すべきでない=エクソン”(ロイター2005.6.22)。

 米石油大手エクソンモービルのレイモンド会長兼最高経営責任者(CEO)はロイター・エネルギー・サミットで、中国国営の中国海洋石油(CNOOC)<0883.HK>による米石油大手ユノカル買収案に米議会が干渉するのは、「大きな誤りだ」との見解を示した。

 かくして冒頭の流れになってきた。
 流れを見ていると、中国お得意の中国内部の軋轢がありそうでもある。
 一般論的に見れば、産経系”中国企業による米企業買収が活発化 中国海洋石油→ユノカルなど ”(参照)のように資源を求めてということでもあるのだろう。マネーゲームとすればちょっと信じがたい手のようにも見える。

英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」によると、同社のユノカル買収方針は、中国経済の急成長を維持するために、原油などのエネルギー資源を確保しようとする中国政府の政策に沿ったもの。原油価格が高騰し、今後、原油需給が逼迫(ひつぱく)するとの見通しを受けた動きとみられている。

 そうなのかちょっと疑問も残るが、同記事では私にはちょっと意外な話もあった。中国は北米のオイルサンドにまで手を出していたのかということ。

すでに、同社を含めた中国の石油大手3社が今年4月以降、相次いで大量の重質原油の埋蔵が見込まれるカナダのオイルサンド事業への参入を決めており、中国のエネルギー政策は、国内外を問わず、原油・天然ガスの確保を最優先課題としている。

 ある意味でよく知られていることだが、米国はいざとなれば、自国からまだまだ原油を汲み出すことはできる。問題は技術とコストであり、つまりは、コストということだ。しかし、中国様はさすがは社会主義国だけあってコストを考えないのか?

