« [書評]老人と棕櫚の木(林秀彦) | トップページ | 純喫茶をめぐって »

2005.12.17

みずほ証券によるジェイコム株の誤発注問題は「美しくない」

 みずほ証券によるジェイコム株の誤発注問題についてブログに特に書くこともないかなと思っていたのだが、世相のログ(記録)でもあり、また昨今の新聞社説などを読むに違和感もあるので、簡単に書いておこう。
 違和感が一番強いのは、与謝野馨金融・経済財政担当相の「美しくない」発言への反発だ。私は与謝野の感性と発言が、とりあえずまっとうなものだと思っている。「とりあえず」と留保した部分については後述する。反発の典型例は昨日の毎日新聞社説”利益返上 「美しい」株取引って何だ?”(参照)などがよいだろうか。


 先回りして大もうけすることは、証券会社にとって美徳のはずだ。しかし、それが「美しくない」と言われてしまった。別に美しくなりたいとは思ってはいないだろうが、風向きをよむのも時には必要だとして、もうけをはき出すことにした。

 私も下品な文章を書く品性の劣った人間だが、新聞社説がかくまで下品な切り出しをするとはあきれた。私の感性では、証券会社というのは一義に株取引を適性に円滑に行うことで社会に寄与することであり、取引の儲けとはその株によって産業が興隆することにある。マネーゲームが美徳だと抜かす神経がわからん。ということで読み進めるに…。

 しかし、「美しくない」のは、今回に限ったことではない。株式分割を繰り返して株式時価総額を膨らませ、さらに時間外取引でニッポン放送の買収を仕掛けたライブドアや、転換社債を通じて阪神電鉄株を大量取得した村上ファンドの行動も、違法ではないものの、美しいとはいえない。

 というくだりでブッチ切れ。それとこれとは話が違うだろと、つぶやいたものの、さて、ぶくまのコメントで終わるならそれもまたよしだが、普通に言うには補足が必要だろう。というあたりで少し雑感を補足する。
 今回の事件の直接の発端は言うまでもなく、みずほ証券のおばか、である。余談だが、昨日の朝日新聞社説”利益返上 「美しさ」と危うさと”(参照)はみずほ証券を「みずほ」と略しているが、みずほの本体の証券屋はインベスターズのほうである。私が塩漬け鮭を預けている証券屋でもある。

 事の起こりは株数と金額を逆に注文したみずほのお粗末さにある。東証の取引システムにも不備があり、誤りを救済できなかった。
 そのすきをついて他の証券会社が一瞬にして巨額の利益を得た。そのことに国民は驚き、メディアも大きく報道した。
 みずほが出した売り注文は、対象銘柄の株式総数の42倍に達する。いくら生き馬の目を抜く株式市場であっても、明らかな間違いに乗じた証券会社への反発がひろがった。

