アスベスト問題を巡って
アスベスト被害の問題が急速にメディアで取り上げられるようになった。被害者救済という点ではよいことなのだろうと思う。C型肝炎の問題でもそうだったが、識者は現状や予想について警鐘も鳴らしていたのだろうが、それが一般の社会問題に取り上げられるに至るには、なにか別の経路を取ることもある。今回のアスベスト騒ぎでもそのあたりが気になっていたのだが、ざっと見た限り、特に気にすべきこともなさそうだ。
米国では二〇〇二年十二月に、米油田開発サービスのハリバートン社が、アスベスト被害について、従業員が中心となって起こした訴訟で、四〇億ドル(約四千八四〇億円当時)で和解している。この時点で、日本国内の産業衛生学会もアスベスト問題の研究を発表していた。この時期、損害保険大手も内部で保障費用の概算をしていた。が、特にその後日本で話題になるわけでもなかった。この問題は極東ブログでも扱っていないのだが、当時は私もあまり関心を持っていなかったのが正直なところで、どうにもならないのではないかという印象を持っていたと思う。
昨今のアスベスト被害ニュースの発端は、クボタのアナウンスによるところが大きいようだ。元のソースはインターネットで公開されている”アスベスト(石綿)健康被害に関する当社の取り組みについて”(参照)だろう。
平成17年6月30日
株式会社 クボタ現在、社会的問題となっているアスベスト(石綿)疾病の治療法は未だ確立されていません。また、石綿疾病と石綿暴露との因果関係においてなお不明な点が多く、かつ労災給付による場合を除いて石綿疾病に罹患した時の社会的救済措置が無いのが現状です。
当社は長年に亘り、石綿含有製品を製造してきた企業としての社会的責任を明確にするという観点から下記取組みを行っております。
アナウンスでは「社会的責任」が強調されているが、社内ではかなり問題を詰めての発表だったのだろう。
アナウンス中、「石綿疾病に罹患した時の社会的救済措置が無いのが現状」とあるが、石綿疾病については、一番重要なのは悪性胸膜中皮腫、つまり肺がん、と言っていいだろう。
話が前後するが、企業が「社会的責任」としてこの問題に向き合うようになり、恐らくその結果(なのだろうか疑問は残るが)、国も新しい動きを取るようになったのは、よいこととは言えるだろうし、大きな流れの一環だろう。時期的にはハリバートン訴訟が大きな影響を持ったのではないかとも思う。
というのは、かつてはそうではなかった。話が前後してしまうのだが、アスベスト訴訟が米国で沸き起こったのは、むしろ一九八〇年代のことで、PL法との関連もあった。これが元で企業倒産も出た。八九年には集団訴訟の七割を占めるに至った。
しかし、米国動向の影響ではないかと思うが、国内で八八年七月にアスベスト被害で訴訟を起こした通称「横須賀じん肺訴訟」は、和解に至るまで九年近い歳月を要した。三億五千二百万円の損害賠償であったが、一九九七年四月、一億四百万円で和解した。同種の訴訟としては、国に対して起こした米軍基地じん肺訴訟がある。
国内の対応は及び腰であり、ジャーナリズム的にも「じん肺訴訟」という呼称でアスベストが強調されているわけでもない。しかし、これからはアスベストが前面に出るだろうし、また、被害者も万単位に増えるだろう。国政としても向き合っていくしかない問題になったと見てよさそうだ。
クボタのアナウンスに戻るが、「アスベスト(石綿)疾病の治療法は未だ確立されていません」とあり、それは正確な表現ではあるのだが、これには少し裏というか悪い裏ではないが背景的な含みがある。アリムタ(参照)である。
アリムタ(ペメトレキセド)は、昨年二月に米国食品医薬品局(FDA)が悪性胸膜中皮腫への治療薬として承認した。臨床成績は、Wikiを借りると、「シスプラチンの単独投与222名の平均生存期間が9.3ヶ月なのに対し、シスプラチン+アリムタ投与の226名では平均生存期間は12.1ヶ月であった」とのことで、有益な薬剤ではあるように思われる。「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」のサイトでは、”アスベストについて- 悪性胸膜中皮腫の新しい治療薬”(参照)としてこう見ている。
開発当初は副作用による死亡者もあったようですが、葉酸とビタミンB12の併用により解消され、抗ガン剤としての副作用は白血球減少や嘔吐等が10~28%程度の人に認められています。この治療の2年以上の生存者の比率は悪性胸膜中皮腫の方の全体の2割以下ですので、病気を「治す」薬と考える事は現段階では早計です。この薬単独投与と支持療法(緩和ケア)のみとの比較試験で、生存期間の延長が確認されれば、今後の標準的治療になりうる治療薬が登場した事になり、多くの方にとり朗報となる可能性がある薬だと思います。
国も承認の動きがあるようで、ブログを見渡すと治験のようすも伺える。また、”抗がん剤併用療法に関する検討会 第6回議事要旨”(参照)などでも検討されているようすがわかる。
