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2005.11.07

フランスの暴動について簡単な印象

 フランスの暴動について簡単な印象を手短に書いておくのも同時代資料的なブログの意味かもしれない。事件の発端は、先月二十七日パリ郊外セーヌ・サンドニ県で、強盗事件捜査中の警官に追跡されたアフリカ系未成年二人が変電所に逃げ込み感電死したこと。その翌日二十八日、サルコジ内相が二人は追跡されてなかったと表明したことにアフリカ系移民社会が反発し、同日金曜日の夜から移民社会の、主に未成年による暴動が始まった。休日を挟み、十一月の一週には収束すると見られていた暴動は今なお継続して世界的な関心をひく事態となった。しかし、暴動による死者はまだ出ていないようだ。
 私は当初それほどたいした事件ではないと思っていた。現在日本人は各国で暮らしており現地からのブログを読むこともできるからだ。そうした一例として、ブログ「ujuの日常」の七日付けエントリ”パリ郊外の暴動”(参照)ではバリの状況をこう記していた。


とりあえず、私は今パリ市内に住んでいて何の問題もないです。
今日も彼とメトロに乗り、ちょっと遠くまで出かけていましたが
普通のいつもの日曜日と変わりはなかったです。
それでも
いつどこで何が起きるか分からない今の状況
ちょっと不安だったりするのは事実です。

 生活者の視点としては、パリの日常も東京のそれとあまり変わらないではないかという印象を持った。まず、メディアによる情報が先行しているが、暴動自体は極めてローカルな連鎖のようだ。
 暴動の進展につれ、私は過去二つの暴動に思いを巡らした。一つは一九九二年のロサンゼルス暴動(参照)。そして、もう一つは同じくフランスで一九六八年に起きた通称「五月革命」(参照)である。
 ロサンゼルス暴動の連想は人種差別と社会的な憎悪の蓄積が引き金となった点である。今回の暴動はこれに近いのではないかと当初私は思っていたので、偶発的でもあり早晩収束するだろうと見ていた。しかし、そうではなかった。では、ミシェル・フーコーなども関わった五月革命的なものだろうか。しかし、今回は目立った知識人の関与はなく思想性も伺えない。ただ、これだけ長期化するには、火炎瓶などを継続的に作成する必要があり、そのあたりに下準備があったのではないかという疑問はもった。一部報道ではそうした準備も指摘されている。例えば、”仏暴動:パリ南部で火炎瓶製造工場発見 背後組織を捜査”(参照)にはこうある。

北アフリカ系を中心とする若者による暴動を捜査しているフランス警察当局は5日夜から6日未明にかけ、パリ南部エブリの廃虚ビルの中で、火炎瓶製造工場を発見し、火炎瓶50本と、ガソリンを詰める前の瓶100本以上を押収した。


 ただし、仏警察はこれまでの逮捕者の調べなどから、暴動について単一のグループが全体を指示している形跡は薄く、各地の別のグループが他地域での暴動を「模倣」する形で広がっていると見ている

 暴動はそれほど偶発的ではないのかもしれない。現状では扇動するような背後組織についてはなんとも言えないが、ありそうな印象はある。
 フランスの暴動について報道は各メディアを通して行われていたが、解決策への示唆を含む論調のものはあまりなかったように思う。そのなかで英国のガーディアンが左翼っぽく、差別解消、反サルコジといったトーンを出していたように思えた。が、特に見るべき内容でもなかった。国内ニュースでは毎日新聞”仏暴動:移民若年層、差別に怒り 疎外感が過激化招く”(参照)がそうしたトーンに近い。

 暴動がこれほどまでに拡大した背景には、治安維持を優先するサルコジ内相の強硬路線に対する反発だけでなく、就職、家探しなど日々の暮らしの中で移民が直面する差別への怒りがある。さらに、仏社会に溶け込めない一部移民は大都市郊外などで一種の「ゲットー」を形成しており、社会からの疎外感が若者の過激化を招いている。

 こうした論調を否定はしないがタメにする議論のようでもある。むしろ同記事で重要なのは暴動の主体だ。

 今回、暴徒化した若者の多くは、高度成長期のフランスに北アフリカなどから両親が移り住んだ移民の2世、3世だ。

 端的に言えば、暴動の主体は紛う方なき歴としたフランス人なのである。言語的にもカルチャー的にもフランスに違和感をもって育った人ではない。暴徒の行動原理は一義的にはフランス人のそれであると理解していいだろうと私は思う。つまり、移民が問題の根幹にあるのではなく、ある問題が移民に投影された問題と理解したい。また、彼らの大半は未成年でもあり、大枠では、思想性もない、ありふれたお子ちゃまの大暴れという認識に留まるだろう。
 暴動の別側面だが、「極東ブログ: シラク大統領の次はサルコジ大統領」(参照)でも触れたサルコジだが、今回の暴動は結果的に彼を追い落とすという流れになるだろうかということが気になった。しかし、最新の報道では、読売新聞”仏暴動、発砲で警官ら30人負傷…大統領が緊急会議”(参照)にあるように、シラク大統領も表面に出てきたようなので、そのあたりの面々の泥の被り方が見ものである。
 今後の動向だが、暴動はいずれ一段落した後、今回の暴動を嫌悪した右傾化の度合いが深まるのだろうと思う。関連の話はいくつかこのブログにも書いたが、「極東ブログ: 親日家ブリュノ・ゴルニッシュ(Bruno Gollnisch)発言の波紋」(参照)あたりが気になる。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