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2005.06.22

原油高騰とロシア周りの雑駁な話

 原油高騰とロシア周りの話。今朝のラジオでもふれていた。そういえば、このところのこの関連の動向で心に残っていることがいくつかあるので、このあたりをメモしておいてもいいかもしれない。例によって間違いも多いかもしれないし、きちんと資料に当たってまとめるべき内容ではあるのだけどごく簡単に。
 まず、基本。ロシアの現在の原油生産は八〇〇万バレル強となり、すでにサウジに匹敵している。ロシアとサウジの二国だけで世界の原油の二〇%になる。この構造が世界にどういう影響をもたらしているのかというだけで大きな課題ではあるのだが、簡単には議論ができない。総じて見れば、地政学的リスクはロシアのほうが少ない。しかも、ロシアはOPECからもIEAからもフリーな王様でもある。
 サウジとロシアに着目して、近未来的に今後はどうなるかだが、まずサウジがよくわからない。「極東ブログ: 原油高騰の背後にある石油枯渇の与太話」(参照)でふれたように、全体像から見ればサウジについては近未来での原油枯渇という問題は言われているほどにはないにせよ、現状すでに高水圧で汲み出すほどなので現行の油田にはそろそろ無理があるようだ。当然、新規の油田開発などが必要になるのだろうが、そのあたりの動きが見えない。この問題は精製の問題とも関連しているのであとで少し触れるかも。
 ロシアのほうも現行の西シベリアの油田は老朽化している。サウジほどの潜在的な問題はもってないのかもしれないのだが、この機に新油田の開発を行う必要性があるだろうし、もともとロシアでは20ドル程度の採算ラインがこのところ50ドルという高騰でウハウハに外貨を貯め込み、少し前なら不可能と思えた海外債務返済も前倒しで進んでいる。
 しかしこのまま好調に進むわけでもないようだ。れいによってロシアにイヤミ入りの産経系”原油落ち込み露経済減速、成長見通し5.5%に下方修正(FujiSankei Business i. 2005/6/20)”(参照)のようにロシアの原油生産の劣化が目立ちつつある。
 で、ロシアも新油田開発となるのだが、そこもどう動くのかがよく見えてこない。輸送という面でのパイプライン側の話で見れば、日本が大きく関与しているのだがそのあたりは、ちょうど一年前に書いた「極東ブログ: 宣戦布告なき石油戦争の当事者は日本と中国」(参照)や「極東ブログ: ユコス国有化が暗示するロシアの大望」(参照)でもふれた。後者の欧米からのロシアへの厳しい視線も今後の火種にはなるだろうが。
 その後のこの分野の動向なのだが、私などから見ると、日本はなにやってんだという状況でもあり、そのあたりの苛立ちもあってか、ロシアは中国とインドをウラジオストックに呼び出して結果的に日本に痛烈なメッセージを発しているが、日本はわかってなさげ。いずれ、中国体勢はどうころんでもあれだけの人間が生きて行かなくてならないのだから、石油の潜在的なニーズはある。問題はロシアがそこでどう商売していくかということだが、日本が傍観できるわけもないだろうに。
 ロシアの極東のパイプライン問題や天然ガスのサハリンプロジェクトなど、つい極東という観点から考えがちだが、地球儀を上から見るとわかるように、これらのロシアのエネルギー戦略は北米も視野に入っている。対応する形で、米国もなんらかの戦略はもっているのだろうが、そこもあまり見えてこない。
 話をロシアの西側に移すと、端的に言えば、ロシアとしてはエネルギーという強力なカードでいざというときにEUを締め上げてやれということはあるだろうし、先月末にできたロシアをスルーするBTC(アゼルバイジャン・バクー、グルジア・トビリシ、トルコ・ジェイハン)パイプラインももとはいえば、対ソ連・そして対ロシアの一環でもあったことだろう。具体的には、英BP(British Petroleum)などの企業連合に日本も加わっていたが米国の旧世界戦略でもあった。
 現状、西側諸国はまだその枠組みにいるし、追米ポチ日本もそこにぼけっといるのだが、このあたりが今後どういう意味を持つのかあまりに微妙。長期的な原油ニーズから見た世界経済の今後の発展は、やはり中国やインドにあるのは明らかだし。
 米国としてはBTCパイプラインは原油の中東依存をさけるメリットもあるだろうが、この地域の中央アジア諸国にヘンテコな幻想が広まる原因にもなりかねないし、すでにやばい兆候が多い。ちょっと気になるだが、いわゆる「不安定な弧」というのはついインド洋側から見やすいのだが、これは中央アジアを含めた地域でもあるので、パキスタンやイランといった地域もそちらに強く関連している。もろやばい。
 ロシアの新規油田開発がそうした意味で、いよいよクリティカルな問題でもあるのだろう。
 現行の原油高騰でロシアの内政もうまく行っているかというと、そうでもない。ロシア市民にしてみるとガソリンは高値だし、経済全体もインフレ(10%)の状態にあるし、旧共産党系の老人の保護というか貧困層をどう扱うかはイデオロギー的なくすぶりにもなている。
 もう一つのクリティカルな問題は石油の精製問題だ。ロシア国内での石油の流通にこれが噛んでいるだろうこともだが、国際市場においても、そこがボトルネックになっている。サウジなども、現在の原油価格高騰は米国の石油精製能力の問題だといきり立っているが一理はある。なぜメジャーは動かないのか。理由は、それだけのインセンティブというかメリットがないだけだろう。
 中東に新規油田を開発するための原油の高騰ラインは80ドルというふうに記憶している。そのあたりまで高騰て高止まりしないと開発の機運はないだろうし、精製についても同様なのではないか。陰謀論を撒く意図はないが、メジャーとしては現在の状態を馬鹿げた投機と見ているとしていいように思う。
 ただ、その間、サウジもだが、OPECもジリ貧に弱くはなっていくのだろう。今回のOPECの五〇万バレル増産アナウンスも闇生産の追認ですかという冗談にしかならなかった。
 日本の立ち位置についてはすでにふれた部分以外でいうと、やはり80ドルくらいまでけっこう平気な状態であり、石油精製能力の優位はあるだろう。あまり奇矯な意見を述べる気はないが、冷戦とも違った奇妙な持久戦の時代にはなっているだろうし、中長期的には日本はかなり有利だろうとは思う。ただ、対露政策はもうちょっとなんとかならないのだろうか。

