アン・ライスの新作はキリスト
私はアン・ライス(Anne Rice)のよい読者ではないが、彼女のことはなんとなく気になっている。なので、今週号(11・9)の日本版Newsweek”ヴァンパイアからキリストへ(The Gospel According to Anne)”の記事に、彼女がいよいよキリストを描くと知って、そう、「いよいよ」という感じがした。
Christ The Lord: Out Of Egypt |
ある程度アン・ライスをみてきた人なら、彼女がなぜキリストを描くのかという疑問はわかないようにも思えるのだが、そうでもないのだろう。彼女のファンですら、なぜという疑問はあるようだし、実際刊行されればさらにそのなぜが深まるのかもしれない。彼女はそういう存在なのだから。そういう作家である以前に。Wikipediaの項目(参照)にちょっと面白いコメントがあった。
カトリックの影響を色濃く反映したその独特の非日常世界観で根強いファンを獲得する反面、その世界観に付き合えない人も多い。
読書家なら苦笑するかもしれない。というか、ブログが興隆したりアマゾンの素人評が充実したりするにつれ、読書家というもののバランスのよい批評眼が必然的に見逃してしまう、本の魂というものがあるように私は最近思う。文学というのは、そのバランスのよい評価より、狂気とも言える愛着のなかでしか見えないなにかがあるからだ。
アン・ライスについての苦笑というのは、ただ、もうちょっと別の側面がある。先のWikipediaの段落にこう続くのが印象的だ。
アン・ランプリング(Anne Rampling)、A.N.ロクロール(A.N. Roqueloure)のペンネームがある。
ふと気になってアマゾンでアン・ライスの売れ筋を検索したら、おやまぁであった。
- 「眠り姫、官能の旅立ち スリーピング・ビューティ〈1〉扶桑社ミステリー」
- 「眠り姫、歓喜する魂―スリーピング・ビューティ〈2〉扶桑社ミステリー」
- 「呪われし者の女王〈下〉―ヴァンパイア・クロニクルズ扶桑社ミステリー」
- 「至上の愛へ、眠り姫―スリーピング・ビューティ〈3〉扶桑社ミステリー」
- 「夜明けのヴァンパイアハヤカワ文庫NV」
- 「呪われし者の女王〈上〉―ヴァンパイア・クロニクルズ扶桑社ミステリー」
- 「ヴァンパイア・レスタト〈上〉扶桑社ミステリー」
- 「ヴァンパイア・レスタト〈下〉扶桑社ミステリー」
そういうことだ。アマゾンだからというのはあるかもしれない。ただ、このあたりいわゆる読書家というのと読書の行為というものの奇妙な関係に隠されるなにかを結果としてアン・ライスが暴き出しているようにも思う。
私は知らなかったのだが、二〇〇二年に夫のスタン・ライスが脳腫瘍でなくなっていた。年齢は知らないが六十歳は過ぎているだろうから早世というものではないだろう。ちょっとアン・ライスの年代を調べたら、彼女は一九四一(昭和十六)年生まれで六一年に結婚している。スタンとの結婚は二十歳だった。娘ミッシェルが生まれたのが六六年。白血病で亡くなったのが七二年というから六歳になるかというところ。母としてのアンは三十一歳のことだった。その死が創作になんらかの影響はもっていただろう。
Newsweekの先の記事によると、一九八八年に糖尿病が原因で昏睡、二〇〇四年には腸閉塞で手術を受け、死期が近いと噂されたそうだ。
「これからは神のためだけに本を書く」と、ヴァンパイア・クロニクルズの産みの親は言う。ボブ・ディランが神への信仰にめざめたと宣言したとき以来の、センセーショナルな「転向」かもしれない。」
今回の新作とその続編(全3作の予定)で、従来のファンを失うかもしれないことは、本人もよくわかっている。ライスは新作の後書きで、「今までの仕事を打ち壊す覚悟ができた」と述べている。
十九世紀のロシア文学っぽい響きでもあるし、まさにそういうことなのかもしれない。私としては、たぶんその三作を読むのだろう、自嘲を込めてだが、イエス・キリスト・オタクだし。そのあたりは、「極東ブログ: 時代で変わるイエス・キリスト」(参照)にも書いたっけ。
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コメント
アン・ライスってヴァンパイアクロニクルで有名なのは知ってましたが、そういう予備知識を持って初めて手に取ったのが眠り姫だったので・・・
投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.11.04 20:52
はじめまして。Doraと申します。
今日、初めてとても興味深く拝読しました。HPからリンクさせて頂きました。問題あればご一報頂ければ幸いです。
http://dora.boo.jp/link.html
ではでは。失礼します。
投稿: Dora | 2005.11.04 22:22