郵政民営化は重要な問題だと思う
「ウォルフレン教授のやさしい日本経済(カレル・ヴァン ウォルフレン)」(参照)の書評もどきを書いたのは昨年の一二月一二日だった(参照)。昨今の状況に合わせて、二〇〇二年五月に出されたこの本を読み返していろいろ思った。
![]() ウォルフレン教授の やさしい日本経済 |
ネットなどを見回しても、民主党をはじめ、郵政民営化は問題ではないという意見が予想通り出てきた。だが、私は問題だと思う。
ウォルフレンはその点をこの本で特に重視しているとはいえないが、再読するに示唆となる点は示していた。
学習院大学の奥村洋彦教授は「日本は、家計資金の半分以上が、政府の金融機関たとえば郵貯とか年金関係で吸収されてしまうような異常な資金の循環をやめるべきだ」(「公的金融偏重の資金循環是正なくして金融再生なし」『論争東洋経済』二〇〇一年三月)と述べています。
奥村教授は、このようなお金の循環は資本主義経済では異常なものだと見ています。そして内容的には、日本では家計部門から産業部門へのお金の流れがあるという非常に重要な指摘をしています。実際、日本の家計部門の貯蓄は、高度成長期、日本の産業に体系的な形で流されました。
郵貯から公的な部分にお金が流れている、というのは、「第二の予算」と呼ばれるお金の流れです。第一の予算のように国会で承認する必要はありませんが、年によっては公式な国家予算と同じぐらいの規模か、ことによるとそれ以上かもしれません。
不透明なので正確にはつかめませんが、それほど多額であることに間違いはありません。日本の郵貯は世界最大の銀行と言われるほど規模が大きく、きわめて重要です。これは日本のシステムが機能する上で大きな拠り所になっています。
ウォルフレンが日本経済について見るとき最大のポイントは、家計部門が国家(官僚)を通して産業部門に従属になる点、そして、その国家(日本)が新重商主義(物を外国に売って外貨を稼ぐ)を方針としているという二点だ。
単純に言えば、郵貯・簡保を解体すればこの仕組みを支える大きなカネの流れが止まる。
もちろん、ウォルフレンも他の部分で指摘しているように、すでにそれが第二の国家予算となっているがゆえに、早急に制止させることは危険でもある。
さて、ここで問題がある。すでにこうした議論は過去のものとなったのか、ということだ。つまり、郵貯・簡保が国家の第二の予算となるという悪弊はすでにシステム的に解消されているとする議論は正しいのか。
二〇〇一年四月「資金運用部資金法等の一部を改正する法律案」の施行により、旧大蔵省資金運用部が廃止され、これに伴い郵便貯金や年金積立金などを預託する制度も廃止となった。そして、官僚天下り・無駄遣いの温床である特殊法人は、政府保証のない財投機関債を発行して金融市場から自主的に資金調達を行うことになった。それができない場合は、政府保証で財投債で資金調達を行う。どちらも、調達先は金融市場ということになる。ちなみに財投債というのは、政府保証なんだから、つまり、国債である。国債というのは、国民の借金であり、これはいずれ税金という形で国民に解決が向けられる。
繰り返すが、この図柄をそのまま受け取れば、財投債(国債)とは違い、特殊法人の財投機関債は政府保証がないので国家(官僚)との関連も断ち切られる。
そしてこの図柄に郵貯・簡保の問題はなくなったかに見える。
が、そうなのか?
