黄禹錫(ファン・ウソク)教授問題についてごく簡単に
以前、「極東ブログ: [書評]あなたは生きているだけで意味がある(クリストファー・リーヴ )」(参照)でも少しふれたが、クリストファー・リーヴへの関心ともあいまって私はES細胞の問題に関心を持っている。黄禹錫(ファン・ウソク)教授問題についてもそうした延長で関心を持っていた。私は、この問題について、どちらかというと米国側の視点に立っていたように思う。その倫理的な立場として私は米人に近いからでもある。話を端折るが、黄禹錫教授の成果についても当然、そうした倫理の観点から見てきた。
なにかおかしいかなという印象は今回の問題発覚以前からもっていたが、それほど日本では問題にならないだろうなとも思っていた。しかし、どうも昨今は日韓の文脈でやや方向の違った議論にもなっているようにも思えるので、エントリに書くのは控えてきた。
しかし、やはりログ(記録)しておこうと思ったのは、黄禹錫教授の研究と韓国政府の関連について疑念を持つのはそう不当でもないと思えるからだ。ニュースとしては、朝鮮日報”韓国政府、今年1月にES細胞汚染報告受けていた 民主労働党「政府が1年間隠蔽」”(参照)がわかりやすい。
黄禹錫(ファン・ウソク)教授は16日の記者会見で「オーダーメード型の幹細胞6つを樹立した今年1月6日、深刻な汚染事故が同時に発生し、当日直ちに政府当局に報告、後続対策を打ち出すことになった」と話した。
黄教授の主張通りなら、政府は今年1月から幹細胞6つの汚染事実を知りながらも、「サイエンス」向けの黄教授の論文発表とその後の幹細胞ハブ構築など、一連の過程をそのまま見守ってきたということになる。
朴補佐官は同日、大統領府の点検会議と政府対策会議に参加した。盧大統領が黄教授研究の問題点を初めから理解していたかについて、崔仁昊(チェ・インホ)大統領府副スポークスマンは「確認してみる必要がある」と話した。
民主労働党の朴用鎮(パク・ヨンジン)スポークスマンは「政府が重大問題について、あらかじめ分かっていながらも、1年にわたりこれを隠蔽していたのではないか」としながら、「この問題に対し、政府当局の責任者を明らかにすべきだ」と主張した。
つまり、韓国政府側はこの問題を知りつつ隠蔽していたとなると明白に韓国という国家のありかたが世界に問われることになる。
今回の問題は、韓国政府と深い背景的なつながりを持っていた。朝鮮日報の十七日社説”黄禹錫教授波紋、偽りを払拭し真実の上に再出発しよう ”(参照)では、政府との関連の背景をこう記している。
現政権は、カスタマイズ型幹細胞研究を「政権的プロジェクト」と位置付けたのに続き、「国家的プロジェクト」として押し上げ、ひいては「21世紀韓国国民の希望のプロジェクト」にまで膨張させながら、数百億ウォンを支援してきた。
大統領府の科学技術補佐官の名前が黄教授論文の共同著者として記載されたこともあり、また黄教授を国家重要施設を保護する水準で保護してきたというこの政権だが、いったいこうした事態が起きるまで何をしていたのだろう。大統領府、首相室、科学技術部は黄教授研究のこのような問題点をいつ把握したのか、また知っていたのなら、なぜ「あまりエスカレートしないように」「事態を見守りたい」という発言に終始して、国民が真実に目を開くことを妨害したのか。
つまり国策との関連は疑問視される。
ただし、こうした糾弾が、たとえば日本の耐震強度偽装問題がブログの風聞を巻き込んで政局問題に発展していきそうなように、韓国内の政局問題であるというなら、他国民である私などが関心を持つべきではないだろう。
今回の直接疑義については韓国民が真実を明らかにしていけばいい種類の問題ではあるだろうが、それでも今回の事態だけで閉じるものでもなさそうだ。今朝の読売新聞”黄教授「クローン犬」も偽装か…米調査チームが指摘”(参照)は問題の根がそこまで深いのかもしれないという可能性にぞっとする。ぞっとするというのは、ES細胞研究が孕む生命への畏敬の感性からだ。
日本人である私がこの問題に言及するだけで反感を持つかたもあるかもしれないので、卵子提供疑惑時点の記事だが、ニューヨークタイムズ”South Korea's Cloning Crisis ”(参照・有料)を引用して終わりにしておこう。
But science is an enterprise that relies heavily on trust. The Koreans should not be surprised if their next scientific breakthrough is greeted with extreme caution.
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コメント
>日本人である私がこの問題に言及するだけで反感を持つかたもあるかもしれないので、
ここまで、気を使う必要はないのでは。
むしろ、反感を持つ方々の生態のほうをブログのネタにするぐらいが調度いいです。
投稿: 真田 | 2005.12.19 22:46
>今回の事態だけで閉じるものでもなさそうだ。
http://www.janjan.jp/world/0512/0512196540/1.php
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=70811&servcode=400§code=400
こちらも写真が重なったそうです。
投稿: samayoiaruku | 2005.12.20 15:35
身も蓋も無い事を言えば、『韓国だから仕方ないよね』くらいなもんですね。自分にとっての一番の驚きは、韓国が(露骨に嫌々ながらも)真実を明らかにした事だったりします。
もっとグダグダになりながらも「これがクローンES細胞だ!」と皆で叫び続けて欲しかった。
投稿: あぁ | 2005.12.25 19:51