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2005.08.03

「『政治介入』の決定的証拠」(魚住昭)について

 場末の本屋に今月の月刊現代が売れ残っていたので、買い、例の「『政治介入』の決定的証拠」(魚住昭)をまずざっと読んだ。詳しく読み込んだわけではないのだが、これって何?というのが最初の印象だった。
 記事の問題性については朝日新聞記事”NHK問題、「月刊現代」の記事 本社資料流出の疑い”(参照)がわかりやすい。


 NHKの番組改変問題をめぐり、朝日新聞が取材したNHK元幹部らの「証言記録」を入手したとする記事が「月刊現代」(講談社)9月号に掲載されることがわかり、本社は29日、「社内資料の一部が流出した疑いがある」として社内で調査を進めることを決めた。

 この月刊現代の記事に含まれる資料がオリジナルなのかという考証はなされていないので、とんでもない偽文書という可能性はある。が、一読した印象ではたぶんこれは、かなりオリジナルを反映しているだろうという印象は持った。そのあたりは、七月二五日に出た朝日新聞の報告と類似性があることも裏の一つにはなる。むしろ、かなりオリジナルであろうと推定されるならなおさら、この文書に改竄がないかが重要になるだろうし、そして、それは、単純に言うのだが、録音テープの存在との照合が必要になるだろう。ここ至って、本田記者らによる秘密の取材テープ(ICレコーダーかもだが)が存在しないという主張も成り立つわけもないだろうし、この問題について、朝日新聞は明快な回答が求められていることにもなる。私の印象だが、この記事も含まれている資料にはすでに編集が入っているように思われる。
 ジャーナリストの魚住あるいは講談社がこれを持ち出した理由は、そう勘ぐることもなく、この記事のリードの通りであろう。つまり、「『政治介入』の決定的証拠 中川昭一、安倍晋三、松尾武元放送総局長はこれでもシラを切るのか」ということである。もう少し丁寧に言えば、魚住がこのリードを飲んでいるかはやや疑問には思える。というのは記事をまともに読めば証拠にはなっていないからだ。

 ただ、彼(本田記者)の取材に不十分な点がなかったわけではない。特に松尾氏が放送前日に中川氏と会ったという事実の確認においては詰めの甘さがあった。

 魚住は可能な限り本田記者を擁護しているが、さすがに事実関係において錯誤もできない。現状では、中川昭一は当の放送前にNHKと接触していなかったとするのが妥当だ。しかし、魚住は本田記者を擁護するあまり、本田記者が錯誤を自覚しているかのごとく解説する。それは違うだろう。なにより、だからこそ朝日新聞は一月一二日付の誤報を出したのだ。
 また、魚住の記事では安倍晋三を糾弾するかのごとき修辞が多いのだが、以下のようにNHKへの圧力を説明しているということは、背理法的に見て、安倍晋三の関与はないとすることの妥当性につながることになる。

 この経過で明かなように「放送中止」の圧力は右派団体・若手議員の会→伊東番制局長・松尾総局長の順で伝わっている。

 くどいがそこに安倍晋三はない。
 私が中川昭一と安倍晋三のラインに関心を持つのは、ここがこの問題の要点だからである。「極東ブログ: NHK番組改変問題について朝日新聞報道への疑問」(参照)で私はこう記した。

 朝日新聞が今後するべきことは、NHKバッシングのスジに逃げ込むのではなく、中川昭一と安倍晋三の関与がどのようなものだったかということを明確にすべきだろう。
 具体的には29日の「局長試写」で当時の松尾武・放送総局長と国会担当の野島直樹・担当局長が改変した内容が次の3点であったと朝日新聞は言う。

 (1)秦氏のインタビューを大幅に増やす
 (2)民衆法廷を支持する米カリフォルニア大学の米山リサ準教授の話を短くする
 (3)「日本と昭和天皇に慰安婦制度の責任がある」とした法廷の判決部分のナレーションなど全面削除
 
