« カトリーナ被害を経済面からのみ見ると | トップページ | 郵政民営化法案余話 »

2005.09.07

チェルノブイリ事故の被曝死者報道について

 国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)の専門家グループが、五日、一九八六年のチェルノブイリ原発事故の被曝死総数を約四千人と推定する報告書を発表し、昨日は国際的な話題となっていた。というのは、これまで数万人規模と推定されていた死者数をはるかに下回ったからだ。事故は悲劇的なものだったが、今回の推定が正しければ、従来想定されていた被害より少なくてよかったとは言えるだろう。
 このニュースについて国内外のニュースを何の気なしにざっと比べ読みしていて、奇妙なことに気が付いた。朝日新聞の報道のトーンが他と異なるのである。特に以前の死者の総定数の表現が違う。
 まず比較として一般的な報道としてロイター”チェルノブイリ事故、直接被爆の死者は推定下回る56人=調査”(参照)をあげておこう。


8つの国連機関などからなるチェルノブイリ・フォーラムは5日、1986年のチェルノブイリ原発事故で直接被爆して死亡した人はこれまでのところ56人で、それまでの一部試算を大きく下回ったとの報告を発表した。


報告は、「事故により数万から数十万人が死亡したと言われていたが、それは正確ではなかった」と結論付けた。

 この報道はIAEAが発表している”Chernobyl : The True Scale of the Accident”の概要(Digest Report)(参照)とも合致している。該当箇所は次である。

The report’s estimate for the eventual number of deaths is far lower than earlier, wellpublicized speculations that radiation exposure would claim tens of thousands of lives.

 つまり、数万人(tens of thousands of lives)と明記されていて、数千人というオーダーでは明白にない。参考までに、ワシントンポスト”Report: Effects of Chernobyl Not as Dire as Expected”(参照)とニューヨークタイムズ”Chernobyl's After-Effects Not as Dire as Predicted, Report Says”(参照)の記事もその標題からも話題のポイントがわかるだろう。
 ここで比較として朝日新聞の該当記事”チェルノブイリ事故の被曝死者4千人 IAEAなど報告”(参照)を見ると、標題に話題性が反映していないのはいいとして、冒頭は次のように書かれている。

 国際原子力機関(IAEA)などの専門家グループが5日、86年4月に旧ソ連(現在のウクライナ)で起きたチェルノブイリ原発事故について、直接の被曝(ひばく)による死者数を推計4000人程度にのぼるとする報告書を発表した。これまで数千人から数十万人と様々な調査結果が出されていたが、専門家による推計として、6、7の両日、ウィーンで開かれる国際会議で協議される。

 些細なことにこだわるようだが、朝日新聞のこの「これまで数千人から数十万人と様々な調査結果が出されていた」という様々な調査結果はなにを指しているのだろうか? つまり、どの過去の調査報告に今回四千人と推定されたような「数千人」があったのだろうか。もちろん、この表現がまたまた「捏造」だと指摘したいわけではなく、それらの推定値の情報はどこかにあるのかもしれない。だが、それが朝日新聞の記事だけに強調されているということは指摘できるだろう。
 加えて、該当記事全体を読むとわかるが、予想をはるかに下回るというロイター記事やIAEA発表にある重要な文言が含まれていない。そこがニュース性の根幹だがなぜ朝日ではスルーされているのだろうか。
 もっともこの点がスルーというのは、日経新聞記事”チェルノブイリ事故、死者は最大4000人・国連報告”(参照)も類似だが、これはベタ記事に近く、朝日新聞記事のように「数千人」という過去推定値は含まれていない。
 さらに参考として、読売新聞記事”チェルノブイリ被ばく死亡4千人、専門家グループ報告”(参照)でも標題は朝日新聞に類似だが、死者想定を下回る件についての明言は含まれている。BBCも”Chernobyl 'likely to kill 4,000' ”(参照)との穏やかな標題だが、内容はむしろ従来推定との差異に焦点が当てられている。
 なお、こうした今回の推定がチェルノブイリ事故の被曝者支援を妨げるものではないことは言うまでもない。

|

« カトリーナ被害を経済面からのみ見ると | トップページ | 郵政民営化法案余話 »

「時事」カテゴリの記事

コメント

以前、体外授精と環境γ線についてコメントしたものです。
チェルノブイリについては、1991年5月にIAEAの事故被害調査報告書が公表されており、「地域住民にはガンをはじめ何らの健康異常も認められない」と結論付けられていました。今回発表された約4,000人の数字を見ると、おそらく先の報告書が否定され、地域住民にも被害が出ていたことを認めた、と読み取ることが出来ます。長崎大教授時代からチェルノブイリ問題にかかわり、昨年WHO放射線部門トップに就任された山下俊一氏の研究成果が反映されたものと思われます。
核保有国の国防優先思考、資本主義社会のコスト・ベネフィット論に対して一石を投じたと言う点では、今回の報告書は評価できると考えています。ただし、「放射線障害は確定的影響ではなく確率的影響(ツーヒット説)である」と考えている者としては、報告書に記載されない被爆者(グレーゾーン)はかなりの数に上っているものと考えています。
私は反原発派でも原発推進派でもなく、現状では原発必要悪派であると考えています。それ故、無知識・感情的に原子力行政を批判したり、あるいは情報をひたすら隠したり捏造して安全性をむやみに強調したりする人々には、強い憤りを覚えます。
実際には(今のところ?)、一般の人々にとっては、原発のように厳重に管理されている放射線より、都市化された地域に存在する管理されていない放射線(コンクリートや石材などから放射されている)の被爆リスクの方がよほど高いと思います。第四紀の火山山麓(縄文人が住んでいたような環境)とコンクリート校舎で環境γ線量を測定したら、後者が前者の約1.9倍もあるという結果が得られています。つまり、縄文人よりも現代人が1.9倍(場所によって異なります)も被爆リスクが高いと言うことが出来ます。
放射線の影響をより強く受ける子供達を守るために、環境γ線についての理解が広がることを願って止みません。
駄文長くなり、申し訳ありません。

投稿: Otgoo | 2005.09.07 15:46

 いつもブログを見せていただいております。茂と申します。
 以前中国のテレビ放送で、原子力の専門家が国内の原子力との関連でチェルノブイリの事故は西側の誇大な報道で、実際の死者は何十人しかいないんだ、との話をしていたのを思い出しました。
 記事がその内容と一致するのはどうとればいいのかなぁという所です。

投稿: 茂 | 2005.09.07 22:24

えー、チェルノブイリですが、その86人っつのは何ぼなんでも少なすぎです。
日本で活躍している知り合いのウクライナ人歌手の知人だけで、その死亡数の半分近くになってしまいます。
いったいどういう数え方をしているのでしょうか?
もし、「被爆による白血病」死を「白血病による死」と数えて被爆による死亡数から抜いてしまえば、被害はいくらでも少なくすることが出来ます。
また、統計に表れるはずもないのですが、現在チェルノブイリの立ち入り禁止区域にはチェチェン難民が住んでいます。彼らが餓えや寒さなどで「衰弱死」すれば、やはり被爆による死亡には数えられないでしょう。たとえその衰弱が被爆によって加速されたものだとしても・・・

そんなわけで、さすがに事故の影響による死者が100人未満と言うのは、にわかには信じがたいものがあります。

投稿: vodka | 2005.09.15 20:19

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: チェルノブイリ事故の被曝死者報道について:

« カトリーナ被害を経済面からのみ見ると | トップページ | 郵政民営化法案余話 »