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2005.10.01

ただ飯はないよ定理の奇妙な応用に関連する悪夢

 まれにだが明け方夢を見ているまま意識が覚醒していることがある。夢の思考をそのまま続けているのだ。プログラマーをしていたときは、かなり昔のことになるが、デバッグの夢ばかり見ていた。新規に未決な問題を抱えているとそういうことがある。

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四色問題
 夢はというと四色問題についての一般向けの講義だった。四色問題を知っている人なら想像が付くと思うが、やたらとつまらない。エレファントな証明っていうかピンクエレファントだよな。
 夢の講義を聴きながら私はウンザリしている。だからぁ、解法が全然エレガントじゃないんですよぉとかぶつぶつ独り言を言う。知りたいのは、なぜこの簡素な問題がこうもエレガントではない解法になるのかということをエレガントに知りたいのであって、解法のエレガンスじゃないんですよ。あー、だからぁ解法アルゴリズムの改良(参照)じゃなくてぇ…違う!
 朝、ミューズリを噛みながら、ブレックファストティーを飲み終えても、頭の中は夢が続く。だめだこりゃ、通じねーわ、とか呟いていくうちに、次第に現実世界の思考に戻っていく。さて、世間はなにを悩んでいるのだろうか。四色問題ではあるまい。靖国問題?
 世間にもいろいろあるがサブ世間で悩み事になっているのは、あれだ。インテリジェントデザイン(ID)論への反論だよね、ってつい苦笑してしまうのだが、日本で話題になっているのは、産経新聞”「反進化論」米で台頭 渡辺久義・京大名誉教授に聞く”(参照)への反論なので、これは相手にするも稚拙(参照)。端から米国の政治問題に縮小すると話は単純すぎ。もっともID論なんてその程度ということでもあるのだろうが、ID論への反論をするならもうちょっと情報論などを含めて包括的にというか、あるいは進化論全体への目配せもあってもいいかなとも思うのだが、あまりそういう話題はない。私なんぞが下手に突っ込むとこっちもあらぬとばっちりを受けかねないので桑原桑原でもある。
 が、変な夢を見たのは、ちょっとこの話に関係する。昨晩、デンスキー(William A. Dembski、参照)の指定複雑性(Specified complexity、参照)とチョムスキー思想のことを考えていた。と、すでに厄介な話に足をつっこみつつあるが、生物の複雑性について、チョムスキーは、通常生体は余剰ある複雑性を取るのだが、人間の言語能力には例外的なシンプリシティを想定していて、なぜそうなるのか進化との関連がわからない、としている。
 暗黙の内にチョムスキー学に非進化論的な匂いを嗅ぐ学者は少なくない。ピアジェ(参照)を初めフォーダー(Jerry Fodor、参照)などもそうか。ゴリラなど持ち出して言語能力の研究なども進められているのは、非進化論的な言語能力のという仮説に反論したいのだろう。
 ま、それはそれとして、デンスキーの指定複雑性だが、これは数学的に成り立つのだろうか? ノーフリーランチ定理(参照)の応用ともいえるらしく、確かにヒューリスティック(発見的)な手法から最適解、つまりここでは強力な構造が形成されることはありえない、という標識は情報学的に明確になるものだろうか。そのあたりをぼんやり考えていて四色問題の悪夢となった。
 このあたりの話はトンデモにも近いので悪夢じゃない将来を夢みている学者さんは考察もしないかもしれないし、そんなもの端からトンデモですよというだけかもしれない。
 話はちょっと逸れる。私は悪夢から覚めて、ぼんやり秋の日を過ごしながら、いわゆる日本のID論批判に隠されているのは「自然」ではないかなとふと思った。これにはちょっと連想がある。木村資生(参照)の中立進化説(参照)だが、一般的にはWikiにもあるようにこう理解されている。

