[書評]自民党の研究(栗本慎一郎)
日本の大きな変革に立ち会っているのだろうなと思う。日本のありようが日本国民に問われたということはいいことだ。日本国民はどう答えるだろうか。というところで、さて情報戦がばしばしと始まるのだ。
迎え撃つ小泉首相の原点は明快だ。”衆議院解散を受けて 小泉内閣総理大臣記者会見”(参照)より。
私は、今、国会で、郵政民営化は必要ないという結論を出されましたけれども、もう一度国民に聞いてみたいと思います。本当に郵便局の仕事は国家公務員でなければできないのかと。民間人ではやってはいけないのか。これができないで、どんな公務員削減ができるんでしょうか。どういう行政改革ができるんでしょうか
言わば、はっきりと改革政党になった自民党が、民営化に反対の民主党と闘って、国民はどういう審判を下すか聞いてみたいと思います。だから解散をしました。
つまり、郵政民営化に賛成ですか、と。
そこで、情報戦の敵方の先陣は論点ずらしに出てくる。曰く、そこが問題じゃない、そんなことは大した問題ではない、と。そして、偉そうな理屈がついたり、専門家めいたフカシがはいる。
しかし、その時点で倒錯ではあろう。国政というのはシンプルなものだからだ。
そのことを小泉総理はよく理解して勝負に出ている。
私は、この郵政民営化よりももっと大事なことがあると言う人がたくさんいるのも知っています。しかし、この郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるんですか。
この問題を明快にクリアできずに、何ができるのか、と。
たしかに、私はその通りだと思う。民主党を含めて反対勢力をうまく炙り出したという点で、緒戦は勝ったとすら思う。
![]() 自民党の研究 |
情報戦は、端的に言えば、虚像だ。そうではない、実像はどこにあるのか。
ぼんやりと考えながら、そういえばと書庫を覗くと、栗本慎一郎が病に倒れる前、一九九九年に書いた「自民党の研究―あなたも、この「集団」から逃げられない」があった。捨てたと思ったのだがある。めくってみた。面白いといえば面白い。参考になると言えば、そういう面もある。例えばこれ。関係というのは、旧保守と新保守の関係だ。
したがって、やがて日本経済が危機を脱したということになれば、この関係は分裂し、自民党の粒状化が始まることになる。自民党は、旧保守の牙城たる農漁村をいかに完璧に押さえても、衆議院の過半数を占めることはできない。旧保守を中心に自民党の運営がなされても、選挙が近づき、これでは政権が維持できないとなったとき、いとも簡単に新党ができる可能性が高い。
いうまでもなく、都市型、国際型新党である。
少なくとも二〇〇五年までに、自民党はあるひとつの総選挙のまえに分裂することは必至である。
二〇〇五年は当たり。と、これだけ読むと、恐ろしいほどの切れ味の予言ということになる。が、この予言は新保守の核が小沢一郎になるだろうと続く。だから、栗本の予言の全体は、九月一一日以降、そしてさらに半年後くらいにはっきりするだろう。
私は小沢を十年間一貫して支持したが、もう小沢の目はないんじゃないかと思うようになった。しかし、かつての思いから言うと、分裂が必要なのは民主党のほうだ。民主党から小沢の勢力が今回の事実上の小泉新党に合流して公明党を叩き出すというスジを望みたいが、まともに考えるなら、そうはならないだろう。栗本も、原則論的に、そう言っている。
小泉の家は、祖父、父、本人と三代続く保守政治家の家系だ。だが、もともとの本業は、横須賀の港を仕切る沖仲士などの集団の親分だった。ある意味で、清水次郎長がそうであったように、それこそ本物の侠客である。少し若いころの小泉に三度笠でもかぶせて、長い楊枝をくわえさせたら、中村敦夫(参議院議員、俳優、作家)よりよく似合う。
小泉は、小沢のように政党の改革とか政治の改革などといったことはいわない。関心すらないといっていいだろう。一方、小沢は、まずは理念と大きな政治方向を押し出して、前へ進もうという政治家である。小沢のほうが少数派であり、小泉は自民党の保守政治家である。
そういうわけで、小沢と小泉がいっしょになることはなかった。今後もないだろう。
もっとも、栗本は二者の合流に六年前だが未練は持っていた。
同書は森喜郎と小泉の関係についても美しいエピソードを描いているが、この背景を知ると缶ビールと乾いたチーズの話も含蓄深い。
さて、エントリを書いてみて思ったのだが、どう大衆情報操作がなされても、小泉が折れても、新保守の流れが止まるわけもないな。つまり時期だけの問題で、今回が好機となるのか、混乱からさらに焦土に近くなって立ち上がるか、それだけのことかもしれない。そう考えると、それほど意気込む戦いではない。ここで勝てたら儲け物。
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コメント
総理大臣記者会見なんてものをまじめに読んだのは初めてです。
このためだけでも、今回解散した意味は十分あったんじゃないかと思います。
ま、勝ち負けは不透明ですけど、こういう総理大臣を持ったことはうれしいですね。
民主党はというと10兆円うんたらと意気盛んだけども、
問題なのは『お前らがホントにそれ実現「しようとする」かどうか嘘臭い』
であることに気づいているんだろうか?
投稿: はりぼで | 2005.08.09 20:05
うわあ、先にやられてしまった。自分も「自民党の研究」は栗本センセイの隠れた名著だと思っていて、この機会にぱらぱら読み返していたところです。この後脳梗塞で倒れた訳だから、まさに命がけのフィールドワーク、その成果が詰まっている本ですね。
投稿: donald | 2005.08.09 20:51
選挙するかどうかの選挙(以下ry
争点が郵政だけだというなら郵政についてだけ国民投票を行ってほしいのだが、管理人の思い(私も同意)とは逆に、分かりにくいほど政治家は得をする。投票を簡略化する仕組みを考案したエジソンが一笑に付されたごとく。
民営化はしてほしい。今回の否決と民営化反対はまったく別問題だろうに、いわゆる「賛成派」も「反対派」も論点ずらしがお上手なようで、というかどういう方向に持っていきたいのだろうか、などと書くとまたアレですが。
民主党もアレなら自民党もアレ。
といってもはや普通選挙への信頼性はがた落ちなのでせっかく人気のあるうちに小泉に非常大権でも与えるべきかとwww
投稿: config | 2005.08.10 10:24
普通選挙への信頼性は、そんなにがた落ちなんですか?
投稿: synonymous | 2005.08.10 11:22
普通選挙の信頼性って言っているのは、「どうせ組織票で決まるんだ」ってなイメージでの話でしょうかね。
そう(組織票が決定的な状況であると)は言えなくなってきた(公明党は別にして)から、社民党が大量に議席を失ってきたんだと思うし、自民党が小泉さんを総裁にせざるを得なかったんだと思います。
でも、ある意味、有権者が問われる選挙であるのは確かで、「馬鹿な大衆が逆に入れる」ことに憤る人というのがかなり発生する恐れはありますね。
それが二大政党化という事だとは思いますが。
投稿: kkojima | 2005.08.10 17:11
とは言え、どう頑張っても当選者が決まっている
盛り上がらない選挙区というのはありますよね。
と言うか、うちの区がそうなんですけど。
わりと広い田舎に、
この文化圏内の隅の方に出来た
新興住宅地がくっついている構造で、
毎回旧(という程でもないけど)保守系が、
2位と1桁違う票をかっさらいます。
元大臣ですし…(ここまで言う場所がバレそうですが)
投稿: 無粋な人 | 2005.08.12 10:05