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2005.06.15

米国の話だが保障の薄い医療保険は無意味

 米国の話なので日本国内での報道はないんじゃないかとも思うが、今朝見たロイター系のニュース”A little insurance is like none”(参照)が心に引っかかった。標題が端的でわかりやすいので意訳すると「保障の少ない保険はかけてもかけなくても同じこと」という話だ。
 私事だが、このところ、保険はどうしましょうかと人の相談に乗ったりしていたので、その関連の資料をちらちらと見る機会があったのだが、なんとくなくだが、薄い保険って宗教的なお守り以上の意味はないんじゃないか、と思っていた。批難の意図はまるでないが、健康診断不要の保険というのは、いったいどういうバランスで成立しているのだろうかとも疑問に思った。
 ニュースを少し引用しよう。


A little health insurance is not much better than none at all, according to a study released Tuesday.

Officially, about 45 million people in the U.S. go without health insurance, but 16 million people pay for limited coverage that puts them in about the same boat financially and medically as those with no insurance at all, the study found.

These "underinsured" individuals are nearly as likely to be the target of medical bill collectors and to forego needed medical care, the study published in the journal Health Affairs found.


 米国では医療保険未加入が四千五百万人。とすると、五人に一人くらいは保険なしということか。そして、千六百万人が保障の少ない保険で、この部分は、今回の調査によれば、掛けていても掛けていなくても同じということだ。しかも、そういう薄い保障では、結局のところ、いざという場合の医療費はかなりの負担になる。
 この先、ニュースを読むと、その薄い保険というのは、収入の10%を当てている層らしいが、元の収入で違いがでそうなものだがそのあたりはよくわからない。しかし、ざっと収入の10%以上を医療保険にかけろという話でもあるのだろう。
 こうした話を聞くと日本というのは良い国だなと思うし、クリントン(当然ヒラリー)上院議員が大統領夫人だったころ必死に医療保険改革に取り組んで挫折したのも実に残念だったことのようにも思える。
 そういえば、米国の個人破産は高額な医療費によるというロイターの記事が二月にあった。"Half of Bankruptcy Due to Medical Bills -- U.S. Study"(参照)で読める。なお、なぜか米国民主党代理みたいな翻訳転載が多いブログ「暗いニュースリンク」に私的な翻訳がある(参照)。
 ここがポイント。

"Most of the medically bankrupt were average Americans who happened to get sick. Health insurance offered little protection."

 この記事は要するに、医療保険がないことが問題なのではなく、保障の薄い医療保険に意味がないことを示しているというものだ。
 日本の社会は米国化しており、「自己責任」とかいうおフダでこうした不運としか言えない疾病までも個人の問題に還元しつつある。しかし、根幹のところでは、まだまだ日本社会は大丈夫だとは言えるようにも思う。
 とすると、さしあたっては、保障の薄い保険にどれだけのメリットがあるのか、ある種の算定が可能なようにも思うのだが、そういう資料を見かけたことはない。私が知らないだけかもしれない。

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「社会」カテゴリの記事

コメント

アメリカの医療費高騰の影の原因は、医療訴訟ですよ。日本のように国が、保険が利く範囲と聞かない範囲をきっちりと定めてしまうほうが、訴訟がらみの問題が出なくて良いって言うことでしょうね。はっきり言ってしまえば日本でも、保険が利かない治療を受ければ、死なずにすむ人っていっぱいいるんですけど、(特にがんと遺伝病関係)医者がその辺勝手に裁量して、貧乏人(ふつーの庶民ってこと)には、そういった治療法があることすら伝えないわけです。アメリカでこれをやれば一発で訴えられるわけですが、かといって、ぶっちゃけ家族にとっても、破産するような高額治療なんて存在自体知らないほうが幸せという部分もあるわけです。知ってしまえば、倫理的問題のある結論をするか(お金がないからあんた死んでよってやつ)、一家破産して病人を抱えるかの二者択一だったりするわけでぇ。世界に誇る日本の保険制度も影ではこういったなあなあの問題があるわけで、これをアメリカにもっていけるかというとかなり疑問、アメリカの格差社会云々の問題だけじゃないですね。

