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2005.08.05

iTunes Music Store(アイ・チューンズ・ミュージックストア)が始まった

 昨日、待望の、と言っていいと思う、iTunes Music Store(iTMS:アイ・チューンズ・ミュージックストア)のサービスが始まった。このブログを読まれているかたにiTMSについて基礎的な解説は不要かもしれないが、ようするにアップル社によるインターネットを使った日本向けの有料音楽配信サービスだ。こうしたサービスは従来からもあったが、マッキントッシュやアイ・ポッド(iPod)といった、ソフトウェアとハードウェアの一体化製品を出す同社のファン層は、パソコン好きのある中核に存在しているのでネットでは話題になる。
 今回のサービスは、簡単な話、パソコンがあれば、自宅にいて一曲二百円で曲が買えるというものだ。洋物だと百五十円もある。米国では同種のサービスは一曲で一ドルを切るので、日本だと割高だなと思う反面、同種の日本国内サービスに比べると安いといった視点もあるだろう。結局どっちかというと、日本のこの市場ではしかたがない。よく善戦したともいえるだろう。というのも、CD一枚が国内だと新しいものではなぜだか三千二百円くらいする。これに十二曲くらい入っている。一曲だと、二百五十円くらいかということになるから、二百円に比べると安い。
 それにすでにこの手のサービスが先行していた米国でも議論になっていたが、CD一枚だと駄作もコミということになるので、インターネットによるばら売りではさらに割安感が出る。他方、作り手としてはアルバム制作のコンセプトが活かされないというデメリットもある。余談だがその隙間をぬって紙ジャケCDが国内で流行ったがどうもそれが逆に米国に影響しているようでもある。LP時代に音楽を聴いて育った私から上の世代には、ジャケットに強い思い入れを持つ。
 ネットで購入する曲は相対的には安いと言えるとして、根にある問題はCD一枚がなぜ三千二百円かということだ。DVDなら市場原理に従ってその半額には落ちる。映像までついて半額なら、DVDから音だけ引っこ抜いてしまえばいいじゃないかと、パソコン好きなら考えるだろうし、それは実際にそう難しくできる。当ブログでは解説はしない。もっとも、「そう難しくなく」とはいえ、一般のパソコン利用者にはハードルはかなり高い。
 iTMSの国内登場によって、CDで販売されていた音楽がこれからはインターネットで販売される、と、とりあえずは理解していいのだが、音楽好きにしてみると、ちょっと言葉は悪いが、ネット販売の曲はそれほど音質にこだわらないポップスくらいしか使えない。音質はMDよりはちょっと音がいいかなくらいだが、CDのオリジナルには劣る。しかも、iTMSでは音楽の再生はパソコン(ノイズが多すぎ)かiPod(音質はよくない)を想定しているので、音質面ではかなり本質的な限界が存在する。それでも、米国の動向を見ると、この音質でいいや、イコライズしてでっかいスピーカーで流してしまえというようでもある。
 それと、パソコン内でデータ・ファイルとして購入した曲は他のパソコンでは再生できない。ややこしい制限がある。
 サービスは昨日から始まった。私は、ちょっと勘違いして本格サービスは翌日(つまり今日)からだと思っていた。アップル社の製品とは長いつき合いになる私としては、こうしたサービスに初日から手を出すとろくでもないことになるなと知っているが、いち早く手を出したふうな「R30::マーケティング社会時評」”iTunesMusicStoreにがっくり”(参照)のエントリを読み、はてな?という印象をもったので、アイチューンズ(iTunes)を起動してみた。
 素で起動すると米国サービスが出たのでちょっと苦笑した。お知らせメールのアドレスで起動しなおすと、日本語サービスになった。通信チェックにサンプルをゲットしてみるかと操作しているうちに、会員登録しろということになり、ままよと済ませた。
 さしあたって欲しい曲はない。弘田三枝子の「人形の家」がよいなと思ったが、ミコちゃんものかなというアルバムが一つしかない。あ、これは、と思い、松任谷由実で検索すると、ない。が、荒井由実なら五、六個アルバムが出てくる。そういうことだ。洋物ではPeter,Paul & Mary とかThe Brothers Fourとかはない。Bob DylanやCarly Simonもほとんどない。検索のしかたがよくないのかもしれない。実はこのあたりの曲は、別系のサービスですでに存在することを調べてあるので、そんなものかという感じがするだけだ。
 結局、宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」を買った。二百円。シングルCDで余計なものコミで買うよりは安いので、今後はシングルCD市場はかなり衰滅するのではないか。
 私は米国の通信サービスも利用しているので、こうした音楽配信サービスを使うのは初めてではないが、日本語できちんと提供されてみると随分違った印象を持った。この感じはなにかなと記憶を辿ると、そうだジュークボックスだなと青春時代を思い出して胸がきゅんとした。若い頃はなぜポップスがそんなに訴求力があったのだろうか。いや、「誰かの願いが叶うころ」を聞きながら今でも胸きゅん感はあるか。
 iTMSサービスではラジオ深夜便の一部などNHKラジオ関連の音声メディアをオーディオブックとして販売していた。これも興味深い。どのくらいの時間が収録されているか詳細は見てないが、価格は一本七十円と安い。四十五分程度で新書価格に匹敵する七百円くらいのようだ。米国では、オーディオブックがこの市場の大きな分野を形成しているので、日本でもそうなるといいとは思うが、単純な話、こうしたいわば音読物を好む年寄り層がiPodを使いこなせるとは思えない。
 いや、年寄りばかりでもないか。私の観察が偏っているのかもしれないが、電車や街の人を見るに、若い人でもまだ半数はMDを使っているようだ。白いイヤホンの多くはiPodであろうとは思うが、その大半はシャッフルのようだ。つまり、五ギガ以上のストーレッジ(格納)性の高いガジェット(電子小物)としてのiPodはまだあまり普及していないように見える。
 私の推測だが、意外と若い人たちが高速回線に接続できる音声・映像処理可能なパソコンを持ってないのではないか。反面、携帯電話への依存率は高そうだ。音質の低い着歌などを三百円で買っている現状や、基本的にパケ代単位の世界のこの層はデジタル重税に喘いでいるようにも見える。ある種のデジタル・バイド(格差)か。もしそうなら、それはiPodの普及にも影響しているのだろう。
 iTMSのサービスでもう一点、ふーんと思ったのは、意外とポッドキャスティングが充実していることだ。技術的にはそう難しくないのだが、私みたいな芸もないオッサンが肉声で語っても聞く人はあるまい。それに、生の声は恥ずかしなとも思う。参考がてら、先日、自動音声合成でちょろっとサンプルを作ってみた(参照MP3きっかけとなった栗先生のネタ)。
 音声ファイル作成は技術的には難しくはないが、面白いコンテンツを作るのは難しい。それでも、画像と文章がメインのブログからもっと音声ベースのブログのようなものの展開できるのは新しいネットの可能性ではある。

