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2005.10.19

アスベスト問題を巡って その二 (考える会/白石綿)

 アスベストについて「極東ブログ: アスベスト問題を巡って(2005.07.17)」(参照)を書いてからなんとなく気になっていることがあり、考えもまとまっていないのだが、とりあえず書いておこう。とっかかりはこの問題の背景についてだ。前回は、七月の時点だが、こう書いた。


 アスベスト被害の問題が急速にメディアで取り上げられるようになった。被害者救済という点ではよいことなのだろうと思う。C型肝炎の問題でもそうだったが、識者は現状や予想について警鐘も鳴らしていたのだろうが、それが一般の社会問題に取り上げられるに至るには、なにか別の経路を取ることもある。今回のアスベスト騒ぎでもそのあたりが気になっていたのだが、ざっと見た限り、特に気にすべきこともなさそうだ。

 アスベスト問題が今年に入って急に社会問題に浮上する経路について、まったく気にすべきことがなかったかというと、そうでもない。ただ、よくわからないというのと、不用意に書くべきではないだろうなという思いがあった。その後、ネットやブログを見回してみてもそれほどアスベスト問題の背景の考察は見かけないように思える。それならそれでもいいのだが。
 試しに「アスベスト」をグーグルの"I'm Feeling Lucky"ボタンで検索すると、なんとも素人くさいデザインの「アスベストについて考える」(参照)というホームページが出てくる(MIDIのオルゴールが流れるには閉口した)。プロファイルもアバウトもないので一見して誰が運営しているのかわからない。「アスベストについて考える会」ということらしいのだが、この会はなんなのだろうかと疑問が湧く。
 通常通りにグーグルで「アスベスト」を検索すると次点は厚労省の「アスベスト(石綿)情報」(参照)となっているのだが、どうしたグーグル先生? 気分でも悪いのか。なぜ「アスベストについて考える会」が厚労省サイトより上位なのだろうか。SEO的な処理があるのかざっと見たがわからなかった。
 「アスベストについて考える会」とはなにかが気になるのでいくつか調べてみると、読売新聞(2005.07.21)”[論点]アスベスト災害 「労働法」超え対策急げ 大内加寿子(寄稿)”に次のようにあった。

 ◇おおうち・かずこ アスベストについて考える会 97年からアスベスト問題のホームページを開設する。「石綿対策全国連絡会議」運営委員。

 つまり、実体は「石綿対策全国連絡会議」ということだろう。なので、「石綿対策全国連絡会議」を調べると、読売新聞(2005.07.16)”石綿業界が規制に抵抗 92年の法案提出時に社会党などへ文書 大阪夕刊”に次のようにあった。

 石綿被害が表面化してきた1987年に「石綿対策全国連絡会議」が発足し、同会議は医師や有識者の意見を聞きながら「アスベスト規制法案」の国会提出を目指した。
 同連絡会議の事務局長だった伊藤彰信・全日本港湾労働組合書記長らによると、92年に社会党を中心とした超党派で法案の原案を作り、提出前の同4月ごろ、関係者からヒアリングしたが、石綿協会側は「健康への影響について誤解されている。

 また、読売新聞(1990.01.21)”石綿対策全国連絡会議”では次のようにあった。

 アスベスト(石綿)による健康破壊、環境破壊をなくそうと、1987年11月、総評の呼びかけで結成された。労働組合、市民団体など26団体で構成。アスベストを使用する機会の多い全港湾、全建総連といった労働組合、アスベスト110番で市民相談に応じているアスベスト根絶ネットワーク、日本消費者連盟、全国じん肺弁護団などが加わっている。

 短絡すると、「アスベストについて考える会」は総評が元になっていた。さすがに今となっては総評について注釈したほうがいいだろう。Wikipediaの項目(参照)にはこうある。

 日本労働組合総評議会(にほんろうどうくみあいそうひょうぎかい)は、日本の労働組合中央組織。 略称、総評(そうひょう)。
 日本最大の全国的労働組合中央組織だった。 第二次世界大戦後、占領軍・連合国軍最高司令官総司令部の保護と育成の下に再出発した日本の労働運動は,当時の経済・社会情勢を背景に激しく、かつ政治的色彩の濃いものであった。


 1983年(昭和58年)には49単産、451万人、全組織労働者の36%が総評傘下にあり、その約7割は官公労働者だった。 毎年、中立労連とともに春闘共闘会議を組織し、春闘を賃金決定機構として定着させた。
 1987年に発足した全日本民間労働組合連合会(全民労連。後の日本労働組合総連合会(連合))に合流するため、1989年11月に解散した。