投稿: etrnalwind | 2005.06.15 12:15

映画の「レインメーカー」を思い出しました。原作は、グレシャムですよね。

投稿: ひでき | 2005.06.15 12:37

私は大学で医師をやっている者ですが、

> 保険が利かない治療を受ければ、死なずにすむ人っていっぱいいるんですけど、(特にがんと遺伝病関係)医者がその辺勝手に裁量して、貧乏人(ふつーの庶民ってこと)には、そういった治療法があることすら伝えない

という事実は寡聞にして知りません。
 何人看取ろうと、患者さんを失うことは(貴賎の別なく)辛い体験です。おっしゃるような夢の治療法があるのであれば、ぜひあやかりたいくらいです。
 医療界に改善の余地なしとはしませんが、ファナチックに憎悪をあおる陰謀論は建設的ではないと考えます。

 あと、合衆国の医療費高騰に裁判がかかわっているのは、陰の原因などというものではなく、メディアで堂々と語られている「有名な」原因です。去年の選挙前、ブッシュが医者を集めて演説してましたよね。

投稿: s | 2005.06.15 13:18

臓器移植とか認可されてない抗癌剤とかじゃない?医者だとなまじっか知っているだけに個人で輸入して1千万単位の金かけて抗癌剤飲んでる人とか居ますよね。まあどこまで税金をつぎ込むかは議論があるんでしょうけど、アメリカみたいになるのはぞっとしないな。

投稿: a | 2005.06.15 14:13

>S
あんた本当に医者?
陰謀論とか言ってるけど、じゃあ厚生省が公に認めたところで、抗がん剤の保険適用拡大の話とかどうなるの?あれだって効果が臨床的に実証されているにもかかわらずずっと保険適用外だったでしょ。国会でも取り上げられてるのに本当に聞いたことないの?
あと、ブッシュが言ったから陰の原因じゃないって言うのもどうかと思うが・・・
「実は主要原因なのに、メインとして認識されていない」という意味で使ったんですがねえ。

投稿: eternalwind | 2005.06.15 14:24

>ひでき

「レインメーカー」ありましたねえそういう映画。
ハリウッドの左側の監督は、とかくああいった
弁護士マンセー映画を作りますが、弁護士業界から裏金でももらってるんでしょうか?
「レインメーカー」はまだましで、最低の弁護士映画は「エリン・ブロコビッチ」ですよ。実際の事件はほとんど裁判ゴロに近い話で、あれのおかげで電力会社は倒産するわ、そのせいでロスの電気料金は暴騰するわで、公益の観点から見れば、弁護士と一部のプロ市民だけが金儲けをしてロス市民が損するだけのためにあったようなクソ裁判なんですが、主人公に「バツイチ瘤つき低学歴ビッチ」を据えただけで、それに洗脳されるバカ女が続出。バカ女たちの「感動しました。」「女でもできるんだと勇気が出ました。」といった頭の痛くなるような珍フェミ洗脳感想はAMAZONや各種ブログでいくらでも読めますからご笑覧あれ。金儲けしたかったらバカ女を味方につけるに限るということでしょうね

投稿: eternalwind | 2005.06.15 15:01

他人種の知見がわが国にもそのまま当てはまるのかは議論のあるところです。イレッサの事案は、わが国にとってひとつの経験になったのではないでしょうか。
なお、欧米の臨床治験(=「実証」)は絶対であるかのような前提でお話しになられていますが、合衆国などむしろデータ隠しが批判されて、治験の事前登録制が(ちょこっとだけ)進んだのは記憶にあたらしいところです。個人的には、治験の統計手法開発とルール・メイキングについては、欧米から学ぶべき点が多々あると思いますが、実施時の倫理面についてはいかがかと感じています。抗がん剤(新薬)も、フリンジな状況、特に治験患者の選択バイアスがありすぎて、日本に即適用できるかは懐疑的です。

