アフリカの貧困というパラドックス
アフリカの貧困について。特にサハラ以南について。不用意に書くネタではないが、頭のなかに引っかかっているままにするより少し書いておこうと思う。
と言ってネタ元はけっこうベタにNewsweek日本語版7・13”アフリカ大陸 「極貧」の虚像”である。標題からわかるように、アフリカ全体を極貧とする見方は虚像だということ。この話はアフリカ問題に関心を持つ人にとってはある意味で自明なことでもあるのだが、昨今、というか今回のG8の影響もあるのだろうが、アフリカ=極貧、というイメージが流布されているように思う。ダルフール問題なども、貧困ゆえの内戦といった雰囲気まで醸し出されているように感じる。圧倒的な政府軍の民衆虐殺のどこが内戦やねんとツッコミたくなるが、マスコミは、形なりの反乱軍なりでもあれば内戦ということにしてしまうのだろうか、実態なんかどうでもよくて。
ボヤキはさておき、Newsweekの同記事だが、端的な数字をこう語る。
だが実のところ、アフリカを覆う暗いニュースの背後には、明るい光が垣間見える。民主選挙によって選ばれた国家元首は、30年前はわずか3人だったが、今では30人になった。
アフリカの主要25カ国(人口の4分の3を占める)は、着実に経済力を伸ばしている。IMF(国際通貨基金)の予測によれば、今年のアフリカ全体の経済成長率は5%だ。
というわけで、数字の上ではただ極貧というものでもない。
ちなみに、同記事によれば先日のサミットにおけるアフリカ債務取り消しで棒引きになるのは、3000億ドル中の140億ドル。Newsweekは「焼け石に水だろう」としているが、無駄ではないというものの、問題の全体構造を変えるものではないようだ。
総じて見れば、資源が豊かなアフリカはきちんとした政府が存在すれば、自力で経済回復できる素地はあると言ってもよいかもしれない。特に、原油高騰はアフリカに、しょぼい倫理的な援助以上のカネをじゃぶじゃぶと流し込んでいる。
二〇〇五年のGDP伸び率で見ると、一位アンゴラ13.8%、二位スーダン8.3%、三位ナイジェリア7.4%、コンゴ(旧ザイール)7.0%ということで、スーダンの伸び率は高い。貧困がダルフール危機の背景にあると言えるわけもないし、日本からのゲンナマの援助が必要というのも疑わしい。
問題は、政治、というか、政治が不能状態になった場合の調停力だろう。なぜ政治が不能自体に陥るのかは、独裁政治とその背景にあるものだが、今日はあらためて触れない。
そして、これらとはまた少し違った次元で深刻なエイズの問題がある。
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コメント
きちんとした政府が存在すればアフリカは経済の自立が可能かどうか、一面では、いえ理論的にはそうなのだろうと私も思います。ただ、アフリカ、とひと言で地域を表現することほど難しいものはないだろうというのも現実ですからfinalventさんの模糊とした表現も理解できます。土着性、エイズの労働力に対する影響等々、を考えると、「あの状態」を変えうるものとは何なのだろうかと無力感を禁じえません。カネは何をするにしても重要なのだけれど、土着性を脱皮させること? 宗教? それともエイズ治療薬が先? まず何をすべきなのでしょう。
投稿: jaz | 2005.07.11 17:56
>標題からわかるように、アフリカ全体を極貧とする見方は虚像だということ。この話はアフリカ問題に関心を持つ人にとってはある意味で自明なことでもあるのだが、昨今、というか今回のG8の影響もあるのだろうが、アフリカ=極貧、というイメージが流布されているように思う。
なんというか、日本ではアフリカ各地の状況そのものにあまり関心がもたれていませんよね。
極貧という誤ったイメージの定着を助長することには目をつぶって、ホワイトバンドをつけたりして、問題が存在するということ自体をまず周囲にアピールするか。
それとも……というところで、自分に何ができるのかよくわかりません。(もちろん「自分」などどうでもいいんですが。)
アピール自体に漂ういわゆる「偽善」の匂いに意識を向けてしまうと、言及も何もせずに黙っているのが一番いいようにも思え、どうしたもんかなという感じです。現にそうなさっている方も多いでしょうし。
とりあえずは、もう少しアフリカの状況自体についての自分の知識を深めていきたいと思います。こうした記事はその手がかりとしても参考になります。
投稿: 左近 | 2005.07.11 20:15
あ、そうだ!
