ブラジル銃規制国民投票失敗の雑感
少し旧聞になるが、先月二十三日ブラジルで銃器類や弾薬の販売禁止の是非を問うという世界初の国民投票が実施され、結果はすでに報道されているとおり、販売禁止に反対が六三・八九%と多数となった。つまり、銃器類や弾薬の販売の規制は失敗した。
夏頃(現地の実感では冬だが)までのブラジル世論の雰囲気としては、これで銃器の規制ができるという感じではあった。CNNジャパン”「銃の販売禁止」の是非、国民投票で反対派が多数 ブラジル”(参照)がこう伝えている。
ブラジル政府は昨年、銃の買い戻し計画を実施して35万丁の拳銃やライフル、散弾銃を回収した。この結果、保健省によれば死者数は8%低下。そのため、ある世論調査では、銃の規制強化を求める人々は今年初めには80%に達していたという。
同記事では、国民投票の直前になって拍車をかけた規制反対派によるキャンペーンが功を奏したとしている。曰く、「政府はあなたをちゃんと守ってくれるのか?」ということだ。
ブラジル直の声を伝える二十五日付けニッケイ新聞”銃器販売禁止は「ノン」=国民投票=反対派、63%と圧勝=治安対策への根強い不信感噴出=ルーラ政権への反発も”(参照)では、標題のようにルーラ政権への反発という文脈を強調していた。
これを受けた関係者らは、政府の治安対策の欠如に対する不信感が噴出した証だと指摘し、野党筋は国会スキャンダルを隠ぺいしようとしたルーラ大統領への反発であり、手痛い黒星は来年の大統領選挙に影響するとの見方をしている。
私の印象だが、今回のブラジル国民投票の結果は米国社会のように銃を肯定的に受け止めているというより、現状の政治的な状況が大きな要因なのではないだろうか。と同時に銃犯罪と共存している社会ということでもあるのかとも思う。先のCNNジャパンの記事にはこういう数値を示していた。
ブラジルの銃による死者は年間約3万9000人に達しており、人口がブラジルより多い米国の約3万人を大きく上回っている。
ユネスコによると、ブラジルの銃関連の年間死者数は人口10万人当たり21.72人で、世界第2位の水準。1位はベネズエラで同34.30人だが、人口が1億人を超えるブラジルと、2500万人ほどのベネズエラでは、死者の絶対数が違うとしている。
あるスラム街での死者数は、人口10万人あたり150人で、17-24歳の男性に限れば、その数は250人に跳ね上がる。
これはたぶん中近東の紛争地域並と言ってもいいだろうし、逆にそういう紛争地域は、こういった事態でもなければ銃問題がクローズアップされないブラジルのような地域ともそれほど変わらないのだろう。ちなみにブラジルの交通事故の死者数も同程度のようだ(参照)。ブラジルの人口は一億七千万人程度。日本の倍はないので交通事故死亡の率も高いと言えそうだが、率でいうならフランスくらいなものではないか(昨年は大幅に縮小したが)。
銃犯罪の数字を見るとブラジルは危険な国のようにも見えるし、実際危険な面もあるのだろうが、交通事故と同じような風景という面もあるだろう。
私は先日のラジオ深夜便のブラジルからのレポートで今回の国民投票の話があるのかとちょっと期待して聞いていたが、なかった。暗い話はしたくないというのもあったのかもしれないが、案外他国が思うほどブラジル社会では大きな話題でもなかったのかもしれない。日本としてもこの話はそれほど話題にもならなかった。
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