« アスベスト問題を巡って | トップページ | 錬金術師ニュートン »

2005.07.18

中国のちょっとわけのわからないフカシについて

 さてこの手のフカシはスルーするのがいいのかもしれない、と少しためらうものがあるのだが、内容が内容だけに、核の恐怖を歴史に知る国民としては言及しないわけにはいかないだろう。中国の愚かな軍人朱成虎が核兵器使用の可能性を公言した。日本国内の平和勢力はきちんと抗議すべきだろう。
 話は読売新聞”台湾軍事介入なら米を核攻撃の用意…中国軍幹部が発言”(参照)がわかりやすい。


 15日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国人民解放軍の朱成虎・国防大学教授(少将)は、外国人記者との会見で、米国が台湾に関する紛争に軍事介入するなら中国は米国に対し核攻撃する用意があると語った。北京発の特派員電で伝えた。
 これによると、同教授は個人的な見方とした上で、「米国が中国の領土にミサイルや誘導弾を発射すれば、われわれは核兵器で対応しなければならないだろう」と発言。さらに、「中国は西安(陝西省)以東の全都市の破壊に備える」とする一方で、「米国は数百の都市が破壊されることに備えねばならないだろう」と述べた。

 この先、「ただ、同紙によると、台湾問題に関連した核兵器の使用に言及したのは朱教授が初めてではない」という言及もあるのだが、率直なところ、「英紙フィナンシャル・タイムズによると」というのは、ニュースというよりブログだと思う。読売新聞も中国総局で出すのだから、二次ソースではなく、ちょっと独自取材をしてはどうだろうか。
 おソースは? というと、”Top Chinese general warns US over attack
”(参照)である。記事は改訂されているのだが、以前のはもうちょっと洒落ぽっかったように記憶している。
 中国様のお小姓である朝日新聞はスルーを決め込まず、火消しにまわったかに見える。”米が台湾に軍事介入なら「核使用も」 中国軍高官が発言”(参照)がそれだ。

さらに朱院長は「台湾は中国の安全にとってがんであり、治療が必要だ。我々は世界のどの国も攻撃する意図はないし、米国の軍事力に挑戦するつもりもない。ただ、米国が(統一を)妨害した場合には備えている」と述べた。

 そのあたりを強調してみせるのはあまり芸がないなという印象だが、朝日新聞記事の問題はむしろその冒頭にある。

 中国人民解放軍の朱成虎・国防大学防務学院長(少将)は14日、北京で外国記者団に対し、台湾情勢をめぐって米国が軍事介入するなら、中国が米国に対し、核攻撃をする用意がある、と語った。

 冒頭こう書かれている。嘘とはいえないのだが、記事内容は先のフィナンシャルタイムズと同じなので、フィナンシャルタイムズを伏せているのは、おソースに近いものを隠蔽したいのだろうか、このインターネットの時代に。それにしても、朝日新聞はちゃんと中国様とのチャネルがあるのだから、火消し記事の取材でもすればいいのだが、しない。なぜなのだろう。
 ちなみに、この問題は、朝日新聞社内に髷も知らない日本通オーニシを抱えるほどのお友達であるニューヨーク・タイムズも記事にしているが、フィナンシャルタイムズの言及はない。ま、それは当然だろうが、朝日新聞が同じ立場に立つっていうものではないだろう。ニューヨーク・タイムズの記事は”Chinese General Threatens Use of A-Bombs if U.S. Intrudes”(参照)である。記事の注にもあるように、ニューヨーク・タイムズのオリジナルというより、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの記者によるものだ。
 少し余談だが、米国の中国叩きは、ラムちゃんの軍事扇動はさておくとすれば、議会のなかでは民主党のほうがきつい。共和党側はユノカル問題でも、ええんでないの的な雰囲気が漂っている。このあたりは、今後さらにある種のねじれ感を強めていくのかもしれない。つまり、リベラル=反中国、保守=親中国、という構図も深まるかもしれない、ということ。
 さて、中国ばか軍人のアナウンスだが、米国は脊髄反射はしてない。ま、礼儀として、「おめーばか?」的なコメントは出している。ニューヨーク・タイムズ”U.S. Rebukes Chinese General for His Threat of Nuclear Arms Use”(参照)がそのあたり、でマコーマック報道官の洒落がよろしい、曰く"The remarks from that one individual are unfortunate."と。補足すると「個人の意見なんてありえねー中国で個人のおばかな見解が公式アナウンスされてしまうなんて、なーんて不幸な事態なんだ」ってなこと。
 英国はこの件で、BBCが早々にネタじゃーんという感じでそれなりにふかしている。”China general warns US on Taiwan ”(参照)がそのあたり。

Major General Zhu Chenghu is not directly involved in China's military strategy, but these comments could add to tensions with the US.