 これも短絡すると、総評は官公労働者が中心の労働団体で現在の連合(参照)に統合されている。
 話を戻してなぜ総評が一九八七年にアスベストを問題としたかというと、その前年にILO(国際労働機関)の条約があったからだ。地域医療研究会というサイトの”静かな時限爆弾”(参照)が詳しい。

● アスベスト条約の批准
今から約20年前、1986年にILOがアスベスト条約を作っています。青石綿と吹き付けの全面禁止、他の石綿は可能な限り、禁止か代替製品を促進するようにと。しかし日本はこの条約を批准しなかったのです。


● 石綿対策全国連絡会議結成
日本では、ILO条約の翌年、1987年に労働組合(総評)が市民団体に呼びかけて、石綿対策全国連絡会議が結成されました。

 以上が、「アスベストについて考える会」の由来に関連するファクツなのだが、気になるのは、当初の問題は「青石綿と吹き付けの全面禁止、他の石綿は可能な限り、禁止か代替製品を促進するよう」という点だ。つまり、禁止対象は青石綿に限定され、他の石綿(アスベスト)についてはそれほど厳しい規制は求められていない。
 ここでアスベスト(石綿)の種類だが、Wikipediaでは次のように分類している(参照)。なお、引用には英語名を私が補足した。

クリソタイル(chrysotile:白石綿、温石綿)
 クリソタイルの組成式は Mg6Si4O10(OH)8。クリソタイルから作られる石綿を温石綿と呼ぶ。日本では2004年10月、使用が禁止。しかし、一部の用途に限っては、2006年までその使用は認められている。2008年までには全面禁止される予定。
クロシドライト(crocidolite:青石綿)
 1995年より使用も製造も禁止。
アモサイト(amosite:茶石綿)
 1995年より使用も製造も禁止。
アンソフィライト(anthophyllite:直閃石綿)
トレモライト(tremolite:透角閃石綿)
アクチノライト(Actinolite:陽起石綿)

 内、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトは稀少なので産業には応用さていない。産業で利用されたのは、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)であり、危険性が特に問題視されるのがクロシドライト(青石綿)である。
 日本はアスベストの多くをカナダから輸入しているが、そのカナダ大使館の情報”クリソタイル-白石綿 (アスベスト) について”(参照)では次のように説明している。重要な事柄なので、長いが引用したい。

 「アスベスト」は広範囲な科学的及び医学的な精密調査の対象となってしまいました。とりわけ科学者は、すべての「アスベスト」が同様ではないことを発見しました。また、繊維の長さ、直径及び種類も曝露(量と期間)と同様に人間の健康に影響を与えることが分かりました。これらの知見の結果として、角閃石と呼ばれる鉱物で健康に影響する可能性のある種類は、もはや使用されていません。同様に、「アスベスト」は吹きつけ断熱材及びその他空気中に容易に放出される可能性のある製品には、すでに用いられていません。
 一方、クリソタイルは世界で用いられるアスベストの最も普通の形態であり、カナダではこの種類が唯一生産され輸出されています。建築材料、ブレーキ ライニング及び上下水道管などの製品に安全に使用することができます。これらの用途に関しては、この繊維はセメントや樹脂のような基質に封じ込められて、周囲の環境に放散されることはありません。


 角閃光石アスベストとクリソタイル繊維は物理学的、化学的及び構造的に異なっています。これらはいずれも疾患の原因となりますが、クリソタイルは低いレベルでの曝露では安全に使用できることを示す科学的根拠もあります。しかしながら、すべての形の「アスベスト」は採鉱から廃棄までのあらゆる時点で注意して取り扱われなくてはなりません。オンタリオの「アスベストの使用によって生じる健康及び安全性に関する王立委員会[Royal Commission on Matters of Health and Safety Arising From the Use of Asbestos (ORCA)]は、世界有数の信頼できる分析結果の後、1984年に最も一般的に使用されている角閃石アスベストであるクロシドライト(青石綿、crocidolite)及びアモサイト(茶石綿、amosite)を使用する製造活動を無期限に禁止すべきであると勧告しました。一方、同委員会はクリソタイルを取り扱う職業上の活動に対しては、効果的な規制の施行、及び厳格な曝露レベル(繊維1本以下/ml規制限界)を勧告しました。これはクリソタイルへの「安全な使用」の提案と解釈され、採鉱、粉砕、製造、輸送、取り扱い及び廃棄活動全体に亘る厳格な規制を含んでいます。