まず、この財投機関債がアテにする金融市場というのは実は郵貯・簡保である。また、財投機関債は本当に政府保証はないのか? それ(政府保証)があればつまりこいつ(財投機関債)の正体は郵貯・簡保をアテにした国債(やがて重税に化けるもの)である。
このあたりの問題は率直に言って私にはよくわからない。単純な話、財投機関債が政府保証かすらよくわからない。ウォルフレンが言うように「不透明なので正確にはつかめません」という感じもする。ついでに言えば、どうやら、財投機関債以外にも類似の金蔓があるようでもある。
ただ、わかることはある。無い袖は振れぬの原理から言えば、特殊法人に流れる無責任なカネの入口を閉じてしまえばいいということだ。郵貯・簡保が民営化されれば、原理的には、そうなる。
郵政民営化は大した問題じゃない論には、別の変奏もある。こうだ。現状の郵政民営化法案では、民間となった新会社も財投機関債や財投債の購入が自主的に継続できる。なので、この点をついて、新会社が財投債(国債)や財投機関債(正体不明)が大量購入されるなら、問題の構造は依然変わらないということになる。よって、郵政民営化は意味がない、と。
私はそう思わない。
民間化後にそんなもの(実質国債)を大量購入できるという仮定はそれほど確かなものだと思えないからだ。
私が、郵政民営化問題はたいしたことじゃない論に一番違和感を持つのは、その内実に詳しいからというより、衆院でのどたばたの経過を思うからだ。
「極東ブログ: 郵政民営化法案問題をできるだけシンプルに考えてみる」(参照)でも触れたが、衆院でもめにもめたのは、民営化後、いったん市場で売られた金融二社(郵貯・簡保)の株式を、持ち株会社傘下の郵便や窓口網の両社が買い取ることを認め、持ち株会社が完全処分の義務を果たさなくてもペナルティーを科さないとする抜け穴についてだった。
そこまで、反対勢力がその抜け穴に躍起だったのに、なのに大した意味ないとは、私は到底思えないのだ。
むしろ、メディアでは既決事項のような抜け穴があると報道したが、これは法文ではなく私的な合意文書に過ぎない。自民党の旧態勢力をぶっとばせばこんなものは反故になる。
というわけで、私の結論は単純だ。郵政民営化すべきだ。そしてそれは重要な課題だ。
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コメント
{[ウォルフレンが日本経済について見るとき最大のポイントは、家計部門が国家(官僚)を通して産業部門に従属になる点、そして、その国家(日本)が新重商主義(物を外国に売って外貨を稼ぐ)点に見ている]
このこと自体は一般論として問題ではない
別に重商主義でもかまわないのだ
問題は、重商主義とは言えない、果実をもたらさない産業に投入されていることだ
きわめて高度な軍事産業、情報産業、医療産業に投入して世界市場を制圧できればいいのだ
投稿: 重商主義者 | 2005.08.12 19:12
もう遅いけどね。
あとは如何にパンクを回避しつつ均衡財政の目途を立てるトコまで梶を切っていけるかな?
どうかな?地雷原脱出ゲーム状態。
投稿: トリル | 2005.08.12 23:16
金は本質ではないでしょう。
私もマネックス社長、松本氏の8/8のつぶやきを見るまで、finalvent様が仰るとおり、資金の流れを変えることがこの改革の目的だと思っていました。それにしては不徹底な内容だなあ、ともかくも楔を打ち込むことさえ出来れば良しとすべきか、などと思っておりました。
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/006152.html
を見て目を開かれました。小泉氏の目的が愚鈍な私にもようやく分かった気がしています。人間を動かすのは感情であって金ではないと信じる私は、これは人事の改革なのだ、そして人事の改革は金の改革よりはるかに本質的な改革だという松本氏の主張に全面的に賛同し、小泉氏に一票を投じたいと考えております。
投稿: forsterstrasse | 2005.08.13 00:12
他所からの引用ですが、ご参考になればと。
私は、この問題に付き知識が無いのですが、財投という部分に付き参考になるのかもと思いました。
この国の財政が破綻に向かっていることは、誰の目にも明らかです。
財政のムダ遣いをなくすには、巨大に膨れ上がった特殊法人へのお金の流れを止めることが不可欠です。ここまでは私も賛成です。
そこから先が、今回の小泉流民営化と違います。
特殊法人にお金を貸しているのは財務省です。
そのための資金を調達するために「財投債」という国債を財務省が発行し、
郵貯はもちろん、年金や銀行、個人にまで買わせて資金を吸い上げ、
財務省が特殊法人に貸しているのです。
(今回の小泉)郵政民営化には関係なく、この仕組みは続きます。
http://tech.ciao.jp/blog2/archives/2005/08/post_59.html
エントリーの中心論点では無いかもしれませんが、ご参考まで。
投稿: kita | 2005.08.13 01:19
マネックスの松本氏、勘所のいい人という印象はあったけど、今回も本質的な指摘をしていますね。ちょっと自分の書きたくなるような文を書かれた思いがあるな。
