« マルコ・ポーロ橋の事件 | トップページ | It's a small world. »

2005.07.08

ロンドン同時爆破テロについて

 昨日ロンドンで起きた同時爆破テロだが、死者は50人にのぼるのではないかと見られ、大惨事となった。現状では詳細はわからないことが多い。が、大方の見方を踏襲するわけではないが、アルカイダを標榜するイスラム過激派による犯行だと見てよいだろう。
 今朝の新聞各紙社説もこのテロを扱っていたが、情報がないとはいえ、紋切り型の話に終始していたように思った。なかでも、テロに屈してはならない、日本も危ないといったトーンが予想通り際立っていた。
 端的なところ、日本は危ないのだろうか。私は今回のテロ事件を見る限りではあまりその印象を受けない。スペインでのテロ事件でも今回のロンドンのテロ事件でもそうだが、非常に政治的なメッセージ性が際立っているのだが、日本に対してそうしたシグナルを送るべきチャンスというのが想定されないからだ。
 今回のテロでは、アルカイダを標榜するグループから犯行声明が出ている。日本の報道ではまだ真偽はわからないとして、あまりこれに立ち入っている印象は受けない。確かに、この声明とテロの関係は明確にはなっていない、とはいえ、欧米の報道の論調ではこの声明は声明として読み込んでいるようでもある。
 ざっと見たなかでは、こうした点でガーディアン”Intelligence officials were braced for an offensive - but lowered threat levels ”(参照)が興味深かった。この記事に声明を英訳した部分があるのだが、重要なのはこの点ではないかと私は思う。


"We continue to warn the governments of Denmark and Italy and all crusader governments that they will receive the same punishment if they do not withdraw their troops from Iraq and Afghanistan."

 ポイントは二点ある。一点目は、次の標的はデンマークとイタリアであると明示していること。なぜデンマークとイタリアかといえば、日本ではあまり報道されなかったが、デンマークについては、オランダの事件だが、「極東ブログ: テオ・ファン・ゴッホ映画監督暗殺事件余波」(参照)でふれたような背景があるだろう。イタリアについては、政権が不安定でありテロの対応で弱そうな様相を見せていたからだろう。この文脈では日本は明確に浮かび上がってこない。日本は反米という線では前線に見えるようだが、こうした欧州の状況から見ると霞んでいる。
 もう一点目は、"all crusader governments"という表現である。物騒だが直訳したほうがわりやすだろうが、「全ての十字軍政府」である。キリスト教的な国家の政府が意識の対象となっている。この点では明らかに日本は外れてしまう。
 以上のスジで考えると、日本とはあまり縁のないテロのようでもあるし、日本人も内心ではそう受け止めているようにも感じられる。
 ただ、こうしたスジではなく、今回のテロ後に即座に経済に影響が出たように、市場の攪乱なりを狙うというなら、落ちぶれても経済大国日本を狙う意味はあるだろう。このあたりは、今回の経済攪乱の背景の有無が問われるだろう。
 ガーディアンの記事では、標題に"but lowered threat levels"とあるように、どうやら英国ではテロについて警戒レベルを落としていたという背景もありそうだ。手薄にしていたから狙われたとも言えないことはない。

Another knowledgeable intelligence source said last week: "We keep on asking why there has been no terror outrage yet. We know it's bound to come."

 とはいえ、むしろ、なぜこれまでテロがなかったのだろうという疑問のほうが専門家にはあるのだろう。
 ただ、陰謀論というのでは全然ないが、うがった見方をすれば、このテロによって、ブレアがごり押ししようとしていた生体認証の識別カードを英国民に押し付けるのがたやすくなるので、その動向は日本人も注視したほうがいいだろう。
 テロの今後だが、当然、今回のテロの首謀者のプロファイルに関連する。ガーディアンでは次のように若いインテリ層が注視されているとしている。

There have been two distinct groups of people involved in planning the attacks in the UK: British-born young men, often educated and middle class, who may have volunteered for training in Afghanistan and who are prepared to risk jail or death to carry out an attack; and foreign citizens, including a number from north Africa, who see Britain as the next most important target after the US and use false identities to avoid being traced, blending in with existing immigrant communities.