あと、あまりこうした問題で不用意な情報を記載するのもいけないのかもしれないが、極東ブログではちょこちょこと言及することもあるCOX-2選択的阻害薬だが、中皮腫に有益の可能性を示唆する研究も出てきている。
【参考】
| 固定リンク
「環境」カテゴリの記事
- なるほど捕鯨を自由化すれば捕鯨は終わるかも(2014.10.03)
- カンクン気候変動枠組み条約会議で、カオナシ日本と神隠しの菅(2010.12.11)
- 生物多様性条約第10回会議が成功裏に終了、それとフーディアはどうなったか(2010.10.30)
- No Pressure: ひとつの表現手段? 悪い冗談? エコテロリズム?(2010.10.06)
- 本当は怖い「コペンハーゲン協定」の留意(2009.12.21)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
警笛>警鐘のほうがしっくり来るかと。
投稿: ななし | 2005.07.17 18:35
ななしさん、こんにちは。ご指摘ありがとうございます。修正しました。コメントをもって修正歴に代えます。
投稿: finalvent | 2005.07.17 18:47
はじめまして、こんばんは。
いつも拝見しています。
このごろ急にマスコミに登場するようになったアスベスト問題ですが、建築関係の仕事をしている人間の間ではすでに危険認識はありました。ですんで、今頃なんでこんなにマスコミに登場するのか、ちょっと勘繰ってみたいような気もします。何故か?これって建物解体する時に問題になることが多いから。主なマスコミの社屋は建替え終わってますから、自分とこ
突っ込まれないからね。過去の別の解体工事の揚げ足とりもアサピーで始まってるようですし。私の勘違いであることを祈りつつ、失礼します。
投稿: しんしん | 2005.07.17 22:56
>マスコミに登場するようになったアスベスト問題ですが、建築関係の仕事をしている人間の間ではすでに危険認識はありました。
ですよねー。
要は製造企業側の対応をどうするのか、
のコンセンサスをとる為に時間を稼いだのかな、という印象ですね。
でも実際にガン吹き屋でもない限り
酷い症状(じん肺)にはならずに
せいぜい肺がんて所でしょうから、
検証は難しいんじゃないかなぁ・・
投稿: あすにち | 2005.07.18 02:51
アスベスト無害化に新技術 フロン混ぜ加熱、別の物質に
http://www.asahi.com/science/news/TKY200507170386.html
省エネルギーで無害化できる着想もでてきているようです。処分方法はなんとかなりそうな感じですね。
投稿: @c | 2005.07.19 00:38
突然のメール失礼致します。
弊社はBシステムという
ホームページを制作しております、
visual domainの瀧口です。
この度Bシステムサイト内にて、
リンクページを設けましたので、
ぜひ相互リンクをして頂きたく思い、
メールさせて頂きました。
下記Bシステムサイトを記載致しますので、
お時間ある時に、ご検証頂けますでしょうか。
http://www.b-system.cc/
お忙しいところ恐縮ですが、
よろしくお願い致します。
投稿: visual domain瀧口 | 2007.04.09 18:06
ある調査員ですが、(アスベストのプロではありませんが)いろいろな建造物(地方自治体のもの、国のもの、地方の政策的なもの)を調査することがあります。
そして、多くのセンターなどの施設、交流広場などの建造物に、アスベストの疑いを持っています。
これは、中央・地方の行政で、1つ1つ調査すべきだと考えています。
日本全国にあるグリーンピアという施設群、これらは、行政の失策、まさに年金問題の失策ですが、13か所、存在しています。これらは、その地方出身の代議士の権威を示すために、勝手に年金を使って建造されたと聞きました。
代議士という存在が、ある種、大企業の創立者のごとく振舞った時代の産物で、彼らの多くは、経済を知りません。そうした失策の数々の中で、アスベストを使った多くの、市民生活に関わる建造物がまだあります。
こうしたことに気を配るのが、行政ではないかと思います。
いくつか、建造物調査の中で、知らないことが分かったりしました。
アスベストに似ているロックウールの存在とか、そのロックウールでさえ、ドイツでは、発ガン指定されていることなどです。
グリーンピアの施設群は、1981-1986年くらいに建造されていますので、基本的に吹きつけアスベストは禁止されていた時期ですが、当時のロックウールには、生産ラインで、アスベストラインを流用していたので、アスベストが若干含まれることがあるということです。こうした、見逃しそうな事例を含め、行政は、作ったのなら、責任を持って対処すべきであり、わけの分からないお金の使い方を行政でやって、国民を苦しめるのは、絶対禁止すべきだと
投稿: 民間調査員 | 2008.11.24 18:38