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「ネット」カテゴリの記事

コメント

>私みたいな芸もないオッサンが肉声で語っても聞く人はあるまい。

聴きたいに一票!

投稿: 野猫 | 2005.08.05 16:28

> 一曲二百円で曲が買えるというものだ。洋物だと百五十円もある。

邦楽の150円もある。
全体の10%の曲が200円で、残りは150円との事。
レコード会社の意向で商品力のあるものは200円と言う事らしい。

> インターネットによるばら売りではさらに割安感が出る。
> 他方、作り手としてはアルバム制作のコンセプトが活かされないというデメリットもある。

アルバム単位で買うと更に安くなるが、価格に統一性は無い模様。

> 検索のしかたがよくないのかもしれない。

無理矢理の間に合わせで、データの方に不具合が多い。
今後整理される事を期待したい。

> 基本的にパケ代単位の世界のこの層はデジタル重税に喘いでいるようにも見える。
> ある種のデジタル・バイド(格差)か。

定額制によりパケット代から開放されても、
囲い込まれて着歌300円で買ってるのは悲惨過ぎる。

CDから着歌化するのも少々メンドーだけど、

投稿: at | 2005.08.05 16:45

紙ジャケットのCDは、ウェスモンゴメリーのロードソングをかなり昔(もう10年くらいかな)に買ったことがあり、向こう発だと思ってました。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.08.05 20:14

この手のオンライン販売、マスよりニッチに可能性がありそうに思っている。クラシックのように同曲異盤が多い場合廃盤も多いので、そういうのを復活させるとか。サーバ上であれば維持も比較的容易かと。

関係ないけど今日発売の「論座」にアルファブロガーの例としてブログごと紹介されてましたね。>finalventさん

投稿: カワセミ | 2005.08.05 20:46

法話風に語って頂ければよいかな…

投稿: synonymous | 2005.08.05 20:49

> 意外と若い人たちが高速回線に接続できる音声・映像処理可能なパソコンを持ってないのではないか。

ビンゴ。

投稿: tomo | 2005.08.05 21:43

> 意外と若い人たちが高速回線に接続できる音声・映像処理可能なパソコンを持ってないのではないか。

 若い層は、家の躾が厳しいほどパソコンと無縁。パソコン、ネット等のブームを押し広げているのは20代後半から30代前半のファミコン世代。40~50歳くらいの物好き機械好きがそれらを引っ張っている構図。
 10代~20代前半は、意外に覚めた目で見ている。もしくは、携帯しか使わない。そんなもん。

投稿: うんこ | 2005.08.05 23:23

> それは実際にそう難しくできる。当ブログでは解説はしない。
> もっとも、「そう難しくなく」とはいえ

「それは実際にそう難しくなくできる」
でしょうか? 違ってたらスミマセン。

投稿: 細かいようですが | 2005.08.05 23:55

私はシングルCDを買いません。割高だし、どうせ後でアルバムに入れる曲が殆どだし、資源の無駄だと思っているからです。早くインターネット配信になればいいと思っていたので、これはグッドニュースだと思いました。これからは、インターネット配信で需要が多かったアーティストだけが、アルバムを出せるようになるでしょう。また、そうなるべきだと思います。

投稿: masa | 2005.08.06 01:13

http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0508/05/news081.html
単なる実験程度の話の様ですが
オンキヨーがこういう配信をやるそうです。

投稿: 無粋な人 | 2005.08.08 11:27

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