 このあたりのテロリスト像は「極東ブログ: ファルージャに入った反米フランス人が捕まっているという話で」(参照)にも関連する。大雑把過ぎる言い方だが、昨今のイラクの治安の悪化も西欧から供給される自殺爆弾によるところが大きい。
 今回のテロについては、私も、こうしたガーディアンの記事に沿った考えになる。つまり、今回のテロは、従来のように急進的な反米的なアルカイダ組織があるというより、EU拡大にともなうイスラム圏の人々の流入とそれが醸し出す各種の社会的な軋轢が誘因なのだろう。
 その意味では、欧州型のイスラム過激派のテロというのは、日本の既存体制に軋轢を感じて噴出した日本国産のテロ集団に近いのかもしれない。

|

« マルコ・ポーロ橋の事件 | トップページ | It's a small world. »

「時事」カテゴリの記事

コメント

こんにちは、finalventさん。
出てくるたびにツッコミ入れているようでスミマセン。以下の部分が少し気になったので。

>"all crusader governments"という表現である。物騒だが直訳したほうがわりやすだろうが、「全ての十字軍政府」である。キリスト教的な国家の政府が意識の対象となっている。この点では明らかに日本は外れてしまう
全ての十字軍政府というのは、十字軍政府を支援する国の政府も含まれていると思います。彼らから見て、日本は「不信心者」の国に間違い無いのであって、ただ攻撃対象とする優先順位が低いだけ、ということでは? 日本は外されていないと思います。

投稿: jaz | 2005.07.08 16:20

私もjazさんと同感。
いつから日本が「アメリカの協力者」の地位を降りたのか、と言うところでしょう。

投稿: それでも地球は回る | 2005.07.08 17:20

今回のテロ直後の映像を見ていると、地下鉄サリン事件を思い出しました。絵的によく似ていた。事件の背景は別にして。

投稿: synonymous | 2005.07.08 17:28

ミスだと思うんですが、
ガーディアンの記事へのリンクがこの記事へのリンクになっちゃってるみたいです。

修正されたら、このコメントは消してもらって結構です。

投稿: 通りすがり | 2005.07.08 17:31

通りすがりさん、こんにちは。リンク修正しました。ご指摘ありがとうございました。

投稿: finalvent | 2005.07.08 17:36

9.11のときからアルカイダは日本をターゲットにしてましたけど、日本では十分な工作員が潜んだり威力のある武器を調達できるほどのイスラムコミュニティが存在しないので後回しになってるだけですね。
たしかに日本に多い(うちの近所は留学生やビジネスマンがたくさんいます)東南アジア系のイスラームは穏健ですが、彼らとて同じイスラームから要請されたとき、果たしてどっちにつくか。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.07.08 20:06

しょせん日本は遠い異国。ヨーロッパとは事情が違いますからね。

ヨーロッパにとってのムスリムは、日本で言えば国内の朝鮮・中国人みたいなものですからね、すごく大雑把に言うと。

イスラーム世界では、日本はなぜだか比較的好感を持たれてるらしいですね。アメリカと同盟しているとはいえ欧米と対抗して負けてないとか、戦争でボコボコに負けたけど大復興を果たしたとか、なんかけっこう援助してくれるとか、異教徒で変なやつらだけどまあだけど欧米的な差別や偏見は無いとか、経済封鎖もあんまり欧米と足並みそろえないとか漠然と理由が言われているし。あんまり掴みどころ無いけど。

日本がやばくなるのは、ウイグル自治区がきな臭くなったときに親中国な態度だったり、旧ソ連内で対立激化中に新ロシアだったりした場合じゃないですかね。

投稿: bywordeth | 2005.07.08 23:18

私がぱっと見た上での犯行声明の印象は、「ヨーロッパ史を学んだ人間じゃないと書けない文書だな。」
なぜなら、犯行声明で十字軍という言葉を持ち出し、その上でイタリアとデンマークを名指しする。イタリアは十字軍においてヴェネチアが指導的な役割を果たしていたし、デンマークもその国旗が十字軍に由来する(但しイエルサレム攻防には参加していない)などどちらも十字軍において中心的な役割を果たしていた国々の一つである。つまり十字軍における各国の役割について知識がある人物が想定される。
それをうまく今の社会情勢と引っ掛けて書いているので”British-born young men, often educated and middle class,”とプロファイルされているのでしょうか?