 カナダ大使館発のこの情報をそのまま信頼すべきではないかもしれない。ここで関心のある人は、「アスベストについて考える会」のクリソタイル(白石綿)についての情報を読み込んでみるといいだろう。
 私の現時点の考えでは、過去のクロシドライト(青石綿)の問題は重視されるべきだが、クリソタイル(白石綿)まで一括した禁止とすべきだったのか、つまり、これまでの政府の対応が一概に間違っていたとも言えないのではないか、と。
 悪性中皮腫の原因と疫学・病理学の関連、補償の主体についての日米差などについても思うことはあるがまた別の機会としたい。

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コメント

「空気中に容易に放出される」形ではなく、含有量規制もありますが、アスベストは現在でも様々な建材に利用されています。建築物でアスベストを全く使用していないと証明できるものなどほとんどないでしょう。建材の中に封じ込められている状態なら住人には大した危険はないのかもしれませんが、建設作業、解体作業、廃材の廃棄物処理で被害が出るのではないでしょうか。

どの部材にアスベストがどれだけ含まれているかなど追跡不可能ですし、作業現場の人たちは防護マスクもなく、多分危険性についても知らされないまま働いています。工事現場に規制が課せられたとしても、現実的に考えて状況が変わるとは思えません。はっきりしないのをいいことに入っていないものとして扱われるだろうと思います。

工事現場の傍を通ると埃っぽいですが、近所の人への影響もあるかもしれない。短期間でもある程度以上の濃度にさらされた場合はどうなるのでしょうか。

相対的に危険性の低い白石綿といえど、使い続ければそれだけ将来にも危険を持ち越すことになるのではないでしょうか。

投稿: Zoo | 2005.10.19 16:16

アスベスト疾患は、内部被爆によるものでしょ。
いわゆる潜伏期と呼ばれるものがある、それも20年などと言われてもいる。化学物質でこんなに長い潜伏期がありますか(アスベスト中から発見されてもいない)?臨床データが集まれば、発病分布はおそらく凸型確率曲線を描くでしょう。つまり、ツーヒットですね。
クリソタイルは超塩基性岩の蛇紋岩化作用で生成された蛇紋岩、ウラン238などを含んでいてもおかしくない。蛇紋岩化学組成にCaがくっついた物(Ca2Mg5Si8O22(OH)2)が繊維状透角閃石で、より危ないアスベストと言われている物。これは岩塩などに挟まれた堆積岩として産出、つまり、ウラン238などがより濃集している可能性が大。
今世界で(関係者間で)大問題になっている低線量放射線影響問題そのもの、いやアスベストは、極低線量放射線と言う方が妥当でしょうが。アスベストサンプルの放射線量計測をしたいんだが、この騒ぎのため手に入らない!いや、お金を出せば手に入るが、これが高い!誰か、アスベストをください!!

投稿: 思わず書き子 | 2005.10.19 17:28

別にグーグルダンスの機嫌が悪かったから「アスベストについて考える会」がトップに来たというわけでもないでしょう。

私は6年前からネット上で私的に首都機能移転を研究していて、議論の参加者を共同で「首都機能移転を考える会」HPを作ってますが、グーグルダンスのおかげで「首都機能移転」検索の1位は私のページになっています。(国土交通省公式ページを差し置いて)

別にSEOめいたことは一切やっていません。
強いて心当たりを言えば、Googleと提携しているオープンディレクトリに政治ジャンルで登録されている(知らない間に他薦されていたらしい)ことがページランクを大幅引き上げたようです。

なので、Google順位なんてのも、オープンディレクトリ次第で変わるので、案外アテになりません。

投稿: スルッとKANTO | 2005.10.20 08:11

>思わず書き子さん

釣りにマジレスが趣味な訳ではありませんが、
アスベストによる疾患の原因は、
そういう化学反応的な物ではありません。
その繊維構造からくる物理的な損傷によるものです。

投稿: 無粋な人 | 2005.10.20 09:41

>無粋な人様へ
放射線発生は物理現象で、それに伴う電離作用や光電効果など(セルへのインパクト)も物理現象です。化学反応ではありません。

投稿: 思わず書き子 | 2005.10.20 10:27

ははは、そこでモヒカン式突っ込みとはなかなか手厳しいですね。

投稿: 無粋な人 | 2005.10.20 10:44

初めまして。上記コメントについて省察してみました。非ブログですみません。

投稿: hanjuku | 2005.10.20 21:30

アスベスト問題で、政府HPは信用できて、個人は信用できないという発想こそが問題のような気がする。話がすぐ短絡するのもなんともひとりよがりで、さすがにすき放題が書けるブログの良さだと思う。アスベスト輸出国のカナダのことは、WTOパネルをよく読んだほうがいいんじゃないかな。

投稿: 短絡しすぎ | 2006.07.16 23:09

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