分子レベルでの遺伝子の進化は、従来のダーウィン進化論の説明のように自然淘汰により引き起こされるだけではなく、生物の生存にとって有利でも不利でもない中立的な突然変異を起こしたものが偶然に広まり集団に固定化することによっても起きるとする。

 しかし、これは、自然淘汰説への反論とはならなかった。

生存に不利な変異は自然淘汰によって排除されるという点では淘汰説と共通するが、中立進化説では、突然変異の大部分が、生物にとって有利でも不利でもない中立的な変化であるという事実に注目する。

 このあたりちょっと微妙なんだが、中立進化説は、要するに分子レベルでは中立といいながら、学説としては、自然淘汰説に対立せず、実際の種の規定についてはメジャーなダーウィニズムに従属することになった。
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POPな進化論
 というところで、そうか、ダーウィニズムというのは、自然淘汰説であり、ここで問われているのは「自然」か。そうか。ID説というのが擬似的に「神」なら、ダーウィニズムは擬似的に「自然」であり、この自然とは、そう、ホッブズ(参照)のいう自然状態(参照)の自然なのだろう。
 ぶっちゃけてしまえば、どっちも同じ根の西洋哲学的な対立にすぎないのではないか。ホッブズの子孫達が神を暗示するID論に忌避感を持つのは当然だが、八百万の神、直毘霊の日本人がその土俵に乗ることはないんじゃないか…。ま、今夜は悪夢を見たくはないな。

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コメント

いつも楽しみに拝読させていただいております。
閲覧者の中には、finalvent氏の素性をご存じの方もいらっしゃるようですが
これまで何も知らずにいた私には氏が「元プログラマ」とは驚きでした。
現在は有閑マダム、じゃなかった高等遊民をされていらっしゃるんでしょうかね?
うらやましー
この!プチリタイア組め!

投稿: 定期的通りすがり | 2005.10.01 18:15

まぁ自然なんてぇ巨大なものをまともに扱えるはずもなく、適当に切りつめて抽象化するしかないのですが、どこを残しどこを切るかがなかなか体系的でない(つーか基本的に個々の生物を観察しての後知恵)のが今の進化論の弱みですね。

で、進化論で言う”自然”が恣意的なフィクションなのはその通りなのですが、その中身がホッブズの言うそれと同じかどうかは疑問です。進化論で言う競争は子孫というか遺伝子を残すための競争であり、万人の万人に対する戦争状態とはだいぶ様相が異なるのでは、と。

あと、保守系の人に一部進化論嫌いが多いのは、保守論壇にけっこうクリスチャンが多いからでは、と思います。たしか渡部昇一に曽野綾子、三浦朱門もそうでしたっけ。その手の方たちは、社会主義的な進歩史観と進化論を地続きのものと考えたり、理数系科目を目の敵にする傾向があるようで。たしか審議会で中学校の指導要領から二次方程式や生物の進化を削除することを唱えた方々もクリスチャンだったような。

投稿: 自由の敵 | 2005.10.02 11:15

NFLT ですか。ここ十年以上、アカデミズムとはかけ離れた生活をしてるので、初めて知りました。最適検索アルゴリズムは仕事と関係があったんですけど。(開発者ではありませんが)
証明は読んでません(読めません)が、ふ~んって感じですね。なんとなく、「万能な圧縮アルゴリズムはない」ってのに近いような。(ってゆうか、もしかして同型だとか。算数苦手なので証明する気もしませんが)

投稿: 粘着電脳研究家 | 2005.10.02 23:40

>> 自由の敵さん
くわしくお願いします

投稿: config | 2005.10.04 00:41

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» ID(Intelligent Design)論について [無関係な死]
産経新聞の記事で、「反進化論が台頭」なんてのが出てきたのを知って、アメリカで宗教右派が台頭してきてるのを憂う記事なのかと思って「おおー、産経にしては珍しくアンチ・アメリカ [続きを読む]

受信: 2005.10.02 01:42

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