さよなら、杉浦日向子さん
杉浦日向子さんが亡くなった。ニュースが信じられなかった。嘘でしょと思わず呟いた。死因は下咽頭がん。享年四十六。亡くなったのは二十二日とのこと。親族だけで葬儀・告別式も済ませたともあった。
彼女の誕生日は十一月三十日。生年は一九五八年。私より一つ年下、私より一学年下。ほぼ同世代。私は同級生のように彼女のことを思っていた。
ニュースで年代を照合しつつ書くのだが、「通言室乃梅」で漫画家としてデビューしたのは一九八〇年。私が学部を出たのが八一年。彼女は大学を出ていなかったはずとあらためて調べると日本大学芸術学部中退らしい。世に出る才能の開花が早かった。時代考証学はその後、稲垣史生に学んだというから、そこいらの学者さんでも歯が立たなかったのではないか。
記憶ではなんとなく日本女子大学文学部史学科だったような気がしていたが、調べてみると違った。私と同じ歳の高橋留美子と混同していたようだ。そういえば高野文子も五七年生まれ。日本大学芸術学部といえば、吉本ばなながそうだが、東京オリンピックの歳に生まれた吉本の世代はもう私には自然に共感できる部分は少ない。
毎日読ませていただく散人先生のブログの昨年五月のエントリ”NHK「お江戸でござる」、杉浦日向子先生がいなくなってしまった! ”(参照)にもあったが、私も変だなという感じはしていた。
なんか、最後にお年寄りの男の先生が解説していた。番組は、テンポが速くなって、けっこう楽しめたんだけれど、肝腎の杉浦日向子先生が出てこないではないか! いったいどうなったんだろう? 日向子先生は病気なのだろうか?
そういうことだったのだろうか。伊東四朗が出ていたころはあの番組を欠かさずといっていいほど見ていたが、その後は関心が薄れた。杉浦日向子も番組から消えていた。言葉に詰まる。
本当に死んでしまったのだろうか。「百物語」の最後の話は最初から書かれるべきではないと知りながらも、なにか最後の一話がありそうな感じがしていた。そして、彼女は五十代を通して大著を書き上げるのではないかとなんとなく思っていた。それが確固とした未来として私にはあった。
彼女の隠居宣言は九三年。若い隠居という感覚も、なんだかわかる感じがしていた。「お江戸でござる」の解説にも隠居として世間を見る視線があったように思う。
こんな話は不謹慎なのかもしれないが、荒俣宏と結婚したのは八八年。「帝都物語」で荒俣が日本SF大賞をとったのがその前年。あのとき杉浦の結婚のニュースもよく覚えている。私は、同じく彼女が好きな知人と、延々とそんな話題で盛り上がっていた。半年後に離婚。その理由が気になって、いろいろ関連の記事も読んだ。荒俣は九三年にお見合いで日航パーサーだった現夫人と結婚。最近、ご夫妻の話をなんかの雑誌で読んだが、すべてが遠い昔の物語のように感じられた。
ごくらくちんみ |
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コメント
ぼんやりみていた夜のニュースでこの訃報を知りました。
本当に嘘のようです
江戸に帰っていかれたのかもしれない
ワタシにとって
とてもとても大切な作品を書き残してくれたヒナコさん
悲しくてしょうがないですが、
心よりご冥福をお祈りしてます
投稿: riu | 2005.07.26 00:53
驚いています。
>江戸に帰っていかれたのかもしれない
あーそうか、そう思うことにしよう。
投稿: -den | 2005.07.26 09:01
私は日名子さんのファンでした。江戸に帰られたという表現はすばらしい。彼女にぴったり!
しかし、それにしても早過ぎたし、惜しい人を!
心からご冥福を祈ります。
投稿: to-inoue | 2005.07.26 09:51
日向子ちゃんの大ファンでした。訃報を聞いた時は涙が出ました。もっと彼女の漫画や本が読みたかった。そう思いながらも日向子ちゃんはきっと自分の死に方に満足だったに違いないと思いました。思えば江戸に生きた人の寿命はそのぐらいだったのではないでしょうか?年老いて病院で寝たきりになって体のアチコチ管だらけなんて日向子ちゃんらしくない。あっという間に素敵な作品を残し、あっという間に去っていった日向子ちゃん。あなたは素敵です。まるでご自分の寿命を見越していたかのような35歳(でしたっけ?)での隠居。私も隠居したい!と思うけど日向子ちゃんのようには何もなしえていません。だから38歳になろうという今も子育てに追われ、毎日が苦痛なママ友づきあいという日向子ちゃんから最も遠く離れた世界を生きています。私があなたのように何かを人に伝え共有できる日が来るのでしょうか?あなたが「江戸へようこそ」の中で書かれていた「晴れ晴れとした絶望感」。私もそんな思いで日向子ちゃんのいない21世紀を生きたいと思います。日向子ちゃん、本当にありがとう。
投稿: 零 | 2005.07.28 01:22
はじめまして・・・。
懐かしい人ですね。
ちなみに肖像は、インターネットではご法度なのでしょうか? インターネットの限界なのでしょうか? ご活躍されていたころの顔を見たいですが・・・。
投稿: koban | 2010.11.01 18:04