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2005.11.29

耐震設計について十年前を思い出す

 昨日のエントリを書いたあと、耐震設計について十年前のことをぼんやり思い出し、つらつらと考えてみた。
 私はあの頃、なぜ高架が断ち切れたのだろうかと疑問に思っていた。ありえないと当時思っていたのだが、写真にはそのありえないが写し出されていた。耐震設計が間違っていたのか、手抜き工事だったのか、私の記憶ではこの問題はその後曖昧になっていったように思う。
 科学というものはどのような巧緻な理論でも事実の前に棄却される可能性を持つ。高架は切断された。それが事実だった。耐震設計とはなんだったのだろうか。
 考えても埒が明かないことでもあるので、十年前の新聞をざっと眺めてみて、そうだそうだと思い出した。一九九五年三月二九日付読売新聞に伯野元彦東洋大学工学部教授(当時)の”信頼できる耐震設計とは”と題する寄稿がある。そうそうこんなのだった。


 大災害となった今一つの原因は、耐震設計の方法にあると思う。最もポピュラーな構造物の耐震設計法は、構造物の重量に、設計震度と呼ばれる〇・二を乗じて行われる。例えば、重量が十トンの構造物なら、二トンの力を水平方向に静かに加え、変形が許容範囲内に収まるように柱の太さとか鉄筋量などを設計する。
 この方法は、そもそも関東大震災に無傷で残った日本興業銀行本店などの耐震設計に用いられていたもの。同行の水平地震力は自重の〇・一三倍だったが、震源から七十キロも離れていることもあり、より安全に〇・二倍を採用するようになった。よく言われる関東大震災級の地震でも大丈夫――の言葉の由来だ。

 当時これを読んで思ったことを思い出す。そうか、耐震設計というのは経験科学なのだな、ということだ。関東大震災という歴史経験によるものだったのか、と当時思った。
 この算定法が十年後の現在も利用されているかどうか私は知らない。利用されているのではないかと思って読み進める。
 伯野教授は、ロサンゼルス震災で高架が落ちたことについて、その頃、日本は大丈夫だと考えていたらしい。というのは、日本の高架の耐震性はロスの五倍あるからだった。

 日本の五分の一の耐震力しか考えていなくてこの程度の被害で済んでいる。それなら、五倍の耐震力を考えて、しかも桁(けた)落下防止装置も設置している日本の高速道路が、落ちるわけはない――ロスの惨状を前に、そんな思いが頭をかすめて「大丈夫」と答えたことを覚えている。だが、現実には大被害が起きた。

 そうなのだ。あの時の科学は「大丈夫」と答えるしかなかった。しかし、事実は別の答えをしたのである。科学者はありえないと自分につぶやいても、そう発言することはない。次の仕事が待っている。
 彼はこう答えた。

 原因はいろいろあるだろう。根本的なものは、実際に起きる現象と耐震設計方法の違いにあるのではないか。実際には構造物は、地震によって瞬間最大値八〇〇ガル以上の地面の揺れで大揺れに揺れて壊れた。一方、設計は約二〇〇ガルを、構造物に「静かに水平に」加え続けても壊れないようにしていただけだった。
 要は、この「二〇〇ガルを水平に加え続けても大丈夫」な構造物が、瞬間的にではあるが、八〇〇ガルを超えるような複雑な地面の揺れに耐えるかどうかという問題に帰着する。

 長いエントリが書きたいわけでもないし、ベタな引用ばかりするわけにもいかないので話を端折るが、私の素人な疑問は、現代の耐震設計は現実には十分に耐震でないこともありえるのではないか、ということだ。
 科学者ならどう考えるか。伯野教授はこの先に実験してみたいと述べていた。そうだろう。経験科学ならやってみないとわからないことがいろいろあるのだ。
 現在の耐震設計の科学背景を知らないので、素人言になるのだが、最大加速度だけが議論されているなら、そうではない自然の力を私は見てきたことになる。倒壊を起こす力は共振にも関連する。ブランコをゆらすようなものだ。弱い力でも共振で振れは大きくなり、強い力を持つ。一般家屋は小さいので高周波で共振するが、大きなマンションなどは低周波の影響を受けるだろう。…直下型なら低周波は少ないのだろうか。
 わからない。この十年間にその実験が進められたのかも知らない。
 ごく一般論で言えば、人は天災から免れるものではない。人災なら免れうる。耐震データ偽造は人災の元になる。対処は必要だ。そして、実際の災害には別の人災も起こりうる。そのことは、二年前”極東ブログ: 「どこに日本の州兵はいるのか!」”(参照)で触れた。

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「歴史」カテゴリの記事

コメント

学問的には素人ですが、この件に関して少々補足情報を。

>私の素人な疑問は、現代の耐震設計は現実には十分に耐震でないこともありえるのではないか、ということだ。
科学者ならどう考えるか。伯野教授はこの先に実験してみたいと述べていた。そうだろう。経験科学ならやってみないとわからないことがいろいろあるのだ。