アフリカといえばフランス。
フランス在住のねこ仏少年さんは最近どうなさっているのでしょ。
全然お見かけしないのですが、今、別ハン?ですか?
以前、アフリカ関係のコメントも読ませていただいていたような…。
'Allo 'Allo! って大昔のコメディ番組ではありませんが、
また、コメント楽しみにしています^^
(余談:私もねこ型人間です。ハンドルに親しみを感じます。そうそう、とことんフランスを嫌ってるわけではありませんから、私。ってほんとにどうでもいいんですけど)
投稿: jaz | 2005.07.11 22:47
貧困というのは権限の偏在であるので、GNPは権限が最適配置にどれだけ近づいているのかと想像させる程度にしか豊かさを表しません。OPEC加盟の大国ナイジェリアの経済成長率と内戦で経済が壊滅状態にあったコンゴ民主共和国(旧ザイール)の成長率の意味するところは同じではないでしょう。
世界一豊かなアメリカに貧困問題が存在するように、そこに金だとか食料だとか資源が存在するか否かではなく、それを使う自由を誰が持つのかというが問題です。資本も資源も十分にあるからアフリカは貧困ではないとはいえません。銀行に預金が何兆円あっても赤字になるのと同じです。
貧困とは極端な偏在を普遍的に存在させる政治そのものを指すのでしょう。そしてそれは国内だけでなく、資源の権利を欲する諸外国との権限の攻防を可能にする政治力の不足も指します。そういう意味で、そしてそれゆえに目に見える形でアフリカは貧しいのだと思います。
しかし我々はアフリカを世界に住む隣人として「助けたい」のでしょうか。あるいはにこやかに新たな権限確保の楔を打ち込みたいのでしょうか。それともテロや移民のリスクやコストに対応するのに嫌気がさしたのでしょうか。Live8もG8も何が目的なのか良く分かりません。
投稿: papepo | 2005.07.12 10:37
>OPEC加盟の大国ナイジェリアの経済成長率と内戦で経済が壊滅状態にあったコンゴ民主共和国(旧ザイール)の成長率の意味するところは同じではないでしょう
ナイジェリアは、りんごを毎年100個もらえます。今年は、7%多めにもらえます。
コンゴでは、りんごを毎年1個もらえます。
今年は、7%多めにもらえます。
経済成長率なんて、単なる統計でしかない。
投稿: 子供にも分かるように・・・ | 2005.07.12 11:19
初めての書き込みで失礼かもしれませんが、上の方がおっしゃるように経済成長率7%とかでそう結論付けるのはおかしいかと。
それと政治システムが良いからといって、そのシステムに属する人間がペーパーも読めなくて、学がある人でも外国に行っちゃうんじゃしょうがないわけで。。。
インフラが出来ているかいないかということに着目するべきで、そういうのは数値や体制を見ただけじゃわからないと思います。
投稿: NICK | 2005.07.12 12:33
アフリカがブラックホールでなく
これまでの支援で僅かではあるけど良くなってるって事でしょか
劇的に変化を求める人が居るけど
良い方向でそれは起きないんだよね
投稿: わけぎ | 2005.07.14 17:11
お邪魔します。
アフリカの問題は「貧困」というよりも「セーフ
ティネットが無い」事ではないでしょうか。四国
では雨が降らなくて取水制限されたりしました
が(大雨で解消されたのかな?)、アフリカで
は旱魃になれば多くの餓死者が出ます。また
武装勢力とかに働き手の父親を殺害されれば
家族は(武装勢力とかに直接殺されなくても)
生きていけなくなります(武装勢力と政府が結
託している場合もある)。
投稿: ブロガー(志望) | 2005.07.14 21:36