政党政治が正常に機能し、国民が厳しく選択する部分からトップダウン的に決まっていくというのが近年の政治の短期的な目標だったように思う。ただ今回の選挙に至る過程でそういう正道ではなく、ある種の迂回的な経過を辿ってしまった感も強い。その意味でも民主党の責任は大きいのだが・・・・
投稿: カワセミ | 2005.08.13 02:54
詳細は省きますが、とある方の意見引用。
「法制実行における詳細については議論の余地があるが、あれだけ『反対されるからこそ』、民営化には意義がある。」
既得権益者の暗躍を揶揄しての表現らしいですw
投稿: Gem | 2005.08.13 15:30
マネックスの方や毒吐きの方と同じ意見が某所にありました。狙いは「財務省ルートの温存=民営化は目くらまし」と「帝国への貢ぎ物」です。
あと反対派=人権擁護法案反対派です。いかがわしいと言われているあの法律です。
二階堂.comから貼り付けておきます。
http://www.nikaidou.com/column01.html
<今回の郵政法案とは>
鍵はやはり今回の郵政法案にあった。郵政法案にいたる経緯を少し復習しておこう。
そもそも郵政の問題の前に特殊法人の問題があった。 特殊法人に資金を出しているのが、財務省だ。その資金を調達するために「財投債」という国債を財務省が発行する。郵貯はおろか、年金,銀行,個人にまで買わせて資金を吸収し、財務省が特殊法人に貸しているのである。 この経緯は、今回の小泉郵政民営化とは関係なく,この仕組みは続く。
日本の財政赤字の大きな元凶はこの特殊法人と財務省との関係にある。だからこそ道路公団も、国が債務保証し資金を調達するので、赤字を垂れ流すのである。
本来であれば、この問題にこそメスを入れねばならないはずだ。しかし、特殊法人改革と財政再建に関してはまったく何のアクションもとっていないのだから、この問題はスルーするつもりなんだろう。言い換えれば,
小泉は財務省の意を汲んでこの問題に触れない
ということだ。 郵政三事業自体は、国の事業にしては珍しく黒字を継続しており、国庫に納付金を納めている優良事業だ。しかも、民間と全面的に競合しない。民間経営的なセンスを導入といった改良すべき点はあるが、それでも、
郵政は現状で大きな赤字を生み出しているわけではない。
このことを,案外知らない人が多いんじゃないかな。大きな政府,小さな政府というけれど、
民間に任せたほうが,実は危険
なんじゃないかというのがこの20年の世界の流れだったんじゃないのか。たとえば、昨年のアメリカの電力危機を見よ。クリントン政権の下で電力を自由化すると惨憺たる結果だったじゃないか。中南米はどうだ。南米諸国は既に上下水道、治水に関して蚕食されきった。サービスも補修もなおざりになり水の値段は高騰したって話もある。
本当に必要なインフラはやはり国家がきちっと確保しなけりゃならないんじゃないのか。
日本国内で見れば、銀行はどうだ?バブルにまみれた銀行を信用しろとでも言うのか。あれだけ公的資金(ああ、46兆円か!)を投入して、しかも預金の金利は低いまま。庶民をこけにするのもいいかげんにしろといいたい。
もうすこし郵政の話を続けよう。今回の小泉郵政法案は、「郵便,郵貯,簡保」の三本柱を解体しようというのが、基本的コンセプトだ。政府は郵便事業安定化のために1兆円の基金を用意するといっているようだが、現在の金利は1.6%。これでは年間160億円の補填しかできない。すぐに底をついてしまうのは目に見えている。いいかい、
これじゃあ全国の津々浦々にまで完備した郵便局のシステムを維持できない
んだよ。黒字の事業をわざわざ赤字にして、国民にとって必要なシステムをつぶしてしまおうというわけさ。郵政事業の改善は必要さ。それは当然のことだ。でも、その改善と今回の法案は,まったくの別物なんだ。これが,心有る議員が多数造反した大きな原因さ。
もうひとつ、今回の法案の焦点は,郵貯,簡保の持つ莫大な資金なんだ。われわれ国民がこつこつ貯めてきた340兆円もの資金を管理する民間会社の株が、さらに海外資本やダミー企業によって大量に取得され、
民営化された郵政事業がその膨大な資金もろとも、いいように乗っ取られる可能性が大きいんだ。
いやさ、日本国の皆さんよ。ライブドア騒動の何を見ていたんだい、と言いたいねえ。だから、51%以上の株式は日本国が保有しておかねばならないはずさ。しかし、どうだい。今回の小泉法案にそれが明記されているかい?これが問題なんだよ。
<小泉の背後霊>
まあ,察しのいい諸君なら、小泉の背後で操っているのが誰なのかはもうはっきりしてるよな(爆)!そうさ、
『ノーパンしゃぶしゃぶ』財務省
投稿: 似鳥 | 2005.08.14 02:37
>そのための資金を調達するために「財投債」という国債を財務省が発行し、郵貯はもちろん、年金や銀行、個人にまで買わせて資金を吸い上げ、財務省が特殊法人に貸しているのです。
個人や銀行に無理やり買わせてるわけじゃないでしょ。
デフレなんだから、債権へ資金がシフトしてしまうのは仕方がない。
>あと反対派=人権擁護法案反対派です。いかがわしいと言われているあの法律です。
反対派のほうがいかがわしい。人権擁護法案反対論のおかしさはここ読めばわかる。http://bewaad.com/20050727.html#p01
>郵政三事業自体は、国の事業にしては珍しく黒字を継続しており、国庫に納付金を納めている優良事業だ。しかも、民間と全面的に競合しない。
宅配も銀行も保険も明らかに競合してるのでは?
