朝鮮半島有事における戦時作戦統制権が韓国へ返還される予定
まだ結論は出ていないので読み筋を間違えているかもしれないが、朝鮮半島有事における戦時作戦統制権について、近未来に米軍から韓国軍への返還ということになりそうだ。もっとも実際の返還や体制整備には当然時間はかかる。
二十一日にソウルで開催された、ラムズフェルド米国防長官と尹光雄韓国国防相を中心とする米韓軍事当局者が出席した第三十七回米韓年次安保協議(SCM)後の共同声明では、戦時作戦統制権の委譲協議について「適切に加速化」(appropriately accelerate)とした。日本語で読める記事としては二十一日付読売新聞”「戦時作戦統制権」返還を…韓国側、米国防長官に提案”(参照)などがあり、背景について次のように簡単にふれている。
韓国は朝鮮戦争(1950~53年)ぼっ発の際、韓国軍に対する作戦統制権を米軍に移譲。94年に平時の作戦統制権が返還されたが、戦時の作戦統制権は今も在韓米軍司令官が兼任する米韓連合司令官が握っている。
朝鮮戦争については、ネットを眺めるに、日本人の若者に大東亜戦争を知らないという層があるように、若い世代の韓国人も知らないという層がありそうだ。が、事実として、あらためて言及するまでもないが、朝鮮戦争は事実上停戦はしているものの、戦争が終結しているわけではない。ちなみにWikipedeiaの「朝鮮戦争」の項目(参照)を見たら、「結局、スターリン死後の1953年7月27日、板門店で北朝鮮・中国と国連軍の間で休戦協定が結ばれ、3年間続いた戦争は終結した。」とあるが誤記である。
Wikipediaの同項目には、関連して、「なお、韓国はその後、30数年の開発独裁(朴政権等)を経て民主化に成功したが、北朝鮮は今なお当時の臨戦態勢のまま、世襲による一党独裁(朝鮮労働党以外にも政党はあるものの分家のような存在)が続いている。」ともあり誤解を招きやすい表現だが、現実には、韓国もある意味で臨戦状態になっており、その象徴ともいえるのが、「国家保安法」の存在だ。
国家保安法について、話題が斜めに流れるようだが、最近韓国で話題になっている。今年七月末姜禎求(カン・ジョング)東国大学教授がインターネット新聞のコラムで「統一戦争であった韓国戦争に米国が介入しなかったら、戦争は一か月で終わったはずであり、殺戮と破壊の悲劇は起こらなかったはず」と記し、さらに九月三十日ソウル大学シンポジウムで次のように発言したことなどで、北朝鮮の賞讃を禁じた国家保安法違反に問われた。”「韓米同盟は反民族的」…姜禎求教授発言で波紋 ”(参照)より。
姜教授は、「韓米関係の批判的検討と新しい再編」と題したテーマ発表を通じて「韓米同盟と在韓米軍のため、韓半島は絶え間なく戦争の危機に追い込まれているので、韓米同盟を撤廃して在韓米軍を全面的に撤退させなければならない」と主張した。
姜教授は1946年、米軍政による世論調査の結果、共産・社会主義に対する支持勢力が77%だった点を例に上げ、「共産主義であれ、アナーキズムであれ、当時の大多数の朝鮮人が希望することなら、当然その体制を選ぶのが当たり前だ」と主張した。
こうした主張は言論の自由が確保されている日本国内では取り分けどうということもなく見られるもので、韓国でそれが国家保安法違反に問われることは日本人の感覚としては、過剰な統制に見える。が、先にもふれたように朝鮮半島は現状戦時下に置かれることを考慮すると単純に割り切れる問題ではない。
国家保安法違反容疑を受けた姜禎求東国教授は、検察が取り調べのため身柄を拘束することになったが、そこで千正培(チョン・ジョンベ)法務部長官が異例の捜査指揮権発動し、在宅捜査に切り替わった。法務部長官の命令なので検察側も従わざるをえないのだが、金鍾彬(キム・ジョンビン)検事総長はこれに反意を示す形で辞任した。経緯は朝鮮日報”「韓米同盟は反民族的」…姜禎求教授発言で波紋 ”(参照)から読める。
話を朝鮮半島有事における戦時作戦統制権に戻すと、姜禎求東国教授の意見は突出したかのように見えるが、ウリ党の有力者でもあり盧武鉉大統領の側近でもある千正培法務部長官がこれを保護しているという点で、盧武鉉政権の考え方に近いのだろう。
戦時作戦統制権返還後の韓国の情勢の軍事面の変化について、朝鮮日報”【戦時作戦統制権の返還推進】連合司令部解体時は戦力に「穴」 ”(参照)では次のように指摘している。
まず、戦時作戦統制権が韓国軍に返還されれば有事の際、韓米両国軍を指揮する韓米連合司令部は解体されるほかない。米軍が他国軍の指揮を受けた前例がほとんどないという点を考慮すれば、解体は不可欠といわれる。
連合司令部の解体は、在韓米軍の大規模な撤退へとつながる可能性もある。韓米連合防衛態勢が、韓国軍主導に切り替わって、多数の在韓米軍が駐屯する名分が無くなるためだ。在韓米軍は2008年までにおよそ3万7000人から2万4500人余に削減される予定だが、戦時作戦統制権が返還されれば、それより遥かに少ない兵力が残る見通しだ。
韓国軍がこれを契機により独自の軍事活動ができるということは日本にとって脅威となりうるのかもしれないが、それ以前に朝鮮半島からの米軍の撤退がなにをもたらすかということが日本には先決の課題となるだろう。
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コメント
日本から見ていると韓国と北朝鮮は互いの認識にだいぶ差があるようにみえるけど、韓国の多数が親北になるのなら、現状は危険性を隠しきるのか。
他国は遠いと感じてしまう。
そう考えると、韓国にとって北は他国。
現実の他国と民族という感情
投稿: 詩的日記-ブログ | 2005.10.24 13:01
北の流入によって面倒なことになりそうなので、「自分でなんとかしろ」と言ってるのではなかろうか
投稿: i | 2005.10.30 01:23