 さて、治験うんぬんは別としても、日本の医療および公衆衛生の水準から考えまして、「保険が利かない治療を受ければ、死なずにすむ人っていっぱいいるんですけど」とはやはり失当でしょう。
(なお、「標準的な」診断・治療を受ければ死なずにすむ人はいっぱいいる、のは事実です。こちらこそパンドラの箱でしょうね。でもこれは、日本であれ中国であれ合衆国であれ同じようなものです。)

人の庭先で挑発に乗りすぎるのは良くないので、この件へのコメントはこれで最後といたします。

投稿: s | 2005.06.15 16:00

>S

詭弁の見本のようなレスをありがとう。
じゃあ、君は厚生省が認めた拡大21種の抗がん剤併用療法は、全部データー隠しのでたらめだと主張するわけかね。臓器移植などもみんな、「欧米の治験が当てはまるわけではない」ので、日本人の医療には無効だと?
そんなことは言ってない、どっちともいえないといってるならそれはただの不可知論だな。

「自分から論争吹っかけといて不可知論で逃げるのは卑怯な論客の常套手段」といったのは稲垣武でしたかねえ。わからないなら最初から出てくるなやバカが!!

投稿: eternalwind | 2005.06.15 16:44

どちらしろ、なんだかなぁ

投稿: ななし | 2005.06.15 18:55

まあ議論のしかたには感心しませんが(人のことは言えませんが)、個人的にはeternalwindさんの言ってることのほうがしっくりくるなあ。
イレッサの事案って、欧米の臨床試験バンザイとは関係ないよね?(欧米の結果が出る前に、日本の小さな臨床試験の結果を元に市販開始だったような記憶が)。あれは、検出力、つまり第二種のエラーを生じていない確率という概念を知らない日本の医者には責任あると思いますが、アストラゼネカと厚生省には責任はないように思います。
まあ医者としてはそこらへんに気づかない日本のマスコミと日本国民はありがたいのですが・・・というか自分たち自身気づいていないかもしれませんが・・・

投稿: Aspirin | 2005.06.15 20:11

上記の訂正です。そういえばアストラゼネカは副作用報告を怠っていたような気が。やっぱり悪人かな。

でもやはり、そこのところ、nの小さな試験では、頻度の少ない副作用を見逃す可能性があるからこそ市販後調査をやるんだということを、医者が認識していなければ、悪徳製薬業者から患者を守れないんだし、医者にも責任ありますわなあ。医者ってのはそれくらいの役割を期待される社会的立場にあると思うし。イレッサの事案てそういうことだと思うんですけどね。

投稿: Aspirin | 2005.06.15 20:16

理想も現実も同じ世界に生きているのだなぁと実感させられた雨の夜。

投稿: (anonymous) | 2005.06.15 21:16

こちらの議論にいくらか誤解もあるようなので、記事をTBしようとしたのですが、何故か弾かれてしまい、できなかったので、コメント欄に書きました。

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/2dc486a7c2a68c97d8360abd31506b84

投稿: まさくに | 2005.06.15 22:50

>まさくに
保険でカバーできる日本の医療水準は十分高いと認識していますよ
「保険が利かない治療を受ければ、死なずにすむ人っていっぱいいるんですけど」の部分が医療保障水準の低さを批判していると受け取られたということですね。それであればそれは私の意図するとことではありません。
ただ、実際問題として日本ではアメリカほどインフォームドコンセントが徹底していないのは明白な事実です。
何度も言ってるように抗がん剤の例を挙げれば、保険適用ができない抗がん剤があった場合、たとえそっちのほうがベストチョイスであったとしても、医者が患者にそういう選択があるということを知らせないまま、保険が利く別の治療をするというのはよくある話です。