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2005.06.21

オゾン層の変化で台風(ハリケーン)経路が観測できる

 小ネタの類なのでさらっと。話は二週間前、米国時間で八日付のNASA (National Aeronautics and Space Administration)のニュースに、”Ozone Levels Drop When Hurricanes Are Strengthening(ハリケーンが強化されるときオゾン・レベルが落ちる)”(参照)という話があった。標題は正確なのだがあまり一般に関心をひくものではない。同じネタでもサイエンス・ライターが書いた”Surprise New Technique Improves Hurricane Tracking”(参照)のほうが注目しやすいだろうし、話も読みやすい。こちらの標題を意訳すると、「意外な最新技術がハリケーン進路計測の精度を高める」になる。日本の状況で言うなら、ハリケーンは台風と言い換えてもいいだろう。発生する場所の違いだけの熱帯低気圧なのだし。
 話は、宇宙から観測したオゾン濃度によって台風の進路計測が可能になりそうということだ。研究はフロリダ州立大学のXiaolei ZouとYonghui Wuという、名前から察するに中国人の学者が発表したものだ。一二個のハリケーンについてその目の移動とオゾン層の状況について見ていったところ、その経路に関係が見られたというのだ(参照・図)。特にハリケーンの目の位置ではオゾン濃度が高まりその周りの濃度は低下する。イメージでいうと、あれだ、シャブシャブ鍋みたいな感じ。
 一般的な補足だが、台風やハリケーンというのは対流圏の現象だが、オゾン層は成層圏まである。なので、実際のハリケーン時に、特徴あるオゾンの濃度分布で見極めることが可能になるなら確かに衛星から観測しやすい。
 さらに今回の研究では、ハリケーンの発生についてもオゾンに着目することで観測精度を高めることができるのでは、としている。従来なら雲が覆って見にくい状況でもオゾン濃度は計測できる。
 今回の発見で台風観測の精度が向上すれば、それについで経路予想の精度の向上も期待できるだろう。

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2005.06.20

イラン大統領選挙雑感

 イラン大統領選挙について簡単に触れておきたい。一七日に実施された選挙では、七人の候補者のいずれもが当選条件の投票総数の過半数に達しなかったため、上位二位のラフサンジャニ前大統領(穏健派)と現テヘラン市長アフマディネジャド(最高指導者ハメネイ師に近い強硬派)が二四日に決戦投票で争うことになった。
 一七日の投票では、投票率は62%(前回は67%)。CNN日本”イラン大統領選、決選投票へ”(参照)によると、ラフサンジャニ616万票に対してアフマディネジャド571万票ということなので、これだけ見れば、ラフサンジャニが有利かと思えるが、他候補が消えた現在、それほどの差とも思えず、どちらが大統領になるのかは予想が付かない。
 欧米の論調では、今となってはやや滑稽な感もあるが、一二日付けロイター”イラン大統領選、モイーン元高等教育相が支持率2位に”(参照)のように、改革派のモイーン元高等教育相への期待もあった。とはいえ、Newsweek日本版6・22”改革派なき改革選挙”で断言されているように、モイーンが勝つ見込みなどあるわけもない。
 なのに、毎日新聞”モイーン氏「ボイコット」克服できず”(参照)ではやはりモイーンに注目したお話を展開していた。もちろん、論点は、モイーンよりボイコットに移さざるをえない。


改革派支持層が大挙して保守強硬派に票を投じたとは考えにくく、多くの改革派支持層が投票をボイコットしたのは確実だ。
 モイーン氏を支えたハタミ大統領の実弟でイスラム・イラン参加戦線のレザ・ハタミ党首は毎日新聞に対し、「真のライバルは他候補ではなくボイコットだ」と語っていた。選挙結果は「ボイコット」というライバルを克服できなかったことを示している。
 また、ラフサンジャニ氏を支持した市民の多くが「実行力」を投票の基準に挙げており、改革の成果を思うように上げられなかったハタミ大統領に対する失望感は想像以上に大きく、改革派支持層からラフサンジャニ氏に流れた票もあったとみられる。

 その読みはどうなんだろうか。その読みが正しければ、決戦投票ではラフサンジャニに目が出てくるということになる。そうなるだろうか。確かに、一七日の選挙での非強硬派の票が固まれば、ラフサンジャニが勝つ可能性は高い。
 とはいえ、ラフサンジャニが勝って大統領に返り咲いても、それによって改革が進むわけでもないのは、現在のハタミ大統領の無力状態でもわかる。
 イラン国民の状況についても、大衆はある種の政治的な無気力感に覆われているだろうし、若者は特にそうだろう。マイルドに改革を希望していても、それが実現できないという挫折感は強硬派に吸収されるだろうし、米国が表面的にいきり立ってもその動向を進めるだけだろう。
 先のNewsweekでは、「誰が選挙で勝ったとしても、イランは変化への道をたどってる」として、緩やかながらにも改革は進むのだろうとしている。
 私もそれに同意したいのだが、できない。現行の斬新的な変化では、ある決定的な変化をもたらすことはできないのだから、その閾値は奇妙な逆転を誘発する可能性のほうが高いようにも思われる。むしろ、危険なのはイランの内部ではなく…とつい考えてしまう。