ここで伯野教授は「実験してみたい」と言って「データを解析してみたい」と言っていないことに注目してください。つまり現在このような実験は「可能」なのです。

現在、実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)と呼ばれる巨大な実験施設が兵庫県三木市で稼動しています。概要については専門の方のHPを参照してもらいたいのですが、実際に見た人間としては「こんなものよく造れたな」というしかないぐらい巨大な実験施設です。

投稿: F.Nakajima | 2005.11.29 21:41

実に耐震設計とは経験科学なのです。いつも地震に出し抜かれます。低周波、所謂長周期地震動については実際に高層構造物がこういった種類の外力を受けたことが無く、現実に地震が発生した場合どういった挙動を示すのかは不明な点が多いのも事実です。現在の耐震設計は仕様規定から性能設計に移行しつつありますが、耐震設計が経験科学であることを慮ると果たしてそれによる性能規定のなし崩しという現状が果たして正しいのか疑問です。

投稿: Babur | 2005.11.29 22:54

>baburさま

ど素人の質問だと思って笑ってお聞きください。
耐震設計とはこれまで経験科学で検証実験が不可能だったと思うのですが、実大三次元振動破壊実験施設での実地試験やスパコンによるシミュレーションが行われていると聞いています。

実際のところ、これらはどのくらいまで不明な点を解明できるのでしょうか?

投稿: F.Nakajima | 2005.11.29 23:30

>倒壊を起こす力は共振にも関連する。弱い力でも共振で振れは大きくなり、強い力を持つ。

そのために免震構造があるのです。免震にすると固有周期が伸びるので共振を防げますし、揺れもゆっくりになります。

高速道路の高架の件に関しては存じませんが、あれほどの多くの建物が兵庫県南部沖地震で倒壊したのは1981年の「新耐震設計法」の施行以前の建物が多かったのです。兵庫県南部沖地震の30倍近いエネルギーの十勝沖地震が起こりました。それまで明治時代ぐらいの伝記に近いものにしかなかったマグニチュード8.0に迫る地震でした。それでは現行法では対処が不可能だという判断で改正されたのです。
だから1980年以前の建物は耐震改修すべきなのですが、うまくいっていないのが現状です。

投稿: mx-k | 2005.11.30 01:15

東京大震災以後に作られた戦前のコンクリート建造物は、物凄く頑丈に作られていたという話ももあります。あまりに頑丈なんで壊すのに金がかかるため放置されてるものも多いとか。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.11.30 01:18

件の施設も高いビルや大型建造物の実験はできませんし
シミュレーションも所詮シミュレーションなので

「やってみなきゃわからんよ、フッ」

に帰結します。
それが科学が永遠に負わされ続ける責
という奴ですね。責を与える側は楽ですし。

投稿: F.Nakajima | 2005.11.30 09:21

↑の書き込みは名無しです。
ボケって名前欄にコピペしました、ごめんなさい。
なりすましなんて意思は毛頭ありません。

投稿: 間違えました… | 2005.11.30 09:22

そもそも、このエントリの内容自体が土木と建築の構造をごっちゃにしてませんか?
素人には区別が付かないのかも知れませんが、姉歯の事件を元ネタにするのなら建築構造の話題にした方が話が散漫にならずに済むと思われます。

投稿: ちょっと | 2005.11.30 11:01

>F.Nakajimaさま

現状で特にわかっていない点を特に挙げよといわれればまず *地盤の周期、つまりその土地土地についてどの周期が特に強調されるか、またその共振の程度がどれほどであるか。 *コンクリートの減衰の程度、つまり振動のエネルギーを建物自体の変形と微小な破壊、熱への変換によって吸収する項がシュミレーションの中に設定されていますが、実際にこれがどの程度の値をとるか。 *連続して発生する巨大地震への対応、つまり巨大地震は単独で発生するのではなくごく短い時間に連続して発生することがしばしばあることが知られていますが、そのような地震が発生した場合、現在の3,4サイクルの部材の塑性変形によって振動を吸収するというモデルがそのまま有効であると考えてよいのか。 などの点が特に重大な問いであると個人的には考えています。 そこまで大きくなくても例えば天井の崩落などといった、かつては無かった事故が技術の発展によって生じることことになるといった問題も新たに生じてきます。  これらをまとめると1.巨大構造物のような長周期の建築物と地盤の相互作用 2.そもそもシュミレーションに用いる定数の妥当性 3.想定する地震の妥当性 4.新たに生じている問題の抽出 などが現在の解析環境においても残されている主要な問題です。なんだ全面的に謎じゃないかと思われるかもしれませんがそういうものです。

投稿: Babur | 2005.11.30 22:46

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