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2005.12.01

辺境、辺獄、リンボ

 あんた、このままだと地獄に落ちるわよ、と言われたことはない。自分はそこまで悪人ではないような気がするが、さて天国となるとおぼつかない。しかたない煩悩凡夫も弥陀にすがって倶会一処の望み…さて…世間相場ならぬ来世の相場を考えるに、私のような者は地獄でも天国でもなければ、辺境、いや辺獄、いやリンボということだろうか。
 であれば、ソクラテスにもディオゲネスにも会える。会ってみると意外に腋が臭いとかだったりするかもしれないが(特にこのふたり)。私もギリシアに半月ほどいただけで山羊とオリーブばっか食っていたら…いや問題は腋臭ではない。リンボだ。忙しい所だ…リンボ…。
 カトリックの権威、つまり神の代理人の権威をもって、秘蹟の一つである洗礼を受けぬ、善でもなく悪でもない魂は(俺とか)、ゆえに天国にも地獄にも行かずリンボに行く。ラテン語で端っこということだ。われ正路を失ひ、人生の四十八歳にあたりてとある暗き侮露愚のなかにありき。ダンテは歌う(参照)。


我等は一の貴き城のほとりにつけり、
 七重の高壘これを圍み、
 一の美しき流れそのまはりをかたむ
我等これを渡ること堅き土に異ならず、
 我は七の門を過ぎて聖の群とともに入り、
 緑新しき牧場にいたれば
こゝには眼緩かにして重く、
 姿に大いなる權威をあらはし、
 云ふことまれに聲うるはしき民ありき 


衆皆かれを仰ぎ衆皆かれを崇む、
 われまたこゝに群にさきだちて彼にいとちかき
 ソクラーテとプラートネを見き

cover
ダンテ神曲
永井豪
 嗚呼、七重の高壘、そは、羅馬の教育科目たりし三文(文法、修辭、論理)四數(音樂、算術、幾何、天文)をあらはせるなり。Gram. loquitur, Dia. vera docet, Rhet. verba colorat. Mus. cadit, Ar. numerat, Geo. ponderat, Ast. colit astra. なに? 知らぬ? 「極東ブログ: 教養について」(参照)を読めてば。
 というわけで我が一定住処ぞかしたるリンボであるが、これが無くなってしまうというのだ。民営化するわけでもないらしい。ロイターによると”ローマ法王に「辺獄」の教義からの削除を要請へ=国際神学委”(参照)こうだ。

国際神学委員会は、「辺獄」の教えをカトリック教義から削除するようローマ法王に要請する。イタリアのメディアが伝えた。


 死去7カ月前の昨年10月、前ローマ法王のヨハネ・パウロ2世は、この教えについて、「より論理的かつ啓発的な」表現を考えるよう同委員会に提案していた。

 というわけで、ヨハネ・パウロ二世の願いでもあったのかもしれないが、その当時の国際神学委員会長は現ローマ教皇ベネディクト十六世でもあった。我が任という思いはあったのかもしれない。
 リンボが無くなると私のような者の居所がなくなってしまうので大変なニュースなのだがあまり日本では話題になっていないので、西洋人の世界を覗くと、やっぱ大問題じゃん。右のテレグラフ”Now it's the turn of limbo to be cast into oblivion”(参照)も左のガーディアン”Babies to be freed from limbo”(参照)も大きく扱っているということだが、テレグラフのこのタイトル、シェークスピアのパロディかで私のごとくおちゃらけっぽいが、ガーディアンのほうはこの問題の核心をずばり言うわよっぽい。そ、赤ん坊。ガーディアンの記事ではこう。

Limbo was concocted in the 13th century as a solution to the theological conundrum of what happened to babies who died before they were christened.

 いや、テレグラフの記事ではもっとずばり胎児…。

Catholics also believe that because fertilised ovum and aborted foetuses have human souls they, too, go to limbo.

 というわけで、ぶっちゃけを想像するに、この幼き魂のリンボの住民はみなデフォで天国入りというわけで、現在世界の状況を考えるにそこに力点を置きたいということではないか。
 それと今後はカトリックは南米やアフリカに伸びていくことからも、こうした教義の変更がなにか重要なのではないか。
 よくわからないが、自分としては、地獄はちょっと嫌かも。

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コメント

インフェルノ- SF地獄篇 (1)創元推理文庫
ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488654037/250-6706175-5761822
学生の頃面白く読んだ。主人公の無神論者のSF作家はリンボに堕ちるんだけど、あんまり退屈なんで地獄の中心に向かって進んでいくんです。というわけで現代人にとってリンボはなくても大丈夫みたいですよ。最後には救済されたし。ちなみに主人公はSF大会で座ってた窓枠から墜ちて死んじゃったんだけど、1個連隊程のSF作家でももとに戻せなかったみたいです。

投稿: nabe | 2005.12.02 12:41

Limbo Dance も語源がここから来ているのでしょうか?

投稿: CHIROKIS | 2005.12.02 15:15

はじめまして。勝手ながらこの記事をトラックバックさせていただきました。情報の少ない中で書いているので見当外れの事も書いてしまうかも知れませんが、御容赦下さい。

投稿: | 2005.12.07 02:20

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» 辺獄の消滅~異邦人の行方~1 [学徒雑記]
いつも見ている極東ブログというブログに結構前だが興味深いエントリがあった。なんでもカトリックの言うところの「辺獄(リンボ)」がなくなるらしいですよ、という内容だった。詳しくはトラックバックを参照にされたい。少し気になって関連する記事などを検索してみたが、エントリにもあったように日本ではそこまで大きく扱われていない。なので、現在本当にバティカンが辺獄をなくしたのかどうかなどを確認することは出来ない。ここでは勝手に自分の考えを述べたいと思う。もっとも情報が少な過ぎて判断の着かないことが多過... [続きを読む]

受信: 2005.12.07 02:06

» 辺獄の消滅~異邦人の行方~2 [学徒雑記]
キリストの支配に入らないいわば中間層の者を「天国」(「煉獄」もここに含む。「煉獄」にいるものは、罪さえ償えば「天国」にいくことが約束されているからである)か「地獄」に行くかを決めることはバティカンのその中間層(洗礼を受けずに亡くなった嬰児・異邦人)の者に対する態度を決めるに等しいのである。  それ以前に、バティカンが「辺獄」の存在を消すという方針を固めた段階で、これからバティカンは厳格な二元論をこれから採っていくということを内外に示したことになる。問題は、その二元論で今までキリストの支配に属さなかっ... [続きを読む]

受信: 2005.12.09 00:11

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