[書評]ヒューザーのNo.1戦略(鶴蒔靖夫)
「ヒューザーのNo.1戦略 - 100m2超マンションへのこだわりが業界の常識を変える」(参照)をざっと読んだ。正直に言うのだが私はこの本に期待していなかった。駄本であろうと腹をくくっていた。が、面白かった。なかなか微妙な味わいがある。娑婆の底のほうを少しでも覗いたことのある人なら、どうしてもある種の共感を禁じ得ないものが確かにある。
![]() ヒューザーのNo.1戦略 100m2超マンションへの こだわりが業界の 常識を変える |
「ヒューザーのNo.1戦略」のほうは、読みやすくまとまっているし、小嶋進の語られる部分の人生が見える。それは、なんというか、人の人生のリアリティというのはそういうものだとしか言えないなにかでもある。
小嶋進が生まれた宮城県加美郡色麻町は、仙台から北へ約三〇キロほど行ったところにある。典型的な農業の町で、「ササニシキ」や「ひとめぼれ」などを生産する宮城の穀倉地帯である。周辺には自衛隊の駐屯地もあり、最近では、沖縄の演習基地移転の候補地となって注目されたところである。
小嶋が誕生したのは、終戦から八年が経ち、日本も戦後の混乱期から落ち着きを取り戻した昭和二十八(一九五三)年のことである。田園風景が広がる農村地帯で、小嶋は姉、兄、弟にはさまれた農家の次男坊として生まれ育った。
そして彼は十歳のとき母親の実家に跡継ぎということで里子に出された。そして若い叔父・叔母にいじめれたと、進は語る。
「母親の実家であっても、人の家でタダ飯を食わせてもらうのは厳しいことだなあと思いました。いま思えば、小さいころからかわいそうだったんだなあ」
学校での出来はよかったそうだ。将来の希望はと訊かれ、内閣総理大臣と言い続け、高校二年のときに思い切り先生に怒られた。物理学を学ぼうと東北大学を受験し浪人。その三ヶ月後に消火器のセールを始めて当時の四、五十万を得たという。ビジネスの才があるとしかいえないだろう。が、すぐに辞めた。職を転々とした。職がない現代ならニートであろうか。
先物取引で阿漕な仕事もした。そのエピソードがナニ金のようでもある。
小嶋はある先輩から、損をさせた相手に「腹を切って詫びろ」と詰め寄られ、本当に切った痕を見せられたことがある。その先輩は「横に切る分には死なないんだ」と、平然といったという。
そんな話ばかりではそれはそれで退屈なのだが、その後、小嶋は小さい不動産屋を興し成長させるが、乗っ取りの憂き目に会うや部下に騙されるやといった処世の濃いところによくある話が続く。小嶋はよく立ち上がっていく。すごいなと思う。私は立ち上がれなかった。
平成十年でもまだ小嶋の人生は波乱が続いている。というかその年もどん底であった。が、手元にはまだ七億円残っていてそれで再起を願っていた。東京富士信用組合と東日本銀行のつてで融資はなんとかなることになった。このあたり、少し深読みができそうでもあるが。
次はゼネコンとの取引をなんとかしなければならない。しかし、ハウジングセンターの仕事を受けたがるゼネコンは、見当たらない。
どうしようかと思案しているとき、大型枠で工事をする建設会社のことを紹介する新聞記事が目にとまった。熊本の木村建設という会社は、通常二週間はかかるその作業を四日で仕上げてしまう。「これだ!」と思った。
ここであなたが飯を吹き出してしまうとしたら私のエントリが拙いのである。人間とはそういうものだというか、そういう人間がいるのだというか、世間というものの味わいの深いところだ。
かくして小嶋は木村建設と深い縁ができた。
そのときの縁がきっかけで、いまでも木村建設は私たちの会社の中堅施工会社として活躍してもらっています。
そうこうしているうち、ほかのゼネコンさんとも少しずつ縁ができるようになってきました。
そして、グランドステージ江戸川とグランドステージ糀谷に小嶋は賭けた。
これが失敗すれば、正真正銘の無一文となって倒産するしかないのである。
圧倒的に不利な立地条件のなかで勝負するには、他社にはない物件をぶつけるしかない。
これで起死回生かというとまるでNHK大阪のドラマかいなという展開がまだある。が、もういいだろう。ようやく安定したかに見えるのは、平成十二年ころであろうか。
