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2005.08.19

イラク内戦の危機について朝日新聞とフィナンシャルタイムズ

 今日の朝日新聞社説”イラク 内戦の瀬戸際だ ”(参照)は標題通り、イラクが内戦に陥りかねない状況について述べている。こうした視点は朝日新聞に限らず、八日付のフィナンシャルタイムズ社説”Iraq's slow slide into civil war”(参照)にもあった。このエントリでは、両紙の主張を簡単に比較してみたいと思う。
 朝日新聞社説からは状況がわかりづらい。


 憲法作りが難航しているのは、旧フセイン政権を支えたイスラム教スンニ派と、新政府で主導権を握ったシーア派や自治色を強めるクルド人勢力との間で、厳しい対立が続いているためだ。地域の自治をどこまで認めるか、イスラム教を憲法でどう位置づけるか、イラク経済を支える原油収入をどう配分するか、などで大きな溝ができているという。

 フセイン体制を支えたスンニ派に対して、シーア派とクルド人が、自治、憲法の位置づけ、原油収入で対立していると朝日新聞は言うのだが、こうした利害対立はどの国でも見られるものであり、内戦に直結するものではない。
 だが、この段落はいきなり次に続く。

 その対立を象徴するように、バグダッドを中心に、連日のようにテロの嵐が吹き荒れ、多くの市民がバスターミナルや病院などの前で犠牲になっている。
 油田地帯のある北部はクルド人が、南部はシーア派が押さえている。テロの背景には、原油収入が自分たちには回ってこないというスンニ派の不安がある。

 ここが実にわからりづらいのだが、文脈を素直に読んで判断すると、テロを行っているのは、スンニ派だということだろうか。そして、そのテロは彼らの不安から肯定されると朝日新聞は見ているのだろうか。そして結局のところ、対立は石油利権が原因という朝日新聞は主張したいように読める。
 また、この事態と米軍の関係について朝日新聞はこう述べている。

 現在の混乱は、イラク国内の政治勢力同士の対立から生じている。「外国から侵入した反米武装勢力が爆弾テロを仕掛けている」と米国が説明してきた図式は、とうに崩れているというべきだろう。米兵は敵を見失い、治安の維持という目的を達成できず、死傷者の数をふやしている。
 内戦の瀬戸際にあるイラクの状態を打開するには、どうしたらよいのか。外国軍が治安面で手助けしてイラクの自立を促すという再建策が事実上、破綻(はたん)しているという現状を、まず素直に認めることだ。そのうえで、イラク再生の道筋をもう一度考え直す時期に来ている。
 現に「有志連合」の多国籍軍から撤退する国が相次いでいる。段階的、地域的に外国軍を撤収し、不完全な統治であろうとも「イラク人によるイラク再建」に委ねることを目指すべきだ。

 つまり、米軍を含め、多国籍軍がイラクから撤退してイラク人に任せろというのだが、この主張は先の、イラク内での抗争とどう関係するのかについては触れていない。朝日新聞の主張は、スンニ派が行っているらしいテロ活動は米軍が撤退することで鎮静するということだろうか。非常識な議論に思える。
 フィナンシャルタイムズはどう事態をとらえているだろうか。

Sunni insurgents have been bent on igniting such a war since the assassination of Ayatollah Mohammed Baqr al-Hakim and about 100 Shia worshippers at the Imam Ali shrine in Najaf nearly two years ago. The strategy is explicit among jihadis such as Abu Musab al-Zarqawi, whose group appears more interested in murdering Shias than Americans.

 フィナンシャルタイムズは、スンニ派によるシーア派の弾圧は現在に始まったものではなく、二年前にも百人からの虐殺を行っていることを注視している。また、対外勢力であるザルカウイももはや米軍よりシーア派を狙っているとしている。
 これらの背景は石油利権というよりより端的に民族的な問題だろうともしている。

But it also motivates Sunni supremacists from the deposed Ba'ath party and the leading tribes, enraged that the US invasion has placed Iraq's majority Shia in the saddle.

 特に、日本ではあまり話題とされたいないが、サウジのワハブ派はシーア派を嫌悪しており、イラク内にも影響を及ぼそうとしている。

Hundreds of Saudis, raised on Wahabi totalitarianism, are flooding into Iraq to kill the "apostate" Shia.

 クルドについても対外的に不穏な背景がある。トルコ・サイドのクルドの関連があるからだ。

Turkey is on a hair-trigger to enter northern Iraq if the Kurds move further towards independence.

 こした事態の認識に対して、フィナンシャルタイムズは、朝日新聞のように米軍の撤退を説くということはしていない。むしろ、米軍の楽観視を危険な兆候と見ている。
 とはいえ、フィナンシャルタイムズも現状ではスンニ派の国政参加をより促すべきだろうとしているだけで、有効な提言はできていない。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

 米軍駐留が原因かどうかは分からないのに米軍が居なくなれば内戦は回避できる、というのは暴論以前の問題。
 単に、嫌米なだけでしょう。

投稿: うんこ | 2005.08.19 20:00

普通に考えたら、もし本当に「イラク国内の政治勢力同士の対立から」現在の混乱が生じているのなら、むしろ米軍が撤退して押さえが無くなったら、さらなる混乱をうむだけでしょう。逆に朝日の見解と反対に「外国から反米勢力が入って来て」米軍統治を混乱させようとしてるのなら、米軍が撤退すれば反米勢力の攻撃対象が無くなって混乱は収まるかもしれない。
米軍は撤退させたいけど、反米テロ組織なるものの存在は認めたくない、できれば田中宇みたいにあんな組織はCIAの陰謀とでも思いたいって事なんでしょうが、どっちかを選んでもらわないと趣旨がメチャクチャですね。