とうとう死者がでました。暴動が多発しているセーヌ・サンドニ県スタンの警察当局は7日、先週末、暴徒の若者に殴られて意識不明となっていた61歳の男性が同日、死亡したと発表した。一連の暴動による死者は初めて。といいうこですが。ドイツベルギーでも車に放火事件が。懸念されていた飛び火みたいです。

投稿: 星の王子様 | 2005.11.08 01:26

単純に同化政策の失敗ってことなんでしょうね。
欧州国家は移民を同化させるのが本当に下手だな、
としか言いようがないです(日本も人のことは言えませんが)。

「同化できないなら」ということで次善の策で編み出された、
英国・オランダ流の多文化主義も見事に失敗してしまいましたし、
欧州の移民対策はまさに八方ふさがりな状態ですね。

投稿: ななし | 2005.11.08 07:04

ユーロのせいでフランス・ドイツなどの西欧諸国が独自に十分な金融・財政政策を打てなくなった影響も絡んでるんでしょうかね?

投稿: Baatarism | 2005.11.08 09:43

 ふと疑問に思ったんですが、移民政策がうまくいっている国ってありますかね。アメリカはうまくいってるように見えて、メキシコ国境付近のヒスパニック系移民の集中を問題ととらえる向きが多いですし、海外から優秀な労働者を集めるスタイルや他文化主義が本当に主流なら、そもそもブッシュ大統領が再選する事もないでしょうし。

 うまく行かなくても、取り入れざるを得ない事情があるというのであれば、それには同意いたしますが。東海地方のように、もはやブラジル移民がいないと産業が成立し得ない地域もありますし。でも、不景気になったらどうするんだろう。

投稿: うみゅ | 2005.11.08 11:19

「端的に言えば、暴動の主体は紛う方なき歴としたフランス人なのである。言語的にもカルチャー的にもフランスに違和感をもって育った人ではない。暴徒の行動原理は一義的にはフランス人のそれであると理解していいだろうと私は思う。」
このコメントに関しては私は反対です。彼らのほとんどはフランス語に関しては不自由しませんが、それでも、アラブ訛りであったり、肌の色、宗教、親から受け継いだ文化、などで彼ら自身フランス人でありたい部分と、フランス人と距離を置く部分と両方持ち合わせているのではないでしょうか。フランス人でありたい部分があったとしても、メインストリームの社会が彼らを「移民2世」という目で見、彼らもその視線を感じ取っている。その上就職難や、メディアでのレプリゼンテーション、白人系フランス人と友達が出来にくい、等々で不満は有ると思います。ですから、フランス社会に違和感を持っている人が多いと言っていいでしょう。
僕はイギリスに住んでいるのですが、そこで移民2世達と交流してそう感じました。
ただ、「ある問題が移民に投影された問題」という点は理解できるような気がします。イギリスの場合ですとYob behaviour というのが社会問題となっています。これは若者達が車を破壊したり、大酒を食らって酔っ払い、それが元で喧嘩したり、破壊行動に出たりしています。この行動の主体は白人系イギリス人です。ですから、イギリスの若者は社会にある種の不満を持っており、それが白人系ならYobという形で不満を解消させ、非白人系なら人種、宗教という要素が加わり、テロ行動、ギャング、破壊行動などに走るという解釈も出来ると思います。

投稿: Too Sweet | 2005.11.08 11:52

で、どうすりゃいいの?

投稿: | 2005.11.08 15:58

学校を燃やしたところが腑に落ちないなと思ってました。
「革命」なら所得差の拡大している米英から始まるのが筋かと思われるし。
校内暴力世代Jrとでも言うのでしょうか。

投稿: papepo | 2005.11.08 17:57

テレビを見ないというのは、情報にうとくなりますね。。。

やっぱりニュースは見るべきか。。
新聞を読むべきか。。

悩むところです。

投稿: サリー♪ | 2005.11.08 18:01

フランス在住日本人のブログが参考になるかもしれませんよ。
http://malicieuse.exblog.jp/
その方のブログをみて思ったことはヤンキーが調子のって悪いことをしているのを
ずる賢い大人が自分達の正当性を主張するたに、それに便乗してるんじゃないの?って感じです。

噂がさらに噂を呼ぶ悪循環にフランスは嵌ったようで、
自分で判断して動く為には、基礎教育というか教養って大事だなぁとシミジミしております。

投稿: とーりすがり | 2005.11.08 18:49

移民政策の良し悪しって、勝手に入ってこられた上に、その国の責任のように言われたらたまったものじゃないよね。日本にも、何でも日本のせいにする外国人勢力がいますけど。

自分の国を捨てた人間が、他所の国でそこまで善良に生きていけるか疑問。

投稿: あぁ | 2005.11.12 01:32

フランスの場合は勝手に入ってこられたのではなく、
第二次世界大戦の人口減に対する対策として自ら移民を推進してますが。

投稿: やま | 2005.11.13 11:27

>>やまさん
確かにそういう時期があったのは事実ですが、今現在流入してくる移民はフランス政府、フランス人の意思とは無関係に入り続けているわけで。日本は日本で『強制連行』を未だに言い募る外国人がいるし・・・

投稿: あぁ | 2005.11.14 22:47

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