本書の終わり近くにこういうくだりがある。
取材の最中、小嶋は「家というものは、本当のことをいって買うべきものではないと思うんです」と、デベロッパーとしては耳を疑うようなことをいったことがある。
「考えてもみてください。人間の命というのは、生きていてもせいぜい百年ちょっとなのです。ところが土地のほうはどうですか。日本の土地だって何千万年前からずっとここにありつづけたものでしょう。
一万年前、この土地は誰のものだったのですか? 誰のものでもなかったわけです。人間の歴史など、土地の歴史の歴史に比べたら、ほんのわずかなものです。
この悠久の大地の歴史のなかで、わずか百年しか生きないのに、どうして細切れにしたものを売ったり買ったりしなくてはいけないのでしょう」
ライターはこれを美談として書いたものでもないだろう。ライターの手法としては小嶋進という人間を描く素材とは思っただろうが、奇異な感じも受けたのではないだろうか。
小嶋進が生まれた色麻町は坂上田村麻呂の伝説の土地である。田村麻呂は侵略者ではあるが温情の厚い人でもあったようでもある。そうでなければ土地が彼を祀ることはなかっただろう。そしてそのように祀り続けなければならぬ土地でもあったのだろう。
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コメント
表題の書籍を読むことはきっと無いでしょうが、最後の引用には少しだけぞくっとするものがありました。
投稿: synonymous | 2005.12.05 20:30
>若い叔父・叔母にいじめれたと、進は語る。
ソースは忘れましたが、今日見たサイトか雑誌に、少年期の話は嘘だと書かれていました。
よって、他の記述も嘘の可能性があります。ご注意を。
投稿: バイス | 2005.12.06 01:17
小嶋社長歌手デビューしてた、ヤフオクで6万円!! [夕刊フジ]
http://www.oricon.co.jp/news/internal/3203/
投稿: ようちゃん | 2005.12.06 03:39
「消化器のセール」って、
typoにしてもそうでなくても
典型的人物像だなぁ…(笑)
投稿: 無粋な人 | 2005.12.06 10:21
まず買うことのない本ですが紹介文には惹かれ頷く部分があります。スタートが消防署の方から来た消火器販売で人生の基礎が出来上がってしまった。(東北大合格とは逆方向に進む。)
>小嶋は「家というものは、本当のことをいって・・・・・耳を疑うようなことをいったことがある。
たとえ悪意がなくても建物は倒壊するのに騙すとは(騙されるほうが悪いんです)
意味不明になってすみません。
投稿: tatu99 | 2005.12.06 10:21
虚無を見つめる「成功者」って、一つのパターンなのかな。
投稿: synonymous | 2005.12.06 10:36
家もマンションも一生買えそうもない自分は、心底ザマーミロと思ってしまった。
http://www.dtiserv.com/cgi-bin/ranklink/ranklink.cgi?id=laxtacy
投稿: 金田満人 | 2005.12.06 12:45
消火器でしょ?
投稿: 通りがかり | 2005.12.06 13:11
腎臓や肝臓は消化器じゃないなんて
ヤボなことは言いっこなしですよ。
投稿: 無粋な人 | 2005.12.06 14:17
失礼します。
ブログ専用ランキングサイトの
「No1ブログランキング!」の運営者です。
ランキングサイトを始めたのですが、
まだ登録が少ないので、すみませんがよかったら、
こちらのブログを登録していただけないでしょうか。
まだ登録が少ないので上位ランキングが可能です。
http://no1b.jp/
です。
では失礼しました。
投稿: No1ブログランキング! | 2005.12.06 14:34
日本の神社は基本的に祟り神を祀るところですからねぇ。
投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.12.06 20:45