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2005.07.26

最近の新華社と孔子学院

 中国のメディアでなにかが進行しているのだろうか。中国ウォッチャーというわけでもないが、ご時世でもあり、中国のニュースを読む機会が多いのだが、新華社系で気になる動向が少しある。中国といえば他国のメディアまでご威光で屈服させてしまうほどなので、ほとんど報道なんてものはありえないというふうに思いがちだが、なんとなく当局批判が増えているのかもしれないとそんな気がしていた。
 というところで、昨日付の中国情報局にちょっと興味深い記事があった。”新華社:目立つ当局批判、衛生当局と警察にノー”(参照)である。


中国で最近相次いでいる社会不安に対して、新華社が辛らつな当局批判を展開している。「中国製ビールの95%に有害物質であるホルムアルデヒドが添加されている」と報道された問題では衛生当局に「謝罪か引責辞任を」と激しい口調で迫り、作業員83人が死亡した新疆ウイグル自治区の神龍炭鉱で起きたガス爆発事故では取材制限を行う現地警察に対して「知る権利を」と訴える。こうした新華社の報道の背景にあるものは何だろうか?

 以前からそうだったと言えないこともないのだろうが、それでもそういう疑念の印象は持つ。
 これに対して、同記事では、二つの仮説を出している。一つは、政府挙げての不正撲滅キャンペーンの一環だろうということ。もう一つは、読者獲得のためのしたたかな経営戦略だろうというもの。
 後者であれば、とても喜ばしいことではあるし、日本経済新聞などはそのあたりの色目で中国様々になっている。フィナンシャルタイムズも類似の傾向が見られるともいうが、朝日、毎日、日経といった日本の新聞ほどひどくはない。ただ、そういう傾向だと考えるのはやはり無理があるだろう。
 するとどっちか選べというなら、前者ということになる。その可能性は高いのかもしれない。外部から見ていても軍に根を持たない現在の胡錦濤政権は弱そうだし、その側面での強化に大衆を直結させるのは、ある意味でありがちな政治手法でもある。
 裏付けするかのように、今日付の共同”中国、汚職で約4万人摘発 腐敗の深刻さ浮き彫り”(参照)の記事が読める。

中国の最高人民検察院(最高検)は26日、2000年から今年6月までの約5年半で公務員の汚職事件3万4685件を捜査、3万8554人を摘発したと発表した。摘発分だけで中国経済への損害は約480億元(約6600億円)に上るという。新華社が伝えた。

 実際のところ、中国という国は裏のシステムがなければ動くわけもないと思うので、こうした明白な正義とメディアの結託は、気まぐれ的なガス抜きということがあるだろう。懸念されるのは、これが、昔の壁新聞運動みたいなものになっていくかだが、そのあたりはどうなのだろうか。
 新華社の動向と併せて、私が気になるのは、先日北京で開かれた「第1回世界漢語大会」という薄気味悪い大会だ。この薄気味悪さはお小姓の朝日新聞が全開でもある。”国内外の政府関係者ら、「孔子学院」を絶賛”(参照)より。

世界の政府関係者、研究者、専門家などが中国語(ここでは漢語=漢族の言葉=を指す)教育をめぐって話しあう「第1回世界漢語大会」(開催地:北京)が22日に終了した。今大会は、「多元文化の枠組みにおける中国語の発展」がテーマ。世界67の国・地域から訪れた政府関係者、中国研究者、中国語教師など600人近くが出席した。各国の政府関係者らは閉幕式で、中国政府が海外に設置した中国語学校「孔子学院」の役割を評価した。

 「多元文化の枠組みにおける中国語の発展」というのだから、自国に併合した吐蕃を初めとした各種の民族の言語を中国という国家の枠組みから解放していく試み…というのじゃ全然ない。世界六七か国を招くというあたりから察せられるように、中国内部は漢語という金太郎飴状態が前提になっているのだ。
 全国人民代表大会(全人代)常務委員会の許嘉ロ副委員長の言っていることがまことに中国語でわかりづらい。

人類史の経験が早くから証明している通り、世界には言語的な多様性、文化の多元性があり、異なる言語・文化間の交流がスムーズに進んではじめて、世界の安定と平和を語ることができるようになる。言語は昔から、民族または国家間が連絡を持ち、心を通わせるための懸け橋だった。

 日本語に訳すと、それは中国の内部を単一国家に単一言語で封じ込ませますよということなのだ。次の発言をよく読めばわかるでしょ。

中国語は中華民族と外部の世界との意思疎通を図る上での強力な手段であり、同時に空前のプレッシャー・試練にも直面している。

 中国っていう国はこういう言葉を掲げているときは実際にやっていることを見るほうがいい。そして中国語的に考えるといい。するとすぐわかる。北京で開かれた「第1回世界漢語大会」というだけで、普通語とされる北京官話の押し付けであることぐらい中国人なら無意識でもわかる。そしてすぐに脊髄反射で、上海との対立だなぐらいはわかるだろう。そう、上海から上海語を撲滅するのが「第1回世界漢語大会」ということだ。広東語も撲滅してしまえである。
cover
野火・春風
 とだけ書くと妄想であるかのように思われるかもしれない。そしてそれは本当に妄想かなとも思う、とちょっと洒落のめしておく。ついでに、台湾が先日、先住民族を対象としたアジア初の公共の専門テレビ局「原住民電視(iTV)」(参照)を開局したようなできごとが、大陸に起きないものかと夢想したい。

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コメント

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の中で中国の軍管区間では軍隊用語すら統一されていないため、人民解放軍は異なる軍管区合同の作戦行動すらできないとの記述があります。

http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/050206-213240.html

但し、これを見る限りでは一応、官話は普及しているようですし、「上海語を撲滅する」んだったら、

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E6%B5%B7%E8%AA%9E
のような記述はみられず、すべてのTV・ラジオ・ネットは官話のみに統一されているはずですが。

投稿: F.Nakajima | 2005.07.26 22:00

うーん?
そういう方向性はあるだろうけど、勇みすぎのような。
マンダリン(北京語)大会が毎年地方を巡回して行われるならともかく、まず北京ででしょ?
願望はあっても反発も強そう。

>なんとなく当局批判が増えているのかもしれない

これはいわゆる上からの改革の一環じゃないでしょうか?
下からの突き上げは予測しない方向に暴走する危険が伴うが、かといって問題を座視するわけにも行かないようなので、ガス抜きも兼ねて。
あとは法令が追いつかず、慣習と人治主義の弊害を幾らかでも押さえようとメディアを利用する様にしだしたんじゃないでしょうか?

投稿: トリル | 2005.07.27 03:38

「中華民族」という言葉見るたびに反吐が出ます。

投稿: いつも思いますが | 2005.07.27 07:21

華の広さはいかほどに?

ヨーロッパから見て日本は「極東」でしょうけど、
中国から見ても日本は「極東」なんですかね。

投稿: sasasa | 2005.07.28 08:26

東夷

投稿: 中華なので | 2005.07.28 08:30

中華なのでさんへ
-東夷?ということで調べてみましたが、中華思想にそんなものがあるんですね。ありがとうございます。

投稿: sasasa | 2005.07.28 12:57

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