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2005.07.14

カール・ローブ(Karl Rove)を巡って

 考えようによっては先日の「極東ブログ: 米タイム誌取材源秘匿問題雑話」(参照)の続きの話とはいえないこともないが、米タイム誌取材源秘匿のもとの取材源がカール・ローブ政治顧問兼次席補佐官だったという流れになり、米国民主党およびリベラル派を中心とした勢力(つまり大統領選挙負け組)が、これをきっかけに一気にブッシュ叩きの祭を始めている。言うまでもなく、ローブは大統領選挙においてブッシュのブレーンであった。事実上、ブッシュのスタッフのなかのボスであると言っていい。
 単純に言えば、誰がCIAの工作員かということは知っていてもしゃべっちゃいけないのに(そんなことをすればその工作員の生命が危ぶまれる)、ローブは大統領選挙でブッシュに有利に持ち込むために、これに違反して暴露したというのだ。
 とはいえ、ディテールが私にはよくわからない。この問題は、反ブッシュの色合いをもっていることから日本のジャーナリズムも喜んで取り上げているかのように見えるが、どうも要領を得ない。つまるところ、「だから、ローブは法律に違反したのか?」という点がどうもクリアではない。どうなのか?
 APと提携したFOX News”Cooper Details Rove Conversations About Plame”(参照)では、そのあたりをこうまとめている。


The leak case is problematic for the administration on two fronts. First, is the question of whether Rove, or another administration official, broke the law in revealing Plame's identity. The 1982 Intelligence Identities Protection Act makes it a crime to knowingly reveal an undercover agent. Only one person has ever been convicted of violating the act.

Second, is the political problem of keeping on a staffer at the center of a scandal. Even before Rove helped Bush to his first major victory over Democratic superstar and former Texas Gov. Ann Richards in 1994, he was a trusted consultant to President George H.W. Bush. The Bush clan is known for prizing loyalty; turning Rove out of the administration would be a hurt felt both professionally and personally.


 まず、法的な部分の最低ラインがクリアになると事態の予想もしやすいのだが、どうもそうではない。私の見る限り、これは、政治的なけじめといった問題でもあるのだろうが、どちらかというと、ただの政争というだけのように思える。
 ちなみにこのエントリ執筆時の日本での報道はこんな感じだ。読売新聞”タイム誌記者が大陪審証言、ローブ氏側と合意の上”(参照)より。

 クーパー記者は2時間半にわたる証言の後、記者団に対して、情報源の秘匿の原則にもかかわらず証言を行ったのは、記者の弁護士とカール・ローブ大統領次席補佐官の弁護士との間で合意書が交わされたためだと確認し、記事の「情報源」がローブ氏であったことを事実上、認めた。
 一方、ローブ氏の弁護士は13日、ローブ氏が工作員の実名を明らかにしたことはないとして、違法行為はなかったとの立場を示した。

 話は前後するが、このところサロン・コムなどリベラル派の報道を見ていると、ローブもチェックメイトかという印象を持っていたのだが、十三日付けのウォールストリート・ジャーナル”Karl Rove, Whistleblower”(参照)が、小気味よいほどローブ擁護にまわっていて面白かった。

Democrats and most of the Beltway press corps are baying for Karl Rove's head over his role in exposing a case of CIA nepotism involving Joe Wilson and his wife, Valerie Plame. On the contrary, we'd say the White House political guru deserves a prize--perhaps the next iteration of the "Truth-Telling" award that The Nation magazine bestowed upon Mr. Wilson before the Senate Intelligence Committee exposed him as a fraud.

 民主党だのマスメディアがローブを巡って四の五の言っているが、ローブは正しいのだ、彼のお陰で嘘つき野郎が暴露されてよかったのだ、といった調子である。話を読み進めていくと、民主党とCIAがイラク戦に関連して大統領選でブッシュ潰しにかかった策略がローブのお陰で粉砕されたから良いのだという感じで、このところの問題とはあまり関係なさそうではある。しかし、その話にお付き合いすると、ようするにイラク戦の評価ということになる。私としては、その論法で現状の問題の可否を迫るというのも、なんだかなという印象を持つ。
 ついでながら、一昨年秋のどたばたはこういうことだった。この年の一月、前期のブッシュ大統領は一般教書演説で、イラクはアフリカからウランを購入しようとした疑惑があると主張したところ、その情報について、ジョゼフ・ウィルソン元駐ガボン米大使(民主党)はその前年CIAの仕事として調べたが信憑性が薄いと反論した。ブッシュ窮地といった展開になったが、保守系ジャーナリスト、ロバート・ノーヴァック(Robert Novak)がこれに反論。この反論は、政府高官情報として語られたものだが、ウィルソン元大使がニジェールに派遣されたのはCIA工作員である彼の妻がCIAに働きかけたためだとした。単純に言うと、ウィルソン元大使の発言はCIAがブッシュ潰しに動いていた謀略だということ。先のウォールストリート・ジャーナルではこのあたりのことで英国資料なども参照させ、ブッシュ支援側で補強もしている。なお、昨今の問題でもある、タイム誌、ニューヨーク・タイムズ紙はノーヴァックに続いて、この政府高官情報に関わった。
 こうした流れで、さらにブッシュ叩きの民主党側の反論として、「じゃ、その政府高官って誰よ?」ということになった。二年近くも前のことだ。
 それがなぜ今頃くすぶりだすのか私はよくわからない。
 イラク戦争の是非云々は基本的にすでに神学論争の領域に近いので、私は、その立場を決めてからこの問題を論じるという気にはならない。くどいようだが、今回の件では、法的な問題と倫理なりの問題の線引きがどこで落ち着くかという点が気になる。
 ローブがこければブッシュは打撃を被ることなり、米政府の勢いが低下するということで二次的に日本もその時点で巻き込まれるだろう。
 さて、個人的なローブの評価だが、率直に言えば、私はローブを援護したい心情がある。彼という人間に関心があるからだ。ローブにはバチェラーの学位すらないたたき上げの人間であり、そしてここまで勝利してきた。しかも安逸な戦いではない戦いを勝利してきた。そして、いよいよブッシュがレイムダックとなるかならないかという、歴史にその意義を問う最後の決戦が近い。このスキャンダルはその緒戦でもあろう。
 後世の歴史家もきっと、ローブという人間に関心をもつだろう、この緒戦をくぐり抜ければ。

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コメント

このブログには初めてのコメントです.いつも興味深く拝見しております.他ブログでもこの件についてコメントしたが、結局カール、ローブ潰しは失敗するなという感を、貴ブログを読んで深くしました.CIAエージェントの正体をばらしたという事実関係があやふやなうえに、そもそもウィルソン夫人がエージェントであることの事実を含めて、ローブ補佐官が知っていたかどうかも立証が難しい.本当のところは、ローブは「あのウィルソン大使の奥さんはCIAで、彼女のさしがねで旦那が出張に行ったんだ.ウィルソンの話なんて、だれが信じるものかい」てな調子じゃあなかったんでしょうか.それにCIAでデスクワークしているのをみかけただけだという類の主張もできるでしょう.結局、彼がばらしたというのは立証が難しいのでは.特別検察官が起訴にもちこんでも、無理筋のような気がします.興味があるのは、この件で、ローブに対するブッシュの信頼はどうなるかですが、私はむしろ強まるんじゃあないかと.要するに、この事件はブッシュの一貫性にたいする挑戦で、答は、ブッシュというひとはぶれない(少なくとも本人はそう信じていて行動する)ことを立証して終わるように感じます.

投稿: M.N.生 | 2005.07.15 10:17

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