タミフル副作用報道雑感
タミフル(リン酸オセルタミビル)の副作用が疑われる少年の突然死のニュースだが私は当初それほど関心を持っていなかった。特殊なケースではないのか、またタミフルの副作用とするのは難しいのではないかと思った。このニュースは海外のニュースを見ても注目されているようだ。この機に外堀を眺めた感想を少し書いておきたい。
話の発端は、NPO法人「医薬ビジランスセンター」(参照)の調査である。十三日付け読売新聞”タミフル 服用後 2人異常行動死 学会で報告 副作用との関連不明”(参照)によるとこうだ。
インフルエンザの治療薬「タミフル」(リン酸オセルタミビル)を服用した患者2人が異常行動を起こし、事故死していたことが、NPO法人「医薬ビジランスセンター」(大阪市)の調査でわかった。同センター理事長の浜六郎医師(60)が12日、津市で開催された日本小児感染症学会で発表した。浜医師によると、昨年2月、岐阜県内の男子高校生(当時17歳)がタミフル1カプセルを服用、約4時間後に、近くの道路のガードレールを乗り越え、トラックにはねられ死亡した。
詳細は先の「医薬ビジランスセンター」のサイトに詳しい。医学・薬学に関心を持つ人は同サイトの情報「リン酸オセルタミビル(タミフル)と突然死、異常行動死との関連に関する考察」(参照)をどう読むだろうか。私はある疑問を持ったがこのエントリでは控えておきたい。
読売新聞記事では次のように専門家のコメントを加えている。
これに対し、厚生労働省研究班のメンバーで、小児インフルエンザに詳しい横田俊平・横浜市大大学院教授は「意識障害からくる異常行動は、脳炎・脳症の症状でもあり、発表事例もそれに含まれるのではないか。タミフルの副作用とまでは言えない」と話している。
製造元ロシュはこのケースを副作用であるとは認めていない。十五日付けロイター”タミフル副作用で異常行動リスクは高まらず=ロシュ”(参照)では次のアナウンスを伝えている。
ロシュの販売担当者は記者団に対し「タミフル服用、もしくはインフルエンザ感染による神経精神病行動発症の確率はほぼ均衡である。タミフルの服用により、そのリスクが高まるということは確認されていない。しかし、今後も状況を見守っていく」と述べた。
余談に近いのだがこのアナウンスは株価にも影響した。現在タミフル大量購入は国際的にも大きな問題となっており、巨額なカネが動くようになっている。
タミフルにこうした副作用の可能性はないのか。先の読売新聞記事では厚労省アナウンスをこう伝えている。
タミフルの副作用については昨年6月、厚労省のまとめで、服用した14人が幻覚や異常行動、意識障害などを訴えていたことが判明、同省は医療機関に注意を呼びかけていた。また、副作用が出る可能性を使用上の注意書きに明記するよう、輸入販売元の中外製薬に指示している。
このあたりの情報は、現状ではおそらくロシュ側と噛み合ってはいないだろう。
こうした副作用の可能性が大きいなら、タミフルが利用されている海外でも報告があろうだろうしロシュ側も把握しているはずなので、重要な副作用としてロシュ側は認識してなさそうにも私は思えた。なお、若いラットに大量投与した実験では脳から高濃度の薬剤成分が検出されているが、血液脳関門の機能が未熟なためだろう。
情報の流れの点で気になることがあった。「医薬ビジランスセンター」のサイト「タミフル脳症(異常行動、突然死)を医学会(小児感染症学会)で発表」(参照)より。
その発表内容のポスターを公開する。なお、毎日新聞朝刊1面に掲載されたこともあり、会場には多数の報道陣の取材を受けた。
該当の毎日新聞記事は十二日付け「インフルエンザ薬:タミフル問題、学会でも論議」(参照)である。ざっとメディアの情報の流れを見ると、この毎日新聞の記事が発端となり、共同で増幅という印象を受ける。そのせいか、毎日新聞では十五日社説「タミフル 副作用の可能性十分伝えよ」(参照)で他紙社説並びネタではなく取り上げている。が、この社説の文章は箇条書きメモにお説教を加えたかの趣向といった印象を受ける。
当初の毎日新聞記事に戻ると、「医薬ビジランスセンター」の主張は日本におけるタミフル多用の批判が際立っている。
これに対し大阪府の医師は「異常行動とタミフルの関係は否定できず、学会として調査すべきだ」と主張した。愛知県の医師は、タミフルの年間販売量のうち、日本が世界の8割以上を占めている現状から「日本だけがタミフルを多用している現状はおかしい」と発言した。
日本がタミフルを多用しているという批判というか疑問は世界からも投げかけられている。二〇〇三年十一月四日の読売新聞記事”[医療ルネサンス]冬に備える(4)「新型」の感染拡大を警告(連載)”では二年前の事態をこう描いている。
「特効薬が足りない」。インフルエンザが、過去十年で二番目の規模で流行した昨冬、全国の医療機関でインフルエンザ治療薬が不足する騒ぎが起きた。発症して二日以内に使用することが必要なため、夜間、救急病院に患者が殺到した。
その結果、治療薬の一つオセルタミビル(商品名タミフル)は今年一―三月、世界中の売り上げのうち、日本が76%を占める異常事態になった。欧米では「特効薬」は費用が高く、主に重症者の治療に使われており、米国は15%、EUも9%に過ぎない。
今年十月、沖縄で開かれた国際インフルエンザ制圧会議では、欧米の研究者から「日本人は金持ちだね」という皮肉も聞かれた。
ここには二つの意味があるだろうと思う。一つはなぜ日本だけが特例的な状態になっているのか。もう一つはそれゆえに世界の注目を浴びているということ。
後者については、今日あたりの海外ニュースを見ていて思うのだが、日本でのタミフル副作用騒ぎについて、ある種日本人というラット実験のようにも見ているのだろう。また、日本は特殊だからなと見ているような印象も受ける。
もう少し思うこともあるが、うまくまとまらないので、このエントリはここまでとしておきたい。
参考
インフルエンザによる青年の精神活動の変化はタミフルとは関係なく報告されている。
Post-influenzal psychiatric disorder in adolescents.(参照)
The association between influenza and psychiatric disorder in adolescents was studied at a time when both were highly prevalent concurrently.