それと国庫納付金があるというけど、法人税固定資産税預金保険の免除額も同じくらいの額。
しかも郵貯も郵便も縮小傾向にあるから将来的に赤字になる可能性が大きい。
>日本国内で見れば、銀行はどうだ?バブルにまみれた銀行を信用しろとでも言うのか。あれだけ公的資金(ああ、46兆円か!)を投入して、しかも預金の金利は低いまま。庶民をこけにするのもいいかげんにしろといいたい。
郵貯だって財投債とか政府保証(税金投入)があるから不良債権が表面化せず高い利息を維持して民業圧迫してる。
公的資金だってバブルの乱脈融資より金融政策の失敗でデフレが長期化したという要因のほうが圧倒的に大きい。
>民営化された郵政事業がその膨大な資金もろとも、いいように乗っ取られる可能性が大きいんだ。
今の法案だと、民営か会社は新しく預金を集める。既存の郵貯簡保の金は政府が管理する。
>いやさ、日本国の皆さんよ。ライブドア騒動の何を見ていたんだい、と言いたいねえ。だから、51%以上の株式は日本国が保有しておかねばならないはずさ
株の売却益は国庫に入るから問題ないのでは?一番高く買ってくれるところが外資なら外資に売ってもいいと思いますが。
全部売らなかったら売却益が少ない。
投稿: 今の法案は欠陥が多いけど、反対論もおかしいのが多い | 2005.08.14 22:14
日本130年の郵政の歴史は国民の大切な財産であり、インフラでもあります。
私は田舎町に育ち郵便局は大変生活にとって大切な公共財でした。
小泉氏はもはや政党から逸脱し、独裁政治の様であります。アメリカの金融、保険会社のための民営化とも受けとめられます。
よく外国の民営化の例を過大評価していますが、ドイツポストは郵便局が半減し結局失敗、オーストラリアの郵政も失敗、イギリスの郵政も営利優先で郵便業務は怠慢状態と小泉氏は全くこのことを国民には示していません。
郵政民営化の「民」は国民の「民」ではなく民間大企業の「民」なのですね。
民間になると営利第一主義になり、切り捨てられると危惧しております。小泉氏は国民を何だと思っているのでしょうか。アメリカの事しか考えていないと思います。
投稿: | 2005.08.25 13:49
郵貯民営化といいます。
具体的に私たちの郵便貯金と簡易保険はどうなりますか。
民間金融機関への預金と同様となりますか。それは預金保険の対象ではないですね。政府の保証もなくなる。保険に加入すれば、200兆円の預金があれば、1400億円の保険料が要りますか?
返済原資は、道路公団や、中小企業融資や、輸銀を通じた40年の金利なしのODAですか。
誰が回収してくれますか。
仮に100兆円だとして、民営化されて、信用リスクを恐れて、解約が20%出たら、預金は返還不能になるでしょう。政策金融と国会承認を得ないで使われた金のくず山は、3年で表面化してきませんか。我先に換金に走れば。
定期預金をまた再定期する、あるいは預金を集めるには、預金保険や政府の保証がなければ、さらには預金保険料分だけ、高くつきますよ。信用リスクが高い分、当然に金利はあがります。 コンゴへの円借款40年ローンなんて、ないでしょうね。預金者が弁護団雇って回収なんて、できません。
簡易保険は? 政府の保証なくして、支払能力ありますか。東邦や千代田生命が外資などに買われたように、保険金を払える能力だけに減免して、売り飛ばすのでしょうか。
郵政民営化で、小泉は、郵便局員は公務員として要らないといってますが、そういう問題ではないでしょう。
まず郵貯の資金がどこにどうまわっているかを
明確に描けなければ、預金者や保険者の信用リスクも分かりません。
いままで、こうした事業を国の担税能力を信じて、ただ乗りしてきたつけが、将来の子供の負担になっている。
投稿: 教えてください | 2005.09.11 13:34