 であれば、中川昭一と安倍晋三がこの三点にどのように関与していたかを問わなくてはならないはずだ。そこが明かになれば、それはそれなりにニュースの価値があるだろう。


 つまり、現状では、具体的な関与条件以前に、二氏の関与すら明確になっていない。
 しかもさらに悪いことに、魚住の記事は「朝日新聞が今後するべきことは、NHKバッシングのスジに逃げ込むのではなく」という悪路の典型例になってしまったことだ。
 繰り返すが、この魚住の記事は、論点のすり替えである。
 ただ、なぜこんな論点のすり替えが出てきたのかということのほうがおそらく重要だろう。このあたりはやや推測に過ぎるという自覚も私にはあるのだがあえて端的に推測を言えば、すでに朝日新聞援護側の勢力がNHKバッシング(自民党がNHKに関与していることは悪だ)という問題が当の問題だと勘違いしているのではないか。だから、朝日新聞のジャーナリズムの倫理は無視しても本田記者の録音テープを出せばそこがクリアされると勘違いしているのではないか。
 この錯誤があるなら、呆れる。NHKの問題を曝きたいというなら、それこそがまったく間違った手法だということが理解できなくなっているからだ。さらに、この勢力は、朝日新聞による七月二五日の「NHK番組改変問題、改めて報告します」が気に入らないのではないかとも私は推測する。そうであれば、朝日新聞内部のある分裂の兆候なのだろう。
 ちなみに、朝日新聞の報告は以下である。

 ノイズのインフォメーションを多くして問題の核心を暈かしているが、ことは非常に簡単である。ようするに「NHK番組改変問題2―取材の総括」のここだけが重要だ。

一方、記事中の(1)中川氏が放送前日にNHK幹部に会った(2)中川、安倍両氏がNHK幹部を呼んだ、という部分に疑問が寄せられていました。

 この2点についてはこういう結果になった。

しかし、当事者が否定に転じたいま、記事が示した事実のうち、(1)(2)については、これらを直接裏付ける新たな文書や証言は得られておらず、真相がどうだったのか、十分に迫り切れていません。この点は率直に認め、教訓としたいと思います。

 つまり、朝日新聞はデマぶっ飛ばしたということを認めたのである。真相のわからないことをぶちかましてみることをデマという以外に形容できない。
 つまり、この朝日新聞の報告書が明記しているのは結果的に次の二点である。
 
(1)中川氏が放送前日にNHK幹部に会ってもいない。
(2)中川、安倍両氏がNHK幹部を呼んだこともない。

 当の問題を起こした本田記者については以下の点が重要。


●「すりあわせ」をもちかけたのか
 記事掲載後の今年1月18日、記者は松尾氏から電話を受けた。この際、記者が再取材を提案したことが、「すりあわせ」「調整」を持ちかけたと批判された。
 この電話で松尾氏は、朝日新聞の取材を受けたことはNHKに報告していないと告げたうえで、自分の真意と違うことが書かれたと訴えた。さらに、内部の事情聴取を受けると話し、録音記録の有無などを重ねて問いかけた。
 記者は、取材源の松尾氏が不利益を被ることがないように配慮した。そこで、証言内容を改めて確認し、場合によってはより正確にするために、再取材できないかと尋ねた。

 つまり、「場合によってはより正確にするために、再取材できないかと尋ねた」というのは、本田記者が「すりあわせ」を持ちかけたということである。
 このあたりは月刊現代の魚住の記事にはカバーされていないようだ。むしろ、この時点で本田記者は多少なり疑念を持ったのかもしれない。
 あと、些細なことだが、朝日新聞”初会合で説明、委員から意見 本社「NHK報道」委”(参照)ではこうあるのだが…。

 朝日新聞社側が総括報告の紙面などについて説明し、委員からは「番組改変という言葉を使ったが、その言葉からは番組を改悪したという先入観が感じられる」「政治的圧力があって改変されたというのは事実としてではなく、朝日新聞の判断として書くべきだった」などの指摘があった。

 同じテーマの読売新聞”番組改変報道問題、朝日新聞の第三者委が初会合”(参照)ではこうなっている。

 朝日新聞によると、初会合では、委員から「『政治的圧力で番組が改変された』ということを事実として書くのではなく、朝日新聞の意見として書くべきだったのではないか」「『番組改変』という言葉には、番組を改悪したという先入観を与える」といった声が出されたという。朝日新聞側からは、秋山耿太郎社長ら5人が出席。秋山社長は「秋の早い時期」までに意見をまとめるよう求めた。

 「判断として書くか」「意見として書くか」どっちが委員の発言であったのだろうか。判断として書くのであれば、判断をサポートするファクツが必要になる。意見として書くならブログのように勝手に書けばいい、ただそれで新聞なのかということは別の次元の問題になる。

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コメント

ちなみに 小生、魚住昭氏のことを「ととずみさん」と呼んでいて(本人に面識はないが) 友人との会話はそれで成立したりします。

投稿: dd2dtty | 2005.08.27 05:13

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