 みずほ証券なんだから略して「みずほ」だよってな言い分もあるだろうか。だが、インベスターズがあるのだから、こんな省略するもんじゃないし、そのことで悪意すら臭う。しかし、無知で荒っぽい社説を書き飛ばしているとすれば、一面のトバシと同じで劣化の構図ではないのか。
 話を戻す。みずほ証券の今回の失態は、おばかという言葉が正確に使えるような事態であるが、人間というのはおばかなものなので、私も片鱗システム屋でもあったことがあるので言うのだが、システム屋というのはそうしたヒューマンエラーを想定しなくてはいけない。なので、おばかという評は一義にはシステム屋に向けるべきだろうと事件発端時に思った。しかし、システムはおばか警告を出していたのにおばかどもは警告を無視しておばかなことをしでかしたとの続報があり、一晩寝たら、東証もダメダメだったというあたりで、オマエらぁ~とつぶやいた自分の声に、いや構図が違うなと、ギロロみたいな私のダイモンが答えた。
 めんどくさいので記憶に頼るので子細が違っているかもしれないが、お上相手の公務員みたいな日本興業銀行(参照)傘下興銀証券もといみずほ証券が六十一万株を一円でバーゲンしたとき、警告音が鳴った。おばかさんはこれを無視したのだが、おばかだったからでしょというのはトートロジーに過ぎない。違うのではないか。無視するのが通常業務なので、つい、と。それに東証のシステムが反応したのも実はシステム的に正しい反応だったのではないか。
 みずほ証券のおばかさんは、やべと一円で取り消ししようとしたが、操作ミス。取り消すなら五十七万円なんぼでなくてはいけなかった。というあたりに、おまえら素人だろやっぱし、なのだし、ここがよくわからないのだが、東証側システムも五十七万円なんぼなら通常通り取り消せたのではないか。
 世の中の反応を見ていると、一円の株ならわたしも買えたのにと誤解している人がいるが、実際には一株あたりで六十万円くらいだから、儲けを出すにはかなりのタマを持っているやつに限られる。風聞だがなんでも二十代の若造で今回の事件でボロ儲けをしたのがいるというが、それってフツーじゃないってばさ。
 話が少し混乱してきたので整理するが、一円で売り出したというから、ほぇ~ばかで~とネタになるのだが、問題はそうことではなくて、むしろありもしない六十一万株が出せるシステムだったよね、やっぱしね、のほうだ。
 しかも、取り消し操作なるものは米国の証券市場ならそもそもありえねーシロモノである。つまり、そういうのが正常なシステムだったということ。むしろ、みずほ証券のおばかさんは愚を装ってタオを明らかにしたのである。塞翁が馬である。
 でだ。儲けたやつら、プロですよ。プロっていうのはどういうことかというと、裏を知っているということ。こういうシステムの裏を知っていたということ。っていうか、こんなの株を少しやっていた人間なら裏でもない常識だよ。新聞にだって四年前にちゃんと書いてあったのだ。”「電通、16円で61万株売り」 UBSウォーバーグ証券が注文ミス ”(読売新聞2001.12.01)より。

 三十日に東証一部に新規上場した広告最大手・電通の株価は、公募価格と同じ四二万円の初値をつけた後、証券会社の注文ミスで乱高下する波乱の幕開けとなった。この日は結局、公募価格を五万円上回る四七万円の「ストップ高・買い気配」で取引を終えたが、大量の買い注文が宙に浮いた。
 混乱は、欧州系のUBSウォーバーグ証券が取引開始直後に、「六一万円で十六株の売り」とするところを「一六円で六十一万株の売り」と誤って注文を出したためと見られ、UBSも注文ミスの事実を認めている。
 UBSはミスに気づいて注文を取り消したが、約六万五千株分の売買が成立してしまい、電通株は一時、四〇万五〇〇〇円まで下落した。

 女体の仕組みじゃないけど、こういうふうになっているのだよ。
 さて、ここからちょっと陰謀論濃度を上げるので、ご注意。
 やつらが裏を知っていたということは、だから、たぶん、蜘蛛の糸みたいなワッチシステムを張って、まぬけな蝶々さんが来るのを待っていたのだ。でだ、普通はそうしたまぬけ蝶々をひっかけていたのが、今回ひっかかったのは、みやこ蝶々さんくらいでかすぎ。買ったやつらも、やっべー、マジ?、買っちゃったよ、とか、ラッキーゲロ儲けとはしゃぐ三十代社員を前に四十五歳過ぎのおっさんが、だめだこりゃ、とつぶやいたに違いない(恐竜の着ぐるみで)。っていうか、判断停止? 外資系なんかだと、しかたないから外人上司様にお伺い…「…なわけで、うちのおばかな若造がこんなんで糞儲けしたんだけど、どないしょ」と英語で言う(実際にどういう英語の表現になるのかわからん)。すると外人さん曰く「あきまへんな、もともと日本の市場はこうなっているからカモネギやおまへんか。バレたら地味な儲けが出まへんがな」と英語でいう(実際にどういう英語の表現になるのかわからん)。かくして伝言ゲームが政府にまで伝わったので、与謝野晶子の孫が「美しくないよ」と宣って、終了。
 と、ここで陰謀論濃度を下げる。
 陰謀的な話はさておき、こうしたシステムが普通だったし、マジでこのシステムを改善する動向はなさげなので、「美しくない」で納めておくということだろう。それはそれなりにまっとうでもあるし、しかしなぁでもある。
 つまりだな、個人投資家は持ち株しか出せないけど、大口プレーヤーならありもしない株がかんがん出せるという普通のシステムは変わらないということだ。なぜ変わらないかについては、ちょこし陰謀論濃度を上げる必要もあるのだけど、今日はもういいや。

|

« [書評]老人と棕櫚の木(林秀彦) | トップページ | 純喫茶をめぐって »