投稿: (anonymous) | 2005.08.19 21:12

朝日新聞的には、イラクの武装勢力は「アメリカの占領に対抗するレジスタンス」だったはずなのに、いつの間にか「資源配分をめぐって争う内戦」になっちゃったんでしょうか。
それでいて「米軍は出て行くべきだ」という結論だけは動かさないから、こういう支離滅裂な論旨展開になるんですね。誰か、記事の内容に筋が通っているかどうか、検証しなかったんですかねぇ…

投稿: 井上 | 2005.08.20 12:09

うんこさんの言うとおりだと思うが、”破壊”任務を終了した米軍がいても”創造”の妨げのような気がするんだな。

投稿: トリル | 2005.08.20 22:06

>うんこさんの言うとおりだと思うが、”破壊”任務を終了した米軍がいても”創造”の妨げのような気がするんだな。

んで、インド/パキスタン独立時みたいに数百万の難民を出すのかえ?
それを「創造」という発想の恐ろしき事よ(笑

内戦をするにせよ、スンニ派は油田のあるクロド地域か、シーア派支配地域に
侵攻するしか、生き残る術はあるまい。

スンニ派はシーア派へのハラスメントは出来ても、現状では侵攻作戦
までは出来まい。
愚かな話だ。

投稿: ペパロニ | 2005.08.21 01:07

>それを「創造」という発想の恐ろしき事よ(笑

いや、別に力の空白を作るべきだなんて思ってもいないわけだけど、米軍だと拙いんじゃないかと思ってね。
ほらポーランドでもワレサ大統領は旧体制を破壊するには良かったけど、新体制では良いトコ無しだったようだしさ。

投稿: トリル | 2005.08.21 02:20

>いや、別に力の空白を作るべきだなんて思ってもいないわけだけど、米軍だと拙いんじゃないかと思ってね。

米軍でなきゃ出来ないから悩みは深いワケ(笑

EUは出兵できるか?
>ドイツが絶対反対に廻る。又世論は絶望的。

日本は出兵できるか?
>バッド・ジョーク!(爆

中国は出兵できるか?
>輸送船を自衛隊潜水艦で撃沈すべき!

周辺のイスラム諸国は出兵できるか?
>いきなりレバノン風内戦開始ですね。

という事なのですよ。
「まだマシなイラク人」達が憲法を作り、イラクの一体性と近代性を維持
しようと頑張っている時にアカピーは恐ろしい事を考えるねぇ(笑

投稿: ペパロニ | 2005.08.21 10:58

実を言うと私はその”バットジョーク”自衛隊や日本の仲裁が、日本状況を無視すれば最良な気がしたりしてるんですよ。ハハ

ま、随分無責任な考えなんですけどね。

そうなると、ドイツやフランスなども参加しやすい状況も作れるんじゃないかとね。

ま、寝言は大概にしますわ。

投稿: トリル | 2005.08.21 15:41

そうね、日本の状況を無視すればね。

ま、世界的に見ればそういう議論もいっぱいあるわけで。
自己評価と違ってタダの出し惜しみとしか見られてないという現状。

しかしあれだ、一行で反論出来て、実際その通りだと言うのも何だか。

投稿: カワセミ | 2005.08.21 18:59

うん。

アメリカの高官が2,3日前だったか現在の規模の進駐を3,4年は必要があるし計画していると言っていたようです。

正直言って今後2年でイラク状況が悪化こそすれ良くならなければ、日本は3年目の早い時期撤収か、イラクに置ける劇的な施策変更をアメリカ及び国連に訴える必要があると思ってます。

新安保理委候補G4が実効的に中心になって動けるような下ごしらえが今からでも水面下であっても良いんじゃないかと。

投稿: トリル | 2005.08.22 16:48

しかし、いまさらこんなことをいうのも何ですが、確か戦争が始まった当初、ホワイトハウス内外のネオコン派の連中は、「戦争終結後にイラクはすぐに民主化に移行し米軍は撤退できる」として日本やドイツの例を挙げていた超楽観論を述べていたのを思い出します。

でそのことについて「宮沢喜一」がサンデープロジェクトに出演して「日本やドイツは戦前から先進国だったんですよ。一体ネオコンの連中は何を学んできたんでしょうね」とせせら笑っていたのをいまさらながら思い出します。

投稿: F.Nakajima | 2005.08.25 16:14

アルカイダの設立時にはアメリカ中央情報局が肝煎りだったということなので、イラクの件にしても軍産複合体のマッチポンプという部分は幾分あると思ってます。
ネオコンの本音としては同盟関係の分担を増やしてもらうということもあるでしょうが日本の参加は失敗した時の保険という意味もあると思ってます。

投稿: トリル | 2005.08.26 04:16

はじめまして、城戸と申します。
非常に充実した内容に日々勉強させてもらっております。

>油田地帯のある北部はクルド人が、南部はシーア派が押さえている。テロの背景には、原油収入が自分たちには回ってこないというスンニ派の不安がある。

なるほどと感じました。しかしながら、イラクの中部にはイスラームの精神的拠点となる聖地や聖廟が数多くあった気もします。
そのあたりも今回の内戦騒ぎに関係があるのでしょうか?

投稿: 城戸玲士 | 2006.03.06 09:26

それは政治的な対立の背景であって、内戦の当事者はもっと生々しい動機と見えますが?報復の連鎖に両派が統制をうしなっているのであって、仮に利権等のソリューションがあったとしても、統制がとれない以上争いは止まないでしょう。

投稿: もも | 2007.01.07 02:09

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