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2005.06.19

先週実施されたイタリアの国民投票

 また先週のニュースから。一二、一三日の二日間、イタリアで人工授精と体外受精の自由化の是非を問う国民投票が実施されたものの、投票率は約26%と少なく、投票自体が無効になった。
 日本国内でこの報道がなかったわけではないけど、それほど注目されなかったように見える。「どうせこういう結果になるでしょ」と見越したものだったからかというと、違うのかもしれない。十日付け毎日新聞”人工授精:イタリアで自由化の国民投票 賛否両論で物議”(参照)では、結語を「カトリック教会対リベラル派の構図となった投票の行方に、注目は集まるばかりだ。」として奇妙に浮いた熱気を感じさせて微笑ましかった。確かに、26%の投票率については、実際にはイタリア国民が関心がないというより、カトリックが今回の国民投票を実質的に阻止させたという意味もあり、それも「投票の行方」ではあった。
 今回の国民投票の背景は、昨年二月成立の生殖補助法へのリベラル派の反発がある。同法では、人工授精と体外受精を不妊夫婦にのみに認め、精子・卵子の第三者提供、代理母、ヒト胚凍結保存実験研究などを禁じた。
 リベラル派はなんとか国民投票実施にまでは漕ぎ着けたものの、ボスキャラ、新教皇ベネディクト十六世はこの動向に批判的な立場を明らかにし、カトリックとしては実質的にこの国民投票のボイコットを勧めたとされている。
 欧米のメディアでの受け止め方としては、やはり、カトリックの勝利でしょうとしている。ある意味でプレーンな報道であるAPも”Vatican Gets Victory in Italian Referendum ”(参照)としてカトリック勝利を強調していた。
 リベラル派といえば米国での受け止めかたはどうかというと、ニューヨーク・タイムズ”Italian Vote to Ease Fertility Law Fails for Want of Voters ”(参照)もさらっとした印象を受けた。が、読んでいて、私が共感したのは、むしろ、国民投票というありかたへのコメントだった。


But even amid the polarization, there were voices on both sides that said problems in the law could possibly be worked out in Parliament, rather than in an emotional referendum and expensive advertising campaign.

 個人的な印象でもあるのだが、極東ブログを続けながら、国民投票(referendum)とか拒否権(veto)とか、以前より重要なものに思えてきている。ある意味で、referendumというのはvetoで国家の最終的な依拠ではないだろうか。沖縄で暮らしているときにちょうど県民投票があり私も一票を投じたのだが、あれは海外ではreferendumとして報道されていた。それが事実上本土側で無視されたのだが、本来ならその無視はそのまま沖縄の独立につながるものかもしれないとも当時は思った。少し話が逸れてきたが、referendumとvetoは国家サイズにも関連するのかもしれない。もう一点、余談だが、ドイツではreferendumそのものが禁止されているという意味で、事実上これが禁止されている日本と同じくキャストレーションでもあったのだろう。いずれにせよ、イタリアでの今回の国民投票はなにか国家の適正サイズとマターの点での錯誤は感じられる。
 偶然だろうが、イタリアの生殖補助法に対する国民投票後が一段落した十六日日本国内では着床前診断(受精卵診断)による出産が報道された。ベタ記事ともいえないが、ブログなどネットを見回してみるとそれほど関心を呼んでいるふうではない。私もブログを書く側におり、ミュージック・バトンといったブログコミュニティの末端にもいるせいか、ブログ界の情報に流れされがちだが、そこではある種の情報のレーティングは奇妙なほど軽い。
 このニュースの一例には共同”着床前診断で3人が出産 流産予防目的は初 ”(参照)がある。「流産予防目的は初」という表現に微妙な含みがあるが、記事ではあまり展開されていない。

 受精卵診断は命の選別につながるとの批判があることから、日本産科婦人科学会は重度の筋ジストロフィーの診断が目的で学会が承認した場合を除き、認めていない。大谷院長は承認を得ないまま実施しており、論議を呼びそうだ。

 論議がどこで呼ばれているのか気になるところでもある。
 着床前診断については同記事には簡単な解説がある。

受精卵診断(着床前診断) 体外受精卵が4-8個に分裂した段階で1-2個の細胞を取り出し、染色体や遺伝子の異常を調べる。異常がない受精卵を体内に戻し、妊娠、出産につなげる狙い。遺伝病の回避から男女産み分けまで幅広い応用が可能。日本産科婦人科学会は実施に厳しい制限を設けており、承認を得たのは慶応大の1件のみで、名古屋市立大学が学会に申請を予定している。

 公式には日本では一例先例があるということでもあるのだろう。私の記憶では海外では千例を越えているはずだ。
 この先に減胎手術の問題も関連しているのだが、うまく考えがまとまらない。まとまる見込みもないかもしれないが。

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