投稿: F.Nakajima | 2005.07.09 00:17

ハッキリ言って日本はイスラム原理主義からみて何日本は何の宗教ももたない成り金の国であり、テロを起こしても得にならない国であるとみなされていているのではないのでしょうか。もし、日本でテロがおきても日本の政策がアメリカ追従であることは変わらないということが分かっていて攻撃をしないのではないでしょう。むしろ、彼等の(イスラム原理主義の)目的は世界的な宗教対立(武力を用いたジハード)を起こしその戦いに勝ち世界中をアッラーの教えの世界にする事であるためキリスト圏の国を標的にしてるのではないかと思います。よってこれからは宗教間の対立を無くしていくことが世界的なテロ対策になっていくと思います。

投稿: tyu | 2005.07.09 01:08

イスラム世界で日本が比較的好感を持たれてる理由はなんと言ってもアメリカと正面から戦ったからですよ(彼らは神風特攻隊大好きです)。それに敗れた後もまた経済大国として這い上がって来たから。実際にシリアやレバノンの大学で聞きましたから。
ただ最近のアメリカ追従ぶりにはがっかりしているみたいですね(何も政治に限った話ではなく文化的な面でも)。

投稿: (anonymous) | 2005.07.09 06:16

愛知万博の入場者全員の持ち物検査は流石に異常だと思いましたが、もしかしたらテロ関連のなんらかの情報が政府側に入ってるのかもしれませんね。

投稿: Cyberbob:-) | 2005.07.09 06:48

愛知万博は単に人が集まるから、つまり攻撃目標として美味しいからでしょう。
情報がなくても警戒すべき場所だと思います。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.07.09 10:03

ごく普通の生粋のイギリス人がこのテロで「多文化社会」をどう思うかを知りたい気分です。

これほどのリスクを負ってまで手に入れられる利益があると思えない、というのはやっぱり許されないのかな…

投稿: あぁ | 2005.07.09 18:32

身元確認が難しいなか、爆破テロによる行方不明者がまだいます。昨夜はバーミンガムが警戒されていましたが、ロンドンもまだ安心などできる状態ではありません。
アルカイーダネットワークは、9.11以降あらゆる国籍、バックグラウンドの若者の志願者によって世界中に広がっていったようです。空港で出国を防がれた若者が、一体どのくらいいたでしょうか…。戦争がテロを生み、テロが国内の宗教・人種間の軋轢を圧迫して犯罪にシフトしていき、そしてそこから新たな憎悪が増幅されていきました。それまで普通に西欧文化のなかで共に育ってきた若者が、ある日突然他国での自爆テロ犯であったと報道されるようになりました。
テロが地域限定であった時代は終わったのではないでしょうか。志(?)を持った人間がいつ、どこででも実行犯になる、ということを教えられたロンドン爆破テロであったように思います。
先日、ガソリンスタンドの会計で、前にいた男性が、新聞に載っていた大破した二階建てバスの写真を指差しながら、レジ係にこう言っていました「お前らのせいで、こうなったんだぞ」と。でも、その白人男性が吐き捨てるようにしゃべったレジ係はシークの男性でした。この先どんな歪曲場面に出くわすかわかったものではないなと暗澹とした気分になりました。

投稿: jaz | 2005.07.11 00:45

私も、イスラム圏の人による日本でのテロはないだろうなぁ、と楽観視している一人です。
日本でテロが起きるとしたら、イスラム圏のひとじゃなく、中国人か、韓国人だと思います。
2chなんかでは、アルカイダもとい、アル(`ハ´  )か、ニダなんて、揶揄されてますが、ホントその通りかと。
韓国の人も、今までは仲良くしたいと思っていたのですが、↓のサイト行ったりして、どうにもこうにも埋まらない溝、というのを感じてしまって、とても悲しかったです。
どうしたら、この溝は埋まるのでしょう。。。

NAVER ENJOY Korea(日韓翻訳掲示板)
http://www.geocities.jp/enjoy_tmp/

投稿: あい | 2005.07.11 16:08

こんにちは。
移民の問題はむつかしいですね。
日本も今後は避けて通れません。
受け容れるか、拒むか。

投稿: やまもと | 2005.07.15 18:02

バカ共に利用され俺の問題は棚上げされているのでテロも必要悪とやらだと思うがwww
仲間の詐欺師から金は取り返さんは盗撮するは嫌がらせは横行するは
核拡散賛成派だと何が悪いのか教えて貰いたいねw
ゴミは日本塵だけではないという事だね?wwwwwwwwww
傲慢な人類は神の怒りに触れて滅ぶとか言っていた様な?www
勝手に滅んでしまえwwwww

投稿: a | 2009.10.10 13:53

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ロンドン同時爆破テロについて:

» NY、ロンドン、そして東京 [◆木偶の妄言◆]
ロンドンの多発テロは、米国の多発テロより非常にやっかいだ。地下鉄、バスといった公共機関を狙ったテロは、日本でオウム真理教が証明したように、防ぐのが極めて難しい。そして、テロの目的である「心理的恐怖心を引き起こすことにより、政治的な主張や理想を達成」のうち、後者はともかく、心理的恐怖心というのは十分に引き起こすことができるからだ。 特にロンドン市民には冷水を浴びせかける結果となった。G8が開催中。テロの前日には2012年の五輪開催も決まり、祝賀ムードに包まれていた。そのタイミングでのテロ。五輪の... [続きを読む]