投稿: eternalwind | 2005.06.16 00:33

あるコメントの一部分だけが切り取られて議論の的になっているようですが、私にはこのコメント氏の要旨がよく理解できますが…。「(特にがんと遺伝病関係)」と明記しておられますし、文脈のどこにも矛盾を感じません。客観的で冷めた見方のようでも、患者の立ち位置からご覧になったご意見であると思います。

投稿: jaz | 2005.06.16 03:01

保険と聞いて、生命保険を連想しましたが、医療保険の事だったのですね。
日本では、生命保険や損害保険に付いて、金銭的な比較をすることが法律で禁止されています。週刊誌や、本などで、比較をすることが希に有りますが、それをコピーして販売に利用することも法律違反になるのです。この事は、一般の人は知らないと思いますが、結果として、生命保険会社の保護には大いに役立っていると聞いています。
その内に、この辺りのことも、是非、このブログで取り上げて頂ければと思います。

投稿: 黒ボンバー | 2005.06.16 06:39

お答え頂いて有難うございます。
私の取り上げ方もちょっと良くなかったですね。インフォームド・コンセントという点ではおっしゃるような現実はあると思います。私の家族や祖父母などの病院等での経験で言えば、確かに不適切なのではないのかな、という部分はあると思います。一方では、医療費と対価という点では医療側が十分保護されてない面も見られ、難しいバランスではあります。良いサービスを受けるにはその十分な対価を支払うというのが一般的で、公的保険でそれがどの程度達成可能なのか(米国なみの医療費高騰となるのを受け入れるか)という難しさがあるかもしれませんね。私もよくは判らないのですが。今は患者側の自己努力でカバーされていることも多いと思います。

投稿: まさくに | 2005.06.16 09:55

一昨日、大腸ガン肝臓転移で父を看取りました、保険の利かない海外の高額な抗ガン剤を使っても効果があるかどうか判らないと言われました。つくば大学に高度先進医療に指定されている陽子線治療も教授に無駄だとも言われました。お金を掛ければどうにかなると思って居ましたが、ガンは甘い病気では有りませんでした。
 保険は、県民共済2000円しか入っておらず、入院1日1500円しか下りませんでしたがそれでも、無いより心理的に良かったです。
 月平均30万近い請求がきましたが、日本では高額医療費7万を越えた分については、還付されますし、傷病手当金(国民健康保険は無し)も少なからず下りてアメリカでは無くて良かったと今日のプログを拝見して思いました。

 

投稿: hiro | 2005.06.17 13:02

ガンはねー。早いうちに見つけないと意味が
ないからねぇ。それでも助かる可能性があるなら、金を出してしまうものなんだよな。

投稿: a | 2005.06.17 19:19

USA today の記事ですが、
http://www.usatoday.com/news/nation/2005-06-15-saving-baby-cover_x.htm

「胎児を助けるために生かされている女性」
皮膚がんの脳転移で植物状態になった26歳の女性が、そのとき21週だった胎児を
分娩可能週数までもっていくために生命維持装置につながれて生存中。
夫は仕事をやめてつきそっているが、一日の医療費が少なくとも80万円かかる。
保険ではほとんどカバーされない。

というような記事を読むと複雑ですね。。(この夫は破産必至でしょうし。)
日本だとこういうケースはどうなるのでしょうか。

投稿: nanoshi | 2005.06.18 01:04

> eternalwind さん
「日本未承認の高額な抗がん剤を使えば治るがん」や「海外での臓器移植が
必要な病気」はごく一部で、実際は s さんのおっしゃるように「標準的な診断・
治療をどれだけ多くの人に提供するか」が重要なのではないでしょうか。
米国では医療機関の敷居が非常に高く、まともな医療は金かコネがなければ
受けられなくなりつつあるような印象があります。

投稿: nanoshi | 2005.06.18 01:15

>nanoshi

わたしは別にアメリカ方式が良いとは一言も言ってませんよ。もうひとつ言うなら、S氏は
『「標準的な診断・治療をどれだけ多くの人に提供するか」が重要』なんていってないよ。

投稿: eterenalwind | 2005.06.18 19:54

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受信: 2005.06.15 11:48

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