 というわけで、「祭でつか?」をたきつけているふうでもあるが、米国は現状では乗ってこない。というか、米国のこの問題についての関心者の腰の据わりようはただものではないので、フカシには反応するわけもない。
 反応しているのはどこかというと、Google Newsを眺めると、オーストラリアあたりだ。へぇという印象を私はもった。ちょっと印象でいうのだが、オーストラリアは中国問題について米国並みに、腰を据えつつある、ある種の移行期間にあるのかもしれない。
 さて、中国様だが、なぜこの時期に物騒なフカシをこいた理由は田中康夫的に言うと那辺に有り乎、ってなものだが、これがイマイチわからない。ちょっと鎮火に動いているふうでもある。BBC”China plays down nuclear 'threat' ”(参照)では、祭不発感がちょっと漂う。
 時期的にみると、男はやっぱり顔でしょ的な無力感漂う台湾の中国国民党の主席選挙があるのかもしれない。予想通り、本省人王金平が破れ、外省人馬英九が出てきた。党内選挙なんでどってこないべと見るむきもあるだろうが、今の台湾のへたれた流れでいけば、次期総統は馬英九という流れになり、事実上台湾問題は終わる。
 中国としてもそのホクホクの流れが読めないわけでもないのに、人民解放軍朱成虎少将にフカシをさせているのはなぜか?というのが問題でもある。案外、中国様お得意の世界の空気が読めないというだけかもしれない。そのあたりのボケ感が陰謀論を阻止する最大の要因でもある。

|

« アスベスト問題を巡って | トップページ | 錬金術師ニュートン »

「時事」カテゴリの記事

コメント

おっちゃん、このニュース知ってる?
欧州議会の北方領土返還決議に反発=「ばかげている」とロシア次官
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050719-00000016-jij-int
日本でこんな報道あったっけ?と
原文?はこれらしい
http://www2.europarl.eu.int/omk/sipade2?PUBREF=-//EP//TEXT+TA+P6-TA-2005-0297+0+DOC+XML+V0//EN&LEVEL=3&NAV=X
あと2ch該当スレ
【北方領土】欧州議会の返還決議にロシア次官「ばかげている」【07/19】
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1121745248/l50

投稿: わけぎ | 2005.07.19 15:04

わけぎさん、こんにちは。「おっちゃん」は私のこと? ま、そう呼ばれてしかるべきの歳ではあるね。

こうした問題は常に複眼的に見ていくといいですよ。そして有利な条件はなにかと考えていくほうがいいでしょう。

たとえば、

asahi.com: 北方四島の共同統治案に言及 駐日ロシア大使(2005.6.5)
> ロシュコフ駐日ロシア大使は3日、行き詰まりを見せている平和条約交渉につい
> て、北方四島を日ロ両国民が同等の権利を持つ「共同統治地域」とする案に言及
> した。東京発のイタル・タス通信とのインタビューで語った。同大使は、ロシア
> 側が4島での主権の一部を日本側に譲る可能性も指摘した。

私の考えについては、これをご参考に。

極東ブログ: [書評]雷のち晴れ(アレクサンドル・パノフ)
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/01/post_7.html

投稿: finalvent | 2005.07.19 15:54

すみません、軽い気持ちで突撃してしまいましたw

ここ最近のロシア側からの北方領土関連の発言は
トヨタ誘致と日本からの投資引出しの為だったんだろうと考えてます
石油パイプラインもトヨタ誘致が決まってからは
中国優先なんて発言が出てくる状態ですし

中央アジアがもっと騒がしくなると
ロシアの態度にも変化が現れるかもしれませんが

それで判らないのはEUが何故北方領土問題に絡んできたのかなんですが
コスモ田中の言うような覇権の均衡路線をEU議会が目指していて
いろんな事に首突っ込むよって事なのか

武器輸出できないなら東アジアを安定させて
普通の製品輸出を増やしたいって目論見なのか
等等

投稿: わけぎ | 2005.07.19 17:25

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 中国のちょっとわけのわからないフカシについて:

» 国民党党主席選挙の雑感 [台湾的生活新聞]
先週土曜日に行われた国民党党主席選挙に台北市長の馬英九が対立候補の王金平に大差をつけて、勝利した。  元々、事前の世論調査でも、馬英九が過半数の支持を集めていたので、この結果に驚くことはないのだが、個人的に気になったのが、予想以上に王金平の得票が伸び悩んだことだ。王金平は高雄出身の議員で、馬英九のよ...... [続きを読む]

受信: 2005.07.18 22:27

» 中国に無駄金を使わせろ [外交のファンタジスタ]
 税金の無駄遣いが日本で問題になって久しい。お金が余っているなら表面化しないが、多額の借金を抱える中での無駄遣いは許されないことだ。世論の沸騰が起これば無駄な出費を手控えざるを得ないだろう。  市民社会のない中国に、世論というものが存在するかどうか知らない..... [続きを読む]

受信: 2005.07.18 23:53

» 中国軍の脅威 [ブログで情報収集!Blog-Headline]
「中国軍の脅威」に関連するブログ記事から興味深いものを選んでみました。ぜひ、読み... [続きを読む]

受信: 2005.07.20 20:45

« アスベスト問題を巡って | トップページ | 錬金術師ニュートン »