受信: 2005.07.08 18:31

» 吉永小百合原爆詩朗読 [変見]
 05年7月3日山口市の県教育会館で吉永小百合さんが被爆者が作った原爆詩を朗読した。悪天にもかかわらず約500人の聴衆で満席だったが、朗読中私語はもちろん物音一つたてず全員が飲み込まれていた。  被爆者の平和への思いが小百合さんの思いと重なってストレートに伝わったからと思う。家族にも見せようとヴィデオを買って帰り、見たが感じが違う。朗読中に挿入された補足が邪魔をしているのだと思う。朗読を聴衆の位置からそのまま撮影した方がよいような気がした。朗読中の挿入は必要ない。  小百合さんはこの朗読に20年前か... [続きを読む]

受信: 2005.07.09 17:21

» ロンドン同時多発テロ [徒然ウェブログ - S-Iさんのブログ - SAMURAI WEB]
引用:ドイツのスピーゲル誌オンラインは、「ヨーロッパのアルカイダ秘密組織(The Secret Organization of al-Qaida in Europe)」と署名された犯行声明が公開されているとレポートした。しかし、MSNBCの通訳者ヤコブ・カーヤキ氏(Jacob Keryakes)は、掲載された犯行声明文に引用されているコーランの一節が間違っていると指摘し、「アルカイダはこんなミスをしない」として、声明文の信憑性に疑問を呈している(暗いニュースリンクより)引用:犯行グループは技術的にも... [続きを読む]

受信: 2005.07.10 03:34

» In life.Boms on London.No.2 [Via XXVII Aprile 13]
前日のブログに書いていた現場の一つの近くに住む友達の一人のWEBアルバムが更新されました。テロ発生後、一夜明けた様子の写真がアップデートされてるのでこれもブックマークしてきます。 旨く文章にできなさそうだったから、あまり書きたくなかったけど、 今日のロンドン様子を見てつい書き始めてしまった。 今朝、外に出てまず思ったのが人の少なさである、静まり返った通勤時間。その時、改めてこのテロの衝撃の大きさ... [続きを読む]

受信: 2005.07.10 08:45

» ロンドンテロ報道姿勢より [矮人観場 from the shorty's point of view]
ロンドンのテロの報道体制が、日本の大惨事の際の報道とは少し違っているようだ。 今 [続きを読む]

受信: 2005.07.11 23:50

» テロの影響で自転車が売れる [サイクルロード ~千里の自転車道も一ブログから~:テロの影響で自転車が売れる]
ロンドンで7日に発生した同時テロ事件は、依然として遺体収容作業が難航しており、一 [続きを読む]

受信: 2005.07.12 05:00

» <ロンドンから続報(3)> 爆破テロから3日-- 僕のへこみ具合 [三平太の「愛をとりもどせ」]
カレドニアン・ロード駅、事件翌日(金曜日)の掲示。「当駅は本日も引き続き閉鎖。キングスクロス駅も閉鎖」 ピカデリー線は南行きはハイドパーク・コーナー(Hyde Park Corner)で折り返し運転をしているらしい。それより以北は、家の最寄り駅のカレドニアン・ロード駅を含めて当分復旧する見込みがなさそうだ。 毒気というのだろうか。当てられてしまったような気がする。爆破テロ以降、どうもしっくりこない。変な感じなのだ。「恐い」というよりも「気持ちの悪い感じ」。どうにも落ち着きが悪い。 ... [続きを読む]

受信: 2005.07.12 22:42

» ある朝、突然に [名もなき思想]
 間違ってはならない。われわれは他者と戦うことなどできない。他者は戦いを挑まない。戦いを挑むものは、すでにわれわれと世界を共有している。本当は他者などどこにもいないのだ。われわれの敵は、われわれである。  世界の共有、そこには実存による表象がある。実存と世界は表象によって結ばれる。実存と世界を結ぶ表象、それは世界の受容であり、世界の破壊であり、世界の自滅である。そこに実存と世界があるから、受容し、破壊し、自滅する。だから実存も世界も、永遠にそこにあり続ける。そこでどんなにわれわれが戦っていても、誰... [続きを読む]

受信: 2005.07.17 04:15

« マルコ・ポーロ橋の事件 | トップページ | It's a small world. »