追記(2005.11.16)
ナニワの浜六郎世界を動かすではないが日本発タミフル副作用ニュースはBBCでも大きく取り上げられた。報告だが日本で二八件、米国一〇件、カナダ五件、ドイツ三件、フランス二件。ざっと見るにタミフルの利用数に比例している印象は受ける。欧州医薬品審査庁(EMEA:European Medicines Evaluation Agency. European Medicines Agency)も調査に乗り出している。BBCの記事を読んでいただければわかるが、現状では概ねタミフルが疑わしいということではない。
BBC NEWS | Health | Suicides raise fears over Tamiflu(参照)
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コメント
はじめまして。いつも拝読させていただいています。
この件ですが、医者じゃない者が言うのもなんですが、インフルエンザ脳症なる病気が、日本国内でしか頻繁に発生していることと関係があるのではないでしょうか。
抗生物質の乱用とか。食品の汚染とか。
投稿: tigers | 2005.11.16 13:01
無責任なことばかり書くなよ。おまえらロシェの提灯もち。こんな副作用だらけの薬、ロシェもつくったものよなー。特効薬とは名ばかり
インチキ。もうどれだけ死んでるんだよ。
投稿: 通行人 | 2005.11.19 23:03
どうでもいいですが、ロシェではなくて、ロシュではないのでせうか?
投稿: 通りすがり | 2005.12.01 09:12
この問題気になるので、
無責任に人の情報でどうのこうの言うより、
インフルに罹ったら、
タミフルを処方してもらい、
自分を実験台にして、
いろいろな飲み方を試して見たいと思っています。
いっぺんに大量に飲むとか、
他の薬と一緒に飲むとか、
コーラと一緒に飲むとか。(これはあまり影響ないか…)
でも、未だ罹りません…
かといって、わざわざうつりに病院にいったり、
患者の前で大きく深呼吸したりする勇気がありません。
もし、試せたら報告します。
投稿: 通行人 | 2007.02.27 11:31
http://www.yabelab.net/blog/2007/02/27-145343.php
こちらで横田教授の統計データについて討論中です
投稿: いのげ | 2007.03.10 08:59
一昨年の文章に何を……
異常行動だのなんだの、抗ウイルス薬なんだからあって当たり前だろうに。
その上でベネフィットがあるから使うだけ。
マスコミに踊らされるだけの愚かな大衆にはなりたくないね。
投稿: | 2007.03.18 17:58
しかし、報道で医療用医薬品を製品名でとりあげるのはどうなんだろう?
今、タミフルが順調に役に立っている患者さんに悪影響を及ぼさなければいいが・・・。
http://2868blog.digbook.jp/
投稿: ムタ | 2007.03.21 22:25
正月から植物油ダイエットをしていて、
まったく植物油をとらないというわけでない。
身体の変化が面白い。風邪が重くならないとか。
たぶん、リノール酸過多と関係しているように思う。
の上に、トランス酸。
日本だけに多いなら、リノール酸とトランス酸のバランスで。
で、外の食品をみると、しつこく見るわけだけど、
植物油だらけなのだな。
ないものを探すのが一苦労。
あと、気をつけているのが、たんぱく質の量。
多く取りすぎていると、消化しきれなかったりして、
アレルギーのもとになっているような。
つまり、インフルエンザになったら、
熱が下がるまでは、お粥だけでいいのかもと。
現代の子供の場合、熱が上がらず食欲があるところに、
栄養価が高く、その上植物油があって、お菓子なんか食べて。
ま、よくわからん。
私の場合、よくわかっているのは、
とにかく暖かいんだ。身体が。
暖冬のせいだといっても、室温5度をきっていて、
冬布団一枚でも大丈夫だったりする。
もう少し暖かくなる工夫はしているけど、
例年だと、冬布団毛布2枚電子敷き毛布温度最高でも、
風邪を引きやすかったのだけど。
なので、タミフルも食い合わせが悪いと、
大人でもあまり効かないかも。
なので、隔離がうまくいくようにと、
風邪を引いたら会社が休めるようにする方がいいと思う。
医者の数が少なすぎて……、
いや、医者が真っ先に新インフルエンザで……
タミフルを飲むと異常行動して……
ま、よくわからない。
運にまかせるしかないかなぁ。
投稿: noneco | 2007.03.23 18:24
タミフルに関わらず、よく効くといわれる薬は、なにか、おかしくなる。植物から抽出するわけでなく、実験室の中で、合成された化学合成物質なんて使えば、体がおかしくなるよ。
でも、まあ、大多数の人は、なんでもないのだから、使わないで、死んでしまうなら、使った方がいいのかなあ。
投稿: 薬大嫌い | 2007.12.10 20:56