「時事」カテゴリの記事

コメント

サッカーも、野球も、審判は人間だ。
裁判官も人間だ。

人間の判断を最優先できないシステムは最低。

投稿: noneco | 2005.12.17 11:41

>五十七万円なんぼなら通常通り取り消せたのでは

よく調べてみたら、それも出来なかったというのが、真相だったようです(取り消し価格に関わらず取り消せなかった)。これは不具合だということで、東証が頭を下げるはめになったかと。

投稿: worldnote | 2005.12.17 13:55

>人間の判断を最優先できないシステムは最低。

また一方で「人間の判断ミスを弾けないシステムも最低」と言えてしまうわけで。
どういう仕様になっていたかを知りたいところです。

# 「そもそも仕様に存在しないケース」に5万ペリカ。

投稿: Scott | 2005.12.17 15:04

アメリカではオールクリアーなる操作が可能なようです。
http://blog.goo.ne.jp/kitanotakeshi55/e/d1a952ec92c9f20dcd632f76cb807a09

投稿: くまりん | 2005.12.17 16:50

東証の管理能力当事者意識の無さに絶望してます。

投稿: トリル | 2005.12.17 17:33

うーん、今のところ入力ミスを「取り消せなかった」システムの問題であることは明白なんだけど、単にテスト項目から漏れたのか、仕様決定段階で盛り込まれなかったのかが分からないんだよね。

前者だと富士通何やってんだ、後者だと東証と富士通で折半か・・・

投稿: きんた@恐怖!猫屋敷 | 2005.12.17 19:44

> 蜘蛛の糸みたいなワッチシステム
話題の27歳無職さんは楽天証券みたいだから
マケスピのDDE+Excelでつくってそう。

投稿: もこもこ | 2005.12.18 17:02

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: みずほ証券によるジェイコム株の誤発注問題は「美しくない」:

» 証券会社の主な業務 [tonmanaanglerの日記]
委託売買業務/自己売買業務/引受業務/募集・売出業務  自己売買業務(ディ−ラ−業務)というのが、今回、みずほ証券の誤注文で大量に売られたジェイコム株を買って、「美しい話ではない」とか「火事場泥棒」などと批判されたところです。    ところで株価はどういう理由で値が付くのかというと、基本は需要と供給のバランスによるものです。現在100円の株が、企業の業績が上がって将来200円になると予想すれば、200円になるまでに買えば利益が出ますし、50円に下がると予想すれば、早いうちに売っておくほうが損が少な... [続きを読む]

受信: 2005.12.17 14:33

» 富士通やばいつーかマジシャレにならんぞこれ [恐怖!猫屋敷]
 みずほ証券の誤発注騒動。システムトラブルってことで、まさかまた富士通か・・・?と思ってたら、やっぱ富士通だった。病んでるなぁ・・・。とはいえ、元々仕様がそういうものだったのか、単にコーディングミスなのかその他か分からないので、判断は保留しとく。この辺、名証システムの時は明らかに富士通に責任があったから楽だった訳だが。...... [続きを読む]

受信: 2005.12.17 19:45

» 誤発注事件に見る深い闇 [Hardcoded]
問われるみずほ証券の危機管理…300億円丸損、市場大混乱 - SANSPO.COM みずほ証券は「300億円を超す恐れもある」(福田真社長)という巨大な損失額を背負う。一体、ミスをした社員はどうなるのか。 (中略)経済評論家の明大・高木勝政経学部教授(60)は「みずほ証券はみずほフィナンシャルグループの一員であり、存続が危ぶまれることはないが、社員は辞めさせるのが当たり前」と指摘。その上で誤発注が成立してしまった東証のシステムや、同社の事務管理能力にも問題があるとし「経営責任が問われる」と話した。... [続きを読む]

受信: 2005.12.17 21:59

» 美しい話ではない [ナガスクジラの夢]
 ジェイコム株誤発注事件で、そのどさくさに紛れて、多くの証券会社が巨額の利益を得た。そのことに対して与謝野馨金融担当相が、「法律上は確かに取引が成立しているが、誤発注を認 [続きを読む]

受信: 2005.12.22 23:18

« [書評]老人と棕櫚の木(林秀彦) | トップページ | 純喫茶をめぐって »